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プリズム(従兄弟幼馴染)
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初めてのセックスは高校生の時だった。
相手は従兄弟のお兄ちゃん。
従兄弟である英太くんは二つ年上で、よく考えたら当時受験生だったはずだ。優秀な人だから余裕だったのかもしれないけれど、よくそんな暇があったなと私は今になって思う。
私たちは付き合っていたわけじゃなくて、私は憧れていたけど、多分英太くんは私なんか眼中になかった。
頭が良くてスポーツ万能な彼は昔から女の子にモテていて、だけどあの時は彼女と別れたばかりだと言っていた。
母たちが姉妹の私たちは小さい頃からよく一緒に過ごしていた。
祖母が郊外の古くなった自宅を中層マンションに建て替えていて、4階から上は全て親族が住んでいる。立派な石造の塀はそのままに、れんが造りの洋風のマンションが建っている不思議な外観のマンションだ。
4階におばあちゃん、5階に母の姉の沙也加おばさん家族。6階に母の弟の圭一おじさんが1人で住んでいる。
私はよく夏休み中そのマンションに遊びに行っていて、小さい頃は圭一おじさんがよく屋上にビニールプールを出してくれたりテントを立ててくれたりして遊んでいた。眠るのはおばあちゃんのいる4階で、英太くんのいる5階に行ったり圭一おじさんのいる6階に行ったり、たまにマンションの外の掃除をしてお小遣いをもらったりしながら気楽に過ごしていた。
夏の思い出といえばあのマンションの屋上だ。
もう20代半ばになっているのにそんなことを思い出すのは、数年ぶりに英太くんにあのマンションに誘われたからだ。
祖母はすっかり高齢になっている。まだ元気に暮らしているけれど、たまには顔を出しに来いと声がかかったので、たまっている有給を使って遅れた夏休みをとることにしてマンションに泊まる荷造りをしている。
実家に顔を出そうかと思ったけれど、歳を取っても仲の良い両親はふたりで旅行に出掛けてしまっている。
数年ぶりのマンションは少しも変わっていなくて、古い石造の塀の中にミスマッチなれんがの四角いマンションがすっぽりと収まっている。
祖母の暮らしもほとんどあの時のままで、気ままな一人暮らしといったところ。
「ごめんねおばあちゃん全然来れなくて。」
「そんなのはいいんだよ。知らせがないのは元気な証拠ってね。」
「5日だけ泊らせてね。」
「何日でも泊まっておいで。」
「屋上って開いてるかな?」
「開いてるよ。千鶴は屋上が好きだねえ、昔っから。」
荷物を泊まらせてもらう部屋に片付けて、見慣れたエレベーターに飛び乗った。
カレンダーの絵柄はとっくに秋なのに、外はまだじりじりと暑い。
懐かしいビビットな色の巨大なビニールプールが出してあったので、そのまままたエレベーターで4階まで降りて持ってきていた水着に着替えて屋上に戻った。
「圭一おじさん」
プール奥の人影に声をかける。
プールの準備をしてくれるのも、そもそもこのプールを買ってくれたのもよく遊んでくれた叔父だった。
「それはないわ。」
予想していたのとは違って、振り返ったのは派手な髪のピアスだらけの男だった。
「水着持ってきた?」
「もしかして翔太?」
「もしかしてってなに?」
英太くんには2つ年下、私と同じ年の弟がいる。
「いや変わりすぎでしょ。なにその頭。」
「ばーちゃんも親も言わねえようなこと言うじゃん。」
しゃがんでいる翔太の髪に立ったまま触れる。
シルバーグレイのの髪は、少し痛んで硬い感触。
その手は昔の倍くらい大きくなった手に軽く払われた。
「俺仕事在宅だからさ、髪とかピアスとか自由。」
「あ~
イラスト仕事にしたんだっけ、昔から上手かったもんね。」
「そそ。英太は真面目に不動産やってるから俺が家で仕事してんの羨ましそうだけど。」
「クリエイターにはクリエイターの苦労ってやつがあるんでしょ。私は良く分かんないけど。」
「へえ、俺の味方になってくれるの珍しいじゃん。大人になったな。」
「なによ?それ?」
「昔は英太が1番だったでしょ。」
そんな自覚はなかったけれど、そうだったかもしれない。なにせあの頃はふたつ年上のかっこいいお兄さんなんて憧れでしかなくて、英太くんが1番正しいような気がしていたのだ。
親より英太くん、の時期が確かにあった。
「で、水着持ってきたの?」
「着てきた。」
「は?家から?いくつだよ。」
「ちがうよ、エレベーター降りたらプールがみえたからおばあちゃんとこに降りて着替えてきたの。」
さすがにいい大人が水着姿でエレベーターにのるわけにはいかないので、水着の上にTシャツと短パンを着ている。
家から着てくるわけないじゃん、と笑うと、しゃがんだままの翔太も私を見上げて眩しそうに笑った。
笑うと顔は昔のままで、悪がきっぽい憎めない顔は懐かしさが溢れていた。
目の下の頬にほくろがひとつ。
「入るの?流すよ。」
水に入るなら化粧を落としてくればよかったな、なんて考えながら頷くと、翔太が握っていたホースから水を噴射した。
「ちょ!冷たい!もう!」
慌てて翔太からホースを取り上げて、お返しに海パン姿の翔太に頭から水をかける。
「馬鹿!びっくりするだろ。ほらプール、午前中に水に張っておいたから丁度いいぞ。
張ったばかりの水では冷たすぎるから、水を張って数時間おいておいてあるそのプールに水着になって数年ぶりに入る。
腰の辺りまで高さのあるそれは子どもの頃なら泳げるほど大きかった。今でも大人2人が入っても余裕のある大きさだ。
「あ~この感じなつかし~。」
派手な色のプール、遮るもののない全面の空、横に翔太。
「英太夕方には帰ってくるよ。」
「まあ、そうでしょうね。」
「なに?もう英太はいいの?」
翔太の中では今でも英太くんが大好きな私のままなんだろう。
「あんた私のこといくつだと思ってる?もう高校生じゃないんだよ。」
「いやでも初めての男って特別なんじゃないかと思ってさ。」
「えっなんで知ってるの?私言ったっけ。」
「英太に聞いた。て言うかその件で話があるんだけどさ。」
翔太はプールから出ておもり付きのパラソルを移動させながら神妙な顔をして見せた。
