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「で、出来た。良かった」
思い出した通りに出来るかどうかは自信が無かったが、どうにか発動したようで、その温かい光はリリエナから発せられていた。
さらにそれを包むように誰かの魔力が被さっているのに気付いた、背後から抱きしめられるような安心感とくすぐったさでリリエナの胸は高鳴った。
その魔力はヴァイツェンのものだ。
嬉しさとこそばゆさで、今の自分がどんな顔をしているか想像するだけで恥ずかしくなる。
結界は崩されたが、この部屋にはリリエナを守りたいと願いながら放った魔力が充満している、それらがその使命を全うした結果だった。
「これはリリエナ様が?」
オーガストが驚くのも無理はない、今のリリエナがまだ習得していないはずの魔法だったからだ。
思い出した、と言いそうになったが、まだ秘密にしておきたい。
「無我夢中で、でもヴァイツェン殿下が力を貸してくれたようです。この部屋に残っている殿下の魔力が助けてくれました」
自分が何とかしなければと気負い不安だらけのリリエナだったが、ヴァイツェンを近くに感じすっかり落ち着いた。
「オーガストさん、私があれを押さえます。もう一度攻撃魔法をしてみて下さい」
「了解した」
リリエナが魔力を使おうとすると、僅かに残っているヴァイツェンの魔力が寄り添ってきて一人じゃないと思わせてくれる、それがこんなに満たされた気持ちになれるなんて思わなかった。
殿下と一緒なら、今なら出来る気がする。
難なく先程の光で魔王の影を包むと動きを封じる事に成功した。
オーガストが炎の魔法で攻撃をすると今度は狙い通りに命中し、魔王の影はゆらりと消えていった。
ほどなくリリエナの脳裏にまた記憶が舞い戻る。
「・・・っあ」
それは絶望に満ちた表情のヴァイツェンだった。
あの、元の世界に戻される直前の、もう声も出せず指一本動かせなかったあの時だ。
完全には倒せなかったんだっけ、けれど魔王も動けなくなっていてホッとしたんだわ。
でも同時にこれで死ぬのかと悲しい気持ちになった。
死ぬ事が悲しいのではなく、もう会えなくなると思ったらすごく辛かった事を思い出した。
ああ、そうか、この時には殿下に対して特別な感情があったのね。
そして今も。
「私、殿下の事好きなんだ」
今のリリエナの感情と、あの時のリリエナの感情が記憶と共に繋がり自然と口から漏れていた。
オーガストはそれを聞き逃さず、パッとリリエナに振り向き、意外なことに微笑んだ。
「ようやくお認めになりましたね」
「え、わ、私口に出してた?」
「はい。私には分かっておりましたが、どうかそのお気持ちを殿下に伝えてください」
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