屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第七部『暗躍の海に舞う竜騎士』

幕間

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 幕間 ~ 無邪気な願望


 インムナーマ王国の王都であるタイミョン。
 首都だけあって街の人口も多く、大通りでは仕事を求める傭兵や移住希望者、それに市場での売り買いのためにきた商人らの往来が盛んである。
 しかし、平民の多く住む区画の裏路地になると人影も減り、城塞都市らしい増築を繰り替えした家屋や、集合住宅が目立つようになる。
 その路地裏で、数人の子どもたちが遊んでいた。金髪の少年が、周囲にいる子どもたちに手の平を見せていた。


「いいか、見ててよ」


 金髪の少年が周囲の子どもたちを見回してから、気合いを込めた。その途端、手の平から少し浮いた場所に小さな炎が浮かび上がった。


「すっげーっ!」


「すごい《スキル》じゃん!」


 子どもたちの歓声に、金髪の子どもは得意げに炎を消した。


「やっと、《スキル》が発現したんだ。みんなは、もっと早かったもんね」


「でもさぁ。そんな凄い《スキル》じゃないからなあ。僕なんか、物が少し浮くだけだし」


「僕は〈夜目〉だって。つまんないよね」


 子どもたちがわいわいと自分の《スキル》について喋っている中、ヘーゼルブラウンの髪色をした少年だけは、ずっと黙ったままだ。
 年の頃は六歳くらい。青っぽい瞳だが、光の加減では紫にも見える。
 金髪の少年は、ヘーゼルブラウンの髪の少年に無邪気な目を向けた。


「あ、そっちはなんの《スキル》を持ってたっけ?」


「……僕は、まだ、発現して、ないんだ」


 少年の返答に、周囲の子どもたちが「あれ?」という顔をした。
 

「まだ発現してないの?」


「もう六歳だよね? 六歳で出ないと……本当にカスみたいな《スキル》のかのうせい……が、高いんだって」


 周囲からわいのわいのと言われ続ける中、少年は無言で両手を固く握り締めていた。
 すでに《スキル》が発現している皆への羨望と、まだ発現していない劣等感と悔しさで、胸の中では感情が入り乱れていた。


「僕だって……」


 顔を上げた少年の頭の中では、いつも思い描いている想像を何度も反芻していた。
 強大な武器が手から出てくる、もしくは一撃でどんな魔物も斃すような強大な力を放つ――そんな夢想を抱えながら、左手を前に突き出した。


「ぼ、僕だって……《スキル》を出せるようになるよ!」


 半ばムキになった少年は、左手に力を込めた。
 そんなもので《スキル》が発現することは、ほとんどない。半ば呆れながら少年の手を見ている子どもたちの前で、手の平の一点が赤くなり始めていた。


「うわあああっ!」


 気合いの限界で少年が叫んだ瞬間、手の平に赤い棘が生えた。
 荒い息をつきながら、少年は自分の手を見た。子どもたちが見守る中、少年は口元をぷるぷると震わせてから、歓喜の声を挙げた。


「やったっ! 見てよ、これっ!!」


 手の平に出来た赤い棘に、子どもたちも遅れて笑顔になった。


「やったじゃん! 強い武器なのかな?」


「赤い棘だけで武器……になるのかな?」


 少年が発現した《スキル》の評価は、このときが最高潮だった。
 訓練兵になってからもこの棘が成長することはなく、最終試験では新たな力に覚醒したものの、王都追放の原因となってしまった――。




「ん――」


 王都追放を申し渡されたときの絶望感が蘇った拍子に、俺は目を覚ました。
 ジャガルートにあるオモノという街に来て、最初の夜だ。船旅の影響で体が揺れる感覚は、夕食前には抜けていた。
 今になって思えば、王都を追放された俺がメイオール村に移住したのが、すべての転機だった気がする。
 そこでレティシアと再会し、《白翼騎士団》としての仕事を依頼され――瑠胡に出会ったのだから。
 まだ残っている絶望感を吐き出すように、俺は大きく息を吐いた。


「ランド……どうかしましたか?」


 俺の左横で寝ていたセラが、気遣わしげに声をかけてきた。
 まだスッキリとしない頭のまま目を向けると、上半身を起こしていたセラは「少しうなされてましたから」と、微かに微笑んだ。
 窓から月明かりが差し込んでいるから、なんとか表情は読み取れる。俺は大きく息を吐いてから、セラへと答えた。