「なに?」
「ちょっと待って、髪、まとめてあげる。」
プールに戻って私の後ろに腰を下ろした翔太が、私の腕にはめていた髪ゴムを抜き取る。
くるりとまとめるその手際の良さに、手慣れているのを感じて、ああ、もう翔太は私の胸に腕が当たって真っ赤になっていた時の翔太じゃないんだな、と思った。
「手慣れてるじゃん。」
「まあ、奈優が髪長いからね。いまだによく来るし。
「奈優ちゃんっておじさんの妹の娘さん?おじさん方の従姉妹か・・・・・・。えっもういくつ?」
「小4。10歳。」
「え~!私たちが高一の時に生まれたよね?」
その年の離れた翔太たちの従姉妹は赤ちゃんの時に一度抱かせてもらったきりだけど、とびきり可愛い赤ちゃんのイメージしかない。
「そう、もう生意気だよ。」
で、話なんだけど、と話をもとに戻しつつ、翔太は私のお腹に腕を回して自分の膝に乗せた。
「ちょっと。」
驚いて腕を制止しようとしても、あの頃よりずいぶん逞しくなったその腕はびくともしなかった。
「ああ悪い。つい奈優の癖で。」
そう口では言いながら、腕を緩める気配はない。
「で、話ってなに?」
水は時間をおいているといってもまだ冷たい。私たちの皮膚も冷えている。
なのにたしかに触れ合ったところから肉の温かみを感じる。
買って数年使っているビキニは年に似合わず露出が多い気がしてくる。
週に何度かジムには行くし家で筋トレもするけれど、人様に大手を振って披露するほどの体ではない。
対して翔太は高校生の時よりだいぶたくましくなっている気がする。
もたれると胸の筋肉が柔らかく背中に触れる。
「鍛えてるの?」
「家でずっと仕事してると運動不足になるからさ、英太と圭一おじさんも一緒にトレーニングしてるよ。」
私がここに来なくなってからも、ここでの暮らしは変わらず流れているんだなあ、と少しだけ寂しくなった。
「千鶴は今彼氏いるの?」
「いないよ。忙しいし。」
「それってさ、英太のこと、まだ少しでも気になってるからだったりする?」
「ええ~ないない。それはほんとにないから。」
しばらく顔を出さなくなった従姉妹という存在は、そんなふうに思われてたんだろうか、と考えると、たまらなく恥ずかしくなった。
一度だけ寝た親戚の女が、今もずっと想い続けて1人を貫いてるだなんて、痛いことこの上ない。
「本当にないからね。」
念を押すほどあやしい気がして、ばしゃばしゃと手元の水遊びに専念した。
私の胴回りを捕まえてる翔太の腕が、ぐっと力をこめて私を抱き締めた。
「千鶴。俺千鶴に謝らないといけないことある。」
その深刻な口ぶりに、内容もわからないのにぎくりとした。
「なに?」
「英太がさ、千鶴に手を出したの、俺のせいなんだ。」
「どういう意味?」
「英太中学から付き合ってた彼女いたじゃん?名前も覚えてねえけど。」
「あ~えっとね、美玲ちゃん?じゃなかった?すごい美人だったよね。」
「よく覚えてんね。俺あんま覚えてないわ・・・・・・。」
正直に言ってしまえば苦手だった。
英太くんの彼女、という点でも、私を邪険にしていた点でも。
「別れたじゃん?受験前に。それの原因が俺なんだ。」
「なんで?」
「俺の方がよくなったんだって。わけわかんないでしょ。」
スポーツ万能で頭のいい英太より、悪がきタイプの翔太がもてることはあまりなかった気がする。
「え~意外。」
「なんだと。」
「きゃ~!」
抱き抱えられたままくすぐられて、暴れる私たちの周りは激しく水飛沫が立った。
「それでさ、腹いせってやつ?」
「なんで腹いせになるの?私と寝たって翔太は痛くも痒くもないじゃん。」
大きくため息をついた後、暴れて離れた距離を積めるように再び翔太が私を抱き寄せる。
「鈍感。」
「はあ?」
後ろから私を抱える翔太が私の肩に顔を埋めた。
「分かるでしょ。
俺がずっと千鶴のこと好きだったからだよ。
英太はそれ気付いてたから、千鶴が英太に惚れてるの利用して寝たの。」
ああくそ、本当むかつく、そう低くこぼして、翔太はまたため息をついた。
「え、なん、はあ?」
「はあ?はなくない?」
翔太の吐く息が熱く背中にかかる。
「私に結構あたり強かったじゃん?翔太。」
「それはさあ、千鶴が英太
好き好きオーラ出しまくってるから。
そりゃ苛々するよ。」
「なんで美玲ちゃんは翔太の方がよかったんだろうね?」
「それはひどくね?」
「ああいや、ごめん。」
「ううん、いいんだけどさ、つーかそれめっちゃ俺が恥ずいはなしなんだけど。話す?」
「聞かないわけなくない?話してよ。」
「そういうやつだよな。」
「そこまで話したんだからさあ。」
「だよな、あのね、俺と英太の部屋ってベランダでつながってるでしよ。
「うん。」
「で、美玲が英太の部屋に来た時ベランダに出たら、
俺の部屋のカーテンの隙間から俺の部屋の中が見えたんだって。で、俺がなにしてたかっていうと・・・・・・」
そこで翔太は右手を筒状にして上下させて見せた。
「それ見てから俺のこと意識するようになったとか言っててさ。わけわかんないよな。英太だってやってるっつーの。」
「見たことなかったからじゃない?女子高生がはじめて男の子のそういうところ見て、びっくりしたんじゃないかな。」
「別にそんなすごいことしてたわけじゃないぞ。」
すごいことってなに?と笑うと、翔太はにやっと笑って、人差し指を口元に立てて反対の手で私の肩を抱き寄せて、耳に口を寄せた。
「千鶴の写真見ながら抜いてた。」
「はっ、え?」
「中3の時に受験の息抜きっつって圭一おじさんがプール出してみんなでプールで泳いで写真撮ったでしょ。
千鶴が腕組んできて映ってるやつ。」
ああ、シャッターを押された瞬間腕を振り解かれたやつ。
その時翔太は赤面していて、それは私の胸に翔太の腕が当たったからだと思っていたけど、私の胸だったからだったんだ。
その時のこれを思い出してさ、と翔太が私の胸を下から持ち上げるように触れた。
「やだ・・・・・・。」
「まじで高校3年間で何リットル出したんだってくらい千鶴で抜いたわ・・・・・・。」
翔太から逃げるようにプールの淵から腕を出してもたれると、広いといえどたかが家庭用ビニールプールなので、すぐに後ろから翔太が覆い被さった。
「嫌だ?千鶴が嫌ならもう触らない。ごめんね。」
