屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
152 / 276
第五部『臆病な騎士の小さな友情』

四章-2

しおりを挟む

   2

 捜索隊の兵士があそこで倒れたのは、俺たちが到着する少し前のことだったらしい。その少し前に、大きな足音が聞こえてきたらしい。それはゴーレムが移動する足音で間違いないだろうから、俺たちとユーキたちとの時間差は、そんなに無いはずだ。
 リリンの指示で、フレッドは馬車を奔らせている。二頭立てとはいえ、フレッドを含めて六人を乗せた馬車で、ユーキたちに追いつけるとは思えない。
 俺は意識を周囲へと広げ、精霊たちの声を聞こうとした。風の精霊たちの気配を拾った俺は、彼らに語りかけた。


「風の精霊たちよ。ユーキたちの――ゴーレムに追われた馬まで、俺を導いてくれ」


 目を閉じて返答を待ったが、しばらくして帰ってきたのは、俺の期待していたものではなかった。


〝ダメダメ……行っちゃダメ〟


〝危ないよ――そっちが危ないよ〟


 彼らの返答は、警告そのものだった。
 こっちが危ないというのは、ユーキを追いかけようとしている俺のことか、それとも馬車のことか――精霊の言葉は、判断が難しい。
 言葉の意味を考えていると、俺同様に精霊の声を聞いていた瑠胡が、話しかけてきた。


「ランド……精霊の声を聞きましたか?」


「はい。なんか、警告みたいなことを言われました」


「わたくしもです。精霊たちは嘘を言いませんから……無視することは、しないほうがいいでしょう」


 瑠胡はそう言うが、ユーキたちのほうも心配だ。
 セラは俺たちの会話を聞いてから、リリンへと身体を向けた。多分だけど、俺たちが動けないのを察して、リリンになにかを頼むつもりみたいだ。


「リリン。ユーキたちと接触できないか? できれば街道を戻って、我々と合流できる進路を取るように伝言をしてほしい」


「……やってみますが、馬の速度も速いので、少し手こずりそうです」


 リリンは返事をしてから、杖の上端におでこを付けた。
 どうやら使い魔の使役に集中するみたいだ。その様子を見守っていると、再び精霊たちの声が聞こえてきた。


〝なにか来るよ〟


〝森の妖精! 人の言葉では、エルフと呼ばれる、それが来るよ!〟


 風の精霊の声を聞いて、俺が幌の前側から顔を出そうとしたとき、上からトスンッという音がした。
 なんだ――と思いながら前側の幌を開けた直後、幌の上から青い光が降りてきた。


「うぉ――っ!」


 いきなりのことに驚いて声をあげた直後に、それが逆さまになった顔だと、やっと認識できた。
 肌の白い女性――それもとびきりの美人だろう。開いた幌の中程まで垂れた、まっすぐな金髪。切れ長の瞳は青色で、耳は少し尖っている。
 エルフの女性だ。
 今さっき、風の精霊たちが言っていたのは、彼女のことだろうか。
 俺が青い光と認識したのは、どうやら彼女の瞳らしい。事実、エルフの目は暗闇の中で、淡い光を溢れさせていた。


「――驚かせて、申し訳ありません」


「いや、大丈夫。ええっと、なにか用なんですか?」


 我ながら間抜けな問いかけだと思ったが、エルフはまったく表情を変えぬまま、静かに口を開いた。


「あなたがたが、予定外の行動を取られているので、わたくしたちは戸惑っています。この行動の趣旨と目的を教えていただけないでしょうか?」


「予定外のことが起きたんで……今、あのゴーレムに仲間が追われています。それを助けようとしている最中です」


 俺の返答に、エルフは小さく頷いた。


「……詳しい事情は把握できませんが、状況は理解しました。今、ナインフたちもこちらに向かっています」


「こっちは馬車ですが、追いつけるんですか?」


「我々にも騎乗できるものはおりますよ。数騎ですが、こちらに向かっております。追いつき次第、援護はできるはずです」


 エルフの返答を聞いて、俺は頷いた。


「ありがとうございます。俺たちは先行したいんですが――風の精霊たちが、馬車から動くなって言われてて」


「精霊たちが? それなら、そうしたほうがいいでしょうね。それより、見ていない人がいるようですが。その寝ている人は、あなたがたの仲間ですか?」


 エルフが青く光る目を、馬車の床に寝かしている兵士に向けた。
 まっすぐに兵士を見たことから、ほぼ真っ暗な馬車の中で、人の区別が悔いているようだ。エルフは暗闇でも人の区別ができるって聞いたことがあるけど……これがそうなのか?
 俺は渋面でエルフへと向き直った。