「ちょっと夢見が悪かっただけですよ。王都を追い出されたときのことが、夢に出てきて……」


 俺の返答で、セラの表情が少し曇った。
 セラの友人であり、元上司ともいえるレティシアが、俺の王都追放に絡んでいることを知っていたらしい。
 そんなこと気にしなくてもいいと、俺は苦笑してみせた。


「ああ、レティシアのことはもう、気にしてませんから。それから色々あったな……とか、考えてたくらいで」


「色々……ですか?」


「ええ。メイオール村で手伝い屋を初めて、レティシアが訊ねて来て……《白翼騎士団》のみんなや瑠胡にも会って」


 指先でセラの前髪に触れながら、俺は微笑んだ。
 微笑み返してくれたセラの視線が、僅かに逸れた。その視線の先には、俺の右隣で寝ている瑠胡がいる。
 瑠胡は俺の右腕を枕に、体にしがみつくようにして寝ているんだけど……俺の肩の辺りを甘噛み――なのか?――中である。

 瑠胡が俺のことを好きと言ってくれるのが、食欲込みだったらどうしよう。

 そんな冗談じみた考えが頭の中を過ぎって、俺は笑みを噛み殺した。


「どうかしました?」


「いえ、なんでも。それより、メイオール村に残った騎士団が、元気でやってるといいですね」


 俺の言葉に、セラは優しく微笑んだ。


「確信がありますけど、元気でやっていることだけは間違いありません」

   *

「まったく……冗談じゃないわ」


 食堂のテーブルを使って書類の整理をしていたキャットが、乱暴に頭を掻き毟った。
 現在、メイオール村に残っている《白翼騎士団》の団長代理をしているキャットは、レティシアの代わりに諸々な雑務を熟さなくてはならない。
 その主な雑務が、書類の精査だ。
 とはいえ、メイオール村に駐屯している限りでは、重要で細やかな精査が必要な書類はない。
 主な内容は、食料や日用品の購入に関する会計と……村の住人から送られてくる苦情や始末書である。


「ちょっと、フレッドはいる!?」


「さっき、村に出てったよ? 買い出しに行くって……なにかあったの?」


「旅籠屋の娘さんから、苦情が来てるのよ。毎晩毎晩……なんど断っても、言い寄ってくるってね!」


「あらら、じゃあ……今回も買い出しを理由に、旅籠屋さんへ行ったかもね」


「でしょうね」


 言ってから、キャットは舌打ちをした。
 苦情の陳情を脇に避け、次の書類に目を落としたキャットは、怒りを露わに周囲を見回した。


「エリザベート! この際、ユーキでもいいわ。どっちかいる!?」


「あの……呼びましたぁ?」


 たまたま近くを通りかかったらしいユーキが、おずおずと食堂に入って来た。
 キャットは乱暴な素振りでユーキを手招きすると、苦情と始末書がセットになった書類を差し出した。


「エリザベートが畑を焼いたって、本当なの!?」


「え? ええっと……焼いたといっても雑草だけって聞いてますけどぉ」


「雑草じゃない。畑の土壌をよくするために、枯れ草を置いていただけよ。なんでまた、畑で魔術を使ったのよ」


「……修行を兼ねて、虫を焼こうとしたみたいです」


「ユーキね、あんたはエリザベートと仲良いんだから。こういった阿呆なことは止めて頂戴。ついでに訊くけど、リリンはどこで何をやってるわけ?」


「ええっと……ここのところ、見回りと食事以外は、ずっと魔術の本を読み漁ってますけど……」


「勉強? まあ、今までで一番マシな行動よね。なにか魔術を覚えるつもりなんでしょ?」


「ええっと、それが……ランドさんたちを追いかけるために、転移する魔術? そういうったのを習得しようとしてるみたいです。なんでも、儀式だけで一ヶ月くらいはかかりそうとかで……」


 ユーキの回答を聞いて、キャットはテーブルに突っ伏した。


「それ、儀式をする途中でレティシア団長たちが帰ってくるんじゃない? まったく、懐きすぎよ」


 なんとかテーブルから顔を上げたキャットは、その気になれば大地の底まで――底があれば、だが――掘れそうな、盛大な溜息を吐いた。


(レティシア……こんな環境で、よく平然と団長なんかやってられるわね)


 レティシアに対して心からの感服と、そして一秒でも早い帰還を願いながら、キャットは食堂の天井を見上げたのだった。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

幕間ってなんだっけ? そんな文字数になりました。

あまりにも《白翼騎士団》の面々が出てこない話ですので後半に、おまけ的な話を追加したのが原因なんですが……。

ひたすらにキャットが不憫な話となりました。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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