アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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リンガルはその華奢な首から魔力封じの首輪がなくなっているのに気付いた。
首輪さえ外れていれば何とかなると踏んでいたのだが、まさか転移魔法でこの場に聖女が来ようとは思った以上の成果であり、己の考えが間違っていなかったと証明され安堵する。
「何があったの?!」
リリエナの問いかけに驚いたままのリンガルはハッとし、苦々しい顔をする。
「は、森の奥の沼に魔王の影が現れ、討伐の際に反撃で毒を受けました。かすり傷と油断しておりこのような事に。聖女殿、どうかお力をお貸しください」
リンガルは騎士として己の油断を恥ながらもがっしりとした体躯を折り曲げ、頭を垂れた。
毒と聞いてリリエナの顔がこわばった。
ヴァイツェンの顔の傷から禍々しい気配が漂っており、その頬は血の気が感じられない程蒼白している。
そっと包み込むように両手をそえるとひやりと冷たささえ感じる程に体温が下がっており、危険な状態だとわかる。
このままだと死んでしまう!
嫌だわ、あんな顔も見ずに別れたまま、それっきりなんて。
「駄目よ、絶対死なせないわ!」
ヴァイツェンの頭を膝に乗せ、魔力が身体の奥から溢れ出るのを感じると、祈りを込めてその魔力を緩やかに流し続けた。
身体の奥深い所まで毒がまわっている・・大丈夫、私の癒しの魔法ならきっと助けられる、今ここでそれが出来なければ聖女など意味が無いわ。殿下、戻ってきて。
約束したんだから時間を作るって、あなたが言ったのにまだ何も話せていない。
優しい瞳を思い浮かべ、もう一度見たいと願う。
リリエナの魔力が優しい光となってヴァイツェンを包み込み、二人を囲むように騎士達が集まり息を呑んで見守る中、頬の傷が綺麗に消えた頃ヴァイツェンの瞼がふと揺れた。
「殿下?・・ヴァイツェン殿下」
リリエナの呼びかけに答えるようにゆっくり開眼し、現れた美しいブルーグリーンに光が灯る。
ワァッとどよめきが広がり、騎士達は喜び合っている。
ヴァイツェンは状況が分かっていないのか、ぼんやりと不思議そうにリリエナを見つめ、また瞼を閉じてしまったが血色が戻り問題は無さそうだ。規則正しい寝息が見て取れた。
「良かった、もう大丈夫ね」
闇の毒はもう感じられない、後は体力回復の為に休めばいい、そう確信すると安心して身体の力が抜けそうになるが城をそのままにして来てしまったのが気になる、戻った方が良いだろう。
どうやって帰ろうかと考えたが、今度は行き先がはっきりしているせいか一人ででも転移魔法で帰れそうだ。
破壊された執務室も気になるが、ソニアスの事も気になる。
しかし、ここから離れがたい気持ちがリリエナの次の行動を鈍らせていた。
「聖女殿、殿下を助けていただき感謝いたします。このまま殿下と共に城までお送りいたします」
いつまでもヴァイツェンを抱えたまま動かないリリエナにリンガルが帰城を促す。
リリエナは首を振り、急ぎ帰らねばならない事と次第を騎士団長であるリンガルに告げ、風と共に消えた。
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