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最後は嗚咽となって、大粒の涙と共に彼女の感情が解放されていく。
気が付くと私はリリエナを抱き締めていた。
この少女が抱える葛藤や苦悩は王子である私も幼少の頃から背負ってきたものだ。
この小さな身体の細い肩にそれを背負わせてしまった、私と同じ苦しみを。
「リリエナ、すまなかった。私なら君の気持ちを理解出来る、だから私にだけは我慢しなくていい。甘えて欲しい。私が全て受け止めよう、今から私はリリエナだけの唯一となる」
「私だけの?・・・」
「ああ、友であり家族でもあり、私としては恋人がいいが」
「こっ・・!」
「ふ、可愛いリリエナ。急がないさ、ただいつ何時でも私は君の味方であると覚えておいて頼って欲しい。私にとっても君が唯一だ、時々でいい、こうやって触れ合いたい」
腕の中のリリエナが身じろぎ、そろそろと自らの腕を私の背中に回しギュッと抱き着いた。
私の気持ちに応えてくれたようだ、彼女の耳が赤く染まっていた。
「おにぎり、美味しかったです。それと、迎えに来てくれてありがとうございます」
この時、この愛しい少女を必ず守ると決意したのだ。
「リリィ」
かつては呼び合っていた愛称を呟いてみた。
ヴァイツェンを呼ぶ声を思い出す、"ヴァン"とあの頃は呼んでくれていた。
「もう一度呼んで欲しいよ、リリィ」
もうすぐ夜明けだ、今夜はゆっくり休めただろうか。
愛しい人がドア一枚隔てて眠っている、施錠はされているが鍵は当然ヴァイツェンが持っており、開けたい衝動に駆られては理性が己を叱咤する。
もちろん緊急時にしか使うつもりはない。
「まずは魔王を討伐せねばな」
独りごちて朝陽を待つことにした。
大きな窓から差し込む陽の光で目を覚ましたリリエナは、思いの外充分な睡眠が取れた事に昨夜の緊張はどこへやら自分の図太さを実感していた。
「年の功かしらね」
起き上がり着替えを探そうとクローゼットを開けると見覚えのあるドレスが並んでいる。
いつの間にかリリエナの衣類や服飾品が収納されており、ゴソゴソと探っていると侍女長のレスリがノックと共に入って来る。
「おはようございます、お目覚めでしたか。朝食をお待ちしておりますが、準備をしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。お願いします」
「着替えは後ほどお手伝い致しますので、どうぞそのままこちらの部屋へお越し下さい」
いつもは着替えてから朝食を食べていたので首を傾げながら部屋を移動すると、いつもより豪華な朝食が待っていた。
「リリエナ様はこの度の討伐で大変な目に遭われたと伺いました。本日はゆるりとお過ごし頂くよう仰せつかっております、ご要望がございましたら遠慮なくおっしゃって下さいませ」
気が付くと私はリリエナを抱き締めていた。
この少女が抱える葛藤や苦悩は王子である私も幼少の頃から背負ってきたものだ。
この小さな身体の細い肩にそれを背負わせてしまった、私と同じ苦しみを。
「リリエナ、すまなかった。私なら君の気持ちを理解出来る、だから私にだけは我慢しなくていい。甘えて欲しい。私が全て受け止めよう、今から私はリリエナだけの唯一となる」
「私だけの?・・・」
「ああ、友であり家族でもあり、私としては恋人がいいが」
「こっ・・!」
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腕の中のリリエナが身じろぎ、そろそろと自らの腕を私の背中に回しギュッと抱き着いた。
私の気持ちに応えてくれたようだ、彼女の耳が赤く染まっていた。
「おにぎり、美味しかったです。それと、迎えに来てくれてありがとうございます」
この時、この愛しい少女を必ず守ると決意したのだ。
「リリィ」
かつては呼び合っていた愛称を呟いてみた。
ヴァイツェンを呼ぶ声を思い出す、"ヴァン"とあの頃は呼んでくれていた。
「もう一度呼んで欲しいよ、リリィ」
もうすぐ夜明けだ、今夜はゆっくり休めただろうか。
愛しい人がドア一枚隔てて眠っている、施錠はされているが鍵は当然ヴァイツェンが持っており、開けたい衝動に駆られては理性が己を叱咤する。
もちろん緊急時にしか使うつもりはない。
「まずは魔王を討伐せねばな」
独りごちて朝陽を待つことにした。
大きな窓から差し込む陽の光で目を覚ましたリリエナは、思いの外充分な睡眠が取れた事に昨夜の緊張はどこへやら自分の図太さを実感していた。
「年の功かしらね」
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「は、はい。お願いします」
「着替えは後ほどお手伝い致しますので、どうぞそのままこちらの部屋へお越し下さい」
いつもは着替えてから朝食を食べていたので首を傾げながら部屋を移動すると、いつもより豪華な朝食が待っていた。
「リリエナ様はこの度の討伐で大変な目に遭われたと伺いました。本日はゆるりとお過ごし頂くよう仰せつかっております、ご要望がございましたら遠慮なくおっしゃって下さいませ」
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