屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
134 / 276
第五部『臆病な騎士の小さな友情』

一章-6

しおりを挟む

   6

 あのあと俺は、ユーキと二度の模擬戦を行った。結果は一勝一分け――先に一分け、二度目で勝ちだ――となった。
 反則負けとなった模擬戦の内容を、ユーキは一回目の再戦時に反映してきた。初回とはまったく異なる太刀筋とフェイントの連続に、俺は慣れるのに苦労した。
 そしてお互い、ほぼ同時に一撃を加え合ったわけだ。
 二度目は逆に、俺もユーキの動きを踏まえて、紙一重の勝利をもぎ取った。
 ユーキの実力は、確実にレティシア以上――もしかしたら、ゴガルンすらも超えているかもしれない。
 ユーキとの模擬戦を終えたあと、ザルード卿に勝負を申し込んでみたが、顔色を悪くしながら断ってきた。


「わたしがやっても意味は無かろう」


 などと言っていたが、このときのザルード卿の表情から察するに――この人、娘であるユーキの動きに、目が追いついていなかったな。
 娘の方が実力や才能が上だと知って、さぞショックだったろう。
 そのあと、いつの間にか来ていたレティシアが「ご覧のように、ゴガルンを打ち負かした剣士に匹敵する実力を示しているのです」と言って、ザルード卿を説得していたが――その結果は、まだ聞いていない。
 夕暮れ時になって駐屯地から出るころになっても、なんの報せもない。もしかしなくとも、あまり上手くいかなかったのかもしれない。
 俺がセラを連れて駐屯地から出たとき、塀のすぐそばにリリンがエリザベートがいるのを見つけた。
 いつも通りに無表情なリリンに、エリザベートは怒りを露わに詰め寄っていた。


「どうして勝負ができないわけ? どっちの魔術が優れているか――たったそれだけのことよ!。互いに攻撃し合うわけじゃないし、問題はないでしょ!?」


「ですから、レティシア団長から禁止されている以上、その内容に関係無く、勝負を行うわけにはいきません 


「だから――っ!!」


 リリンに断られてもなお、エリザベートは食い下がる。
 ライバル心を持つのは、悪いことじゃない。だけど、ここまで勝負に拘って、集団の規律を乱すのは感心しない。
 俺はセラと目配せをすると、リリンたちのところへと近づいた。


「二人とも、なにを揉めてるんだ?」


「あ――ランドさんに、セラ……さん」


 振り返ったリリンは、セラを見て僅かに表情を曇らせた。
 リリンの背後ではセラを見たエリザベートは、見るからに「拙い」といった顔をしていた。だけど、すぐに開き直ったのか、腰に手を当てながら人差し指をリリンへと向けた。


「聞いて下さいよ! リリアーンナってば、魔術で競い合うのも断ってくるんですよ! 競い合うことで、互いの力量を高めていく――そういうのだって、必要なんじゃありませんか? 現に剣技では、訓練で模擬戦までやっていますよね?」


「それは……そうだが」


 エリザベートの発言に対し、セラは否定しきれなかったようだ。
 今まで《白翼騎士団》に所属する魔術師は、リリン一人だけだった。だから剣技と同じような、魔術の競い合いは不可能だった。魔術の技量を上げるために、リリンは他の誰にも頼れない環境だったわけだ。
 しかし、今はエリザベートがいる。二人で競え合えば、相乗効果で魔術の技量が上がる可能性だってある。
 だけど、それも積み重ねられた実績ありきの話だ。
 闇雲に競い合っても、効果は薄いだろう――と、エリザベートを説得したかったが、効果は薄い気がする。
 俺は少し考えてから、駐屯地の前に広がっている原っぱへと目を移した。


「……例えばなんだけどさ。そこの原っぱで、その魔術の優劣を競ってみるっていうのはどうかな? 使っても良い魔術は一つだけ、攻撃魔術は禁止。優劣は魔術の出来映えと、実用的かどうかの二つ。
 で、この勝負が終わったら、最低でも一ヶ月は勝負をしないってことで」


 俺の提案を、エリザベートは目を輝かせながら聞いていた。
 それだけ魔術勝負を望んでいたらしいが、対するリリンは気乗りしないような表情をしていた。
 検分するような目を俺に向けたあと、少し問うように言ってきた。


