アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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オーガストもまた、取り繕う事無く淡々と述べた。
どう言おうとその事実は変わらない、無様に命乞いのような真似はしたくなかった。
リンガルはそういうオーガストの潔さを買っていたが故に今回の事は残念でならない、それはヴァイツェンとて同じであったが、今やるべきはリリエナの安全の為の情報を得る事だ。
その為に、この男の身体をあえて死なない程度まで魔導師に回復させてあるのだ。
「その影、魔王の影に間違いないのか?」
「俺は五年前にも見てますから、間違いありません。それにリリエナ様に狙いを定めていた様子でした・・申し訳・・ありません」
城から出た時点で聖女の所在が魔王に知られる可能性はあったが、それをオーガストが結果として手助けしてしまった。
謝罪など意味はないが、言わずにはおれず口に出した。
ヴァイツェンはそれに反応は見せず、今にも殺さんとばかりにオーガストを睨みつける。
「・・・聖女を誘拐し、魔王にその存在を明らかにしてしまった罪は重い。すぐ死ねるなど思うな。追って沙汰を出す、自決は許さん」
冷たく言い放ちヴァイツェンは去って行った。
リンガルはまだその場に残り、何とも言えない表情でオーガストを見下ろしている。
「はぁ、お前何だってこんな事に・・・」
大きなため息と共に漏れた台詞にはどうしようもない部下への情が滲んでいた。
ヴァイツェンと同じように罪人として扱って当然なのに、リンガルはそうは出来ない、捨てきれない人だ。
騎士団長としていかがなものかと思うが、だからこそ騎士達はリンガルを慕っている。
罪人の願いなど本来口にしてはならない、しかし相手がリンガルだから言ってしまう。
思いの外、自分はこの団長に懐いていたらしい。
「団長、・・リリエナ様の首輪を外させて下さい」
ヴァイツェンから首輪の件について何も言われなかったのが不自然に思える程、オーガストとしては自決が許されないのであれば真っ先にしておかなければいけない事案だった。
リンガルはまたひとつため息を吐いた。
「何も言うな、お前は待ってればいい」
それだけ言うと足取り重たげに去って行った。
待てと言うなら待つだけだ、とオーガストは身体を休める為目を閉じた。

リンガルは地下牢から出ると、王太子の執務室に向かった。
殿下の様子に違和感を感じる。
オーガストが目覚めたら早々に聖女殿の魔力封じを解除させるだろうと考えていたが、殿下はそれを命じなかった。
何故だ。
明日からまた討伐の予定があるのだ、この度の討伐は殿下と騎士達だけで完了したと聞いているが、決して無事に済んではいない、重症の者もいたのだ。
聖女の癒しと祓いの力は必須、首輪の解除は必須のはず。
殿下は何を考えておられるのか。
騎士団長として聞かねばならない、騎士達は使い捨てではないのだから。
大きく深呼吸をしてから王太子の部屋の扉をノックした。
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