屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第七部『暗躍の海に舞う竜騎士』

エピローグ

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 エピローグ


 ジャガルート国を出て十一日目の正午過ぎ、俺たちはやっとメイオール村へと帰ってきた。
 すでに冬も深まり、畑や山々にはうっすらと雪のあとが残っている。
 神殿に入るや否や、俺たちは紀伊に出迎えられた。まずは疲れた身体を休めようと、俺と瑠胡、それにセラは、それぞれ自室へと入った。
 ブーツを脱いで畳に上がると、俺はそのまま寝転がった。板張りの天井をボンヤリと見上げると、ふと裁定が行われたあとのことが頭に浮かんだ。




 別れ際、キングーは俺やセラと話をしていた瑠胡を呼び止めた。


「瑠胡姫――この度は、色々とご迷惑をおかけいたしました」


「状況次第では、謝って済む問題ではなかったが……終わったことゆえ、もう考えぬようにしておる」


「寛大なお心に、感謝致します。是非……春前までには、またお会いしたいです」


「……妾とランドの仲を認めるという話かえ?」


 スッと目を細める瑠胡に、キングーは静かに首を横に振った。


「それは、ランド殿のこれから次第――と、させて下さい」


「そうか。ならば、それまでは会う必要もなければ、用事もないのう」


「そんなに、つれないことを仰らないで下さい。あなたの強さ、そして寛大さに感銘を受けたのですよ。なるほど――確かに貴女は、ドラゴン族で最高の姫だと、そう確信したのです。もう一度くらいは、会って話をしたいと思うのは、仕方の無いことでしょう」


 キングーの言葉は、大袈裟なほどの身振りを交えながらのものだ。だけど、瑠胡もそうみたいだが、俺たちにとっては、キングーの行いが目に余りすぎて、あんな仰々しい言葉を聞いても、心に響かなかった。




 あのときのキングーは、明らかに瑠胡へ色目を使っていたように思う。ジコエエルやペークヨーにしても……瑠胡は、人気がありすぎる。
 この旅が終わってからも、道中に感じた不安が、まったく解消されていない。
 キングーも件もそうだが、俺自身のこともある。
 今回で判明した、《異能》の正体。これが今後、俺の運命にどう関わっていくのか……いや、そんなに仰々しいことになるとは限らないけど、漠然とした不安はある。
 寝転がったまま盛大な溜息を吐くと、部屋のドアがノックされた。


「……ランド、少しよろしいですか?」


 瑠胡の声に、俺は上半身を起こした。


「いいですよ。入って下さい」


 俺が返事をすると、ドアが開いて瑠胡とセラが部屋に入ってきた。
 畳に座る俺に近寄りながら、瑠胡は小さく微笑んだ。


「部屋の外まで、溜息が聞こえてきておりましたよ」


「どうかしたんですか?」


 それぞれに、そんなことを言いながら、二人とも畳に上がってきた。
 さっきの溜息が部屋の外まで聞こえたことに、自分でも驚いていた。少し気恥ずかしさを覚えながらも、俺は二人に肩を竦めてみせた。


「溜息の理由は、大したことじゃないですよ」


「それならいいのですが。でも溜息は、幸せが逃げると言いますよ?」


 右隣に腰を落ち着けた瑠胡の言葉に、俺は微笑みながら返した。


「ああ、俺は今のところ、その心配がありませんからね。大丈夫ですよ」


「……どうしてですか?」


 怪訝そうな顔のセラが、俺の左側に座る。
 俺は両隣に腰掛けた二人の肩を抱くと、少し照れた顔を見られないように、顔は正面を向いたまま答えた。


「……ここに、幸せが二人分も来てくれたので」


 俺の返答を聞いて、瑠胡とセラが目配せをした――気がした。
 そして二人して微笑むと、左右から俺の顔を覗き込んできた。


「そういうことでしたら、わたくしたちも遠慮は致しませんから」


「……そうですね。そこまで言って頂けたんですから」


 なんのことだろう――という顔をしていると、瑠胡が俺の右腕に腕を絡めてきた。


「いえ。約一ヶ月ぶりに我が家で過ごせますから。今宵くらいは、今までの分もたっぷり甘えようと思っていたんです。ですが、わたくしとセラ、どちらか一方だけというのは、少しばかり不公平かと思ったんです」


「そこで瑠胡姫様が、いっそのこと三人で過ごしましょうと」


 ……ええっと。
 …………えええっと、それはその。倫理観とか大丈夫なんだろうか?

 そんな俺の問いに、瑠胡は「あら。だってセラも家族なんでしょう?」と、事も無げに答えちゃったんですが。
 多数決的にも二対一。しかも、ここで断るという選択肢は、かなり取りづらい。
 今の俺に出来るのは、「頑張ります」と答えることくらいだ。
 セラも俺に身体を預けてきたというとき、廊下から紀伊の声がした。


「瑠胡姫様、ランド様、セラ様。《白翼騎士団》のレティシア殿が、いらっしゃいました。お三方に、ご相談したいことがあると仰っておりますが」


「……レティシアが?」


 俺たちは互いに顔を見合わせてから、部屋を出た。
 一階へと降りると、赤毛の馬――元ジコエエルだった、エエカトルが変身した姿だ――を連れたレティシアが待っていた。


「……帰ったばかりだというのに、すまない」


「いや、いいけど……どうしたんだ?」


 俺が二人――いや、一人と一頭を交互に見ると、レティシアは視線を彷徨わせてから、溜息交じりに答えた。


「このジコエエルに、肉か魚の食事をさせてほしい。騎士団の厩舎では、それが難しくてな」


「難しいって……いや肉なら、騎士団だって備蓄はあるだろ?」


 俺がそう指摘をした直後、神殿の扉が激しくノックされた。


「ランド君! ここにレティシア団長って来てない!?」


「ああ、いるけど?」


「ま――待て」


 俺がクロースへ返答をしてから少し遅れて、レティシアが慌てたように制してきた。
 その慌てっぷりに、なにかあったのか――そう訊ねる前に、神殿の扉が慌ただしく開かれた。


「レティシア団長! ランド君たちに頼めばいいとか、駄目ですからね! 馬に肉なんか与えたら、お腹を壊しちゃいます!!」


「待て、クロース。先にも説明したが、この馬は……」


「前の飼い主が肉を与えていたって、そんな無茶をここでやる必要はありません! ここでは飼い葉とか、せめてニンジンを――」


 レティシアとクロースのやりとりを見て、俺は完全に理解した。
 エエカトルは、元々ワイアームだった。今は竜神の眷属神だが、基本的には肉食のはずだ。
 そして、それは馬の姿でも変わらないはず――なんだが。どうやらレティシアは、騎士団の面々に、エエカトルのことを説明していないらしい。
 説明しちゃえば楽なんだけど……この馬が竜神の眷属神とか、元々はワイアームだって話をしても、簡単には信じて貰えないだろうし。
 となると実家が酪農家で、騎士になった今でも頭の中は酪農家なクロースが、エエカトルに肉を食べさせるなんて、許すはずがない。
 言っていることだけなら、ド正論なわけだし。
 俺はエエカトルにそっと近寄ると、小声で耳打ちした。


「苦労するな、あんたも」


〝うむ……この展開は、予想外であった〟


 周囲の見回りのときにでも、神殿に寄れば肉か魚を食べられるよう、紀伊に頼んでおこう。
 なんかもう……自分の不安を考える余裕もない。
 少しでもいいから、悩む時間が欲しいんだけど……これを《異能》で解決できないかと考えてみたが、案の定というか、まったく思いつかなかった。

 はあぁぁぁ……。

                                     完

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

馬になったエエカトルですがボツネタとして、馬の姿のときの名が、エドってのがありました。
あのドラマ、名前は知っているんですが、見たことはないので、ネタにしにくいという理由で、ボツにしました。

あと、前回で説明を端折ったことが一つ。
グレイバーン戦で、ランドの棘がグレイバーンの上顎に突き刺さって〈スキルドレイン〉ができた理由ですが。
ランドが無意識で使った《異能》で〈魔力障壁〉を発生させて、グレイバーンの〈魔力障壁〉を中和させたから……なんですね。

そこで戦いを見物していた神々に、《異能》のことが知られたというわけです。

というわけで、第七部も終わり……

次のプロットは、まだ作成中。現在、章分けの最中です。少しお待ちを……。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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