アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

文字の大きさ
上 下
57 / 87

41

しおりを挟む
今回の討伐は主に剣術、魔法ともに秀でた第二騎士隊で構成されており、ヴァイツェンの放った広範囲の魔法に巻き込まれ負傷した者はおらずリンガルはほっと胸を撫で下ろした。
「全員無事だな、まあ、当たり前だが」
剣術特化の第四騎士隊の者もいたが、魔法が得意な騎士が上手くカバーしたようだ。
リンガルはそんな騎士達も誇らしいと思うが、森はまだまだ深くまだ先は長い、褒めてやりたい気持ちをぐっと堪え先に進む号令を出す。
氷の森と化した一体を抜けると、またヴァイツェンが先に駆け出し魔法を発動をするというのを繰り返すこと数回、一行は悪臭を放つ沼に辿り着いた。
澱みが濃く水も黒い、魔物にとっては居心地が良さそうな所だ。
ヴァイツェンが手をかざし容赦なく沼を氷つかせる、これで此度の討伐は終了するかに思われたその時、ズンと氷を下から突き上げるような振動響き、氷はひび割れ、次の瞬間には何かが氷を突き破り氷上に飛び出した。
思わぬ出来事に全員が息を呑み、それを凝視する。
「なんだ、聖女はいないのか。ねえ、聖女はどこ?」
それは形を伴わない黒い影、そこから聞こえてきたのはまるで無邪気な子供のような声だったが、森にいた魔物とは比べ物にならないくらいに昏く禍々しい気配を漂わせているそれは、間違いなく魔王の影だろう。
誰もが動けない中、最初に反応したのはヴァイツェンだった。
「魔王の影よ!お前に与える答えはない!」
ヴァイツェンのブルーグリーンの瞳が瞬間的に濃い光を纏い、全身からそれと同じ色の魔力が立ち昇った瞬間、冷気と共に無数の氷の槍が現れ、全ての槍の矛先は魔王の影に向けられている。
それがヴァイツェンの合図で一斉に標的である影に向かって飛んだ。
それに気付いた影が逃げようとしたが、全ての槍は魔王の影に刺さり、至る方向から貫かれた、その威力は絶大で、聖女の祓いの魔法を使わずとも消滅させるには十分だった。
「ぐぅッ・・!」
消滅する前に影はペッと何かを吐き出し、それはヴァイツェンの頬を掠め一筋の赤い傷を作る。
リンガルは自分が間に合わなかった事に舌打ちをした。
「クソ、殿下!」
「大丈夫だ、さあ、魔物をもう少し減らしてから帰ろう」
魔導師から治癒の申し出があったが、かすり傷だから城に戻ってからで良いとその場は断り、討伐を続行すべくヴァイツェンは森を進む。
魔王の影をいとも容易く討伐したヴァイツェンは騎士達の羨望の的になっていたが、リンガルだけは簡単すぎた事に違和感を感じるのだった。


その日、王城の地下牢で不可解な人払いが行われ、オーガストの牢屋の鍵が締め忘れられるという有り得ない事が起こった。
その上、オーガストには次の見廻りの時間が告げられ、そして地下牢から誰もいなくなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...