屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
250 / 276
第八部『聖者の陰を知る者は』

エピローグ

しおりを挟む


 エピローグ


 ユピエルたちがジョシアを連れて王都へと帰還して行ったのは、ヘラの一件が終わった次の日だった。
 ヘラは予定通り、ジョシアさんやドミニクさんの住む集落へと向かった。
 それから十日後。
 メイオール村では俺への仕事の依頼も戻り、久しぶりに平穏な日々を送っていたわけなんだけど……少々問題も残っていた。


〝病原扱いは、未だに納得できん〟


 ジココエルは毎日のように神殿にやってきては、愚痴を言っていく。怪文書の差し代人を突き止める為とはいえ、病原菌扱いされたことには不満を感じているようだ。
 朝も早くから愚痴を言い来るジココエルの相手は、もちろん俺だ。
 一階の玄関口で、俺はジココエルの愚痴を聞いていた。


「レティシアも謝ったんだろ? そろそろ許してやれよ」


〝前もって謝罪と説明はあったが、あんな妙ちくりんな病を宿すとは、聞いておらぬ〟


「……ああ、あれか」


 村人への説明時にレティシアが示した嘘の症例は、即興とはいえ、あまりにも酷い内容だった。ジココエルが怒るのも、理解は出来る。
 今日は、どうやって宥めよう――そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「誰だ――どなたですか?」


「騎士団のフレッドです……」


 俺がドア向こうの訪問者に声をかけると、《白翼騎士団》に所属する従者のフレッドの声が返ってきた。
 俺はジココエルに黙っているよう告げてから、ドアを開けた。金髪碧眼のフレッドは神殿に入ってくると、暗い顔で俺を見上げた。


「ランドさん……知ってたら教えて下さい。最近になって村の人たちが、俺に対して距離を取っているようなんです。どうしてか、わかりませんか?」


「ええっと……」


 俺は正直、返答に困っていた。あの村人への説明について、フレッドは説明を受けていないようだ。
 レティシア……おま、人の心とかないんか。
 こればかりは、俺の口からは答えられない。あんな珍妙なネタにされたなんて、どうして言うことができるんだ?
 大体、あの作戦はリリンとレティシアが中心となって考えたものだ。俺は村人たちを騙すような気がして、乗り気じゃなかったから、立案には参加してない。


「……それは、レティシアに聞いてくれ」


 フレッドから視線を逸らしながら、俺はそう答えるのが精々だった。

   *

 その日の昼過ぎ。
 食事を食べ終えたばかりの俺と瑠胡、そしてセラの元に、紀伊がやってきた。


「……セラ様。お客様がお見えです」


「わたしにですか?」


「はい。ファラと名乗る女性ですが、お心当たりはありますでしょうか?」


 紀伊が告げた名に、俺たちはハッと顔を見合わせた。ファラさんはこの前、セラの母親であると打ち明けたばかりだ。
 セラは少し緊張した面持ちで、背筋を伸ばした。


「すぐ行きます」


 セラが小走りに廊下に出てから、俺と瑠胡もゆっくりと部屋を出た。
 セラの母親なら俺の義母になるわけだし、そうなると瑠胡にとっても義理の親に近い存在になる。
 挨拶くらいは、しておきたかった。
 俺と瑠胡が一階に降りると、玄関のすぐ内側にはファラさん以外にもヘラと、修道騎士のウトーが居た。
 三人は俺たちに気付くと、それぞれに違う顔を見せた。
 俺は先ずファラさんに挨拶をしたあと、ウトーに話しかけた。


「なんでウトーがここにいるんだ?」


「……このご婦人の警護だ。わたしが居れば、教会も下手に手出しは出せぬだろう」


「別に、要らないって言ってるんだけどねぇ」


 ファラさんは嘆息しながら、両手を腰に当てた。口では文句を言っているが、その表情は柔らかい。
 俺とウトーは視線だけを合わせると、ほぼ同時に苦笑した。
 普通なら、ユピエルに対する恨みや怒りから、教会関係者には冷たい対応をしてもおかしくない。この程度で済んでいるのは、元修道女であるファラさんだからだろう。
 基本的には、優しい女性だと思う。
 俺はまだ苦笑を顔に残したまま、ファラさんに問いかけた。


「それでファラさん。今日は村の仕事ですか? それともセラに会いに?」


「両方とも違うよ。なんでも、あたしに王都からの使いが来るらしくてね。メイオール村で面会をすることになってるんだ。まだ来てないみたいだったから、時間までセラと話がしたくてね」


