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ドォォンッ!と黒い塊が執務室のガラス張りの壁に大きな振動と共に衝突する。
パラパラと埃が落ちるだけで割れる事は無かったが、オーガストは反射的に一歩後退り、目を疑った。
「城の結界まで・・・ッ!リリエナ様、今すぐ城の奥へ、いや、第三騎士隊隊舎へ逃げて下さい。ソニアス殿も無事ではすまないだろうが・・魔導師達であれば対抗手段もあるはずです、早く!」
焦りで早口になるオーガストから避難を促されたリリエナだが、魔力が戻り使い方の記憶も戻った今、逃げる気などさらさら無かった。
外の結界は破られ、内側の結界だけではもはや時間の問題だ、現に魔王の影に何度も打ちつけられガラスにはヒビが入り始めている。
オーガストだけでは勝てない、自分の、聖女の力が必要なのだとリリエナは既にはっきりと自覚していた。
「リリエナ様?」
一向に動かないリリエナに早く逃げろとオーガストが目配せする。
だが、リリエナが答えるより先にガラスが勢いよく割れ落ちた。
「キャッ」
粉々になったガラスの破片がリリエナ達に降り注いだが、オーガストの炎の守護魔法によりドーム型の膜が張られほんの小さなカケラさえ身体に届く事は無かった。
「お怪我はありませんか!」
「大丈夫よ。ありがとう、オーガストさん」
ホッとしたのも束の間、魔王の影と自分達を隔てるものが無くなり、ゆっくりとそれが近づいて来た。
「聖女をちょうだい」
その姿からは想像できない、それはまるで子供がお菓子をねだるような声と喋り方だった。
「このお方は渡さない!リリエナ様、私の後ろへ」
オーガストは声を張り上げ、同時に炎の攻撃を仕掛けた。
魔王の影を囲むように火の玉が無数に現れ、すぐにそれらが合体し影は炎に包まれた。
しかし、影が一瞬膨らみ振り払うようにうごめくと炎は消えてしまった。
「チッ、ではこれでどうだ」
今度はオーガストの身体から炎が上がり、影に向かって伸びてゆく。
やがて形が現れると、それは龍のような姿になり生きているかのような動きを見せた後、影に襲いかかった。
だが、影はいなすように揺れただけでダメージを負ったように見えない。
あの森小屋で倒せたのは命懸けで爆発を起こしたからだったのだろうか、だが、ここで同じ事をするわけにはいかない。
オーガストが戸惑い、隙が出来た瞬間、影の胴体から槍が数本彼に向かって飛んだ。
「じゃまするならしんでね」
咄嗟にリリエナを背中に隠し、剣で弾こうと構えるが槍の方が早く、今度こそ死を覚悟したオーガストだったが、いつの間にか優しい光に包まれているのに気付いた。
影から向かって来た槍が光の中で空中で止まっている。
「これは?」
そして目の前で止まっている槍は煙のように消えていったのだ。
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