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「どういうつもりだ」
王女と会うのに俺と揃えるなんて。
「俺が用意するのを了承したのはお前だ」
リンガルは当たり前のように腕を差し出す。
ソニアスが出された腕に手を置かなければ入場できない、解放された扉まで来ておいて引き返すわけにもいかない。
「はあ」
諦めて手を出すと、リンガルは満足そうな顔でエスコートをする。
会場に足を踏み入れた途端に周囲の貴族達の視線が集まった。
それはそうだろう。
お互いの色を着るなんて恋人か婚約者、もしくは伴侶だ。
しかも、片や未だ未婚の侯爵家嫡男、片や滅多に公に出て来ない魔導師長、一部のご令嬢以外にはどう見ても異色カップルである。
今日、ノルヴァイン侯爵が出席していなくてよかったと心底思った。
本当に婚約していてのこれならどれほど嬉しいことか、だがリンガルは王女と結婚する。
この色を纏って何の意味があるんだ。
会場の隅まで連れて来られ、給仕から飲み物を受け取る。
すぐに王族の入場が始まり、第一王子は俺を見つけぎょっと目を瞠り、最後に国王と王妃がフレア国の王女と一緒に現れた。
小柄でまだあどけなさを残した可愛らしい方だ。
「少しだけ席を外すがいいか?」
「ああ、少しと言わずに自由にしてきていいぞ」
「……ここを動くなよ、誰かに誘われても断るんだぞ」
「わかってる、早く行け」
後ろ髪を引かれるように振り返りながら人々の間にその大きな体を消して行く。
ソニアスは小さくため息をついて壁にもたれ、手に持ったグラスを煽った。
シャンパンを飲むのは久し振りで、もう少し飲もうと近くの給仕にグラスを交換して貰う。
音楽が鳴り出し、王太子殿下と聖女リナのダンスが始まった。
日本人であるリナはこちらに来るまではこんなダンスなどしたことなかっただろうに、よほど頑張ったんだな、上手に踊れている。
リンガルとは違う意味で情が移ってしまった彼女を、これからも見守っていくつもりだ。
何かあれば手を差し伸べることができる距離にいよう、家族の代わりは出来ないが、親戚のお兄さんと思ってくれたらいい。
楽しそうに踊るリナの笑顔が眩しく感じる。
これが終わったら皆が一斉に踊り出す、リンガルも王女と踊るのだろうか。
ちらっと濃い紫色の衣装の男が王女の近くに行くのが見えたところで、無意識に視線を逸らしてしまった。
くそ、俺は何で来てしまったんだ。あいつの幸せを願っておきながら王女とのダンスを見たくないなんて。
俺は魔導師長になった時に執着を捨てようと決めた。実際に城から出られなくなって、何かに、誰かに心を残すとどうにかなってしまいそうだったから。
だからリンガルが騎士団長になって会いに来た時は、ひどくがっかりしてしまった。
せっかく決心して離れたのにと。
また、いつか離れる日が来るのに。そして二度目のその決心はついこの間したばかり。
なのに、こんな衣装を着せるとは酷い男だ。
そう文句を言いつつも、本音ではあいつの色を纏えるのは嬉しくて仕方ない、最初で最後だとしても。
何杯目だろうか、また空になったグラスを交換してもらう。
「暑いな」
ここにいろと言われたが、しばらく戻ってこないだろうし夜風で涼もう。
舞踏会は始まったばかりで広いバルコニーには誰もおらず、ひんやりとした風が火照った頬を撫でて心地が良い。置かれているソファのひとつに座り空を見上げると、真っ暗な空で星たちが煌めいている。
その様が自由気ままに輝いているように見え、羨ましく思えてきた。
「俺は納得してたはずだ、こんな気持ちにさせたあいつが悪いんだ」
こんな色を着せて、夢を見させて、俺はどこにも動けないのに。
シャンパンを一気に飲む。
加減を忘れた飲み方はソニアスをすこぶる酔わせていった。
酔いがソニアスの思考を暴走させて、何か代償を払わせてやりたいという気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
「ソニアスッ、ここにいたか」
俺の色を纏った男が駆け寄ってきた。
その額は汗ばんでいる、もう王女と踊ってきたのだろうか。
「あそこで待てと言っただろう。おい、酔っ払ってるのか、何杯飲んだんだ」
紫を着てるのだから、これは俺のものだよな、少なくとも今日は俺のものだ。他の女と踊ったお仕置きをしてやる。
完全に酔っ払いと化したソニアスの暴走は止まらない。
「聞いてるのか、ソニアッ……」
逞しい肩に手を伸ばし引き寄せ、その勢いのまま唇を塞いだ。
すぐに離れたが、ソニアスは追いかけ背中に腕を伸ばし縋り付くようにそれをまた塞いだ。
唇と唇をくっつけただけのものだったが、ソニアスからの口づけはリンガルの欲に火をつけるに十分だった。
