アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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「リリエナ!」
「聖女殿!」
扉を勢いよく開きヴァイツェンとリンガルが駆け込んできた。
バルコニーで呆然と突っ立ったまま動かず返事もしないリリエナの正面にまわり、顔を覗き込む。
「リリエナ、大丈夫か?魔王の気配を感じたが、何があった?」
「殿下、気配はどこにも」
辺りを探っていたリンガルが抜いていた剣を納めた。
「そうか。リリエナ、魔王の影がいたのか?君が討伐したということか?」
リリエナは答えられなかった。
どう言えばいいのか、どこまで話して大丈夫なのかわからない。
ヴァイツェンがそっと肩に手をかけ、優しく室内へ誘導してくれる。
「体が冷えている、このままでは風邪を引いてしまうよ。部屋へ戻って温まろう」
ヴァイツェンからの目配せに頷いたリンガルは火魔法で部屋の空気を温める。
リンガルの瞳の色は赤褐色で魔力色がやや弱く、魔法より剣が得意だがこれくらいなら使えるようだ。
「リリエナ?」
ソファに座らせたリリエナを跪いたヴァイツェンが下から探るように見上げた。
考え事に没頭していたが、目の前に現れたブルーグリーンの瞳にハッとなる。
その碧色は氷山のように厳かで、何もかもを見透されるのではないかと思わせる雰囲気があり、リリエナは少し身を強張らせた。
「い、いえ、どこかに消えてしまいました。すみません」
私は魔王と何を約束してしまったのだろう、体の震えが止まらない。
「やはりいたのか、消えたとはどういう事だ?」
「気付かれたと、その・・すぐ後に殿下がいらっしゃいました」
「私達が向かっていると気付いて逃げたという事か・・」
変に思われなかったかしら。
嘘は言ってないが後ろめたさを感じる、誤魔化されてくれただろうか、かと言って本当の事を言うのは怖い。
もし話して私と魔王の繋がりを疑われたら、内通者のように思われたら、殿下は私の事をどう思うのだろう。
「急に現れたので、あの・・驚いて何も出来ませんでした。来て下さってありがとうございます」
リリエナは視線を上げられず、ヴァイツェンが何かを見逃すまいと目を向けているのに気付かない。
ぎゅっと握りしめた手が温かいものに包まれ、優しく撫でられる。
「手が冷たいね、震えも止まらない。肝心な時に側にいられなくてすまなかった、話はまた明日にしよう。リンガル、この部屋を中心に護衛を三倍にふやせるか」
「勿論です。第二と第三からと、見回りには第四から配置いたしましょう。今宵は殿下も部屋からお出にならず庭に降りるのもなさらぬよう」
「リリエナを守るのは私の役目だ、私も護衛につく」
「なりません」
「何故だ」
「ご自身の立場をお忘れで?部屋から出ずとも聖女殿をお守りする事は可能かと」
表情を変えず、リンガルは淡々と答えている。
「なら私もこの部屋に」
「尚更なりません、不用意に男女が一夜を共にするべきではありません。今宵は私が扉番としておりますので」
「む、仕方ないな。リリエナ、何かあれば私を呼んでくれ。内扉のすぐ向こうに私はいるから。おやすみ、リリエナ」
渋々と告げると、リリエナの手を取りチュッと口付けをしてからリンガルと共に去って行き、残されたリリエナは深く息を吐いた。
やっぱり変に思われたわよね。
殿下は優しい、いつも気遣ってくれて、今も追及しなかった。
強引なのかと思えば、やってる事は紳士的で、私はそれに甘えている。
記憶も約束もハッキリさせないとね、行くしかないわ。







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