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ヒューと鳴ってカタカタと窓が揺れる音がする。
「ん・・・」
柔らかでスベスベなものに包まれて気持ちが良い。
無意識に手のひらでリネンの手触りを堪能しようとして手を滑らす。
「ん~」
徐々に意識が浮上し、リリエナは目を開けた。
「あれ?」
ソファに座ってたはずの自分がベッドに入っていたことに驚いた。
寝間着になっているって事は誰かが着替えさせてくれたのだろう、その間起きなかった自分にも驚きだ。
カタカタとまた窓が揺れたのが気になり、起き上がりベッドから降りた。
バルコニーへ続く一面ガラス張りの方へ行き、カーテンを開けると柔らかな乳白色の光が差し込んでくる。
風が強いのか、そこから見える木々の枝が煽られて揺れていた。
月に誘われるようにバルコニーへ足を踏み入れ、手摺りまで近づくと少し強めの心地良い風がリリエナの癖のない髪を揺らしていく。
「ん~、気持ちいい」
空を見上げると、澄んだ闇夜に浮かぶ月が美しく輝いて光のヴェールを降ろしている。
「綺麗ねぇ、こっちの月にも兎はいるのかしら」
「月に兎がいるのか?」
思いもよらない返事にリリエナは肩を揺らした。
声は下からで手摺りから階下を覗くと金髪の美丈夫が、ほんのり照らされた庭に立って見上げていた。
「ヴァイツェン殿下?そこで何を」
「そちらに行ってもいいか?」
「え、はい、まあどうぞ」
夜に招き入れるのはどうだろうと一瞬躊躇するが、まあいいかと了承する。
ここは二階である、リリエナは当然中から入って来ると思い、部屋に戻ろうとした。
「いや、そのままいてくれ」
「え?」
引き止められ、振り向いた時には目の前でヴァイツェンがふわりと着地するところだった。
「こんばんは、リリエナ」
「こ・・んばんは、今、何をしたんですか?」
「風魔法だ、ここまで飛んで来た」
リリエナは余程驚いた表情をしていたのか、ヴァイツェンはくすっと笑う。
「すまない、見回りをしていたのだが君の姿が見えて声をかけてしまった。少し時間を貰ってもいいかい」
「はい」
風魔法って便利なのね、とリリエナは呑気に思ったがすぐに後悔する。
「その、抱き締めてもいいだろうか。君が確かにここにいると感じたい」
彼氏いない歴年齢(四十年)のリリエナにとっては何と破壊力のある台詞だろう。
金髪キラキラの美形王子様の形の整った唇から出たその言葉は到底現実とは思えない。
ただ、ヴァイツェンの真剣な顔は拒否しずらく、リリエナを頷かせていた。
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