翔太はあっけなく私から離れて、プールの淵にもたれて空を見上げた。
いつも英太くんに差をつけられて、こんな顔をしていたな。
兄妹のいない私にとっては2人とも大切な従兄弟だったけど。
濡れた髪の先から雫が垂れている。
それに手を伸ばして指で拭うと、翔太がびくりと震えた。
「ごめんね。」
「ごめんね。」
翔太が謝ったので、私も返して謝った。
「なににごめん?俺が千鶴に惚れてるって気づかなくてごめん?英太と寝てごめん?やめてくれよ。」
余計みじめになるだろ。
翔太は自分の髪をかき混ぜた。
「ちがう。英太くんと翔太が気まずくなっちゃったなら、申し訳ないなと思って。
って、思い上がりかな。ごめんね、なに言ってんだろ・・・・・・。馬鹿みたい。」
口に出すと、私を取り合って喧嘩させてごめん、みたいな言いぶりに聞こえる気がして、急に恥ずかしくなった。鼻の奥がつんと痛くなる。
前髪を整えようとした手を翔太に掴まれる。
「ごめん嫌な言い方して。」
手を掴んだ翔太の手が熱い。
「抱き締めていい?抱き締めるだけ。」
返事のかわりに、私から手を伸ばすと、引き寄せるように抱き締められた。
激しくプールの中の水が揺れた。
どくどくと鳴っているのが翔太の心臓なのか自分の脈なのかよく分からない。
「ごめんね、やっぱり抱き締めるだけじゃ足りないかも。」翔太の手のひらが背中を撫で回す。
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
溺れているように苦しくなって、咄嗟に翔太の首に手を回した。
今翔太に口付けなければ死ぬ。
溺れる。助けて。
水をかき分けるように翔太の顔を見つけ出して口を合わせた。熱い舌が流れ込むように口内に入ってくる。
舌が絡んではじめて息をついた。かすかに金属の感触。
「あ、ん。」
翔太の舌が上顎まで伸びてくる。
手のひらが胸を覆う。
ビキニトップをずらされて胸が溢れ出た。
「は、これをずっと想像したよ。」
翔太がプールの端に座り込んで、私に翔太に多い被さるように淵に手をつかせる。剥き出しの胸を翔太が舐めるように眺めている。
「ねえ、信じられる?いまだに俺、
千鶴の写真で抜くんだよ。えろ動画よりよっぽど興奮する。」
翔太が見せつけるように舌を伸ばす。舌の真ん中に鈍く光る銀の球が付いている。それに気を取られていると、翔太の舌が私の胸の先に触れた。
「は、あん。」
表面を撫でるように舐められて、ちゅる、と口内に吸い込まれた。
「は、翔太・・・・・・。ああ・・・・・・。」
口の中でもぬるぬると舌が胸を刺激し続ける。
プールの淵の腕ががくりと折れる。
翔太に覆いかぶさるようになって、縋るように顔を翔太の耳元に寄せた。
「あ・・・・・・っ、翔太・・・・・・!」
「待ってそれやばい。・・・・・・っっ!!」
翔太が耳を押さえてびくりと震えた。
そのまま私を避けて中腰で体を離す。
「は、くそダサい。ごめん。」
達してしまったそれを隠すように翔太は前を押さえている。
「待って。」
翔太がプールから出ようとするのを足に抱きついて制する。
「離して、俺まじでめちゃきもくない?勘弁して。
兄貴が英太じゃなくても無理だよな。英太がもう少ししたら帰って来るから。」
離れようとする翔太を必死で引っ張る。
「ねえ千鶴。はなして。ほんとに。」
「なんで?綺麗にしたげる。」
翔太の海パンに手をかけて下に引き下げると、まだらに精液のついたそれがぶるりと顔を出す。
それをなめ取って口に含むと、柔らかくなりかけていたそれが一気に大きく硬くなった。
「は・・・・・・。千鶴・・・・・・。」
口に入れた時はプールの水と混ざってあまり感じなかったけど、口に出し入れして舌を這わせると青臭い臭いが鼻に抜けた。
「ん、ん、千鶴・・・・・・。」
翔太が翔太のまとめてくれた髪をかき混ぜる。
「は、だめ。千鶴、気持ち良すぎてまた出る・・・・・・。」
「らしていいよ。」
べ、と舌を出すと、それを上から見ながら翔太は再び達した。
「ん、あ、千鶴・・・・・・。ああ。」
じゅ、と吸い取ると、ひときわ高い声で翔太が喘ぐ。
「こんなことされると、俺期待する・・・・・・。」
海パンをずり下げたまま、翔太はプールの中に戻った。
「口で受けちゃったからキスできないや。」
座り込んだ翔太にもたれるように向かい合って抱きつくと、きつく抱きしめられる。
「千鶴。俺の部屋行かねえ?」
「ここでしないの?」
「ゴムがねえ。」
「あ~。なるほどですね~。」
私がふざけて返してプールの淵に顔を載せると、ビキニトップの後ろの結び目を解かれた。
上にずり上げられて剥き出しだった胸が、完全に放り出される。
「はあ、気持ちいい~。」
水の中で翔太の手のひらが胸をやわやわと揉む。
「あん。」
先をつままれて声を漏らすと、指が面白がるようにそれを捏ね回す。
「ん、んん、翔太、やだ。」
「は~千鶴かわいい~。」
翔太が後ろから私の体を覆って、手を下の方に下ろしていく。
水の中だからとかいう言い訳が通用しないくらい濡れているのは明らかだった。
水着の傍から翔太が指を入り込ませて、そこに触れた。
「千鶴、濡れてる。」
にゅるりと裂け目を撫でた指はそのまま中に入り込んでくる。
「は~やべ、俺感動して泣きそうなんだけど。」
うなじのあたりに翔太が顔を埋めてそんなことを言うものだからぎょっとした。
「ずっと千鶴とこういうことするの想像してきたからさ、ほんとに・・・・・・。」
背中近くに吐かれる息が熱くてぞくぞくする。
「千鶴の中に指があるってだけでほんと・・・・・・。」
背中に再び硬くなったものが押し当てられている。
「うわ、うそだろ・・・・・・。」
外れていたビキニトップの紐を慌てて翔太が結んでくれる。自分もずり下がっていた海パンを引っ張り上げている。指が引き抜かれたそこが空洞になったかのように心もとない。
「英太だ。」
はっとしてエレベーターの降り口を見ると、あの頃のままの黒髪に、スーツ姿の英太くんがビジネスバッグを下げたまま降りてきた。
「千鶴!久しぶり。」
「久しぶり、英太くん。電話ありがとう。
仕事おつかれ。」
「なんか2人がプールにいると高校の時に戻ったみたいだな。」
あの時よりかは仲良さそうだけど?
