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何故記憶がないのか、何故魔王の影を倒したら少しずつ思い出すのか?
「ねえ、もしかして私の記憶、あなたが持っているのかしら?」
そうとしか思えない。
カワウソはキョトンと見上げてきた。
可愛い・・・。
「それも忘れちゃったの?ふうん、でも僕のせいじゃないよ、リナがしたことだもの」
「私が?」
「そうだよ。ああ、そういうことか。思い出と約束を忘れちゃったから、リナはここから出ようとするんだね。う~ん、でも返し方なんてわかんないや」
首を傾げるカワウソ魔王、可愛いいがすぎる。しかし、それで誤魔化されてはいけない、方法がわからないのであれば、やはり祓ってみるしかないと思う。
記憶は奪われたのではなく自分が渡したかもしれないなんて、でも、浄化させて欲しいって言ったらさせてくれるのかしら。
「あのね、ちょっと試したい事があるのだけど、やってみてもいい?」
「リナのお願いなら聞いてあげてもいいけど、ここにずっといてくれるのならいいよ」
やっぱりそうくるか、嘘をつく事はできないし、濁すのも危険な気がする。
今は、このカワウソ魔王からは禍々しさは感じないけれど、この空間から出るまでは油断できないわ。
賭けになるけど、こうなったら一気に実力行使ね。
繋がれた手に祓いの力を集中させた。
「リナ?」
黒い世界が一瞬で白色に染まり、浄化されようとしたその時、カワウソの姿が揺らぎ真っ黒に染まった。
握られていた手がパッと離れ、それは大きく膨らみさっきの姿が嘘のように禍々しさを放っていた。
しまった、失敗した!
リリエナは焦ったが、祓いの力が途中で止まらないようグッと堪える。
「ひどいよ、僕を消そうとするなんて‼︎」
光に抵抗するように腕が伸びて再びリリエナを捕らえようと迫る。
この空間に逃げ場があるかわからないが、距離を取ろうと走り出したものの足首を掴まれ転んでしまった。
「あっ」
逃げられないと思った瞬間、ヴァイツェンの顔が脳裏に浮かんだ。
そっか、私、自分でどうにかしなきゃと強がってたけど、本心ではもう頼ってた。
こんな時に顔を思い出すなんて、もう認めてもいいのかもしれない、いや、もう認めよう。
「ヴァイツェン‼︎」
全身で叫んだ、届け、と願いながら。
「リリエナッ‼︎」
二の腕を掴まれ引っ張られたと思ったら、先ほどの洞窟に戻っており地面に転がったままヴァイツェンの腕の中に抱き込まれていた。
「怪我はないかッ?」
うそ・・・。
好ましいブルーグリーンの瞳が覗き込んできた。
「怪我はないです。私、殿下を、ヴァイツェン殿下を呼んだんです」
驚きと嬉しさとむず痒さと、先程までの緊張が織り混ざり震える声だけど、今のこの膨れ上がる気持ちを伝えたい。
「ああ、聞こえた。池が光ったら君の声が聞こえたんだ。約束を守ってくれて嬉しいよ、無事で良かった」
「はい、助けてくれてありがとうございます」
ヴァイツェンの胸に頭を預け、自分を包む腕をそっと掴むと、頭の上でチュッと音がして、感触で頭頂部にキスをされたとわかり、顔が熱くなる。
ほっとした途端、突如記憶の断片がパズルのピースのように突如はまり、リリエナの記憶が繋がりだした。
「あ、え」
「どうした、リリエナ」
やっぱり記憶が戻ってる、でもまだ全部じゃない気がする。
「いえ、それよりもヴァイツェン殿下、魔王をまだ倒せてないのです。どこに行ったのかしら」
あの光に抵抗できるなんて、やはり魔王は強いのね、しかもカワウソだなんて、私の好みを把握されてる証拠だわ、アレを討伐なんて出来るのかしら。
「殿下、気を付けて下さい。魔王はカワウソの姿をしています、可愛い姿に騙されないで下さいね」
池の方を見てみると、水面は穏やかだが不穏な空気を放っている。
今度は引っ張り込まれないようにしなくちゃ。
と、意気込むリリエナの頭上から、ヴァイツェンが少し戸惑いながら聞いてきた。
「・・・リリエナ、私はそのカワウソというものを知らないんだが、もしかして君の足を掴んでいる生き物のことか?」
「え?」
視線を移すと、確かにあのカワウソがリリエナの左ふくらはぎにしがみついている。
「カワウソ魔王!」
咄嗟にバタ足で振り払おうとしたが、短い四肢で抱き付くようにしがみついて離れなかった。
「リリエナ、まさかそれが魔王なのか?」
「えと、はい、魔王の本体で間違いないと思います。何故このような姿なのかは分かりませんが。ん?」
よく見ると、カワウソの周りに黒いモヤが出たり消えたりしていることに気付いた。
何だろう、前にもこんな状態を見た気が・・。
