屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
204 / 276
第七部『暗躍の海に舞う竜騎士』

幕間

しおりを挟む


 幕間 ~ 無邪気な願望


 インムナーマ王国の王都であるタイミョン。
 首都だけあって街の人口も多く、大通りでは仕事を求める傭兵や移住希望者、それに市場での売り買いのためにきた商人らの往来が盛んである。
 しかし、平民の多く住む区画の裏路地になると人影も減り、城塞都市らしい増築を繰り替えした家屋や、集合住宅が目立つようになる。
 その路地裏で、数人の子どもたちが遊んでいた。金髪の少年が、周囲にいる子どもたちに手の平を見せていた。


「いいか、見ててよ」


 金髪の少年が周囲の子どもたちを見回してから、気合いを込めた。その途端、手の平から少し浮いた場所に小さな炎が浮かび上がった。


「すっげーっ!」


「すごい《スキル》じゃん!」


 子どもたちの歓声に、金髪の子どもは得意げに炎を消した。


「やっと、《スキル》が発現したんだ。みんなは、もっと早かったもんね」


「でもさぁ。そんな凄い《スキル》じゃないからなあ。僕なんか、物が少し浮くだけだし」


「僕は〈夜目〉だって。つまんないよね」


 子どもたちがわいわいと自分の《スキル》について喋っている中、ヘーゼルブラウンの髪色をした少年だけは、ずっと黙ったままだ。
 年の頃は六歳くらい。青っぽい瞳だが、光の加減では紫にも見える。
 金髪の少年は、ヘーゼルブラウンの髪の少年に無邪気な目を向けた。


「あ、そっちはなんの《スキル》を持ってたっけ?」


「……僕は、まだ、発現して、ないんだ」


 少年の返答に、周囲の子どもたちが「あれ?」という顔をした。
 

「まだ発現してないの?」


「もう六歳だよね? 六歳で出ないと……本当にカスみたいな《スキル》のかのうせい……が、高いんだって」


 周囲からわいのわいのと言われ続ける中、少年は無言で両手を固く握り締めていた。
 すでに《スキル》が発現している皆への羨望と、まだ発現していない劣等感と悔しさで、胸の中では感情が入り乱れていた。


「僕だって……」


 顔を上げた少年の頭の中では、いつも思い描いている想像を何度も反芻していた。
 強大な武器が手から出てくる、もしくは一撃でどんな魔物も斃すような強大な力を放つ――そんな夢想を抱えながら、左手を前に突き出した。


「ぼ、僕だって……《スキル》を出せるようになるよ!」


 半ばムキになった少年は、左手に力を込めた。
 そんなもので《スキル》が発現することは、ほとんどない。半ば呆れながら少年の手を見ている子どもたちの前で、手の平の一点が赤くなり始めていた。


「うわあああっ!」


 気合いの限界で少年が叫んだ瞬間、手の平に赤い棘が生えた。
 荒い息をつきながら、少年は自分の手を見た。子どもたちが見守る中、少年は口元をぷるぷると震わせてから、歓喜の声を挙げた。


「やったっ! 見てよ、これっ!!」


 手の平に出来た赤い棘に、子どもたちも遅れて笑顔になった。


「やったじゃん! 強い武器なのかな?」


「赤い棘だけで武器……になるのかな?」


 少年が発現した《スキル》の評価は、このときが最高潮だった。
 訓練兵になってからもこの棘が成長することはなく、最終試験では新たな力に覚醒したものの、王都追放の原因となってしまった――。




「ん――」


 王都追放を申し渡されたときの絶望感が蘇った拍子に、俺は目を覚ました。
 ジャガルートにあるオモノという街に来て、最初の夜だ。船旅の影響で体が揺れる感覚は、夕食前には抜けていた。
 今になって思えば、王都を追放された俺がメイオール村に移住したのが、すべての転機だった気がする。
 そこでレティシアと再会し、《白翼騎士団》としての仕事を依頼され――瑠胡に出会ったのだから。
 まだ残っている絶望感を吐き出すように、俺は大きく息を吐いた。


「ランド……どうかしましたか?」


 俺の左横で寝ていたセラが、気遣わしげに声をかけてきた。
 まだスッキリとしない頭のまま目を向けると、上半身を起こしていたセラは「少しうなされてましたから」と、微かに微笑んだ。
 窓から月明かりが差し込んでいるから、なんとか表情は読み取れる。俺は大きく息を吐いてから、セラへと答えた。