「途中で出くわした怪我人です。あのゴーレムを操っている奴らに、やられたみたいなんですよ。手当をしながら、情報を聞いています」


「そういうことですか。合流できれば、わたくしたちでも手当を致しましょう。それでは、また後ほど――」


 エルフの姿が幌の上に消えると、大きく揺れるランタンに照らされたフレッドが、丸くした目で俺を振り返った。


「ビックリです……でも、良い匂いしました」


 あ、そ……。
 こいつに緊張感とかねぇのか。事故らないでくれよ――と忠告してから、俺は幌の中に戻った。

   *

 暗い森の中で、松明の灯りが揺らめきながら、街道方向へと移動していた。
 松明の灯りの側には、小さな光点が浮かんでいる。いや、正確にはローブの男の手の中に、光る水晶球があった。
 タムランとジランドの二人組みだ。
 元々はゴーレムを移動させながら、自分たちも安全な場所へと移動をしている最中だった。その途中で、水晶球にゴーレムと遭遇したユーキたちの姿が映ったのだ。
 それを切っ掛けに、ジランドが当初の予定を変更しようと言い出した。


「こいつらは、捕らえるべきだ」


「どうしてですか。もし逃げ出すのでしたら、放っておけば良いでしょう?」


 そう言って首を振るタムランがゴーレムを動かそうとすると、水晶の中のユーキたちは一目散に逃げ出した。
 その様子を見て、ジランドはタムランに怒鳴った。


「追え! 早くっ!!」


「え? わ、わかりました」


 ジランドの剣幕にただならぬものを感じたのか、タムランはゴーレムにユーキたちのあとを追わせた。


「……説明をして下さいますか?」


「あいつらが逃げたって、決めつけるのは危険だぜ? もしかしたら、援軍を呼びに行った可能性がある」


「援軍……ですか?」


「ああ、そうだ。数で俺たちを包囲する作戦なのかもな。それには、援軍が必要――そういう可能性だってある。ここで捕まえて、作戦とアジトを吐かせる必要があるってわけだ。理解したか?」


「なるほど。それなら納得がいきます」


 タムランは水晶球を見つめながら、ゴーレムを急がせた。しかし、ユーキたちの乗る馬へは、少しずつしか距離を詰められなかった。それほどまでに、馬を急かしているようだ。


「俺たちも街道へ行くぞ。すぐに追いつけないまでも、追いかけた方が時間の短縮になるからな。本隊や援軍の行動を早めに掴めれば、こっちが有利になる筈だ」


「わかりました。こういう戦術的なことには疎いもので……そのあたりの判断は、あなたにお願いしようと思いますが……どうでしょう?」


「ああ、任せな」


 ジランドは答えながら、タムランを引き連れて街道へと進み始めた。


(……援軍が来て包囲でもされたら、拙いことになるからな。その前に、ランドを含めた捜索隊の奴らを叩き潰さないとな……)


 内心の焦りを悟られまいとして、「任せな」と言ったものの、ジランドは最前線での戦いを得意とする気質だった。
 戦術など、その場凌ぎの一手しか思いつかない。


(さて、どうするかな……)


 ジランドはゴーレムが追いかけている、《白翼騎士団》の女騎士を捕らえるのが、第一だと考えた。
 捜索隊の情報を聞き出し、そのあとは人質として利用しようというのだ。
 前回の――ゴガルンたちとメイオール村で一暴れした一件を見る限り、ランドは人質を見捨てられるほど冷徹になりきれないはずだ――と、ジランドは確信していた。
 ジランドとタムランに手出しできなければ、ゴーレムには太刀打ちできない。ジランドが今考えられる、これが最良の戦術だった。

「ゴーレムだけじゃ、手間取りそうだからな。俺たちも追いかけたいが――」


「そんな。馬に人が追いつけるはずありません」


 タムランの言うことは、もっともだった。
 なんとかして、早急に馬を手に入れなければ――と考え始めたとき、ジランドたちは街道のすぐ手前まで来ていた。
 こんな夜中では、街道を通る商人などいない。


(それこそ、山賊が通りかかってくれたらいいんだけどよぉ……)


 ジランドが溜息を吐いた矢先、街道の東側から蹄の音とともに、それにランタンらしい灯りが揺れているような光が見えてきた。


(こいつはいい――運が向いてきたな)


 商人か山賊かは、どちらでもいい。
 あの馬を拝借してやろうと、ジランドは疲労で鈍くなった思考を疑いもせず、口元をにやけさせていた。

--------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

本編中についてなんでが、でも目茶苦茶余談な話となりますが……。

エルフの目が青く光っていたのは、インフラビジョン使用中の印です。インフラビジョンを御存知ない御方のために軽く説明しますと所謂、サーモグラフィですね。
温度を視覚で感知する能力ですが、光があったら、あまり使えない――というのが、一般的な設定な気がします。
ちなみに、ドワーフも同様の能力があるってパターンも多いですが……何故か、映画のロードオブザリングやホビットでは、無いものとして描かれてますね。

ここでは、ランドたちの温度(体温)を視て、兵士を知らない人だと認識しています。
これをちゃんと書くと、説明文が長くなるのでかなり端折りました。ですので、ここで補足をば。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

次回もよろしく願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...