そんなふうに笑って、英太くんはジャケットを脱いでネクタイを外し、シャツを捲っていく。
「見惚れてんなよ。」
ぼんやりと見ていると、お尻と床の間から手をつっこんだ翔太の指がまた中に入り込んで来る。
「ちょっ!もう!翔太!」
「ははっ!」
「変わんないね。ふたりとも。俺今日は友達んとこ泊まるからさ、母さんたちもいないし。」
こちらも仲の良い叔母夫婦は、うちの母たちを追いかけて旅行に行っている。声我慢しなくていいよ。
そう言っていたずらっぽく出した舌にひやりとする。
「え、なんで?」
「いいじゃん。まあそれくらいしてくれていいよな。」
なー?千鶴?
と顔を覗き込まれてなんで答えていいのかわからなかった。
「いやほんと、悪かった。千鶴。
美玲が翔太にいったのがどうしても受け入れられなかったんだ。
翔太がずっと千鶴のこと好きで好きでどうしようもないのは分かってたからさ。」
「おい英太!」
「だからわざと翔太がいる時に千鶴と寝たんだ。
俺の勝手な嫉妬心で千鶴の初めてを台無しにした。
ごめんな。」
「もういいよ。それに英太くんが無理矢理したわけじゃないでしょ。」
入ったままの翔太の指が中をかき回すように円を描く。翔太のを受けたままの口で英太くんと話しているのでさえ後ろめたいのに、どうしようもないほど気持ちいい。後ろめたいのがきもちいいのかもしれない。
「・・・・・・っ!」
「もういいって、早く行ったら。」
「はいはい。ゴム足りなかったら俺の使っていいからな。」
英太くんが脱ぎ捨てたジャケットを拾ってまた戻っていく。
「どう?久々の再会は。」
「ん、もう、意地悪しないで。あ・・・・・・。」
浅いところをかき混ぜていた指がぐっと奥に入り込んでくる。
「ね、部屋に行きたい。」
後ろにいる翔太を振り返って強請ると、指が引き抜かれて、手を引いて立たされる。用意していたバスタオルだけを被されて、英太くんを下ろしたばかりのエレベーターに飛び乗った。
エレベーターの中で濡れた体を拭われる。
拭いながら、ビキニトップをずらされて胸の先をぺろぺろと舐められて、じゅわ、と下が濡れるのを感じた。
「あ、翔太・・・・・・。こんなところで。」
「興奮しねえ?昔から使ってるエレベーターでさ。」
「やだ。部屋でゆっくりしたい。」
「了~解。」
ちゅ、と胸の先から唇が離れていく。
部屋の鍵を開ける横顔は少しも変わっていない。
翔太の部屋に入る前に、口を濯がせてもらって部屋に入るとすぐに水着を脱がされた。少し湿ったそれは床に落とされて、濡れた体をタオルで軽く拭われると、
翔太は自分の海パンを脱ぎながら私をベッドに押し倒した。
片手をついて片手でベッドヘッドの缶からコンドームを取り出す手慣れた仕草にぞくりとした。
別にわたしのことを好きだったからって、他の誰ともセックスしてないわけじゃないことくらい理解できる。でもこの言いようのない焦りともどかしさはどうしようもなかった。いい気分ではないことしか確実なことがない。はやく抱いて欲しい。助けてくれるのは翔太だけしかいないと確信を持てる。
「いやなこと考えてる。」
ごち、と額を合わされる。
「そりゃね、セックスする相手くらいいるよ。
でもここでするのはさ、千鶴が初めて。これは英太から今日千鶴が来るって聞いたから期待して置いた。」
小さい缶かんをつまんで見せる。
「はやく抱いて。」
泣きそうになる。
分かってくれるのも、欲しい言葉をくれるのも。
小さいころのことがちらちらと頭の中を落ちていく紙吹雪みたいに思い出される。
「千鶴。好きだよ。」
私も好きだって言いたいけれど、でもさっき急に生まれたばかりのこの気持ちを表現する自信がなかった。
体中を舐められている。
まつ毛の先にキスされて、濡れているところを啜られて、足の先までキスされる。
「翔太・・・・・・。もう・・・・・・。」
「うん。もう入れようね。」
コンドームを着けて翔太がゆっくり入り込んでくる。
初めてビニールプールを出してもらった時は2人とも裸だった。
英太くんに負けて悔しくて泣いてるのがばれたくない翔太を苦手なカブトムシを持って追いかけて私が泣かせたと言った時の翔太の顔、写真を撮る時に胸が当たって焼けたように赤くなった頬、私が笑った顔を見て柔らかく笑い返したついさっきの顔。
過去と現在が入り混じって、訳がわからない。
翔太が激しく私を揺さぶる。
だらしなく開いた口から喘ぎともうめきともつかない声が絶え間なくあふれていく。
「あ、翔太・・・・・・。あ・・・・・・。」
いく・・・・・・。達したのは同時だった。
カーテンの隙間に下がっているサンキャッチャーのせいで、太陽光が分光されて白い壁にきらきらと虹色が光っている。
まるで今日の再会をとおして輝き出した思い出たちみたい。
相手は従兄弟のお兄ちゃん。
従兄弟である英太くんは二つ年上で、よく考えたら当時受験生だったはずだ。優秀な人だから余裕だったのかもしれないけれど、よくそんな暇があったなと私は今になって思う。
私たちは付き合っていたわけじゃなくて、私は憧れていたけど、多分英太くんは私なんか眼中になかった。
頭が良くてスポーツ万能な彼は昔から女の子にモテていて、だけどあの時は彼女と別れたばかりだと言っていた。
母たちが姉妹の私たちは小さい頃からよく一緒に過ごしていた。
祖母が郊外の古くなった自宅を中層マンションに建て替えていて、4階から上は全て親族が住んでいる。立派な石造の塀はそのままに、れんが造りの洋風のマンションが建っている不思議な外観のマンションだ。
4階におばあちゃん、5階に母の姉の沙也加おばさん家族。6階に母の弟の圭一おじさんが1人で住んでいる。