あっ、と思い出した。
「ねえ、もしかして私の記憶、あなたが持っているのかしら?」
そうとしか思えない。
カワウソはキョトンと見上げてきた。
可愛い・・・。
「それも忘れちゃったの?ふうん、でも僕のせいじゃないよ、リナがしたことだもの」
「私が?」
「そうだよ。ああ、そういうことか。思い出と約束を忘れちゃったから、リナはここから出ようとするんだね。う~ん、でも返し方なんてわかんないや」
首を傾げるカワウソ魔王、可愛いいがすぎる。しかし、それで誤魔化されてはいけない、方法がわからないのであれば、やはり祓ってみるしかないと思う。
記憶は奪われたのではなく自分が渡したかもしれないなんて、でも、浄化させて欲しいって言ったらさせてくれるのかしら。
「あのね、ちょっと試したい事があるのだけど、やってみてもいい?」
「リナのお願いなら聞いてあげてもいいけど、ここにずっといてくれるのならいいよ」
やっぱりそうくるか、嘘をつく事はできないし、濁すのも危険な気がする。
今は、このカワウソ魔王からは禍々しさは感じないけれど、この空間から出るまでは油断できないわ。
賭けになるけど、こうなったら一気に実力行使ね。
繋がれた手に祓いの力を集中させた。
「リナ?」
黒い世界が一瞬で白色に染まり、浄化されようとしたその時、カワウソの姿が揺らぎ真っ黒に染まった。
握られていた手がパッと離れ、それは大きく膨らみさっきの姿が嘘のように禍々しさを放っていた。
しまった、失敗した!
リリエナは焦ったが、祓いの力が途中で止まらないようグッと堪える。
「ひどいよ、僕を消そうとするなんて‼︎」
光に抵抗するように腕が伸びて再びリリエナを捕らえようと迫る。
この空間に逃げ場があるかわからないが、距離を取ろうと走り出したものの足首を掴まれ転んでしまった。
「あっ」
逃げられないと思った瞬間、ヴァイツェンの顔が脳裏に浮かんだ。
そっか、私、自分でどうにかしなきゃと強がってたけど、本心ではもう頼ってた。
こんな時に顔を思い出すなんて、もう認めてもいいのかもしれない、いや、もう認めよう。
「ヴァイツェン‼︎」
全身で叫んだ、届け、と願いながら。
「リリエナッ‼︎」
二の腕を掴まれ引っ張られたと思ったら、先ほどの洞窟に戻っており地面に転がったままヴァイツェンの腕の中に抱き込まれていた。
「怪我はないかッ?」
うそ・・・。
好ましいブルーグリーンの瞳が覗き込んできた。
「怪我はないです。私、殿下を、ヴァイツェン殿下を呼んだんです」
驚きと嬉しさとむず痒さと、先程までの緊張が織り混ざり震える声だけど、今のこの膨れ上がる気持ちを伝えたい。
「ああ、聞こえた。池が光ったら君の声が聞こえたんだ。約束を守ってくれて嬉しいよ、無事で良かった」
「はい、助けてくれてありがとうございます」
ヴァイツェンの胸に頭を預け、自分を包む腕をそっと掴むと、頭の上でチュッと音がして、感触で頭頂部にキスをされたとわかり、顔が熱くなる。
ほっとした途端、突如記憶の断片がパズルのピースのように突如はまり、リリエナの記憶が繋がりだした。
「あ、え」
「どうした、リリエナ」
やっぱり記憶が戻ってる、でもまだ全部じゃない気がする。
「いえ、それよりもヴァイツェン殿下、魔王をまだ倒せてないのです。どこに行ったのかしら」
あの光に抵抗できるなんて、やはり魔王は強いのね、しかもカワウソだなんて、私の好みを把握されてる証拠だわ、アレを討伐なんて出来るのかしら。
「殿下、気を付けて下さい。魔王はカワウソの姿をしています、可愛い姿に騙されないで下さいね」
池の方を見てみると、水面は穏やかだが不穏な空気を放っている。
今度は引っ張り込まれないようにしなくちゃ。
と、意気込むリリエナの頭上から、ヴァイツェンが少し戸惑いながら聞いてきた。
「・・・リリエナ、私はそのカワウソというものを知らないんだが、もしかして君の足を掴んでいる生き物のことか?」
「え?」
視線を移すと、確かにあのカワウソがリリエナの左ふくらはぎにしがみついている。
「カワウソ魔王!」
咄嗟にバタ足で振り払おうとしたが、短い四肢で抱き付くようにしがみついて離れなかった。
「リリエナ、まさかそれが魔王なのか?」
「えと、はい、魔王の本体で間違いないと思います。何故このような姿なのかは分かりませんが。ん?」
よく見ると、カワウソの周りに黒いモヤが出たり消えたりしていることに気付いた。
何だろう、前にもこんな状態を見た気が・・。
あっ、と思い出した。
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