【完結】白猫聖女は従僕魔帝の腕の中~婚約破棄された前世悪役令嬢が、冷酷魔帝陛下から溺愛されているワケ~

入魚ひえん

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13・それはそうだと思う

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 私の声は、奥の玄関の扉が乱暴に叩きつけられる音で遮られた。

「おい、老魔術師ベルタ!」

 扉の外から私の元婚約者、ユリウス王太子殿下が声を張っている。

「ここにレナーテをかくまっているのはわかっているんだ! 開けないつもりなら、無理矢理にでもこじ開けるぞ!!」

 追手がやって来るかもしれないとは思っていたけれど、殿下が直々に来るなんて。

 黙り込んでいた私の背中を、ディルは安心させるように撫でた。

「もしかして猫に変身できることを知られたから、追われているのか?」

「ううん。この力は昨日から。ディル以外、誰も知らない……。ベルタさんもいないし、隠れていればそのうち帰るはずだよ」

「そうかもしれないが、出向いた方が早いだろう」

 ディルは白猫の私を抱きしめたまま立ち上がると、ゆったりとした足取りで玄関へと向かう。

「待って。ディルの体調はまだ治っていないの。無理はしないで」

「わかっている。レナ、俺に任せろ」

 ディルは寝室の隣の居間を通り抜け、外からわめき声が聞こえる玄関の扉を開いた。

「なにか用か?」

 室内からは老魔術師のベルタさんではなく、鍛え抜かれた体躯を持つ長身のディルが現れる。

 運動不足の細身な中背のユリウス殿下と、背後に控える護衛の数名はその迫力に固まった。

 ディルは昨日まで死にかけていたとは思えない、硬質な声色で対応する。

「呼びつけたというのに、なぜ黙っている。用件を言え」

 淡々と告げるだけで滲む迫力に、ユリウス殿下は扉を叩いて振り上げていた拳を下ろし、目を泳がせた。

「わ、わかっていないようだが……俺は見た通り、テセルニア聖国の王太子だぞ」

「そうか。それを言いふらすことが用件なら、もう終わっただろう。帰るといい」

「待て! 聖女レナーテが行方をくらましたため、捜索をしている。室内を確認させてもらおう!」

 殿下は騎士を伴って小屋に入り込むと、隅々まで見て回った。

 ディルの腕の中にいる、猫の私には目も向けない。

「いないだと? しかし、そうだとすれば一体どこへ……」

「確認は終わったな。帰るといい」

「王太子に向かってその態度はなんだ。お前、レナーテについてなにか知っているのなら速やかに答え──わっ!!」

 ユリウス殿下はディルの腕の中にいる私に気づくと、顔を驚愕に歪めて跳びあがった。

「なっ! なんだその白い凶獣は!!」

「白い凶獣?」

「そうかわかったぞ、魔術師のように使い魔をはべらせるなんて……! 背と態度のでかいお前はベルタの弟子だな!」

「違う。俺は服従する側で、こっちが主だ」

「うわああっ!!」

 ディルが腕の中にいる私を少し高く抱きなおすと、ユリウス殿下は怯えたように一歩後ずさる。

 猫一匹を前にして、火吹き竜に出くわしたかのような怖がり方だ。

「主だと? お前の主とは、その腕に抱いている……」

「美しい白猫のことだ」

 ユリウス殿下も、後ろに控える護衛騎士たちも唖然としている。

 うん、それはそうだと思う。

「猫が主? お前、そんな禍々しい存在に仕えているのか!?」

「禍々しい? 俺の命の恩人だ。従僕として忠誠を誓っている」

 また言ってる。

 というか、どちらの発言もちょっとズレているような……。

 猫の姿のまま人前で話すのは目立つので、私はディルを見上げた。

 その些細な動きにすら反応して、ユリウス殿下は怯えた様子で後ずさる。

「おい、やめろっ! 凶獣を俺に近づけるな!!」

「王太子、どこへ行くつもりだ。まだ俺の主の、世にも不思議な鳴き声を聞いていないだろう……なぁ?」

 そう期待されてしまうと、黙っているわけにはいかない気がしてくる。




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