私はよく夏休み中そのマンションに遊びに行っていて、小さい頃は圭一おじさんがよく屋上にビニールプールを出してくれたりテントを立ててくれたりして遊んでいた。眠るのはおばあちゃんのいる4階で、英太くんのいる5階に行ったり圭一おじさんのいる6階に行ったり、たまにマンションの外の掃除をしてお小遣いをもらったりしながら気楽に過ごしていた。
夏の思い出といえばあのマンションの屋上だ。
もう20代半ばになっているのにそんなことを思い出すのは、数年ぶりに英太くんにあのマンションに誘われたからだ。
祖母はすっかり高齢になっている。まだ元気に暮らしているけれど、たまには顔を出しに来いと声がかかったので、たまっている有給を使って遅れた夏休みをとることにしてマンションに泊まる荷造りをしている。
実家に顔を出そうかと思ったけれど、歳を取っても仲の良い両親はふたりで旅行に出掛けてしまっている。
数年ぶりのマンションは少しも変わっていなくて、古い石造の塀の中にミスマッチなれんがの四角いマンションがすっぽりと収まっている。
祖母の暮らしもほとんどあの時のままで、気ままな一人暮らしといったところ。
「ごめんねおばあちゃん全然来れなくて。」
「そんなのはいいんだよ。知らせがないのは元気な証拠ってね。」
「5日だけ泊らせてね。」
「何日でも泊まっておいで。」
「屋上って開いてるかな?」
「開いてるよ。千鶴は屋上が好きだねえ、昔っから。」
荷物を泊まらせてもらう部屋に片付けて、見慣れたエレベーターに飛び乗った。
カレンダーの絵柄はとっくに秋なのに、外はまだじりじりと暑い。
懐かしいビビットな色の巨大なビニールプールが出してあったので、そのまままたエレベーターで4階まで降りて持ってきていた水着に着替えて屋上に戻った。
「圭一おじさん」
プール奥の人影に声をかける。
プールの準備をしてくれるのも、そもそもこのプールを買ってくれたのもよく遊んでくれた叔父だった。
「それはないわ。」
予想していたのとは違って、振り返ったのは派手な髪のピアスだらけの男だった。
「水着持ってきた?」
「もしかして翔太?」
「もしかしてってなに?」
英太くんには2つ年下、私と同じ年の弟がいる。
「いや変わりすぎでしょ。なにその頭。」
「ばーちゃんも親も言わねえようなこと言うじゃん。」
しゃがんでいる翔太の髪に立ったまま触れる。
シルバーグレイのの髪は、少し痛んで硬い感触。
その手は昔の倍くらい大きくなった手に軽く払われた。
「俺仕事在宅だからさ、髪とかピアスとか自由。」
「あ~
イラスト仕事にしたんだっけ、昔から上手かったもんね。」
「そそ。英太は真面目に不動産やってるから俺が家で仕事してんの羨ましそうだけど。」
「クリエイターにはクリエイターの苦労ってやつがあるんでしょ。私は良く分かんないけど。」
「へえ、俺の味方になってくれるの珍しいじゃん。大人になったな。」
「なによ?それ?」
「昔は英太が1番だったでしょ。」
そんな自覚はなかったけれど、そうだったかもしれない。なにせあの頃はふたつ年上のかっこいいお兄さんなんて憧れでしかなくて、英太くんが1番正しいような気がしていたのだ。
親より英太くん、の時期が確かにあった。
「で、水着持ってきたの?」
「着てきた。」
「は?家から?いくつだよ。」
「ちがうよ、エレベーター降りたらプールがみえたからおばあちゃんとこに降りて着替えてきたの。」
さすがにいい大人が水着姿でエレベーターにのるわけにはいかないので、水着の上にTシャツと短パンを着ている。
家から着てくるわけないじゃん、と笑うと、しゃがんだままの翔太も私を見上げて眩しそうに笑った。
笑うと顔は昔のままで、悪がきっぽい憎めない顔は懐かしさが溢れていた。
目の下の頬にほくろがひとつ。
「入るの?流すよ。」
水に入るなら化粧を落としてくればよかったな、なんて考えながら頷くと、翔太が握っていたホースから水を噴射した。
「ちょ!冷たい!もう!」
慌てて翔太からホースを取り上げて、お返しに海パン姿の翔太に頭から水をかける。
「馬鹿!びっくりするだろ。ほらプール、午前中に水に張っておいたから丁度いいぞ。
張ったばかりの水では冷たすぎるから、水を張って数時間おいておいてあるそのプールに水着になって数年ぶりに入る。
腰の辺りまで高さのあるそれは子どもの頃なら泳げるほど大きかった。今でも大人2人が入っても余裕のある大きさだ。
「あ~この感じなつかし~。」
派手な色のプール、遮るもののない全面の空、横に翔太。
「英太夕方には帰ってくるよ。」
「まあ、そうでしょうね。」
「なに?もう英太はいいの?」
翔太の中では今でも英太くんが大好きな私のままなんだろう。
「あんた私のこといくつだと思ってる?もう高校生じゃないんだよ。」
「いやでも初めての男って特別なんじゃないかと思ってさ。」
「えっなんで知ってるの?私言ったっけ。」
「英太に聞いた。て言うかその件で話があるんだけどさ。」
翔太はプールから出ておもり付きのパラソルを移動させながら神妙な顔をして見せた。
「なに?」
「ちょっと待って、髪、まとめてあげる。」
プールに戻って私の後ろに腰を下ろした翔太が、私の腕にはめていた髪ゴムを抜き取る。
くるりとまとめるその手際の良さに、手慣れているのを感じて、ああ、もう翔太は私の胸に腕が当たって真っ赤になっていた時の翔太じゃないんだな、と思った。
「手慣れてるじゃん。」
「まあ、奈優が髪長いからね。いまだによく来るし。
「奈優ちゃんっておじさんの妹の娘さん?おじさん方の従姉妹か・・・・・・。えっもういくつ?」
「小4。10歳。」
「え~!私たちが高一の時に生まれたよね?」
その年の離れた翔太たちの従姉妹は赤ちゃんの時に一度抱かせてもらったきりだけど、とびきり可愛い赤ちゃんのイメージしかない。
「そう、もう生意気だよ。」
で、話なんだけど、と話をもとに戻しつつ、翔太は私のお腹に腕を回して自分の膝に乗せた。
