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召喚-1

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「嫌だ、目を開けてくれ!」
誰かが叫んでる。
でも、目蓋がとても重くて開けられないの。
「リリィ・・・ッ」
私の身体に縋り付くように腕がまわされ、抱き締められている。
この人は無事だった、良かったと思った。
抱き返したくて腕に力を込め懸命に持ち上げたが彼に触れることは無かった。
「リリィッ」


「あ」
と、目覚めた瞬間天井に向けられた自分の腕が目に入りまたかと思う。
枝川里菜はここ数日同じ夢を見ては、今のように何かを掴むように天に向かい腕を伸ばしている。
抱き締められているのも呼ばれているのも自分だとは思う。
「でも、名前違うし」
必死に名前を呼んで強く抱き締めてくる彼は誰なんだろう。
感触が残っている気がして落ち着かなくなり、腕を交差してそれぞれ反対の手で彼がそうしたようにしてみる。
が、何だか虚しくなりすぐにため息をついてだらんと両腕を重力に任せた。
「馬鹿馬鹿しい」
そう呟いた所で起床を促すアラームが鳴った。
のそのそと起き上がり、いつものルーティンを始める。
部屋の灯りをつけ、テレビの電源を入れるとすぐに電気ケトルに水を注ぎスイッチを押す。
湯を沸かしている間にトイレ、洗顔を済ませ簡単メイクもやってしまう。
ナチュラルメイクと言えば聞こえはいいが、ただのズボラだ。
「さすがに手抜きは限界かな」
顔の造形は悪くはないが疲れた表情の女性が鏡の中で肩を落としている。
鎖骨まで伸びた黒髪は艶が消えかかっており、目尻には小皺、口元にはほうれい線が容赦なく存在を表そうとしていてズボラメイクでもどうにかなる時期は十分過ぎていた。
「というか、少し高い基礎化粧品を買おうか、あ、美容液も」
今度の休みに滅多に行かない百貨店に行こうと心に決めてキッチンへ移動しインスタントコーヒーを入れ冷蔵庫から昨日買っておいたサンドイッチを取り出す。
テレビを見ながら頬張っていると情報番組が始まり、男女のMCから今日の日付を知らされて少し落ち込む。
「そうだった、今日誕生日だった」
今日で40才か、とため息が漏れる。
里菜は独身彼氏なし、今までまともにお付き合いをした事もなく、かといってパートナーがいなくてもさほど気にならないタイプのせいか焦りもなかったので仕事一筋に生きてきていた。
社会人になり一人暮らしをし始めてからは誕生日は友人達が祝ってくれていたのだが、彼女らは皆家庭を持ち子育てに奮闘している。
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