上 下
83 / 87

67

しおりを挟む
何故記憶がないのか、何故魔王の影を倒したら少しずつ思い出すのか?
「ねえ、もしかして私の記憶、あなたが持っているのかしら?」
そうとしか思えない。
カワウソはキョトンと見上げてきた。
可愛い・・・。
「それも忘れちゃったの?ふうん、でも僕のせいじゃないよ、リナがしたことだもの」
「私が?」
「そうだよ。ああ、そういうことか。思い出と約束を忘れちゃったから、リナはここから出ようとするんだね。う~ん、でも返し方なんてわかんないや」
首を傾げるカワウソ魔王、可愛いいがすぎる。しかし、それで誤魔化されてはいけない、方法がわからないのであれば、やはり祓ってみるしかないと思う。
記憶は奪われたのではなく自分が渡したかもしれないなんて、でも、浄化させて欲しいって言ったらさせてくれるのかしら。
「あのね、ちょっと試したい事があるのだけど、やってみてもいい?」
「リナのお願いなら聞いてあげてもいいけど、ここにずっといてくれるのならいいよ」
やっぱりそうくるか、嘘をつく事はできないし、濁すのも危険な気がする。
今は、このカワウソ魔王からは禍々しさは感じないけれど、この空間から出るまでは油断できないわ。
賭けになるけど、こうなったら一気に実力行使ね。
繋がれた手に祓いの力を集中させた。
「リナ?」
黒い世界が一瞬で白色に染まり、浄化されようとしたその時、カワウソの姿が揺らぎ真っ黒に染まった。
握られていた手がパッと離れ、それは大きく膨らみさっきの姿が嘘のように禍々しさを放っていた。
しまった、失敗した!
リリエナは焦ったが、祓いの力が途中で止まらないようグッと堪える。
「ひどいよ、僕を消そうとするなんて‼︎」
光に抵抗するように腕が伸びて再びリリエナを捕らえようと迫る。
この空間に逃げ場があるかわからないが、距離を取ろうと走り出したものの足首を掴まれ転んでしまった。
「あっ」
逃げられないと思った瞬間、ヴァイツェンの顔が脳裏に浮かんだ。
そっか、私、自分でどうにかしなきゃと強がってたけど、本心ではもう頼ってた。
こんな時に顔を思い出すなんて、もう認めてもいいのかもしれない、いや、もう認めよう。
「ヴァイツェン‼︎」
全身で叫んだ、届け、と願いながら。
「リリエナッ‼︎」
二の腕を掴まれ引っ張られたと思ったら、先ほどの洞窟に戻っており地面に転がったままヴァイツェンの腕の中に抱き込まれていた。
「怪我はないかッ?」
うそ・・・。
好ましいブルーグリーンの瞳が覗き込んできた。
「怪我はないです。私、殿下を、ヴァイツェン殿下を呼んだんです」
驚きと嬉しさとむず痒さと、先程までの緊張が織り混ざり震える声だけど、今のこの膨れ上がる気持ちを伝えたい。
「ああ、聞こえた。池が光ったら君の声が聞こえたんだ。約束を守ってくれて嬉しいよ、無事で良かった」
「はい、助けてくれてありがとうございます」
ヴァイツェンの胸に頭を預け、自分を包む腕をそっと掴むと、頭の上でチュッと音がして、感触で頭頂部にキスをされたとわかり、顔が熱くなる。
ほっとした途端、突如記憶の断片がパズルのピースのように突如はまり、リリエナの記憶が繋がりだした。
「あ、え」
「どうした、リリエナ」
やっぱり記憶が戻ってる、でもまだ全部じゃない気がする。
「いえ、それよりもヴァイツェン殿下、魔王をまだ倒せてないのです。どこに行ったのかしら」
あの光に抵抗できるなんて、やはり魔王は強いのね、しかもカワウソだなんて、私の好みを把握されてる証拠だわ、アレを討伐なんて出来るのかしら。
「殿下、気を付けて下さい。魔王はカワウソの姿をしています、可愛い姿に騙されないで下さいね」
池の方を見てみると、水面は穏やかだが不穏な空気を放っている。
今度は引っ張り込まれないようにしなくちゃ。
と、意気込むリリエナの頭上から、ヴァイツェンが少し戸惑いながら聞いてきた。
「・・・リリエナ、私はそのカワウソというものを知らないんだが、もしかして君の足を掴んでいる生き物のことか?」
「え?」
視線を移すと、確かにあのカワウソがリリエナの左ふくらはぎにしがみついている。
「カワウソ魔王!」
咄嗟にバタ足で振り払おうとしたが、短い四肢で抱き付くようにしがみついて離れなかった。
「リリエナ、まさかそれが魔王なのか?」
「えと、はい、魔王の本体で間違いないと思います。何故このような姿なのかは分かりませんが。ん?」
よく見ると、カワウソの周りに黒いモヤが出たり消えたりしていることに気付いた。
何だろう、前にもこんな状態を見た気が・・。
あっ、と思い出した。


























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」 乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。 本編完結!番外編も完結しました! ●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ! ●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります! ※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。

外れスキルをもらって異世界トリップしたら、チートなイケメンたちに溺愛された件

九重
恋愛
(お知らせ) 現在アルファポリス様より書籍化のお話が進んでおります。 このため5月28日(木)に、このお話を非公開としました。 これも応援してくださった皆さまのおかげです。 ありがとうございます! これからも頑張ります!! (内容紹介) 神さまのミスで異世界トリップすることになった優愛は、異世界で力の弱った聖霊たちの話し相手になってほしいとお願いされる。 その際、聖霊と話すためのスキル【聖霊の加護】をもらったのだが、なんとこのスキルは、みんなにバカにされる”外れスキル”だった。 聖霊の言葉はわかっても、人の言葉はわからず、しかも”外れスキル”をもらって、前途多難な異世界生活のスタートかと思いきや――――優愛を待っていたのは、名だたる騎士たちや王子からの溺愛だった!? これは、”外れスキル”も何のその! 可愛い聖霊とイケメンたちに囲まれて幸せを掴む優愛のお話。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

人間嫌いの熊獣人さんは意外と優しい 〜病院で一生を過ごした少女は健康に生まれ変わってもふもふに会いに行きます!

花野はる
恋愛
生まれつき病弱で、一生のほとんどを病院で過ごした舞は二十歳の誕生日を前に天に召された。 ......はずだったが、白いお髭のおじいさんが出て来て「お前の一生は可哀想だったから、次の生ではお前の望みを叶えてやろう」と言う。 そこで舞は「健康な身体になりたい」と、好きだったファンタジー小説の中の存在である「もふもふの獣人さんに会いたい」の二つを願った。 そして気づけば舞は異世界にいたのだが、望んでいた獣人たちは、人間の「奴隷」として存在していた。 そこで舞は、普通の獣人とは違うフルフェイスの熊の獣人と出会って、一緒に暮らすことになる。

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました!皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか!?~これサダシリーズ1~

国府知里
恋愛
 歩道橋から落ちてイケメンだらけ異世界へ!  黒髪、黒目というだけで神聖視され、なにもしていないのに愛される、謎の溺愛まみれ! ちょっと待って「好き」のハードル低すぎませんか!?   無自覚主人公×溺愛王子のハピエン異世界ラブロマンス! ※ お知らせしました通り、只今修正作業中です!  シリーズ2からお楽しみください!  便利な「しおり」機能をご利用いただくとより読みやすいです。さらに本作を「お気に入り」登録して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...