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オーガストはゆっくりと腕を窓から差し入れ、リリエナの首へと手を伸ばした。
カチンと小さな金属音と共に首輪は外れ、床に落ちる。
何かが満ちる感覚が全身に走り、それが魔力が戻った感覚なのだとリリエナは思った。
だが、次の瞬間嫌な予感がして背筋がゾワっとした。
魔力の使い方を思い出した今、真っ直ぐこちらに近づく邪悪な気配を遠くに感じたからだ。
これは・・・まさか、もうすぐ来るわね。
役目を終え、窓辺から遠ざかろうとしていたオーガストに慌てて声を掛けた。
「首輪を外してくれてありがとう。ところでオーガストさんは牢屋に入っていると聞いたのだけど」
オーガストはバツが悪そうな顔をする。
「え、あ、目的は果たしましたから、もう牢に戻ります」
「そうなのね、ちなみに体調は大丈夫ですか?」
何故そんな質問をするのか腑に落ちない顔をしつつも答えてくれる。
「回復の処置を受けていますから、壁を登るくらいには元気ですが」
「そう、ではその体力はまだおありですか」
「はい?リリエナ様は一体何を?」
本当は駄目だと思うけど一人よりは二人よね、殿下だって許してくれるわよね。
体調に問題が無いのなら一緒に出迎えて貰おうとリリエナは語気を強めた。
「部屋の中へ入って!もうすぐ何か来るわ!」
「リリエナ様?何かって・・はっ」
眉をひそめていたオーガストもその気配に気付いたのか勢いよく窓から飛び込んで来る。
「リリエナ様!下がって」
床に着地したオーガストは体勢を整えリリエナを背後に庇うように構えた。
やや置いて黒いものが近づいて来るのが二人の視界に入った。
「何だ?・・まさか、魔王?」
「え、あれ魔王なの?」
「魔王の影かと、ですがここには王都と城の二重の結界があります。容易く侵入出来ないはず・・ですが」
段々と近づいて来る黒いものはどう見ても王都の上空まで来ている、オーガストの顔色が青ざめた。
「まさか!・・・あのソニアス殿の結界を破ったのか!」
「ソニアスさんの結界?」
確かに結界があるのはリリエナにも分かった、しかしそれがソニアス一人の魔力で成り立つものだとは思いもしなかった。
「あの人の魔力って一体・・」
「リリエナ様、このままだと城の結界も破られるやもしれません。この部屋には内側から殿下の結界もありますが、どこまで持ち堪えるか」
普段から冷静なオーガストが焦っている。それだけ危険という事だ。
「オーガストさん?」
「もしもの時はご自身の安全を最優先として下さい。私が盾となります、振り向かずに走って下さい」
オーガストは今度こそ命を賭してリリエナを守る覚悟を決めたようだった。
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