アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子

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そう言ってリリエナの手を取り口付けようとした。
「やめて!」
手を引っ込めようとしたがグッと掴まれる。
「手を離して、お願い」
「嫌です、離したくない。離さない、私と・・俺と一緒に来てくれ」
懇願がいつもの丁寧な口調を崩し、祈るように吐き出されてくる。
オーガストの身体から黒いもやが立ち昇っている、闇に魅入られているのは間違いない。
隙などなさそうなこの副団長の気持ちを揺らしていたのは私だったのか、と思う。
けど、気を持たせるような思わせぶりな態度を取った覚えはない、出会ってからの期間も短い、リリエナに想いを寄せる要素などあっただろうかと首を傾げたくなる。
四十年間彼氏など出来た事がない喪女にとって熱烈に求められるなど夢のようなシチュエーションであるが、気持ちに応える訳にはいかない、流された感はあるが聖女として殿下の傍にあるのはリリエ自身で選択した結果だ。
殿下の傍にいる理由が無いなど言われたくない。
祓いの魔法が使えれば・・・。
掴まれていない手を首元に当てると金属で出来た首輪に触れた。
留め具がないか探ったがそれらしきものは無い、つまんで引っ張っても外れそうにはなかった。
どうやって逃げようかと考えていると、その手に重ねるようにオーガストが触れてくる。
「無駄だ、それは外れない。乱暴はしたくない、俺のものに・・なれ」
トンと肩を押されて後ろに倒される。
「へ」
「大事にする、だから、俺を受け入れてくれ」
欲情を顔に宿したオーガストからは理性が消え、ベッドに膝から乗り上げ覆い被さってくる。
やばい、オーガストさんだから酷い事はしないだろうと楽観視してしまっていた。
「オーガストさん!落ち着いてっ」
ベッドに仰向けになったリリエナを四つ這いで見下ろし、頬を指の背で優しく撫でた。
「リリエナ様、好きです」
リリエナはずり上がり逃げようとしたが、ドレスを踏まれ動けずとうとう両手を頭の上で纏められてしまった。
「オーガストさん、待って!正気にもどって!私が聖女でいる事と殿下は関係ないの!あなたは勘違いしてるわ!私が聖女をやってるのは私の意思よ、少ししか過ごしてないけれどこの国の人達は優しくしてくれたわ。その人達を守りたいと思ったからよ!そして守りたい人達の中にあなたも入ってるのよ!あなたとは行けない、この首輪を外して!」
「私と一緒に・・・」
リリエナの叫びはオーガストには届かなかったのか、ゆっくり顔をリリエナのそれに近づけてきた。
「や、やめっ!」
逃げられない。
リリエナの唇まで残り三センチまで近づいた時、誰も訪れないはずの扉が勢い良く開いた。
入ってきたそれは闇そのもの、人の身長程の漆黒を纏った魔王の欠片だった。
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