3 / 76
3・白猫デビュー
しおりを挟む
白猫の私は自分で張った魔術防壁や結界をすり抜けると、悠々と夜空を滑空しながら、近くの街へと向かっていた。
原因不明の猫変身だけど、この姿のまま魔術も使える。
飛行移動しながら人と猫、自在になれることを確認したし、着ている服や髪型もそのままだった。
気持ちよく寝ていただけなのに、とても便利な力を手に入れてしまったらしい。
猫の姿なら、司教たちやユリウス殿下の手下に見つかっても、私だってわからないだろうし。
もちろん見つかって追われたら返り討ちにするけれど、自分から人に危害を加えたくはなかった。
どちらかといえば若くして処刑された前世とは違う方向で、これからは気ままに長生きできたらいいな。
いつだって一度きりの人生だから。
私は私の望みを叶え続けたい。
そうだそうだと、私のお腹の音も賛成している。
辿り着いた街にそびえる時計塔の文字盤は、淡く発光しながら22の刻を告げていた。
この時間でも開いているお店、見つけられるかな。
私は繁華街の路地裏に降り立った。
ここでこっそり人の姿に戻ろう。
「おい、白猫がいるぞ!」
私は思わず跳ねて、機敏に後ろを振り返る。
警備中らしき騎士たちが3人、私に気づいて取り囲んできた。
すでに王国や教会が、大聖堂を抜け出した私を警戒していたのかもしれない。
私はいつでも駆けだせるように四つ足でしっかり立つと、彼らの顔を見上げた。
「おーい、白ふわにゃんこ。首輪もしないで、野良だな? お、こっち見てるぞ」
「赤い目の色が変わってるけど、かわいい顔してるな」
騎士たちは目じりを下げて、私に話しかけてくる。
「おいおい、緊張しているのか? 大丈夫だ、俺たちは怖い人間じゃないから。大聖堂で暴れた聖女が街に来ていないか警備しているんだ」
「それは建前だろ。聖女レナーテは王太子と司教をぶっ飛ばして、国内の魔術師や解呪師では破れない強固な結界と防壁を張ったまま、今も大聖堂に立てこもっているんだから」
「はは。そんな最強聖女が教会にいたなんて知らなかったな。爽快なことしてくれるよ」
「おい、気をつけろ。たいていのやつらが王太子と司教たちに不満があったとしても、どこで誰が聞いてるかわからないだろ」
どうやら私のしたことを騎士たちは喜んでくれているらしいけれど、今一番関わりたくない話題なので、静かにその場を離れることにする。
「だけど聖女レナーテは、魔術を使えたってことだ。もしかして猫にでも変身して、夕食でも食べに出かけているかもしれないよな」
「ん、白ふわにゃんこ、どうした。立ち去ろうとする背中をぎくっと跳ねさせたりして」
そ、そうだったかな……。
「確かに聖女だって腹が減る。こんな場所に、首輪もつけないきれいな野良猫……まさかとは思うが、怪しいな」
真顔の騎士3人に、じいっと見つめられる。
どうしよう。
今、私にできることは……。
「に、にゃーん」
全力で普通の猫を装ってみた。
すると騎士たちの真顔が、あっという間に破顔して大笑いする。
「なんだよそれ! そんな下手な鳴き声、かわいすぎるだろ!」
「はははっ、希少猫だな!」
「疑って悪かった! たとえ人間の聖女が変身しているにしても、お前よりは上手く鳴くさ!」
そして腹を抱えて大笑いしながら、楽しそうに去っていく。
よし、疑問は多々あるけれど上手くいった。
その後も人とすれ違うたび、気軽に声をかけられる。
怪しくない猫の振る舞いとは、どうすればいいのかしら……。
わからないのでとりあえず猫語を真似て挨拶すると、なぜか鳴き方が好評だった。
そうしながら路地を駆けまわり、訳ありの品も売買してくれそうな店の看板を見つける。
私は物陰で人の姿に戻るとその店へ入り、仕方なく身に着けていたあれをようやく手放すことができた。
受付をしてくれた陽気なおじいさんも、笑いながら買い取りをしてくれる。
原因不明の猫変身だけど、この姿のまま魔術も使える。
飛行移動しながら人と猫、自在になれることを確認したし、着ている服や髪型もそのままだった。
気持ちよく寝ていただけなのに、とても便利な力を手に入れてしまったらしい。
猫の姿なら、司教たちやユリウス殿下の手下に見つかっても、私だってわからないだろうし。
