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そんな日々の中、城の敷地内なら散歩をしても良いと許可がでた。
城の結界の見直しが終わったのとリリエナ自身が小さな魔物であれば対応出来ると判断された為だ。
もちろんオーガストの護衛を含めてであるが。
「リリエナ、おいで」
目の前に手を差し出してきたのは、優し気に目を細めたヴァイツェンだ
おずおずと手を乗せると、そのまま垣根に囲まれた小さめの庭に案内された。
入口のアーチを抜けるとヴァイツェンはリリエナから手を離し、それを胸に当てると恭しく軽いお辞儀をした。
「ようこそ、王太子の箱庭へ」
「ここが王太子の箱庭、思ってたのと違いました」
本人がキラキラしているのだから、その庭はさぞかし煌びやかなのだろうと想像していたが、良い意味で裏切られた。
花は小振りのものばかりで半分以上は青色系統の花で埋められており、落ち着いた雰囲気が愛でるというより休息するにはぴったりだ。
庭の中央には可愛らしい噴水があり、その周囲には座れるようにベンチが噴水と一体的に作られている。
ふと、ヴァイツェン殿下の心に沿ったものだとしたら、もしかしたらこの人は休息を必要としているのかもしれないと思った。
「花の無い花壇が・・・?」
「ここに植えているものは多年草ばかりで時期が来ないと見られない花もある。だから咲いた花を見ると喜びもひとしおだ。華やかなものも魅力的だが、私は自然のままに咲いて朽ちて、また蕾をつける花達にこそ癒されるのだが。ああ、私としたことが、すまないリリエナにはもっと色とりどりの華やかな方が楽しめるな、次は母上の庭を見れるよう許しを貰っておこう」
「あっ、いえ。そうではなくて、好きですよ」
「えッ」
「この庭好きです」
「あ、ああ庭か」
「ここはとても居心地が良くて、落ち着きます。座ってもいいですか?」
「もちろん」
リリエナはベンチの一つに腰掛けた。
背中からは心地良いリズムの水音が聞こえ、土と緑と控えめな甘い香りが鼻を擽る。
ここはとても優しい、まるで。
「ここは殿下そのものですね」
思ったままを口に出していた。
ヴァイツェンは一瞬固まり、目を見開き、そして右手で顔を覆った。
その耳たぶは真っ赤に染まり、恐らく顔面も同じだろう。
ヴァイツェンの様子がおかしいと気付いたリリエナが、理由に思い当たるのに数秒かかったが、自分の言動を思い起こし今度はリリエナがアッと声を発した。
「あああのっ、そうじゃなくて。ただ私は」
「ほんっとに、君は」
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