「ちょっと。」
驚いて腕を制止しようとしても、あの頃よりずいぶん逞しくなったその腕はびくともしなかった。
「ああ悪い。つい奈優の癖で。」
そう口では言いながら、腕を緩める気配はない。
「で、話ってなに?」
水は時間をおいているといってもまだ冷たい。私たちの皮膚も冷えている。
なのにたしかに触れ合ったところから肉の温かみを感じる。
買って数年使っているビキニは年に似合わず露出が多い気がしてくる。
週に何度かジムには行くし家で筋トレもするけれど、人様に大手を振って披露するほどの体ではない。
対して翔太は高校生の時よりだいぶたくましくなっている気がする。
もたれると胸の筋肉が柔らかく背中に触れる。
「鍛えてるの?」
「家でずっと仕事してると運動不足になるからさ、英太と圭一おじさんも一緒にトレーニングしてるよ。」
私がここに来なくなってからも、ここでの暮らしは変わらず流れているんだなあ、と少しだけ寂しくなった。
「千鶴は今彼氏いるの?」
「いないよ。忙しいし。」
「それってさ、英太のこと、まだ少しでも気になってるからだったりする?」
「ええ~ないない。それはほんとにないから。」
しばらく顔を出さなくなった従姉妹という存在は、そんなふうに思われてたんだろうか、と考えると、たまらなく恥ずかしくなった。
一度だけ寝た親戚の女が、今もずっと想い続けて1人を貫いてるだなんて、痛いことこの上ない。
「本当にないからね。」
念を押すほどあやしい気がして、ばしゃばしゃと手元の水遊びに専念した。
私の胴回りを捕まえてる翔太の腕が、ぐっと力をこめて私を抱き締めた。
「千鶴。俺千鶴に謝らないといけないことある。」
その深刻な口ぶりに、内容もわからないのにぎくりとした。
「なに?」
「英太がさ、千鶴に手を出したの、俺のせいなんだ。」
「どういう意味?」
「英太中学から付き合ってた彼女いたじゃん?名前も覚えてねえけど。」
「あ~えっとね、美玲ちゃん?じゃなかった?すごい美人だったよね。」
「よく覚えてんね。俺あんま覚えてないわ・・・・・・。」
正直に言ってしまえば苦手だった。
英太くんの彼女、という点でも、私を邪険にしていた点でも。
「別れたじゃん?受験前に。それの原因が俺なんだ。」
「なんで?」
「俺の方がよくなったんだって。わけわかんないでしょ。」
スポーツ万能で頭のいい英太より、悪がきタイプの翔太がもてることはあまりなかった気がする。
「え~意外。」
「なんだと。」
「きゃ~!」
抱き抱えられたままくすぐられて、暴れる私たちの周りは激しく水飛沫が立った。
「それでさ、腹いせってやつ?」
「なんで腹いせになるの?私と寝たって翔太は痛くも痒くもないじゃん。」
大きくため息をついた後、暴れて離れた距離を積めるように再び翔太が私を抱き寄せる。
「鈍感。」
「はあ?」
後ろから私を抱える翔太が私の肩に顔を埋めた。
「分かるでしょ。
俺がずっと千鶴のこと好きだったからだよ。
英太はそれ気付いてたから、千鶴が英太に惚れてるの利用して寝たの。」
ああくそ、本当むかつく、そう低くこぼして、翔太はまたため息をついた。
「え、なん、はあ?」
「はあ?はなくない?」
翔太の吐く息が熱く背中にかかる。
「私に結構あたり強かったじゃん?翔太。」
「それはさあ、千鶴が英太
好き好きオーラ出しまくってるから。
そりゃ苛々するよ。」
「なんで美玲ちゃんは翔太の方がよかったんだろうね?」
「それはひどくね?」
「ああいや、ごめん。」
「ううん、いいんだけどさ、つーかそれめっちゃ俺が恥ずいはなしなんだけど。話す?」
「聞かないわけなくない?話してよ。」
「そういうやつだよな。」
「そこまで話したんだからさあ。」
「だよな、あのね、俺と英太の部屋ってベランダでつながってるでしよ。
「うん。」
「で、美玲が英太の部屋に来た時ベランダに出たら、
俺の部屋のカーテンの隙間から俺の部屋の中が見えたんだって。で、俺がなにしてたかっていうと・・・・・・」
そこで翔太は右手を筒状にして上下させて見せた。
「それ見てから俺のこと意識するようになったとか言っててさ。わけわかんないよな。英太だってやってるっつーの。」
「見たことなかったからじゃない?女子高生がはじめて男の子のそういうところ見て、びっくりしたんじゃないかな。」
「別にそんなすごいことしてたわけじゃないぞ。」
すごいことってなに?と笑うと、翔太はにやっと笑って、人差し指を口元に立てて反対の手で私の肩を抱き寄せて、耳に口を寄せた。
「千鶴の写真見ながら抜いてた。」
「はっ、え?」
「中3の時に受験の息抜きっつって圭一おじさんがプール出してみんなでプールで泳いで写真撮ったでしょ。
千鶴が腕組んできて映ってるやつ。」
ああ、シャッターを押された瞬間腕を振り解かれたやつ。
その時翔太は赤面していて、それは私の胸に翔太の腕が当たったからだと思っていたけど、私の胸だったからだったんだ。
その時のこれを思い出してさ、と翔太が私の胸を下から持ち上げるように触れた。
「やだ・・・・・・。」
「まじで高校3年間で何リットル出したんだってくらい千鶴で抜いたわ・・・・・・。」
翔太から逃げるようにプールの淵から腕を出してもたれると、広いといえどたかが家庭用ビニールプールなので、すぐに後ろから翔太が覆い被さった。
「嫌だ?千鶴が嫌ならもう触らない。ごめんね。」
翔太はあっけなく私から離れて、プールの淵にもたれて空を見上げた。
いつも英太くんに差をつけられて、こんな顔をしていたな。
兄妹のいない私にとっては2人とも大切な従兄弟だったけど。
濡れた髪の先から雫が垂れている。
それに手を伸ばして指で拭うと、翔太がびくりと震えた。
「ごめんね。」
「ごめんね。」
翔太が謝ったので、私も返して謝った。