もちろん見つかって追われたら返り討ちにするけれど、自分から人に危害を加えたくはなかった。
どちらかといえば若くして処刑された前世とは違う方向で、これからは気ままに長生きできたらいいな。
いつだって一度きりの人生だから。
私は私の望みを叶え続けたい。
そうだそうだと、私のお腹の音も賛成している。
辿り着いた街にそびえる時計塔の文字盤は、淡く発光しながら22の刻を告げていた。
この時間でも開いているお店、見つけられるかな。
私は繁華街の路地裏に降り立った。
ここでこっそり人の姿に戻ろう。
「おい、白猫がいるぞ!」
私は思わず跳ねて、機敏に後ろを振り返る。
警備中らしき騎士たちが3人、私に気づいて取り囲んできた。
すでに王国や教会が、大聖堂を抜け出した私を警戒していたのかもしれない。
私はいつでも駆けだせるように四つ足でしっかり立つと、彼らの顔を見上げた。
「おーい、白ふわにゃんこ。首輪もしないで、野良だな? お、こっち見てるぞ」
「赤い目の色が変わってるけど、かわいい顔してるな」
騎士たちは目じりを下げて、私に話しかけてくる。
「おいおい、緊張しているのか? 大丈夫だ、俺たちは怖い人間じゃないから。大聖堂で暴れた聖女が街に来ていないか警備しているんだ」
「それは建前だろ。聖女レナーテは王太子と司教をぶっ飛ばして、国内の魔術師や解呪師では破れない強固な結界と防壁を張ったまま、今も大聖堂に立てこもっているんだから」
「はは。そんな最強聖女が教会にいたなんて知らなかったな。爽快なことしてくれるよ」
「おい、気をつけろ。たいていのやつらが王太子と司教たちに不満があったとしても、どこで誰が聞いてるかわからないだろ」
どうやら私のしたことを騎士たちは喜んでくれているらしいけれど、今一番関わりたくない話題なので、静かにその場を離れることにする。
「だけど聖女レナーテは、魔術を使えたってことだ。もしかして猫にでも変身して、夕食でも食べに出かけているかもしれないよな」
「ん、白ふわにゃんこ、どうした。立ち去ろうとする背中をぎくっと跳ねさせたりして」
そ、そうだったかな……。
「確かに聖女だって腹が減る。こんな場所に、首輪もつけないきれいな野良猫……まさかとは思うが、怪しいな」
真顔の騎士3人に、じいっと見つめられる。
どうしよう。
今、私にできることは……。
「に、にゃーん」
全力で普通の猫を装ってみた。
すると騎士たちの真顔が、あっという間に破顔して大笑いする。
「なんだよそれ! そんな下手な鳴き声、かわいすぎるだろ!」
「はははっ、希少猫だな!」
「疑って悪かった! たとえ人間の聖女が変身しているにしても、お前よりは上手く鳴くさ!」
そして腹を抱えて大笑いしながら、楽しそうに去っていく。
よし、疑問は多々あるけれど上手くいった。
その後も人とすれ違うたび、気軽に声をかけられる。
怪しくない猫の振る舞いとは、どうすればいいのかしら……。
わからないのでとりあえず猫語を真似て挨拶すると、なぜか鳴き方が好評だった。
そうしながら路地を駆けまわり、訳ありの品も売買してくれそうな店の看板を見つける。
私は物陰で人の姿に戻るとその店へ入り、仕方なく身に着けていたあれをようやく手放すことができた。
受付をしてくれた陽気なおじいさんも、笑いながら買い取りをしてくれる。
0
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
【完結】いいえ。チートなのは旦那様です
仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。
自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい!
ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!!
という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑)
※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる