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「あ、ああ!」
それは突然に思い出した。この城で魔法を習っていた事を、今では無く昔の事だ。
この世界では五年前?だけど、リリエナとしては二十年以上前の事。
まだ知らないはずの魔法の使い方がいくつも溢れてくる。
そうよ、あの頃訓練がとても辛かったけど色々出来るようになったのだったわ!
でも、何故今思い出したの?
リリエナは王太子の執務室の窓辺に座りぼんやりとしていたところだった。
自由を許されたのが内扉で繋がった王太子の部屋で、暇つぶしに読める本がないか探しに来たのがこの執務室だったが、書棚にあるのは政治や経済の本ばかりで読むのを諦めて外を眺めていたところだった。
それが曇に覆われた空に突然晴れ間が顔を出したかのように、頭の中にそれまで無かった記憶が突然そこに現れたのだ。
ドゥーベ家の人達を思い出した時もそうだった、本当に突然でリリエナは戸惑う。
昔の記憶なんて何も無ければ五年前に自分がいたと言われても他人事として考えられた、けれど部分的に思い出してしまうと失った記憶があるのはどうしてなのか考えざるを得ない。
しかも今回の記憶にもヴァイツェンはいない、その思い出の中に元からいなかったのか抜けているのかリリエナには分からないが故に早く全部思い出したいと焦燥感に駆られてしまう。
はぁ、と大きく息を吐いたその時、コンコンと叩く音がした。
誰か来た?と扉の方を見るが開く気配はない。
首を捻っているとどこからともなく声が掛けられた。
「こちらです。窓です、リリエナ様」
声の主を探し窓の外を覗いた。
「え!オーガストさん?何やってるんですか!」
驚いた事に意識不明と聞いていたオーガストが包帯だらけの身体で外壁に張り付いていた。
「すみません、開けてください」
窓を開けてと言われてもすぐに手を動かす事は出来ない、自分を簡単に攫った男を招き入れられる程リリエナは豪胆では無かった。
戸惑うリリエナにオーガストは穏やかに微笑んだ。
「安心して下さい、私の中に闇はもういません。首輪を外させて下さいませんか。中には入りません、首輪に触れるだけでいいのです」
確かにあの時の様子とは違う、けれど意識とは別のところでストップがかかり身体が動かないのだ。
「怖いですか」
その問いかけに無言で答えると、オーガストはそれで良いと言う。
「貴女は私を許さなくて良いのです、ただ今は時間がありません。首輪を解除しなければ。殿下は討伐に向かわれました」
「え、そんなの聞いてないわ」
「やはり・・・。殿下は東の森に向かわれてます、魔王の復活が分かった今、何が起こるか分かりません。貴女が必要です、殿下の力となっていただきたいのです」
ヴァイツェンの為と言われて、動かないわけにはいかない。
リリエナはオーガストの腕が入るくらい窓を開けた。
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