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口付けられた指先の熱はなかなか引いてくれない。
「ほんとにあの人は何なの」
フッと笑うのが聞こえ、リリエナはその主を睨んだ。
文句を言いたい当人は既に部屋から出ており、今リリエナの斜め背後にいる彼はこの国の騎士団副団長のオーガストである。
ヴァイツェンがリリエナの護衛として任命したのだ。
「笑わないで下さい」
「失礼しました、聖女様を笑ったのではありません。ヴァイツェン殿下でも聖女様には敵わないのだなと思いまして。殿下からあのような態度を取られて、平然といられる女性がいるとは思いませんでしたので」
まともな感想だなと思う。
面白そうに笑うオーガストを改めて観察してみる。
ドゥーベ辺境伯家で見た時も美形だと思ったのだけど、殿下とは違って漢らしい顎のラインと角ばった眉山で身体付きも含めとても男性的だわ。
ヴァイツェン殿下ももちろん美形だが、美しいという形容詞が似合うのだ。
どちらにしてもイケメンには変わりが無く、リリエナにとっては目の保養となっていた。
とはいえ、知り合って間もない人から忠誠とか愛とか言われても、享受するのは難しい。
「あの、その呼び方やめてもらえませんか。落ち着かないので、出来れば名前で呼んで下さい」
聖女という呼び名が、どうしても自分に合ってない気がして口に出してみる。
「は、ではリリエナ様と呼ばせて頂きます」
本当は様もいらないんだけど仕方ないか。
テーブルに用意されたお茶を手に取り口に含むと、胃袋が刺激されたのかググッと空腹を訴えてきた。
朝食は食べていたが、ドレスの支度の合間に軽く摘んだくらいでどうも足りなかったようだ。
オーガストさんに聞こえたかしら、恥ずかしい。
「何か持って来させましょう、少しお待ち下さい」
やはり聞こえていたようだが、淡々と廊下にいる誰かと遣り取りをされると大袈裟に気にするのも憚られた。
しばらくして、レスリがトレイを持って来た。
ん?あの三角のフォルムは、まさかおにぎりなの?
テーブルに置かれた皿には二つの白い山が乗っており、じっくり見ると崩れた三角型にお米の粒々がある。
え、お米もあったのね、それにおにぎりの文化もあるのね。
「それはお米ですね、しかしこの形で見たのは初めてだな。レスリ、これは?」
不思議そうな顔をしてオーガストが尋ねる。
オーガストさんは知らないのね、ポピュラーでは無いって事かしら。
「厨房より受け取りましたが、私にも詳しくは。ただ聖女様に縁のあるメニューと伺っております」
レスリさんも知らないんだとしたら、もしかして私の為に作ってくれたって事なのかな。
おにぎりはリリエナの大好物である、厨房の人に感謝しながらひとつ手に取る。
普通の塩むすびなのかな、形も三角にしようとして失敗したみたいな感じ。
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