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だったらどうして、どうやって帰ったんだろう、その時私に何があったの?
帰れない、何となくそうかもと、やっぱりという気持ちと絶望感が入り混じり胸が重くなる。
「こちらの都合で召喚しておいて、と思われるでしょうが。それ程に聖女を希望を求めているのです、この国は」
ソニアスから表情が消える。
ゆっくり立ち上がり、リリエナの足元に跪き頭を下げた。
「ソニアス殿、何を」
「え、あの!」
「私の命をリリエナ様に捧げましょう。貴女の手となり足となり、貴女に尽くしましょう。どうか、それで納得して下さいませんか」
「ソニアス殿そこまでだ。それ以上は、私が許さない」
オーガストが低く唸る。
「い、命なんて捧げられても困ります。帰る方法が無いのなら今は仕方ないですし。それにそんなすぐに納得出来るものでもないですから」
なんでこの世界の男はすぐに跪くのかしら、命なんていらないし、そもそも帰る方法がないならどうしようもないじゃない、このソニアスという人は凄く苦手だわ。
顔を上げた時には、また胡散臭い笑顔に戻っていた。
「そうですか、ですが受け入れて貰えるまで口説かせていただきますよ」
「なっ・・!」
「ふふ、そう言えば魔法を学びたいのでしたね、よろしいですよ。私が講師となりましょう、ではまた」
流し目で余韻を残しながらソニアスは去り、何も言い返せず口をぽかんと開けたままリリエナはそれを見送った。
「リリエナ様、申し訳ありませんでした。講師はソニアス殿以外にお願いしておきます。まさかあのような」
「すみません、一人にして貰えませんか。少し疲れました」
少し考えたい、とにかく今は人の気配を遠ざけたくてオーガストの言葉を遮る。
「リリエナ様・・、わかりました。では扉の外におります」
パタンと扉の閉まる音がして、気配が無くなった。
「はぁ-----------ッ」
誰にも気を使わなくていい状況になったのを確認し、大袈裟に溜息をついてみた。
異世界召喚だものね、ほいほいと行き来出来るわけがないのは覚悟していた。
うん、そんなような小説を読んだ事がある。
でも一度は戻れてるんだから、方法はあるはずよ。
その時何が起こったのかは私自身が知っているはずで、記憶がないのがもどかしい。
"どうして帰りたいのか"か、痛い所を突かれたなと思う。
正直、どうしても帰りたい理由など無かったからだ。
未練が無いと言うか、一人暮らしが長かったくせに恋人もおらず、会社と自宅の往復だけで、そんな毎日に戻りたいかと言われればそうでもない。
結果的に恋人がいなくて正解だったのかな、いたら今頃会えなくて泣いてるかも。
あ、無断欠勤してしまったわ。私が担当していた仕事は大丈夫かしら。
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