王女と会うのに俺と揃えるなんて。
「俺が用意するのを了承したのはお前だ」
リンガルは当たり前のように腕を差し出す。
ソニアスが出された腕に手を置かなければ入場できない、解放された扉まで来ておいて引き返すわけにもいかない。
「はあ」
諦めて手を出すと、リンガルは満足そうな顔でエスコートをする。
会場に足を踏み入れた途端に周囲の貴族達の視線が集まった。
それはそうだろう。
お互いの色を着るなんて恋人か婚約者、もしくは伴侶だ。
しかも、片や未だ未婚の侯爵家嫡男、片や滅多に公に出て来ない魔導師長、一部のご令嬢以外にはどう見ても異色カップルである。
今日、ノルヴァイン侯爵が出席していなくてよかったと心底思った。
本当に婚約していてのこれならどれほど嬉しいことか、だがリンガルは王女と結婚する。
この色を纏って何の意味があるんだ。
会場の隅まで連れて来られ、給仕から飲み物を受け取る。
すぐに王族の入場が始まり、第一王子は俺を見つけぎょっと目を瞠り、最後に国王と王妃がフレア国の王女と一緒に現れた。
小柄でまだあどけなさを残した可愛らしい方だ。
「少しだけ席を外すがいいか?」
「ああ、少しと言わずに自由にしてきていいぞ」
「……ここを動くなよ、誰かに誘われても断るんだぞ」
「わかってる、早く行け」
後ろ髪を引かれるように振り返りながら人々の間にその大きな体を消して行く。
ソニアスは小さくため息をついて壁にもたれ、手に持ったグラスを煽った。
シャンパンを飲むのは久し振りで、もう少し飲もうと近くの給仕にグラスを交換して貰う。
音楽が鳴り出し、王太子殿下と聖女リナのダンスが始まった。
日本人であるリナはこちらに来るまではこんなダンスなどしたことなかっただろうに、よほど頑張ったんだな、上手に踊れている。
リンガルとは違う意味で情が移ってしまった彼女を、これからも見守っていくつもりだ。
何かあれば手を差し伸べることができる距離にいよう、家族の代わりは出来ないが、親戚のお兄さんと思ってくれたらいい。
楽しそうに踊るリナの笑顔が眩しく感じる。
これが終わったら皆が一斉に踊り出す、リンガルも王女と踊るのだろうか。
ちらっと濃い紫色の衣装の男が王女の近くに行くのが見えたところで、無意識に視線を逸らしてしまった。
くそ、俺は何で来てしまったんだ。あいつの幸せを願っておきながら王女とのダンスを見たくないなんて。
俺は魔導師長になった時に執着を捨てようと決めた。実際に城から出られなくなって、何かに、誰かに心を残すとどうにかなってしまいそうだったから。
だからリンガルが騎士団長になって会いに来た時は、ひどくがっかりしてしまった。
せっかく決心して離れたのにと。
また、いつか離れる日が来るのに。そして二度目のその決心はついこの間したばかり。
なのに、こんな衣装を着せるとは酷い男だ。
そう文句を言いつつも、本音ではあいつの色を纏えるのは嬉しくて仕方ない、最初で最後だとしても。
何杯目だろうか、また空になったグラスを交換してもらう。
「暑いな」
ここにいろと言われたが、しばらく戻ってこないだろうし夜風で涼もう。
舞踏会は始まったばかりで広いバルコニーには誰もおらず、ひんやりとした風が火照った頬を撫でて心地が良い。置かれているソファのひとつに座り空を見上げると、真っ暗な空で星たちが煌めいている。
その様が自由気ままに輝いているように見え、羨ましく思えてきた。
「俺は納得してたはずだ、こんな気持ちにさせたあいつが悪いんだ」
こんな色を着せて、夢を見させて、俺はどこにも動けないのに。
シャンパンを一気に飲む。
加減を忘れた飲み方はソニアスをすこぶる酔わせていった。
酔いがソニアスの思考を暴走させて、何か代償を払わせてやりたいという気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
「ソニアスッ、ここにいたか」
俺の色を纏った男が駆け寄ってきた。
その額は汗ばんでいる、もう王女と踊ってきたのだろうか。
「あそこで待てと言っただろう。おい、酔っ払ってるのか、何杯飲んだんだ」
紫を着てるのだから、これは俺のものだよな、少なくとも今日は俺のものだ。他の女と踊ったお仕置きをしてやる。
完全に酔っ払いと化したソニアスの暴走は止まらない。
「聞いてるのか、ソニアッ……」
逞しい肩に手を伸ばし引き寄せ、その勢いのまま唇を塞いだ。
すぐに離れたが、ソニアスは追いかけ背中に腕を伸ばし縋り付くようにそれをまた塞いだ。
唇と唇をくっつけただけのものだったが、ソニアスからの口づけはリンガルの欲に火をつけるに十分だった。
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