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リリエナは頭から布にすっぽり包まれて、誘拐犯の腕に支えられ馬に揺られていた。
景色は見えないが時間の経過からして蜘蛛の魔物からは大分遠ざかっているだろう。
殿下・・・、ヴァイツェン殿下はどうなったの?
目に焼き付いて離れない、振り返り目が合った瞬間その身体が飛ばされてしまった。
また、また私のせいで。私に気を取られたから、殿下は蜘蛛の足に。
自分の不甲斐なさに嫌気がさし、リリエナの瞳から涙が溢れ出る。
どんなに暴れても拘束する腕からは逃げられなかった、落胆し抵抗するのをやめてリリエナは大人しく布に巻かれ馬に乗せられた。
どこに向かっているのかも分からず不安は増すばかりだ。
何より信頼していたオーガストに裏切られた事がリリエナの心をさらに重くしていた。
背後から襲われたので顔は見えなかった、けれど延びてきた腕が纏う制服はオーガストのものだ。
知らない内に誰かと入れ替わったりしてないか、もしそうであればオーガストの身が心配だけど。
「あなたはもう、戦わなくて良いのです。普通の女性として生きて下さい」
小さな声で囁かれたそれは間違いなくオーガストの声だった。
どうしてそんな事を言うのかリリエナには分からないが、少なくとも危害を加える気はないと思えた。
しかし、油断は出来ない。何故ならオーガストからはあの闇の気配の嫌な感じがするからだ。
オーガストに魅入られる隙があったのか、訓練されている騎士にそんな隙があるのか。
人の欲望を増長するのが闇の気配、オーガストも人である限り欲望はあるだろうが、どんな欲望で動いているのか。
そもそもリリエナを誘拐する目的すら今は不明だ。
やがて馬が止まり、リリエナは抱えられて運ばれクッションの効いた所に降ろされた。
「手荒な事をして申し訳ありません、布を取りますが騒がないで下さい」
頷くと、ゆっくり布が解かれていき、そこにはオーガストがいた。
そこは木造の小さな家の様な作りで、リリエナはベッドに座らされていた。
「ここは?」
リリエナは静かに問うた。今騒ぎ立てても良い結果には繋がらないと思ったからだ。
「ここは私が時折使っている森小屋です。目隠しの魔法をかけているので見つかる事はないでしょう」
「どうして私を?」
オーガストは熱い眼差しをリリエナに向けながら手を伸ばし頬を撫でた。
普段の彼は冷静で、こんな情欲の籠った瞳などした事は無かった。
「私と一緒に遠くに行きましょう」
「え?」
「その首輪は魔力封じです、それがあれば普通の女性として生きていけます。昔の貴女は殿下に好意を寄せていた。しかし、今は少し違うように思います。聖女なんてものを押し付けられても貴女は健気に期待に答えようとなさっている、そんな貴女を殿下は利用しているのです。貴女には殿下の傍にいる理由は無いはず、今なら殿下から逃がしてあげられます。私と一緒に逃げて下さい、貴女をお慕いしているのです」
景色は見えないが時間の経過からして蜘蛛の魔物からは大分遠ざかっているだろう。
殿下・・・、ヴァイツェン殿下はどうなったの?
目に焼き付いて離れない、振り返り目が合った瞬間その身体が飛ばされてしまった。
また、また私のせいで。私に気を取られたから、殿下は蜘蛛の足に。
自分の不甲斐なさに嫌気がさし、リリエナの瞳から涙が溢れ出る。
どんなに暴れても拘束する腕からは逃げられなかった、落胆し抵抗するのをやめてリリエナは大人しく布に巻かれ馬に乗せられた。
どこに向かっているのかも分からず不安は増すばかりだ。
何より信頼していたオーガストに裏切られた事がリリエナの心をさらに重くしていた。
背後から襲われたので顔は見えなかった、けれど延びてきた腕が纏う制服はオーガストのものだ。
知らない内に誰かと入れ替わったりしてないか、もしそうであればオーガストの身が心配だけど。
「あなたはもう、戦わなくて良いのです。普通の女性として生きて下さい」
小さな声で囁かれたそれは間違いなくオーガストの声だった。
どうしてそんな事を言うのかリリエナには分からないが、少なくとも危害を加える気はないと思えた。
しかし、油断は出来ない。何故ならオーガストからはあの闇の気配の嫌な感じがするからだ。
オーガストに魅入られる隙があったのか、訓練されている騎士にそんな隙があるのか。
人の欲望を増長するのが闇の気配、オーガストも人である限り欲望はあるだろうが、どんな欲望で動いているのか。
そもそもリリエナを誘拐する目的すら今は不明だ。
やがて馬が止まり、リリエナは抱えられて運ばれクッションの効いた所に降ろされた。
「手荒な事をして申し訳ありません、布を取りますが騒がないで下さい」
頷くと、ゆっくり布が解かれていき、そこにはオーガストがいた。
そこは木造の小さな家の様な作りで、リリエナはベッドに座らされていた。
「ここは?」
リリエナは静かに問うた。今騒ぎ立てても良い結果には繋がらないと思ったからだ。
「ここは私が時折使っている森小屋です。目隠しの魔法をかけているので見つかる事はないでしょう」
「どうして私を?」
オーガストは熱い眼差しをリリエナに向けながら手を伸ばし頬を撫でた。
普段の彼は冷静で、こんな情欲の籠った瞳などした事は無かった。
「私と一緒に遠くに行きましょう」
「え?」
「その首輪は魔力封じです、それがあれば普通の女性として生きていけます。昔の貴女は殿下に好意を寄せていた。しかし、今は少し違うように思います。聖女なんてものを押し付けられても貴女は健気に期待に答えようとなさっている、そんな貴女を殿下は利用しているのです。貴女には殿下の傍にいる理由は無いはず、今なら殿下から逃がしてあげられます。私と一緒に逃げて下さい、貴女をお慕いしているのです」
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