「なににごめん?俺が千鶴に惚れてるって気づかなくてごめん?英太と寝てごめん?やめてくれよ。」
余計みじめになるだろ。
翔太は自分の髪をかき混ぜた。
「ちがう。英太くんと翔太が気まずくなっちゃったなら、申し訳ないなと思って。
って、思い上がりかな。ごめんね、なに言ってんだろ・・・・・・。馬鹿みたい。」
口に出すと、私を取り合って喧嘩させてごめん、みたいな言いぶりに聞こえる気がして、急に恥ずかしくなった。鼻の奥がつんと痛くなる。
前髪を整えようとした手を翔太に掴まれる。
「ごめん嫌な言い方して。」
手を掴んだ翔太の手が熱い。
「抱き締めていい?抱き締めるだけ。」
返事のかわりに、私から手を伸ばすと、引き寄せるように抱き締められた。
激しくプールの中の水が揺れた。
どくどくと鳴っているのが翔太の心臓なのか自分の脈なのかよく分からない。
「ごめんね、やっぱり抱き締めるだけじゃ足りないかも。」翔太の手のひらが背中を撫で回す。
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
溺れているように苦しくなって、咄嗟に翔太の首に手を回した。
今翔太に口付けなければ死ぬ。
溺れる。助けて。
水をかき分けるように翔太の顔を見つけ出して口を合わせた。熱い舌が流れ込むように口内に入ってくる。
舌が絡んではじめて息をついた。かすかに金属の感触。
「あ、ん。」
翔太の舌が上顎まで伸びてくる。
手のひらが胸を覆う。
ビキニトップをずらされて胸が溢れ出た。
「は、これをずっと想像したよ。」
翔太がプールの端に座り込んで、私に翔太に多い被さるように淵に手をつかせる。剥き出しの胸を翔太が舐めるように眺めている。
「ねえ、信じられる?いまだに俺、
千鶴の写真で抜くんだよ。えろ動画よりよっぽど興奮する。」
翔太が見せつけるように舌を伸ばす。舌の真ん中に鈍く光る銀の球が付いている。それに気を取られていると、翔太の舌が私の胸の先に触れた。
「は、あん。」
表面を撫でるように舐められて、ちゅる、と口内に吸い込まれた。
「は、翔太・・・・・・。ああ・・・・・・。」
口の中でもぬるぬると舌が胸を刺激し続ける。
プールの淵の腕ががくりと折れる。
翔太に覆いかぶさるようになって、縋るように顔を翔太の耳元に寄せた。
「あ・・・・・・っ、翔太・・・・・・!」
「待ってそれやばい。・・・・・・っっ!!」
翔太が耳を押さえてびくりと震えた。
そのまま私を避けて中腰で体を離す。
「は、くそダサい。ごめん。」
達してしまったそれを隠すように翔太は前を押さえている。
「待って。」
翔太がプールから出ようとするのを足に抱きついて制する。
「離して、俺まじでめちゃきもくない?勘弁して。
兄貴が英太じゃなくても無理だよな。英太がもう少ししたら帰って来るから。」
離れようとする翔太を必死で引っ張る。
「ねえ千鶴。はなして。ほんとに。」
「なんで?綺麗にしたげる。」
翔太の海パンに手をかけて下に引き下げると、まだらに精液のついたそれがぶるりと顔を出す。
それをなめ取って口に含むと、柔らかくなりかけていたそれが一気に大きく硬くなった。
「は・・・・・・。千鶴・・・・・・。」
口に入れた時はプールの水と混ざってあまり感じなかったけど、口に出し入れして舌を這わせると青臭い臭いが鼻に抜けた。
「ん、ん、千鶴・・・・・・。」
翔太が翔太のまとめてくれた髪をかき混ぜる。
「は、だめ。千鶴、気持ち良すぎてまた出る・・・・・・。」
「らしていいよ。」
べ、と舌を出すと、それを上から見ながら翔太は再び達した。
「ん、あ、千鶴・・・・・・。ああ。」
じゅ、と吸い取ると、ひときわ高い声で翔太が喘ぐ。
「こんなことされると、俺期待する・・・・・・。」
海パンをずり下げたまま、翔太はプールの中に戻った。
「口で受けちゃったからキスできないや。」
座り込んだ翔太にもたれるように向かい合って抱きつくと、きつく抱きしめられる。
「千鶴。俺の部屋行かねえ?」
「ここでしないの?」
「ゴムがねえ。」
「あ~。なるほどですね~。」
私がふざけて返してプールの淵に顔を載せると、ビキニトップの後ろの結び目を解かれた。
上にずり上げられて剥き出しだった胸が、完全に放り出される。
「はあ、気持ちいい~。」
水の中で翔太の手のひらが胸をやわやわと揉む。
「あん。」
先をつままれて声を漏らすと、指が面白がるようにそれを捏ね回す。
「ん、んん、翔太、やだ。」
「は~千鶴かわいい~。」
翔太が後ろから私の体を覆って、手を下の方に下ろしていく。
水の中だからとかいう言い訳が通用しないくらい濡れているのは明らかだった。
水着の傍から翔太が指を入り込ませて、そこに触れた。
「千鶴、濡れてる。」
にゅるりと裂け目を撫でた指はそのまま中に入り込んでくる。
「は~やべ、俺感動して泣きそうなんだけど。」
うなじのあたりに翔太が顔を埋めてそんなことを言うものだからぎょっとした。
「ずっと千鶴とこういうことするの想像してきたからさ、ほんとに・・・・・・。」
背中近くに吐かれる息が熱くてぞくぞくする。
「千鶴の中に指があるってだけでほんと・・・・・・。」
背中に再び硬くなったものが押し当てられている。
「うわ、うそだろ・・・・・・。」
外れていたビキニトップの紐を慌てて翔太が結んでくれる。自分もずり下がっていた海パンを引っ張り上げている。指が引き抜かれたそこが空洞になったかのように心もとない。
「英太だ。」
はっとしてエレベーターの降り口を見ると、あの頃のままの黒髪に、スーツ姿の英太くんがビジネスバッグを下げたまま降りてきた。
「千鶴!久しぶり。」
「久しぶり、英太くん。電話ありがとう。
仕事おつかれ。」
「なんか2人がプールにいると高校の時に戻ったみたいだな。」
あの時よりかは仲良さそうだけど?