「王都からの使いですか……まさか、教会とか?」


「さあ、ね」


「だから、わたしの護衛が必要なのだ」


 表情を引き締めたウトーは、俺へと目を向けた。


「できれば、立ち会いを願いたい。手伝い屋だったか……その賃金は支払おう」


「わたしからも頼む。おまえも来てくれたら、心強い」


 ヘラからも頼まれ、俺は瑠胡やセラと目配せをした。


「いや。セラの母なら、俺たちにとっても親族みたいなものだからさ。警戒も兼ねて立ち合うくらいするさ」


「左様。妾も行かせて貰おう」


 セラはもちろん、ファラさんに付き添うつもりでいたらしい。俺と瑠胡の返答を受けて、ウトーの口元に笑みが浮かんだ。


「それは有り難い。そろそろ時間になるかもしれん。村へ行くとしよう」


「ああ、その前にさ。ランド、ちょっといいかい?」


 ファラさんは俺を見てから、神殿の石壁に軽く触れた。


「ちょっとさ、神殿の中とか埃っぽくないかい? 掃除とか、ちゃんとしてる?」


「えっと……すいません」


 俺は素直に謝りながら、心の中では違うことを考えていた。
 ファラさんは俺にとって義母――そう思っていたけど、少し違うようだ。

 どっちかっていうと、姑ってやつだこれ。


「娘が住む場所なんだから、ちゃんとしてよ?」


 と言われて、俺は「はい」と答えるしかできなかった。
 肩身の狭さを覚えつつ、俺は皆と一緒にメイオール村の広場へと出向いた。そこでは久しぶりに訪れた隊商が、残り少なくなってきた冬を越すための食材などを、細々とだが売り始めていた。
 これも冬も終わりが見え、春が近づいて来たという証でもある。
 俺たちが広場に近寄ると、黒い修道服を着た女性が駆け寄って来た。青い目に痩せてはいるが、快活そうな顔立ちの中年女性は、大きく手を広げた。


「ああ、セラ!」


「え――まさか、シスター・マギー?」


 ファラさんよりも若干年下らしい中年の修道女が、セラに抱き付いた。ひとしきり再開の喜びを表したあと、シスター・マギーはファラさんの手を取った。


「お久しぶりです、ファラ」


「マギー……どうして貴女が?」


 ファラさんに問われ、シスター・マギーは微笑みながら答えた。


「なにかあったときに、貴女とセラ、それにヘラ……だったかしら。三人の手助けができるようにって、修道女の派遣が決まったの。それで次の修道院長って立場をほっぽり出して、こっちに来ちゃった」


「来ちゃったって……王都の修道院は大丈夫なの?」


「大丈夫よ。掻い摘まんで話すけど、法王の悪事というか、過去の出来事が色々と明るみになったのよ。あたしは昔から、ユピエル法王のこと嫌いだったしね。正直に言って、ざまあみろって感じ。
 ああ、それでね。ユピエル法王が溜め込んだ私財が、修道院とか地方の教会に配分されることになったの。お陰で修道女や養っている孤児たちに、少しは良い物を食べさせることができるわ」


 シスター・マギーは俺や瑠胡へと目を向けると、小さく手を振りながら微笑んだ。


「あなたがたが、セラの家族ね。話は色々と伺っているわ。困ったことがあったら、遠慮無く頼って頂戴ね」


 そう言いながら近寄ってきたシスター・マギーは、俺の真ん前で立ち止まった。


「ランド……でいいのかしら。セラのこと、頼むわね。ああ見えて、か弱いところも多いから」


「はい。承知してます」


「それと、セラのことを泣かせたら、タダじゃおかないから。王都修道院に所属する全員で、仕返しに来ますから……そのつもりで」


「……はい。承知しました」


 これって、カチコミって言わないか?
 表情を引きつらせた俺の返答を聞いて、シスター・マギーはニコニコと微笑みながら離れていった。
 なんか、今日一日でもの凄く……肩身が狭くなった気がする。セラに対しては瑠胡に負けないくらい、俺なりに最大限の誠意と愛情を以て、接してると思うんだけどなぁ……。
 なんとなく空を見上げると、ウトーが俺の肩に手を置いた。それはそれで、やるせない気分が増してしまう。
 俺は重い溜息を吐きながら、なんとなくトホホな気分になっていた。

 ……どーして、こうなったんだろうなぁ。

 こればかりは、《異能》を使っても解決しそうにない。
 真冬に比べれば暖かくなってきたはずなのに、心の中では真冬のような木枯らしが吹き荒れている。

 ……春、遠いなぁ。

                                                                                 完

----------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

第八部も、エピローグまで漕ぎ着けることができました。これも読んで頂いている皆様のおかげ……本当にありがとうございます。

八部では、教会について色々と書きましたが……別に、キリスト教が嫌いとか憎いとかありません。
一神教の宗教がちょっと……ってだけです。

歴史的にみて、一神教の教義的に選民思考が強いという印象でして。「この素晴らしい神を信仰している俺たちは偉い。ほかの神を崇めている奴らは、不幸で下等な民族だ」と、見下している感じですね。。
すべてのk教がそうではないにしろ、他の神々を悪魔と蔑視してましたしね。
この排他的な価値観はI教でも同じで、神社やお寺を破壊してる人もいるわけです。

これが価値観の根底にありますので、欧米で盛んなポリコレなんかも、似たような感じになってますね。
「多様性を尊重していこうと決めたので、俺たちで多様性のルールを決めた。だから、それ以外の表現は認めない――」

という感じだと思います。
ぶっちゃけやってることは、排他的結束、全体主義な言論統制である気がしてます。これをひと言で表すなら、ファシズムだと思うんですけどね。。
と、最近の流れに対する不満も書いてみたり。そんなわけで、一神教はちょっと……って感じです。

ただし現在のk教は、1960年くらいに他の宗教も容認する宣言を出しています。とはいえ、それまでの歴史では、無茶苦茶やっていたわけですが。
多神教のすべてが素晴らしいとも言いませんけど。

なお、以上は個人の感想であり、効果や副作用には個人差がありま(以下略

ちなみに「カチコミ」云々という表現はですね。
修道院の修道って、極道に似てるよね字面的な意味でってネタです。神道とか書道なんかも似てますよね。字面だけなら。

ということで、深い意味はないですので、御了承下さいませ。

次回の第九部ですが、ちょっとお時間を頂きます。題材は決まっているのですが、話には出来ていない状況です。プロット作成中ですので、しばしお待ち下さいませ。
早ければ来週末までには……なんとかプロローグを(自分を追い込むスタイル

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

第九部も是非に宜しくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)

おいなり新九郎
ファンタジー
 ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...