屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第五部『臆病な騎士の小さな友情』

二章-4

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   4

 老ギランドの住処で朝を迎えた瑠胡とセラは、米を焼いたような朝食を済ませたあと、
洞穴から出た。
 朝食の最中、老ギランドは瑠胡についての噂について訊いてきた。


〝天竜族の瑠胡姫よ。なんでも最近、つがいと下界に降りた――天降りあまくだりをしたという噂を聞いたが〟


「左様。このセラも妾のつがい・・・であるランドを慕って、天降りをしておる」


〝ほお……人でいうところの、色男といった者のようだな〟


「そういうわけではない。しかし……なかなかに善き男だと、妾は思うておる」


 瑠胡の返答に、老ギランドは呵々と笑った。


〝そうか! 其奴とみまえるときが、楽しみだ〟


「うむ。期待は裏切らぬだろう。楽しみにしておれ」


 そんな会話を思い出しながら、瑠胡は朝日に目を細めた。岩山の中腹から周囲を見回しても、眼下に見えるのは森の木々だけだ。
 進むべき方角に迷っている瑠胡に、セラが声をかけた。


「瑠胡姫様。クレートという街への道案内は、わたくしが致しましょう」


「そうですね。お願いします、セラ」


 鷹揚に頷く瑠胡とセラは、首筋から生えるドラゴンの翼を大きく広げた。
 来た道を戻るような進路をとった二人は、上昇しながら東へと進路をとった。

   *

 クレイモート領の領主街、クレートに俺たちが到着したのは、メイオール村を出て四日目の昼過ぎだった。
 王都にハイント領よりも王都に近いこともあり、城塞都市の形式を取っているが、城塞はさほど高くなく、見張りがいる壁の上は一般家屋の二階程度しかない。ともすれば、街中にある家屋や教会のほうが高いくらいだ。
 ただし、城塞にある見張りの塔だけは地上四、五階程度の高さがある。城塞としては、かなり歪な構造だ。
 街の規模は、王都には負けるものの、城塞都市としてはそこそこに広い。領主の住居も城というよりは砦のような造りをしていて、大通りを歩いていると、イヤでも目に付く大きさをしていた。
 ザルード卿は街に到着するなり、俺たちを砦へと誘った。


「まずは、領主であるリンカーラ様へ挨拶に行かねばなるまい。従者を除いて、わたしについて来るのだ」


「挨拶と簡単に仰有いますが、約束もなしに会えるはずがないでしょう?」


 エリザベートの反論はもっともなものだったが、ザルード卿は平然としていた。


「今回の訪問については、もう書状を出してある。我々よりも先に、リンカーラ様の元に届いているはずだ」


 この返答に、俺は素直に驚いていた。
 ここまでの道中、宿場町や大きな町を経由してきた。俺の知らないうちに、そのどこかで手紙を出していたらしい。
 こうした手際の良さは、流石に貴族の端くれといったところだろう。反論できる要素がない以上、断る理由はない。
 宿の手配をフレッドに任せて、俺たちはザルード卿の先導で砦へと向かった。
 門番とのやりとりは、先に書状が届いていたのか、すんなりと中へ通された。謁見の間に案内された俺たちを待っていたのは、厳つい顔つきをした白髪の老人だ。
 貴族らしい質の良い衣服を着ていても、鍛え抜かれた筋骨が、武人であることの主張をやめてはいなかった。
 領主が座る椅子に腰掛けた老人へ、ザルード卿は片膝をつくように跪いた。


「リンカーラ様、本日はお目通りが叶いまして、恐悦に存じます」


「いや、ザルード殿。わたしと貴公の仲だ。堅苦しい挨拶など、ぜずともよい」


「ありがたき御言葉で御座います」


 ザルード卿は頭を上げると、すぐ後ろにいたユーキをリンカーラ卿の前へと促した。
 どこか顔を引きつらせたユーキに構わず、ザルード卿は朗らかに告げた。


「娘のユーキです。先日、太刀筋を確認しましたが、幼い頃の才は衰えておりませんでした」


「ほほう……それは楽しみであろう。手紙によれば、魔物の討伐をしに来て下さったということだな。その腕、しかと振るわれるがよい」


「は――はいぃ。ありがとうございますぅ……」


 ユーキはかなりぎこちなく、リンカーラ卿へと礼を述べた。
 その青ざめて半泣きとも見える表情は、相手が慣れぬ男性というだけではない、かなりの恐怖を感じているようだ。
 ユーキが下がると、リンカーラ卿の視線が俺へと移った。


