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あそこに借りは作りたくはないが、仕方ない。
はぁ、と息を吐き騎士団第騎士隊隊舎へ足の向きを変えた。

翌朝、壁の向こうから忙しなく行き交う足音にリリエナは目を覚ました。
「・・・何かしら、ふぁあ」
大口を開けて欠伸をしていると、寝室のヴァイツェンの部屋に通じる扉が叩かれた。
「ひぇっ」
驚きで変な声を上げてしまい、聞かれてしまったかと恥ずかしくなる。
少し間があり、抑えているが凛とした響きを持った声が扉越しに聞こえてきた。
「リリエナ、起きているか」
殿下だ、何かあったのかしら?
「は、はい」
「一週間程留守にする。が、出来れば外に出ないで欲しい、ここが一番安全なんだ」
「は・・い、わかりました。あのっ、オーガストさんはまだ目覚めては」
「まだだ」
「そうですか」
まだ首輪は外して貰えないという事か、殿下が傍にいないと考えるだけで何だか不安になってくる。
「リリエナ」
ヴァイツェンが躊躇いがちに言葉を続ける。
「はい」
「あいつと、オーガストと行かなかったのは何故だ」
「え?」
「いや、今はいい。すまなかった。帰って来たらゆっくり話をしたい、時間をくれないか」
「はい、あのもちろんです」
「ありがとう、・・行ってくる」
先程まで硬かった声色が和らいでリリエナの耳に心地良く届いた。
「い、いってらっしゃいませ」
返事を待ってから扉の向こうから気配が消えた。
び、びっくりした。
一週間もいないのもだけど、何だか今、甘い空気になってなかった?
昨日あんなに怒ってたのに、もう機嫌直ったの?あのもやもやした時間は何だったのか。
それより話ってどんな事なんだろう、あ、これってば気になって結局もやもやするパターンだわ。
しかも一週間か・・、どこへ行くのかしら。
もうほんとに説明足りないわよね、あの王子様は。と改めて思う。
「そっか、一週間いないのか・・・ッ」
寂しいな、と続けてしまいそうになり慌てて口を閉じる。
いつから自分はこんな事を言うキャラになってしまったのか、あの一人きりのアパートにいた頃には考えられない程甘えた台詞だった。
ヴァイツェンの存在は確実にリリエナの中で大きくなりつつあり、それは少しずつ自覚をも促して頬と胸の奥に熱をもたらしていた。
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