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今回の討伐は主に剣術、魔法ともに秀でた第二騎士隊で構成されており、ヴァイツェンの放った広範囲の魔法に巻き込まれ負傷した者はおらずリンガルはほっと胸を撫で下ろした。
「全員無事だな、まあ、当たり前だが」
剣術特化の第四騎士隊の者もいたが、魔法が得意な騎士が上手くカバーしたようだ。
リンガルはそんな騎士達も誇らしいと思うが、森はまだまだ深くまだ先は長い、褒めてやりたい気持ちをぐっと堪え先に進む号令を出す。
氷の森と化した一体を抜けると、またヴァイツェンが先に駆け出し魔法を発動をするというのを繰り返すこと数回、一行は悪臭を放つ沼に辿り着いた。
澱みが濃く水も黒い、魔物にとっては居心地が良さそうな所だ。
ヴァイツェンが手をかざし容赦なく沼を氷つかせる、これで此度の討伐は終了するかに思われたその時、ズンと氷を下から突き上げるような振動響き、氷はひび割れ、次の瞬間には何かが氷を突き破り氷上に飛び出した。
思わぬ出来事に全員が息を呑み、それを凝視する。
「なんだ、聖女はいないのか。ねえ、聖女はどこ?」
それは形を伴わない黒い影、そこから聞こえてきたのはまるで無邪気な子供のような声だったが、森にいた魔物とは比べ物にならないくらいに昏く禍々しい気配を漂わせているそれは、間違いなく魔王の影だろう。
誰もが動けない中、最初に反応したのはヴァイツェンだった。
「魔王の影よ!お前に与える答えはない!」
ヴァイツェンのブルーグリーンの瞳が瞬間的に濃い光を纏い、全身からそれと同じ色の魔力が立ち昇った瞬間、冷気と共に無数の氷の槍が現れ、全ての槍の矛先は魔王の影に向けられている。
それがヴァイツェンの合図で一斉に標的である影に向かって飛んだ。
それに気付いた影が逃げようとしたが、全ての槍は魔王の影に刺さり、至る方向から貫かれた、その威力は絶大で、聖女の祓いの魔法を使わずとも消滅させるには十分だった。
「ぐぅッ・・!」
消滅する前に影はペッと何かを吐き出し、それはヴァイツェンの頬を掠め一筋の赤い傷を作る。
リンガルは自分が間に合わなかった事に舌打ちをした。
「クソ、殿下!」
「大丈夫だ、さあ、魔物をもう少し減らしてから帰ろう」
魔導師から治癒の申し出があったが、かすり傷だから城に戻ってからで良いとその場は断り、討伐を続行すべくヴァイツェンは森を進む。
魔王の影をいとも容易く討伐したヴァイツェンは騎士達の羨望の的になっていたが、リンガルだけは簡単すぎた事に違和感を感じるのだった。


その日、王城の地下牢で不可解な人払いが行われ、オーガストの牢屋の鍵が締め忘れられるという有り得ない事が起こった。
その上、オーガストには次の見廻りの時間が告げられ、そして地下牢から誰もいなくなった。
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