47 / 87
31
しおりを挟む
安全の為とは言え王太子妃の部屋をあてがわれた庶民のリリエナは、ベッドに入ったものの神経が昂っているせいかなかなか寝付けずにいた。
オーガストさんは無事なのかしら、かなり重症のように見えたけど。
『普通の女性として生きて下さい』
『貴女をお慕いしているのです』
あの状況でなければ・・・心が揺らいだかもしれない。
でも聖女を辞めたいとは思っていないのよ、だからあの人と行こうとは思わなかった。
殿下なら先に私の気持ちを聞いてくれるのに。
『昔の貴女は殿下に好意を寄せていた』
オーガストさんはそう言った。
私は、殿下が好きだったのかしら?
リリエナは寝返りを打ち、王太子の部屋の方向にある扉に目をやる。
ヴァイツェン殿下は優しく大事にしてくれる。
突然知らない世界に召喚されて、不安な時にあんな美形に優しくされたら、十代の私なら惚れるかも、そりゃ、多分好きになってしまうだろうな。
今の私は見た目こそ二十歳過ぎだけど、中身は四十年の人生を経てる、そんな簡単には気持ちは動かないわ。悪い癖みたいなものだ。
大事にされるのは、それは聖女だから。
ツキンと胸の奥に波紋が広がるように痛んだ。
また寝返りをすると、今度は仰向けでぼんやりとする。
少しだけ十六歳の私を思い出した。
この世界での初めての記憶はヴァイツェンではなく、ドゥーベ家のお母様マリーヌの心配そうな顔だった。
お父様も兄達も優しくて可愛がってくれたと思う。
ホームシックになった時は兄達が食べ切れない程のお菓子を持ってきてくれたっけ。
他にも・・・。
思い出せて良かった、でも、もっと思い出したい記憶がある。
オーガストさんは私が殿下を好きだったと言っていた、そう思う何かがあるのならそれが聞きたい。
彼ともう一度話がしたい、明日聞いてみよう・・・。
睡魔に追い立てられ、とうとう寝息を立て始めたリリエナの寝室に繋がる扉を静かに見つめ、眠らずにいるのはヴァイツェンその人だった。
「あのまま口付けしてしまうところだった」
ふぅ、と肩で息を吐いた。
夜着にも着替えずベッドに片膝を立て腕と顎を乗せて腰掛けている。
すぐ側に剣を立て掛け、奇襲に備えた状態で今夜は過ごすつもりだ。
リリエナが見た黒いモヤは言葉を発していたと言う、それは魔王の影の可能性があった。
怯えさせてはいけないと思いリリエナには言ってはいないが。
いっそ怯えさせて寝室に押し掛ければ良かった、と不埒な下心もあるが魔王の影ならば聖女であるリリエナは確実に狙われる。
今度こそ、私の手で守る。大切な私の愛しいリリエナ。
あいつが、オーガストがリリエナを特別な意味で見つめていたのを私は知っていた。
オーガストさんは無事なのかしら、かなり重症のように見えたけど。
『普通の女性として生きて下さい』
『貴女をお慕いしているのです』
あの状況でなければ・・・心が揺らいだかもしれない。
でも聖女を辞めたいとは思っていないのよ、だからあの人と行こうとは思わなかった。
殿下なら先に私の気持ちを聞いてくれるのに。
『昔の貴女は殿下に好意を寄せていた』
オーガストさんはそう言った。
私は、殿下が好きだったのかしら?
リリエナは寝返りを打ち、王太子の部屋の方向にある扉に目をやる。
ヴァイツェン殿下は優しく大事にしてくれる。
突然知らない世界に召喚されて、不安な時にあんな美形に優しくされたら、十代の私なら惚れるかも、そりゃ、多分好きになってしまうだろうな。
今の私は見た目こそ二十歳過ぎだけど、中身は四十年の人生を経てる、そんな簡単には気持ちは動かないわ。悪い癖みたいなものだ。
大事にされるのは、それは聖女だから。
ツキンと胸の奥に波紋が広がるように痛んだ。
また寝返りをすると、今度は仰向けでぼんやりとする。
少しだけ十六歳の私を思い出した。
この世界での初めての記憶はヴァイツェンではなく、ドゥーベ家のお母様マリーヌの心配そうな顔だった。
お父様も兄達も優しくて可愛がってくれたと思う。
ホームシックになった時は兄達が食べ切れない程のお菓子を持ってきてくれたっけ。
他にも・・・。
思い出せて良かった、でも、もっと思い出したい記憶がある。
オーガストさんは私が殿下を好きだったと言っていた、そう思う何かがあるのならそれが聞きたい。
彼ともう一度話がしたい、明日聞いてみよう・・・。
睡魔に追い立てられ、とうとう寝息を立て始めたリリエナの寝室に繋がる扉を静かに見つめ、眠らずにいるのはヴァイツェンその人だった。
「あのまま口付けしてしまうところだった」
ふぅ、と肩で息を吐いた。
夜着にも着替えずベッドに片膝を立て腕と顎を乗せて腰掛けている。
すぐ側に剣を立て掛け、奇襲に備えた状態で今夜は過ごすつもりだ。
リリエナが見た黒いモヤは言葉を発していたと言う、それは魔王の影の可能性があった。
怯えさせてはいけないと思いリリエナには言ってはいないが。
いっそ怯えさせて寝室に押し掛ければ良かった、と不埒な下心もあるが魔王の影ならば聖女であるリリエナは確実に狙われる。
今度こそ、私の手で守る。大切な私の愛しいリリエナ。
あいつが、オーガストがリリエナを特別な意味で見つめていたのを私は知っていた。
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
人間嫌いの熊獣人さんは意外と優しい 〜病院で一生を過ごした少女は健康に生まれ変わってもふもふに会いに行きます!
花野はる
恋愛
生まれつき病弱で、一生のほとんどを病院で過ごした舞は二十歳の誕生日を前に天に召された。
......はずだったが、白いお髭のおじいさんが出て来て「お前の一生は可哀想だったから、次の生ではお前の望みを叶えてやろう」と言う。
そこで舞は「健康な身体になりたい」と、好きだったファンタジー小説の中の存在である「もふもふの獣人さんに会いたい」の二つを願った。
そして気づけば舞は異世界にいたのだが、望んでいた獣人たちは、人間の「奴隷」として存在していた。
そこで舞は、普通の獣人とは違うフルフェイスの熊の獣人と出会って、一緒に暮らすことになる。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる