屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第七部『暗躍の海に舞う竜騎士』

四章-4

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   4

 ランドとペークヨーの戦いを見守っているのは、瑠胡とセラだけではなかった。
 海岸の隅にあるパイン種の樹木に隠れるように、キングーが戦場となっている砂浜を見ていた。
 しかしその目は、ランドやペークヨーを見ていない。


(戦いの場に、あそこまで近寄っているなんて……)


 海面から十数マーロン(一マーロンは、約一メートル二五センチ)ほど上空に浮いてはいるが、魔術などの攻撃が対象を外れた場合、被害を受ける可能性が捨てきれない。
 キングーは瑠胡とセラから目を離すことなく、樹木に触れていた手に力を込めた。


(瑠胡姫だけは、なんとしても御護りしなけれれば……)


 胸の奥から響く鼓動に気付かぬまま、キングーはまるで騎士のような誓いを自らに課していた。

   *

 砂浜に降り注いだ光の粒子は砂浜の表面で、ただ消えただけのように見えた。だけど、まるでその光の粒子に反応するかのように、砂が動き出していた。
 波打ち始めた砂浜は、次第に渦を描くような軌跡を描き始めた。
 渦は幾重にも重なり始め、徐々に中心にいる俺へと迫って来た。長槍を手に周囲を警戒していると、渦から明るい緑色をした影が、何十体も飛び出してきた。
 それは一見、大蛇のように見えた。しかし、ワニのような四本の脚がある個体や、前脚が手のようになっている個体など、その形体は様々だ。
 体長はどれも二マーロン(約二メートル五〇センチ)ほどで、脚を使うより、長い胴体をくねらせながら移動するヤツが多い。
 まさかとは思うが、こいつらすべて、ドラゴン族なんだろうか?
 そうなると他の魔物とは異なり、迂闊には殺せない。俺はこいつら――まとめて小ドラゴンと呼ぶけど――に飛びかかられる前に、ドラゴンの翼で飛び上がった。


〝よくも抜け出せたものよ。だが砂浜に潜ませておった彼奴らが、無駄にならずに済みそうだ。さあ……其奴らを躱しつつ、いつまで雷を防げるか。我も楽しませて貰おうか〟


「ふざけんな、てめぇ! 手下の助っ人なんざ、卑怯じゃねぇのか!!」


〝其奴らは、手下などではない。あれらは我が身体から作りだし、何十年も育ててきた……言わば、我が眷属たちだ。我が身体から造りだした故に、我とは一心同体の関係である。卑怯などとは、言いがかりに過ぎぬ。そもそも、戦いの場において、死力を尽くすことこそが、最大の礼儀であろう。我はただ、それに準じておるだけだ〟


 ペークヨーの言い分に絶句していると、小ドラゴンの中で翼のある十体ほどが、俺に迫って来た。
 飛べるヤツもいるのか……くそっ!
 俺が長槍を構えて立ち向かおうとしたが、その直前に飛んできた小ドラゴンたちが、光条や冷気によって撃ち落とされた。
 俺が振り返ると、瑠胡とセラが次々と小ドラゴンを打ち払っていた。瑠胡は竜語魔術、そしてセラはミスリルの細剣から、《スキル》の光条を放っている。
 次々に小ドラゴンの動きを封じる二人に、ペークヨーが唸り声をあげた。


〝瑠胡姫――そして、そこの天竜の娘よ。我らの戦いに割り込むことは、許さぬ〟


「なにを申すか。妾とセラは、ランドのつがいぞ。御主の言葉を借りれば、妾たちとランドは一心同体。なんの問題もなかろう」


「……そういうことです。ランド、あの眷属たちは、こちらで引き受けます」


 俺は瑠胡とセラに礼を言おうと振り返った。
 そのとき、どこかから飛んできたキングーが、瑠胡たちの前に立ちはだかった。


「いけません、瑠胡姫。あなたがたが、ランドと一心同体という戯れ言が、認められるはずが御座いません。迂闊に手を出せば、御身の身が危うくなります。ここは、退いて下さいませんか」


「馬鹿なことを申すな! あの眷属神の卑怯な行いに対し、大人しく見ていることなど、できるはずもなかろう!!」


 瑠胡の怒声を浴びても、キングーは引き下がろうとしなかった。
 静かに首を横に振ってから、諭すような声で告げた。


「ペークヨー殿も眷属神とはいえ、神の一柱でございます。一心同体なる眷属を使うことが妥当だと……そう決められたのであれば、それは間違いがないのでしょう。それでドラゴン族の権威が保たれるのであれば、我らにとっても僥倖ではありませんか」


「巫山戯るでない! その言い分は、ただの二枚舌であろうがっ!!」


「……その通りです。それでもまだ止めるというなら、こちらも力尽くで押し通るまで」


 瑠胡の隣で、セラが細剣の刀身を身体の中心に沿わせるように構えた。
 そんな二人の反論と意志の固さに、キングーは露骨に怯んだ。どうやら、言い返せる言葉が見つからないらしい。
 そのまま黙っているキングーの代わりに、ペークヨーが口を開いた。


〝ならば、我もそれ相応の対応をせねばなるまいな。我の力をその身で受け、動けなくなったところを蹂躙されれば、我が意にも沿うようになるだろう〟


「――な!? てめぇ……それが神の言う言葉か!」


 絶句する瑠胡とセラの前で、俺は目を剥いてペークヨーを見上げた。
 しかしペークヨーは自らの発言を省みるどころか、傲慢無礼な態度で俺たちを見た。


〝無論。瑠胡姫は、眷属神たる我とつがいとなるために存在する。それを理解しておらぬとなれば、それ相応の躾は必要であろう〟 


「か――勝手なことを! 無礼千万とは、このことを申すのであろうな。妾は御主などと、つがいになる気など毛頭無い。顔も見たくない故、早々に立ち去れ、この愚か者」


 怒りから顔を真っ赤にさせた瑠胡に、ペークヨーが牙を剥いた。
 俺はそのペークヨーを睨め上げたまま、片手で瑠胡とセラを制した。


「二人とも……下がってて下さい」


「ランド、なにを言うのです。全員で立ち向かいましょう」


「瑠胡姫様の言うとおりです。ここは、三人で戦うべきです」


「……いいから。下がって」


 俺は短く制してから、改めて言葉を付け足した。


「ちょっと……ね。怒りで自制が利きそうにないんですよ。もう、一切の手加減なんかしてやるつもりはないんで。そこで待ってて下さい。絶対に、生きて戻りますから」


 俺は二人の返答を待たずして、僅かに高度を下げた。
 静かに動きを追ってくるペークヨーへ、俺は口元に笑みを浮かべて見せた。


「待たせたな。それにしても、今回は勉強になったぜ。死力を尽くしてこそ最大の礼儀、ね。なら、俺もそれに準じようじゃねぇか」


 言っているあいだに、俺は砂浜の一角へと降り立った。それと同時に、小ドラゴンたちが一斉に周囲を囲む。
 戦いの再開――そんな合図は、一切無い。
 周囲を取り囲んできた小ドラゴンたちは、一斉に砂浜にいる俺へと飛びかかった。不意打ちにも等しい――とは、言わない。俺だって、もう《スキル》は使っている。
 数十体の小ドラゴンが、砂浜にいる俺を中心に、緑色の塊のように集まった。その様子を上空から見ていた・・・・・・・・俺は、《隠行》を解くと、素早く竜語魔術を唱えた。
 緑の塊の少し上で、〈爆炎〉が炸裂した。
 凄まじい業火と爆風に煽られ、小ドラゴンたちは砂浜中に散っていった。直撃させなかったこともあり、どの小ドラゴンも死んではいない。しかし、手足や尻尾を痙攣させ、しばらくは起きあがることすら難しいだろう。


〝な――〟


「なにを驚いてやがる。こんな有象無象を集めたって、俺に勝てるわけねーだろ!」


〝貴様――っ!〟


 怒りを露わにしたペークヨーの頭部に、火花のようなものが散り始めた。
 だが一瞬だけ早く、俺は〈筋力増強〉をした腕力で、長槍を投げつけていた。空気を切り裂く音を立てながら飛翔する長槍は、ペークヨーの喉元へと命中した。
 しかし――長槍は突き刺さるどころか、容易く弾かれてしまった。


〝愚かな――眷属神とはいえ神の一柱たる我に、そのようなものが利くわけがない。我が鱗には、神気の護りによって、魔術や刃への耐性があるのだ。すべての攻撃は、その威力が半減以下となる〟


「……そーかい」


 俺だって、あんなもので斃せるなんて思ってない。喋りながら、俺は過去二回ほど経験した、異能だと思われる力の発現を思い出そうとしていた。
 ペークヨーの周囲を回るように飛びながら、俺は懸命に、過去二例の感覚を手繰り寄せた。
 鍵が開くという感触が、身体の中心部から伝わってきた。


〝死ね!〟


 ペークヨーが雷を落とす――そのときにはすでに、俺は目にも止まらぬ素早さで、ヤツの胴体の真下へと潜り込んでいた。


〝なんだと!?〟


 頭上から光り――雷雲の中で稲妻が走った光のようだ――が降り注いだが、落雷はなかった。
 寸前のところで、ペークヨーが《魔力の才》を止めたらしい。


〝貴様――〟


「あんたも、雷は苦手らしいな」


 ペークヨーの真下から離れつつ、俺は威勢を保つのに必死だった。
 それは雷を回避できたことへの安堵感が、原因じゃない。うっすらとだが、異能の正体に気付いてしまったからだ。

 ……確かに、こんな力は《異能》と称されても仕方が無い。

 恐らく、世界の秩序や法則の根幹から、逸脱した力のはずだ。だから神々は、俺のことを人間の範疇を超えたと――そんなようなことを俺に告げたんだと思う。
 だけど、《異能》を今後どう扱っていくかなんか、考えるのはあとだ。今の最優先事項は、ペークヨーとの一騎打ちに勝つことだ。


「覚悟は出来たか、屑野郎。てめえは、完膚なきまでに砕いてやる」


 左手に力を込めながら、俺はペークヨーがいる位置まで高度を上げた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

今回の戦闘シーンは、長くなるのでかなり分割しております。

キングー絡みが原因なんですが。

雷対策は……今回は面倒なことをやってます。一番簡単なのは、甲冑(金属製の全身鎧)を着て地面に立っていることなんですが。
このあたりはもう完結をしている『魔剣士と光の魔女』で説明しているわけですが。

ランド君は転生者ではないので、そのあたりの物理的知識は皆無です。だから、悪戦苦闘しているわけですね。
ホント、知識って大事。
ただ甲冑も、空中に浮いていたら意味がないので、難しいところですが。

あとですね……今回使った「有象無象」という単語。これをキャラクターに言わせるかどうかで、かなり迷いました。
元は仏教用語ですしね……異世界の住人が使っていいのか、というのが理由なんですが。
結局、他に良い単語も見つからなかったので、そのまま使ってしまいました。

そんなわけで、本作の世界には「有象無象ざぁこ❤ざぁこ❤」という言葉が存在するということで、御了承のほどお願いします。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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