屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
157 / 276
第五部『臆病な騎士の小さな友情』

エピローグ

しおりを挟む


 エピローグ


 俺たちがメイオール村に戻ってきた翌日、俺と瑠胡、それにセラの三人は、レティシアに呼ばれて《白翼騎士団》の駐屯地へと赴いていた。女従者が伝言を伝えに来ただけなので、なんの用件かは知らされていない。
 駐屯地へと向かう道中、俺は老ギランドと会ったときのことを思い出していた。
 軍馬を返すためにクレートに立ち寄った夜、俺と瑠胡、セラの三人で、老ギランドの住処を訪問した。
 あのゴーレムを地中に埋めたこと、そしてゴーレムを操作する水晶球を瑠胡が確保したことを報告すると、老ギランドは素直に喜んでくれた。


〝約束通り、我を慕う若い同胞らに、そなたらのことを承認するよう言っておこう〟


 これで終わりというわけではないが、俺と瑠胡に対する問題が、解決に向けて一歩前進することができた。
 捕らえたジランドとタムランについては、詳しくは知らない。ジランドは前線で処遇が決まるらしいし、タムランは牢屋の中だ。
 ただし、タムランは騙されていたという点に、情状酌量の余地があるわけだが……最後に俺たちを襲ったことについては、魔術師ギルドからの処罰があるらしい。
 そんな回想に耽っていた俺は、レティシアの声で我に返った。


「ランドにセラ、それに瑠胡姫様。急な召集をしてしまい、申し訳ない」


「いえ。構いませんよ、レティシア」


 腰に細身の剣を下げたセラが、慇懃に挨拶をした。この剣はゴーレム討伐の礼にと、エルフたちが譲ってくれたもの――ミスリルの細剣だ。
 魔力を籠めた剣は、その軽さからは想像できないほど強固な刀身を持っている。
 そういえば瑠胡は、あの水晶球を神界へ持っていくと言っていた。ここよりは、安全に保管できるのは間違いないだろう。
 俺はセラから視線を戻すと、レティシアに小さく手を挙げた。 


「それより、どうしたんだ?」


 俺の軽い問いかけに、レティシアは悩ましい顔をした。
 呼び出しておいて悩む素振りを見せるとは、レティシアにしては珍しい。どうしたのかと訝しんでいると、しばらくしてから顔を上げた。


「ああ、すまない。ユーキの一件で、まずは礼を言わせて欲しい。おかげで、ユーキを失わずにすんだ。その上で、一つ訊かせて欲しい。一体、エリザベートになにをした?」


 レティシアの質問の意図が、まったくわからない。
 瑠胡やセラ――三人で互いに顔を見合わせている俺たちに、レティシアは「来てくれ」と言って駐屯地の奥へと促した。
 駐屯地の建物に入ろうとしたとき、エリザベートの大声が聞こえてきた。


「リリアーンナ! 今日の昼食後に、あたしと勝負しなさい!!」


 駐屯地の建物の前で、エリザベートは相も変わらず、リリンにライバル心を剥き出しにしていた。
 リリンはいつもの澄まし顔で、感情のない声で答えた。


「勝負は禁止されていますので……お断りします」


「そんなの、こそっとやれば、ばれないでしょ!? 魔術師ギルドでの決着、今日こそつけてやるんだからね!」


 どうやらエリザベートは、レティシアがいることに気付いていないらしい。
 まだ未遂ではあるが、命令違反を目の当たりにして、レティシアが苦言を呈そうとしたそのとき、今度は駐屯地の隅からユーキの悲鳴が聞こえてきた。
 どうやら朝方に、またベリット・ハイント男爵からの物資が届いたようだ。積み上げられた木箱や樽は、傍目から見ても前回の倍近い量がある。
 こりゃ仕分けも大変だ――と思っていると、エリザベートが勢いよくユーキのほうを振り向いてから、リリンに言い放った。


「勝負はお預けよ。ちょっと待ってなさい!」


 そう言うなり、エリザベートはユーキがいるほうへと走り去ってしまった。
 その姿を目で追いながら、レティシアは俺たちを再び促してきた。


「丁度良い。一緒に来てくれ」


 俺たちを引き連れたレティシアは、ユーキとクロースがいる場所から、少し離れたところで立ち止まった。
 その前では途方にくれているユーキに、柳眉を上げたエリザベートが詰め寄っていた。


