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第九部『天涯地角なれど、緊密なる心』
『屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです』第九部 プロローグ
しおりを挟む第九部『天涯地角なれど、緊密なる心』
プロローグ
乾いた岩肌に囲まれ空間に、二つの影が揺らめいていた。
山の洞穴の奥にあるこの場所には、一切の外光は無い。しかし、炎のように揺らめきのある白緑色をした魔術の光が、周囲を照らしていた。
その光を反射しているのは、山と積まれた金銀財宝。特に大量の金貨や銀貨が、魔術の灯りに負けないほど、周囲を明るく照らし出していた。
揺らめく影の一つは、巨大なものだった。蝙蝠のような翼に、胴体から生えた短い手足に、長い首と尻尾。
ピンと首を伸ばせば十数マーロン(一マーロンは約一メートル二五センチ)もある、赤銅色の鱗を持つドラゴンだ。
もう一つは、ニカブという暑い砂漠地方の民族が着るような、全身を覆うような衣服を着た少女だ。
人間の価値観でいえば美少女の部類に入るが、ドラゴンである老ギランドにとっては、人間の容姿はどれも同じに見える。
ブラウンの髪はフワフワと波打ち、少し垂れ目な瞳は琥珀色。桃色の口紅で彩られた唇には、穏やかな笑みを浮かべていた。
「ギランド様。お話は、本当ですの?」
〝うむ。天竜族の瑠胡姫が、つがいを得たのは一八〇日以上も前になろう〟
老ギランドからの返答に、少女はポンと両手を合わせた。
「まあまあまあまあ、素敵ですわ。わたくしの弟が、瑠胡姫様のことを気にしてるものですから。わたくしにも興味が沸いてしまいましたの。
お相手の種族について、なにかご存知ですか? やはり、ドラゴン族……いえ、血の濃さを気にしていらっしゃったはずですもの。別の種族で……ドラゴンに打ち勝つとなりますと、難しいですわ。クラーケンや、どこかの魔族なのでしょうか?」
〝人族だったぞ。いや、正確には元人族だな。今は天竜族へ昇華したらしいが〟
「人族?」
少女は意外そうな顔で、目を瞬かせた。少し考えるように視線を彷徨わせたあと、自信なさげに老ギランドを上目遣いに見上げた。
「自分よりも強き者を探しておられたと聞いておりますから……その人族は、人化したときの瑠胡姫様を襲った、ということでしょうか?」
〝いや。ドラゴン化しておったときの瑠胡姫に勝ち、その上で、つがいとなることを選んだと聞いておる。瑠胡姫も少々苦労はしたようだが、の〟
「あらぁ……まあまあっ! 人族がドラゴンと知った上で、瑠胡姫様を受け入れたということですのね? 種族を超越した愛……素敵」
目をキラキラと輝かせた少女は、高揚で赤くなった頬に右手を添えながら、ほうっと吐息を漏らした。
「ギランド様。瑠胡様のつがいとなられた人族のかたに、お目にかかったことはございますか?」
〝ある。確か、ランド・コールとかいう名だったな。傍目には強そうではないが、あれでグレイバーンを打ち負かしたらしいのでな。腕っ節は確かなようだ〟
「グレイバーンを? そのような御方と、つがいだなんて……瑠胡姫様もお幸せでしょうね。もうすぐ繁殖期ですから、お二人も子作りをなされるのでしょうね。天竜神様の神界も、さぞ賑やかになられることでしょう」
うっとりとした表情になった少女に、老ギランドは「いや」と短く否定の言葉を発した。
〝それがな。瑠胡姫はすでに、人界に下っておられるようだ。天竜神の世継ぎは、兄の与二亜が受け継ぐことが決まったようだ〟
「まあ、そうでしたの。それで、お二人はどちらの居を構えられたのです?」
〝インムナーマ王国の外れにある、メイオール村……らしい。そこそこに辺鄙で、そこそこの規模の集落もあるようだから、信仰も集めやすかろう〟
「インムナーマ王国……メイオール村。ランド・コール様に、瑠胡姫様」
少女は両手で素早く印を結びながら、最後に自分のこめかみを指先で突いた。その途端、瞳の色が琥珀から赤に変わった。
しばらく無言だった少女の顔が、急に真っ赤になった。
少女が先ほどしていたのは、彼女の持つ《魔力の才》――《スキル》のことだ――は、〈幻視〉である。
居場所と名前……それ以上の詳しい情報もあれば、より正確に相手の姿を視ることができる。
今はランドと瑠胡の様子を見ているわけだが――。
顔を真っ赤にさせた少女の呼吸が、少しばかり荒くなり始めていた。インムナーマ王国周辺の地域では、もう深夜と言っていい時間帯になっている。
少女が一体、なにを視ているか……流石に窘めようとした老ギランドだったが、少女に起こった『異変』に、その考えを断念した。
たらり。
少女の鼻から、赤い二筋の滴が垂れ始めていた。
「あらあら……まあまあまあまあまあジュルリグフデュフフフ……まあまあまあまあ」
両の拳を身体の前で固く握り締め、呼吸は荒く、そして口元からは涎も垂れかけ始めていた。
老ギランドは礼儀正しく、少女の言動――特に鼻血――から目を逸らすと、視線を天井に向けながら溜息を吐いた。
〝最近の若いものは……まったく〟
老ドラゴンの呟きは、そんなことより幻視に夢中になっている少女の耳には、まったく届いていなかった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
お久しぶりで御座います。やっと第九部の開始となりました。
のっけから新キャラ美少女ですが……言動が少しばかり変化もしれませんが、美少女ですから、仕方がありません。
なにせ、美が少ない、少女ですからね。こればかりは、字面が悪いとしかないですね。
……ないですよね?
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
次回も宜しくお願いします!
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