「して、そちらの剣士は?」


「ええ、そこの者は、今回の討伐における案内者です。あのゴガルンを倒した者だと、《白翼騎士団》の団長が言っておりました」


「ほお……そのほう、名は?」


 検分するかのような目を向けてくるリンカーラ卿に、俺は軽く膝を折った。


「ランド・コールと申します」


「ランド・コール……ふむ。そのほうの剣技、いつか見せて欲しいものだな」


「……機会があれば」


 俺は努めて慇懃に応じたが、下を向いた顔は不快感で満ちていたと思う。
 それで俺との会話は終わったようで、リンカーラ卿はザルード卿に目を戻した。


「魔物を確認したという情報はいくつかあるが……武勲を立てるほどの存在は噂にも聞かぬ。その情報を持つ者は、どこにいるのだ?」


「は――なんでも、この街の外に住んでいるということです。気難しい者ということで、ランド殿が明日、話を聞きに行く手筈になっております」


「ふむ……そうか。我らも情報は集めてみよう。今日はここで泊まっていかれるがよい」


「いえ。すでに宿の手配をしておりますので。今日はそこで休むことに致します」


「そうか……積もる話もあるのだが、仕方がない。月を見ながらの酒も悪くない。次の機会に、盃を酌み交わすとしよう」


 リンカーラ卿が小さく手を挙げると、使いの者が俺たちを出口へと促した。
 これでやっと、話は終わったらしい。砦から出た俺たちは、馬車が停まっている宿を見つけると、フレッドと合流した。
 そこは王都で泊まった宿と比べ、かなり上等な旅籠屋だった。石造りの三階建てで、馬車の警護をする傭兵や、下働きの者たちが格段に多い。
 俺の部屋は、個室だった。フレッドは馬車で寝泊まりということだし、ザルード卿は立場上、個室になる。あとは、女性陣しかないわけだ。
 そういった消去法によって個室が割り当てられただけで、俺が特別扱いをされているわけではない。
 湯浴みをして汗や砂埃を拭くと、久しぶりに一人の時間となった。
 道中に、ここまで大きな街がない。宿もそれほど多くないため、フレッドと一緒に馬車の中で寝泊まりすることが続いてたからなぁ。
 時間を持て余してはいたが、それも久しぶりの感覚だ。紀伊から言われていた修練を終えた俺は、二階の窓の側で座っていた。


「――たら駄目なのよ!」


 隣の部屋にいるエリザベートの声が聞こえてきたのは、少し微睡みかけていたころだ。
 耳を澄ませると、どうやらユーキがエリザベートに怒られているらしい。少し内容が気になった俺は、隣の部屋の様子に耳をそばだてた。

   *

「あの領主がトラウマの原因だからって、怯えてたら駄目なのよ!」


「そ、そんなことを言われたって……」


 椅子に座っていたユーキは、上目遣いにエリザベートを見た。ここだけ見ていたら、どちらが年上か、わからなくなる光景だろう。
 語尾を濁すユーキに、エリザベートは柳眉を逆立てながら詰め寄った。


「あなたねぇ、いい加減にしなさいな! そうやってビクビクと、一生を怯えて過ごすつもりなの!?」


「そんなつもりは……ないんだけどぉ……」


「なら、しゃんとしなさい! あなたみたいな人を見てると、あたしは苛々するの!! 父親だからって、あそこまで従属する必要はないでしょ。イヤなものはイヤって、あなたから言えば済む話なのよ、今回のことは全部ね! リリン、貴女からも言ってやってよ」


 エリザベートに名を呼ばれ、リリンは読んでいた本から顔を上げ、視線をユーキへと向けた。


「……ユーキさんらしい、気の使い方をしていると思います。家のこと、家族のこと……そして、わたしたち騎士団の仲間のこと。大事に思う人々のことを気にかけて、なにも言えなくなっている。それを良しとするかどうかは、ユーキさん次第だと思います」


「そんな無難でありきたりな解説なんか、これっぽちも聞いてないわよ! こんな態度を見せられて、苛ついたりしないわけ!?」


「……しません。ユーキさんの性格は、少し好きです。それに、変わろうとして頑張っている、ユーキさんの姿を見ています。それが報われることを、わたしは信じています」


 リリンの返答に、ユーキは嬉しそうな顔で涙ぐんでいた。それと真反対だったのは、エリザベートだ。
 苛々が頂点に来たのか、エリザベートは床を蹴っ飛ばす勢いで踵を返すと、自分が陣取っていたベッドに飛び込んだ。
 もう勝手にしろ――そんな態度を露わにしながら、エリザベートは頭からシーツを被った。
 エリザベートの行動が理解出来ず、オロオロとするユーキに、リリンは冷静にその意味の説明をした。


「ふて寝するから放っておいて――そういうことだと思います」

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本作を読んで頂き、誠にありがとうござます!

わたなべ ゆたか です。

瑠胡たちと合流は――と、思われた方。それはあとの回となります。今、キャプテン翼なみに広大な森を飛んでいるはず(汗 いや、ちゃんと理由はありますが。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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