アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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オーガストは地下の薄暗く狭い牢屋に木工の簡易に作られたベッドの上で目覚めた。
視界も意識もぼんやりしていたが、牢屋番の呼び掛けに返事を返すと徐々にはっきりとしてくる。
「俺は・・・」
起き上がろうとして四肢に激痛が走り力を入れる事ができずに仰向けのまま呆然とする。
肋骨も折れているかもしれない、呼吸を浅くして痛みをやり過ごした後、少し落ち着いた所で自分が生きている事に途方に暮れてしまった。
あの影と心中するつもりの攻撃をしたはずなのに、逝けなかったのか・・・俺は。
リリエナの護衛として付き添っていた、彼女を命に代えても守ると誓った、なのに気付くと彼女の細い首に到底似合うとは思えない無機質な首輪を嵌め込んでいた。
駄目だ、と思っていても身体が言う事を聞かず、己の中にあってはならない欲望を叶えるべく行動していた。
騎士として鍛錬を忘れた事はない、精神面でも弱くはないはずだ。
それが。
「くそっ!」
彼女が欲しい、その欲に抗えなかった。
ヴァイツェン殿下の愛を受け入れるのは時間の問題だと感じていたが、それが彼女の幸せならその幸せがつつがなく訪れるよう見守るのが騎士としての己の幸せだと思っていた。
そう思っていたはずが、突然誰にも渡したくない気持ちが湧き上がり、殿下の傍から引き離さねばという焦燥感に苛まれ、愚行に走ってしまった。
今思えば、あれが闇に魅入られるという事だったのだ。
あの首輪の魔道具は常に持っている物ではない、いつから自分は取り憑かれていたのか。
騎士の誓いを裏切ってしまった、何よりリリエナの信頼を踏みにじった自分が許せない。
こんな動けない身体では自害も難しい、ならばもうこれしかない。
あの首輪もそれで外れるだろう。
動かせるのは顎だけである、口を開き舌を突き出し渾身の力を込めて噛みちぎろうとした、その時、邪魔をするようにやけに響いた靴音が近づいてオーガストの所で止まった。

「おい、言い訳はあるか」
淡々としているが周りを凍りつかせるような怒気を含んだヴァイツェンの声だった。
リンガル騎士団長を従えて牢屋の前に立っている。
「ありませんよ、殿下」
「貴様・・・」
イラつくヴァイツェンを遮り、リンガルが口を挟んだ。
「オーガスト、真面目に答えろ」
「闇に引きずられていたとは言え、元は俺の欲望ですよ。言い訳しようがありません」
この男の潔さをリンガルは気に入っていたが、今は余計だとも思う。
「お前なぁ」
「何があったか全て話せ」
変わらずヴァイツェンは淡々とした口調で促した。
「欲望のままリリエナ様を攫い小屋に入った所で魔王の影が現れ、そこで正気に戻り、リリエナ様を逃した後自分ごと消滅しようとしました」
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