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リリエナは、やはりそこが一番警護しやすいと王太子の部屋の隣へ戻され、ベッドに横になったものの、目が冴えてしまい寝返りを何度もしていた。
『以前とは違う・・・か』
そう呟くヴァイツェンを思い出す。
中身は40歳の大人だもの、彼が知ってる頃の子供の私とは違う。
リリエナはそういう意味で言ったつもりだったけれど、ヴァイツェンは違う意味で受け取ったようだった。
『今の君は私の為に無茶はしないということか』
そんなこと・・・。
殿下の事は好き、だと思う。そんなことないとその場で言いたかったけど、16歳の時の気持ちと今の気持ちが一緒かどうか、記憶が欠けているリリエナには自信がない、軽々しく言葉には出来なかった。
だけどヴァイツェン殿下と一緒に戦う、それだけはもう決めてある、気持ちは少し置いてけぼりにして、リリエナは腹を括っていた。
このタイミングで魔法に関する記憶が戻っているんだもの、何となく戦い方もわかる今、自分だけ逃げようとは思わない。
でも、戦いが終わったら、私はどうなるのだろう。また忘れて、元の世界に戻るのだろうか。
それは・・・やだなぁ。
ついこの間までは戻りたくて仕方なかったのに、今ではそれが怖いと思う。
どうして自分が元の世界に戻っていたのか、なぜ記憶が消えているのかまだ分かっていない事が不安でたまらない。
そんな事ばかり考えているせいで眠気が一向にやって来ず、ため息ひとつ吐いて身体を起こした。
カーテンの隙間から乳白色の柔らかな光が差し込んでいる事に気付き、外の様子を見ようとベッドから降りてカーテンを開くと、大きな月が煌々と夜の闇を照らしている。
「出ちゃいけないと言われてるけど、少しだけ」
そしてその月に誘われたかのようにバルコニーへ出る扉を開けた。
狙われやすいバルコニーには出ないようにとリンガル騎士団長から言われていたが、こちらの世界は空気が澄んでいるのか、月の光がとても清浄でバルコニーを優美に魅せており、その誘いには抗えなかった。
髪を揺らす夜風も心地よく、胸いっぱいに吸い込み夜空を見上げた。
そもそもヴァイツェン殿下と私はどんな間柄だったのかしら、十代だしその頃の私は恋だの愛だのなんて考えてなかった気がする。
「あの頃の私達って両想いだったのかしらね」
月に向かってため息と一緒に呟く。
「あの頃も今も片想いのままだよ」
「殿下!?」
背後から聞こえた声に振り向くと、やはりヴァイツェンが片眉を上げて近づいて来た。
「やっぱり出てきたね、部屋の中にいるようにと言わなかったかな?」
リリエナの行動を読んでいたような言い方だが、毎回絶妙なタイミングで現れるのは何故だろうか。
「どうしてここに。あ、いえ、ごめんなさい」
「いや、君が夜空を好んでいるのは承知している。そしてそんな君を守るのは私の勤め、というのは言い訳で、ここにいたのは君に会えるかもしれないという下心からだ」
堂々とストーカー宣言しているわ、この王子様。
「何を言ってるんですか。殿下は、前の私と違う事にがっかりしたのでしょう?」
「私はずっとリリエナ、君を守りたい、守らなければと思っていた。大切だったが気持ちを伝えたことはなかったから、リリエナがどう思っていたかは分からない。今は、そうだな、会っていなかった間に君を強くしてしまった何かに嫉妬しているという感じだ」
「嫉妬?ですか」
「そう、離れていた5年の間に君はとても強く、そして美しくなった。その成長過程の中に私がいない事に憤りを感じているんだよ。ただ、私もあの頃のままではない、守るだけでは私に落ちてくれなさそうだから口説くことにしたよ」
ブルーグリーンの美しい瞳が熱っぽくしっかりとリリエナを捉えている。
それは今はいない騎士を思い起こさせ、足が勝手に一歩下がってしまう。
「大丈夫、闇には染まっていないよ。けれどこれからは全力で君を手に入れに行く、それを伝えに来た。お願いだ、私を好きになって欲しい」
その真剣な眼差しに数秒間見つめ合ってしまった。
もう好きになってる!とは口に出せず、心臓が跳ね上がり腰が抜けそうになるのをグッと堪え踵を返した。
恋愛への免疫が皆無のリリエナには、もうどうしたらいいのか分からない。
「へっ、部屋に戻ります!」
その瞬間、手を取られ足を止める。
気付いた時には指先に口付けされていた。
「おやすみ、良い夢を」
美麗な極上の笑みを残し、ヴァイツェンは魔法でどこかに飛んで行ってしまった。
「イケメン、ヤバい・・・」
リリエナはとうとう崩れ落ちたのだった。




























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