「こんな荷物くらいで、悲鳴をあげるんじゃないわよ!」


「だ、だって……こんな量、今日中に終わらないですよぉ」


「そうだね……これはまた、ランド君の手を借りないと駄目かな?」


 半ば諦め気分なユーキとクロースの顔を、エリザベートは木箱を叩きながら見回した。


「こんなもの、効率よくやっていけば、夕方には終わるわよ! わたしも手伝うから、さっさと終わらせるわよ」


「エリザさん、ありがとうございます」


 ユーキが微笑みながら礼を述べると、エリザベートは遠目に見る俺たちでもわかるくらいに、頬を紅く染めた。


「べ――別に礼を言われることじゃないわよ。その代わりに、ユーキには魔術の修行を手伝って欲しいのよ。つまり、交換条件ね」


「え、でも……あたし、魔術については、なにも知らないですよ?」


「別に、ユーキに魔術の技術なんか期待してないわよ」


 エリザベートはあっさりと答えながら、腕を組んだ。


「わたしが縄で吊した標的に魔術を放つから、その命中率なんかの統計を取って欲しいのよ。一人でやるのは面倒臭いから、手伝って欲しいの」


「ああ、そのくらいなら。でも、わたしで良いんですか?」


 ポンとを打ちながらユーキが問いかけると、エリザベートは僅かに視線を逸らした。傍目にも顔を真っ赤に染めながら、小声で返答をした。


「あなた以外に、誰に頼めっていうのよ。約束――したからね」


「はい、喜んで!」


 ユーキがにっこりと答えたところで、レティシアが俺たちを振り返った。


「あれだ。水と油――とはいかないまでも、馬の合わなかった二人が、あの調子だ。昨日までの遠征で、なにがあった?」


「と、言われてもなぁ……」


 俺や瑠胡たちが知っているのは、ゴーレムに対して共闘したくらいだ。合流するまでのあいだに、なにがあったのか――それはユーキとエリザベート以外、誰も知らないことだった。
 俺は返答の代わりに、苦笑した。


「いいじゃないか。いい相棒同士パートナーになるんじゃないか?」


「確かに、そうなってくれたら助かるが……」


 まだ不安が拭えないのか、レティシアの表情は晴れなかった。
 そんなとき、俺たちの存在に気付いたらしいエリザベートが、こっちにやってきた。


「良いところに来たわね、ランド。 夕方から、魔術の修行に付き合いなさいよ」


「魔術の修行って……俺の知ってる魔術は、竜語魔術だけだぞ?」


「別に、あんたの知識なんか要らないわよ。あたしが魔術を放つから、あんたは標的役をやって頂戴」


 エリザベートの発言が即座に理解できず、俺たちは一様に無反応だった。
 数秒して、俺はやっと内容が理解できた。


「……イヤだよ、そんなの」


「なんでよ。魔術を受けても平気なんでしょ? 減るもんじゃないんだから、標的役くらい引き受けてよ」


「減るとか、そういう問題じゃねーだろ。精神衛生的に、かなり悪影響じゃねぇか」


「その通り。ランドを乱暴に扱うのは止めよ」


「おまえは一々、振る舞いが自分本位すぎるぞ。もっと他者へ気を使え!」


 俺の返答に続けて、瑠胡とセラがエリザベートに文句を言ってくれた。最後にはユーキも駆けつけてきてくれて、ようやくエリザベートは引き下がった。
 まあ、こうやってユーキとエリザベートが上手くやっていけたら、それでいいさ――とりあえず、俺はそう思うことで怒りを鎮めたのだった。



 この日の夕方。
 エリザベートが魔術の修行をしていた森で、火災が起きた。
 レティシアの要請で鎮火に向かった俺と瑠胡は、火災現場から逃げてくるエリザベートとユーキに遭遇した。
 鎮火も終わったあと――ユーキとエリザベートは、ガチ切れしたレティシアの怒声を浴びることとなった。
 煤と灰まみれになった俺は身体を休めながら、(二人を褒めるのは時期尚早だったか)と、少しだけ後悔していた。

                                    完      

--------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

エピローグで、本文が3千文字台を超えるかと思いました……。
良かった、老ドラゴンの下りを記憶の回想にしておいて――と、今回ばかりは自分を褒めたい気分です。

次回は第六部になりますが……多分、土曜日になると思います。最近の流れでは土日、水曜のアップという流れですが、次回の水曜日は休みになるかと。

プロットがですね……ちょっと作り直しをしています。章分けの部分ですので日月火あたりで纏められると思います。
その旨、御了承のほどよろしくお願いします。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!       
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...