「……この目的は、精神的過負荷ストレスの軽減――ですか?」


「それもあるけど、半分くらいは余興かな。なにごとも、遊びは必要だしさ。ま、これでレティシアの機嫌を損ねるようなら、俺が怒られるからさ」


「なるほど、理解はしました」


 リリンは杖を両手で持つと、同じような杖を携えたエリザベートに視線を移した。


「ランドさんの条件でなら、勝負を受けます」


「ええ、構わないわ。そっちのほうが、わたしに有利だもの」


 妙に自信満々なエリザベートは、手にした杖の上端をリリンへと向けた。


「では、リリアーンナ。先攻を譲るわ」


 魔術の見せ合いっこなんだから、先攻も糞もないんだけどな。
 とにかくリリンは、頷くことで了承した。杖の上端に額を当ててから、小声で呪文の詠唱を始めた。


「――ガウス!」


 最後のひと言だけを大声で唱えると、リリンの前で大気が渦を巻き始めた。
 次第に赤みを帯び始めた渦が、炎の筋を描き始めた。数秒ほどかけて大きくなっていった炎の渦が、唐突に消えた。
 あとに残ったのは、全長二マーロン(約二メートル五〇センチ)ほどもある、燃え盛るトカゲだった。
 召還魔術の中でも高等の部類になる、精霊の召喚だ。リリンは使い魔を好んで多用することから、こうした召還魔術を得意としているみたいだ。
 瑠胡と魔術の勉強をしていたこともあって、俺にもこの程度の知識はある。召喚したのはサラマンダーと呼ばれる、炎の精霊だろう。
 エリザベートは召喚されたサラマンダーに驚愕の目を向けたものの、すぐに我に返ったように不敵な笑みを浮かべた。


「ま、まあまあね。でも、わたしの魔術のほうが上よ」


 エリザベートはそう宣言をすると、呪文の詠唱を始めた。
 杖で地面を叩いた次の瞬間、エリザベートの前方にある地面が、ぬかるみ始めた。半径十数マーロンの範囲が、俺たちの前で泥土と化した。


「どうかしら?」


 エリザベートは胸を張っていたが、俺は返答に困っていた。地面を泥にする魔術がどれだけ高等なのかは、まったく理解できなかったからだ。
 俺が困ったように振り返った先にいたリリンは、泥土と化した地面を眺めていた目を上げた。


「これは……見た目よりも高等な魔術ですよ。土と水――二属性の精霊を操り、第五元素であるエーテルも利用している魔術だと思いますから」


「その通りよ! わたしが習得した〈泥土〉は、超高等魔術の一つなんだから!」


 エリザベートは高らかに告げたけど……見た目が地味すぎて、すごさがまったく伝わってこない。
 しかも、なんかに利用できそうでもないし……なぁ。
 セラを見れば俺と同じような考えなのか、言葉に困っているような顔をしていた。
 これは一部界隈で聞くことのある、研究成果としては凄いけど、実用性は皆無な技術の一つなんじゃなかろうか。


「リリン、一つ訊いてもいいかな? 魔術師ギルドっていうのは、こういう魔術の研究って盛んなのか?」


「そうですね。盛んだったと思います。ただ成果が上げられなかったり、有効性が低いものに対しては、研究費が削減されていくようです。最近では……ええっと」


「……ゴーレムの研究が槍玉に挙げられていたわね」


 リリンの言葉を継いで、エリザベートが答えてくれた。


「言っておきますけど、この魔術については、まだ研究中なの。研究費だって、ギルドから出ているんですからね。素体も発見できずに研究ができなかった、ゴーレム魔術なんかと一緒にしないで。わたしとしては、そんなことより勝敗のほうが聞きたいわね」


 エリザベートに急かされ、俺はセラと顔を見合わせた。


「よくわからん部分もあるけど……引き分けでいいかな?」


「いいと思います。技術ではエリザベート、実用性ではリリン。それで問題ないかと」


 セラの返答に、俺は頷いた。


「それじゃ今回は、そういう結果ってことで。あとは実績や功績をあげることで勝負してくれ」


「なによそれ! 大体、こんな辺鄙な片田舎で、功績も糞もないでしょ!?」


 怒りに眉を上げるエリザベートに、俺は小さく首を振った。


「そうでもないさ。今、ユーキの親父さんに娘の実力を見せるため、魔物や山賊とかを探している最中だからさ。そこでなら、功績だって挙げられると思うんだけどな」


「……ふぅん、そういうことなのね。わかったわ。それで、その魔物や山賊の討伐は、いつ出かけるわけ?」


「いや、急かすなよ。まだ、探してる最中だ。見つかったら、すぐにレティシアに報せることになってる」


 瑠胡から与二亜や沙羅に連絡が行っているから、見つかればすぐに情報が来るはずだ。
 詳細は話せないまでも、俺がそのことを伝えると、エリザベートは「わかったわ」と応えた。


「その報せが来るまで毎日、あなたのところへ確認しに行くから。いいわよね?」


 ……マジか。

 なんか、面倒臭いことになってきた。これは俺からも、与二亜へ連絡をしたほうが良いかもしれないなぁ。
 迂闊なことを言ってしまったかもしれない――そんな後悔の念に苛まれながら、俺はセラと帰宅の途につくことにした。

-----------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

本文中にもありました、二つの属性を掛け合わせにエーテルを使うというのは、西洋の黒魔術で言われているものです。参考にしているのは『黒魔術』という書籍なのですね(著者につきましては、『魔剣士と光の魔女』の最後の回に記してあります)。

作中の〈泥土〉は、高等な魔術ではありますが……サラマンダーに比べると、実用的ではなさすぎです。攻撃から魔術の起点、さらには寒い時期の暖を取るにも最適なサラマンダーに比べると、数段落ちるのは間違いありませんね。

この時期、欲しいですよね……サラマンダー。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...