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「ところでリリエナ様、先程私に聞きたい事があると仰っていたと思いますが」
ヴァイツェンの登場で遮られたリリエナの言葉をオーガストは覚えていた。
「オーガストさんは5年前の私を、魔王討伐の頃の私を知ってるんでしょうか。その時の私の事を教えて欲しいんです。後、殿下がアームと呼んでいた黒い物についても」
自分のやっていた事を他人に聞くのも変な話だが、何故だか記憶がない。
ちょっと前までは人違いをされていると本気で思っていたのに、あの黒いアームのお陰で白い光は出るわ瞳の色は変わるわで聖女と呼ばれる事を否定出来なくなってしまった。
それは5年前にも私はここにいたという事実にも繋がってくる。
自分の事ならば知りたいのだ。
オーガストさんは頷いて教えてくれた。
5年前についてはまだ一般騎士だったそうで、私とは直接関わっていなかったらしい。
激しい戦いの後、私の身体が空中に消えていく姿を見ていたそうだ。
その後魔王は完全に消滅はしていないものの気配はとても微弱で発見出来ず、討伐は一旦終了とされ、魔物も出なくなっていた。
それが最近、魔族や魔物の類が人へ接触するようになり、時折トラブルや混乱を起こし被害が出始めた。
と同時に魔王の気配が大きくなりつつあるという。
対抗すべく、また聖女召喚の術を行い現在に至っているそうだ。
中庭で私に飛び付いた黒い物は闇の気配と言われており、通称アームと呼ばれ人の欲望を刺激し、思うがままに行動を起こさせる魔物の一種で、本来なら城の敷地にある結界の中にいるはずのないものらしい。
結界のどこかに綻びが出来た可能性があり、それはかなり重大な問題だということ。
「リリエナ様には申し上げておりませんでしたが、聖女様の存在は城内の限られた者しか知りません。リリエナ様に接触する人間も、行動範囲も最小限にしており、かなり窮屈な状態である事についてはお詫び致します。が、リリエナ様の安全を考えるとそうせざる得ない事でした。結界の綻びについてもリリエナ様の存在がどこかに漏れ、狙われた可能性も否定出来ないのです」
行動範囲を最小限とは、言い方を変えれば軟禁である。
それは気付いていた、自由が全くないのだから。かと言ってポイと放り出されても今のリリエナでは生きていけないのは自覚していた、だからあえて何も言わなかったのだ。
だからこそ情報だけは欲しいと思うリリエナだった。
リリエナの表情が硬くなったのに気付いたオーガストは声をかけた。
「もうすぐ昼食の時間ですね、少しゆっくりお休み下さい。私は扉の向こうに控えておりますので何かあればお呼び下さい」
そう言うとオーガストは扉を開けて出て行った。
リリエナはソファに重力に逆らう事なく身体を預け、顔を上に向け、フウと息を吐いた。
昼食後、オーガストと共に入ってきたのは真っ黒のフード付きローブからウェーブのかかった長めの銀髪を覗かせた長身の男性だった。
顔の半分が綺麗な銀髪で隠れているが、恐らく美形である。
「リリエナ様、初めまして騎士団第三騎士隊所属魔導師長ソニアスと申します。聖女様にお会い出来て光栄です」
銀髪を揺らし恭しくお辞儀をすると、アロマのような香が漂った。
ヴァイツェンの登場で遮られたリリエナの言葉をオーガストは覚えていた。
「オーガストさんは5年前の私を、魔王討伐の頃の私を知ってるんでしょうか。その時の私の事を教えて欲しいんです。後、殿下がアームと呼んでいた黒い物についても」
自分のやっていた事を他人に聞くのも変な話だが、何故だか記憶がない。
ちょっと前までは人違いをされていると本気で思っていたのに、あの黒いアームのお陰で白い光は出るわ瞳の色は変わるわで聖女と呼ばれる事を否定出来なくなってしまった。
それは5年前にも私はここにいたという事実にも繋がってくる。
自分の事ならば知りたいのだ。
オーガストさんは頷いて教えてくれた。
5年前についてはまだ一般騎士だったそうで、私とは直接関わっていなかったらしい。
激しい戦いの後、私の身体が空中に消えていく姿を見ていたそうだ。
その後魔王は完全に消滅はしていないものの気配はとても微弱で発見出来ず、討伐は一旦終了とされ、魔物も出なくなっていた。
それが最近、魔族や魔物の類が人へ接触するようになり、時折トラブルや混乱を起こし被害が出始めた。
と同時に魔王の気配が大きくなりつつあるという。
対抗すべく、また聖女召喚の術を行い現在に至っているそうだ。
中庭で私に飛び付いた黒い物は闇の気配と言われており、通称アームと呼ばれ人の欲望を刺激し、思うがままに行動を起こさせる魔物の一種で、本来なら城の敷地にある結界の中にいるはずのないものらしい。
結界のどこかに綻びが出来た可能性があり、それはかなり重大な問題だということ。
「リリエナ様には申し上げておりませんでしたが、聖女様の存在は城内の限られた者しか知りません。リリエナ様に接触する人間も、行動範囲も最小限にしており、かなり窮屈な状態である事についてはお詫び致します。が、リリエナ様の安全を考えるとそうせざる得ない事でした。結界の綻びについてもリリエナ様の存在がどこかに漏れ、狙われた可能性も否定出来ないのです」
行動範囲を最小限とは、言い方を変えれば軟禁である。
それは気付いていた、自由が全くないのだから。かと言ってポイと放り出されても今のリリエナでは生きていけないのは自覚していた、だからあえて何も言わなかったのだ。
だからこそ情報だけは欲しいと思うリリエナだった。
リリエナの表情が硬くなったのに気付いたオーガストは声をかけた。
「もうすぐ昼食の時間ですね、少しゆっくりお休み下さい。私は扉の向こうに控えておりますので何かあればお呼び下さい」
そう言うとオーガストは扉を開けて出て行った。
リリエナはソファに重力に逆らう事なく身体を預け、顔を上に向け、フウと息を吐いた。
昼食後、オーガストと共に入ってきたのは真っ黒のフード付きローブからウェーブのかかった長めの銀髪を覗かせた長身の男性だった。
顔の半分が綺麗な銀髪で隠れているが、恐らく美形である。
「リリエナ様、初めまして騎士団第三騎士隊所属魔導師長ソニアスと申します。聖女様にお会い出来て光栄です」
銀髪を揺らし恭しくお辞儀をすると、アロマのような香が漂った。
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