そんなふうに笑って、英太くんはジャケットを脱いでネクタイを外し、シャツを捲っていく。
「見惚れてんなよ。」
ぼんやりと見ていると、お尻と床の間から手をつっこんだ翔太の指がまた中に入り込んで来る。
「ちょっ!もう!翔太!」
「ははっ!」
「変わんないね。ふたりとも。俺今日は友達んとこ泊まるからさ、母さんたちもいないし。」
こちらも仲の良い叔母夫婦は、うちの母たちを追いかけて旅行に行っている。声我慢しなくていいよ。
そう言っていたずらっぽく出した舌にひやりとする。
「え、なんで?」
「いいじゃん。まあそれくらいしてくれていいよな。」
なー?千鶴?
と顔を覗き込まれてなんで答えていいのかわからなかった。
「いやほんと、悪かった。千鶴。
美玲が翔太にいったのがどうしても受け入れられなかったんだ。
翔太がずっと千鶴のこと好きで好きでどうしようもないのは分かってたからさ。」
「おい英太!」
「だからわざと翔太がいる時に千鶴と寝たんだ。
俺の勝手な嫉妬心で千鶴の初めてを台無しにした。
ごめんな。」
「もういいよ。それに英太くんが無理矢理したわけじゃないでしょ。」
入ったままの翔太の指が中をかき回すように円を描く。翔太のを受けたままの口で英太くんと話しているのでさえ後ろめたいのに、どうしようもないほど気持ちいい。後ろめたいのがきもちいいのかもしれない。
「・・・・・・っ!」
「もういいって、早く行ったら。」
「はいはい。ゴム足りなかったら俺の使っていいからな。」
英太くんが脱ぎ捨てたジャケットを拾ってまた戻っていく。
「どう?久々の再会は。」
「ん、もう、意地悪しないで。あ・・・・・・。」
浅いところをかき混ぜていた指がぐっと奥に入り込んでくる。
「ね、部屋に行きたい。」
後ろにいる翔太を振り返って強請ると、指が引き抜かれて、手を引いて立たされる。用意していたバスタオルだけを被されて、英太くんを下ろしたばかりのエレベーターに飛び乗った。
エレベーターの中で濡れた体を拭われる。
拭いながら、ビキニトップをずらされて胸の先をぺろぺろと舐められて、じゅわ、と下が濡れるのを感じた。
「あ、翔太・・・・・・。こんなところで。」
「興奮しねえ?昔から使ってるエレベーターでさ。」
「やだ。部屋でゆっくりしたい。」
「了~解。」
ちゅ、と胸の先から唇が離れていく。
部屋の鍵を開ける横顔は少しも変わっていない。
翔太の部屋に入る前に、口を濯がせてもらって部屋に入るとすぐに水着を脱がされた。少し湿ったそれは床に落とされて、濡れた体をタオルで軽く拭われると、
翔太は自分の海パンを脱ぎながら私をベッドに押し倒した。
片手をついて片手でベッドヘッドの缶からコンドームを取り出す手慣れた仕草にぞくりとした。
別にわたしのことを好きだったからって、他の誰ともセックスしてないわけじゃないことくらい理解できる。でもこの言いようのない焦りともどかしさはどうしようもなかった。いい気分ではないことしか確実なことがない。はやく抱いて欲しい。助けてくれるのは翔太だけしかいないと確信を持てる。
「いやなこと考えてる。」
ごち、と額を合わされる。
「そりゃね、セックスする相手くらいいるよ。
でもここでするのはさ、千鶴が初めて。これは英太から今日千鶴が来るって聞いたから期待して置いた。」
小さい缶かんをつまんで見せる。
「はやく抱いて。」
泣きそうになる。
分かってくれるのも、欲しい言葉をくれるのも。
小さいころのことがちらちらと頭の中を落ちていく紙吹雪みたいに思い出される。
「千鶴。好きだよ。」
私も好きだって言いたいけれど、でもさっき急に生まれたばかりのこの気持ちを表現する自信がなかった。
体中を舐められている。
まつ毛の先にキスされて、濡れているところを啜られて、足の先までキスされる。
「翔太・・・・・・。もう・・・・・・。」
「うん。もう入れようね。」
コンドームを着けて翔太がゆっくり入り込んでくる。
初めてビニールプールを出してもらった時は2人とも裸だった。
英太くんに負けて悔しくて泣いてるのがばれたくない翔太を苦手なカブトムシを持って追いかけて私が泣かせたと言った時の翔太の顔、写真を撮る時に胸が当たって焼けたように赤くなった頬、私が笑った顔を見て柔らかく笑い返したついさっきの顔。
過去と現在が入り混じって、訳がわからない。
翔太が激しく私を揺さぶる。
だらしなく開いた口から喘ぎともうめきともつかない声が絶え間なくあふれていく。
「あ、翔太・・・・・・。あ・・・・・・。」
いく・・・・・・。達したのは同時だった。
カーテンの隙間に下がっているサンキャッチャーのせいで、太陽光が分光されて白い壁にきらきらと虹色が光っている。
まるで今日の再会をとおして輝き出した思い出たちみたい。
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