「ちょっと夢見が悪かっただけですよ。王都を追い出されたときのことが、夢に出てきて……」


 俺の返答で、セラの表情が少し曇った。
 セラの友人であり、元上司ともいえるレティシアが、俺の王都追放に絡んでいることを知っていたらしい。
 そんなこと気にしなくてもいいと、俺は苦笑してみせた。


「ああ、レティシアのことはもう、気にしてませんから。それから色々あったな……とか、考えてたくらいで」


「色々……ですか?」


「ええ。メイオール村で手伝い屋を初めて、レティシアが訊ねて来て……《白翼騎士団》のみんなや瑠胡にも会って」


 指先でセラの前髪に触れながら、俺は微笑んだ。
 微笑み返してくれたセラの視線が、僅かに逸れた。その視線の先には、俺の右隣で寝ている瑠胡がいる。
 瑠胡は俺の右腕を枕に、体にしがみつくようにして寝ているんだけど……俺の肩の辺りを甘噛み――なのか?――中である。

 瑠胡が俺のことを好きと言ってくれるのが、食欲込みだったらどうしよう。

 そんな冗談じみた考えが頭の中を過ぎって、俺は笑みを噛み殺した。


「どうかしました?」


「いえ、なんでも。それより、メイオール村に残った騎士団が、元気でやってるといいですね」


 俺の言葉に、セラは優しく微笑んだ。


「確信がありますけど、元気でやっていることだけは間違いありません」

   *

「まったく……冗談じゃないわ」


 食堂のテーブルを使って書類の整理をしていたキャットが、乱暴に頭を掻き毟った。
 現在、メイオール村に残っている《白翼騎士団》の団長代理をしているキャットは、レティシアの代わりに諸々な雑務を熟さなくてはならない。
 その主な雑務が、書類の精査だ。
 とはいえ、メイオール村に駐屯している限りでは、重要で細やかな精査が必要な書類はない。
 主な内容は、食料や日用品の購入に関する会計と……村の住人から送られてくる苦情や始末書である。


「ちょっと、フレッドはいる!?」


「さっき、村に出てったよ? 買い出しに行くって……なにかあったの?」


「旅籠屋の娘さんから、苦情が来てるのよ。毎晩毎晩……なんど断っても、言い寄ってくるってね!」


「あらら、じゃあ……今回も買い出しを理由に、旅籠屋さんへ行ったかもね」


「でしょうね」


 言ってから、キャットは舌打ちをした。
 苦情の陳情を脇に避け、次の書類に目を落としたキャットは、怒りを露わに周囲を見回した。


「エリザベート! この際、ユーキでもいいわ。どっちかいる!?」


「あの……呼びましたぁ?」


 たまたま近くを通りかかったらしいユーキが、おずおずと食堂に入って来た。
 キャットは乱暴な素振りでユーキを手招きすると、苦情と始末書がセットになった書類を差し出した。


「エリザベートが畑を焼いたって、本当なの!?」


「え? ええっと……焼いたといっても雑草だけって聞いてますけどぉ」


「雑草じゃない。畑の土壌をよくするために、枯れ草を置いていただけよ。なんでまた、畑で魔術を使ったのよ」


「……修行を兼ねて、虫を焼こうとしたみたいです」


「ユーキね、あんたはエリザベートと仲良いんだから。こういった阿呆なことは止めて頂戴。ついでに訊くけど、リリンはどこで何をやってるわけ?」


「ええっと……ここのところ、見回りと食事以外は、ずっと魔術の本を読み漁ってますけど……」


「勉強? まあ、今までで一番マシな行動よね。なにか魔術を覚えるつもりなんでしょ?」


「ええっと、それが……ランドさんたちを追いかけるために、転移する魔術? そういうったのを習得しようとしてるみたいです。なんでも、儀式だけで一ヶ月くらいはかかりそうとかで……」


 ユーキの回答を聞いて、キャットはテーブルに突っ伏した。


「それ、儀式をする途中でレティシア団長たちが帰ってくるんじゃない? まったく、懐きすぎよ」


 なんとかテーブルから顔を上げたキャットは、その気になれば大地の底まで――底があれば、だが――掘れそうな、盛大な溜息を吐いた。


(レティシア……こんな環境で、よく平然と団長なんかやってられるわね)


 レティシアに対して心からの感服と、そして一秒でも早い帰還を願いながら、キャットは食堂の天井を見上げたのだった。

-------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

幕間ってなんだっけ? そんな文字数になりました。

あまりにも《白翼騎士団》の面々が出てこない話ですので後半に、おまけ的な話を追加したのが原因なんですが……。

ひたすらにキャットが不憫な話となりました。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

処理中です...