アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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金糸の髪を振り乱し、走ってくる彼の姿にリリエナは安堵した。
「殿下・・良かった、無事だった」
ヴァイツェンはリリエナに一直線に向かって来る、見た所大きな怪我は無さそうなその姿が等身大になった時、彼は両腕を広げリリエナを包み込む準備をしていた。
それに気付いたリリエナは自分からその胸に飛び込んだ、いつもならひと呼吸考えてから行動するリリエナが、まるでそうするのが当たり前かのように無意識に己の腕を伸ばしたのだ。
「リリエナ!見つけられて良かった、怪我などはしてないか」
「私は大丈夫です。で、殿下こそあの蜘蛛に」
ヴァイツェンの背中に腕を回しギュッと力を込めると、同じくらいの加減で抱き締められる。
「ああ、大丈夫だ。少し油断をしたがあれくらいでやられる程柔ではないよ。心配させてしまったようだ、すまない」
そっか、大丈夫だったんだ、良かった。
「それより君だ、本当に怪我などないのだね。オーガストはどこだ?奴がリリエナを」
「はっ、そうだ。小屋です!爆発して、中にオーガストさんがいるのに」
リリエナは小屋に視線を向けた。
「あれか、話は後で聞かせてもらうよ。リリエナはここで待っていてくれ」
パッと温もりが離れ、名残惜しさを感じた自分に驚いたリリエナは我に帰り恥ずかしくなり俯く。
すぐに追いかけて来た騎士の一人にリリエナに付くよう指示を出し、他全員を連れヴァイツェンは小屋に向かい、オーガストを瀕死の状態で見つけた。
癒しの魔法をと駆け寄ろうとしたがヴァイツェンに止められ、会う事なく共に帰城となった。
気になっていたあの蜘蛛は何とか無事討伐が出来ていたらしい。
さすが騎士団、だったら聖女いらなかったんじゃ、というツッコミはリリエナには出来ないが過去の記憶が少し戻ったのだから勿怪の幸いと言える。
記憶の件はすぐにでもヴァイツェンに言いたかったが、そのヴァイツェンの事を思い出していない。
急に思い出した理由も分からないから全てを思い出す保証もない、そんな状態で告げても意味が無いような気がして、記憶の事は今は何も言わずにいると決めた。
城に戻った後、リリエナは湯浴みと着替えを終え、人払いされたヴァイツェンの執務室でソファに座りお茶とお菓子をご馳走になっていた。つまり二人きり。
「急かしてすまない、何があったか話して欲しい」
ヴァイツェンに促され、押し倒された事以外の全てを話した。
やましい事は無いけど、何もされて無いのだから言う必要はないはず。
聞き終わると項垂れながらヴァイツェンは大きな溜息をついた。
「オーガストを護衛に付けたのは私だ、怖い思いをさせてすまなかった。あの男が闇の気配アームに憑かれるとは・・。もう一つの影の事も気になる」
「あの、オーガストさんは」
「奴は意識不明のまま牢の中に、もうリリエナには近づけさせないから安心して」
「そう・・ですか。あの、それでこの首輪は」
「それは付けた者にしか外せないように術が組まれている魔力封じの首輪だ、オーガストが目覚めればすぐに外させよう。それまで我慢して欲しい」
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