屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
123 / 276
第四部『二人の帰郷、故郷の苦境』

四章-4

しおりを挟む

   4

 グレイバーンとの一騎打ちのため、俺は安仁羅の城を出た。
 俺とともに城を出たのは、瑠胡とセラ、それに紀伊だ。安仁羅は城で報告を持っているし、与二亜は俺たちよりも先に城を出ている。
 広場までの道へと出たとき、俺の後ろを歩いていたセラが話しかけてきた。


「すまない――いや、すいませんでした、ランド。わたしが余計なことを言ってしまったから、一騎打ちをする流れになってしまった」


「気にしなくていいさ。あいつの言動には、苛々としてたんだ」


「そのとおりです。わたくしだって、セラと同じようなことを思っていましたから」


 俺のあとに続いて、瑠胡にも銀竜への苦言を同意され、セラはどこか泣き笑いのような顔をした。


「二人とも……ありがとうございます」


「そこで仲良くしているのは構いませんが……グレイバーンは間違いなく強敵です。勝てる見込みはあるのでしょうか?」


 そんなことを紀伊に問われたけど、勝てる手段があれば教えて欲しいくらいだ。
 俺が肩を竦めることで答えると、紀伊は呆れと怒りとが入り交じった顔をしたが、文句は口にしなかった。
 広場に着いたとき、与二亜は数人の男たちを従えていた。彼らも天竜族なのか、首筋から出ている翼で広場の四隅へと散ると、十数マーロン上空で滞空した。
 与二亜は俺たちに気付くと、ゆっくりとした足取りで近づいて来た。


「まったく……無茶なことを言ったものだ」


「……すいません。あの場は、ああするしかなかった気がして」


「まあ、事情は理解しているよ。それでは、闘技場の説明をしておこう。あの従者たちは、戦いが始まると広場に結界を構築する。攻撃魔術や 炎息ブレス、君ら自身も結界から出ることはできなくなる」


「……わかりました」


「君の装備は、そこに用意してある。装備をしたら、広場へ」


「はい」


 俺は瑠胡やセラに頷いてから、鎧や長剣を身につけた。こんなことなら、盾も持ってくれば良かったな。こればかりは言っても仕方ないが、火種を忘れて旅に出る――後悔先に立たずを意味する格言――というやつだ。
 装備を身につけた俺は、広場へと歩き出した。広場にはもう、グレイバーンが入っていた。
 俺が広場に脚を踏み入れると、音叉が共鳴するような音が、しばらく響いた。どうやらこれで、結界が構築されたらしい。
 俺が広場の中央へと歩いている途中で、グレイバーンの嘲笑が聞こえてきた。


〝はっはっはっ! よくも逃げなかったものだ。愚かさもここまでくると、賞賛に値するぞ! 墓標には世界一の愚か者と刻んでやるから、感謝しろ〟


「それは、あんた自身が入るやつかい?」


 いい加減、反応するのも莫迦らしい。
 なんの捻りもない返しだが、グレイバーンには効果覿面だった。恐らく、こういうやりとりは、経験がないのかもしれない。


 咆吼をあげるグレイバーンの炎息が、死闘の合図となった。
 即座に左方向へと駆けて、俺は直線上に伸びる炎息を躱した。駆けながら、素早く竜語魔術を唱えつつ、右手をグレイバーンへと突き出した。
 その直後、グレイバーンの足元で爆発が起きた。〈爆炎〉による爆風と熱波が、俺のところまで吹き荒れた。
 肌が焼けるような感触に顔を顰めつつ、しかし脚は止めない。注意深く〈爆炎〉の中心を覗っていると、つい数秒前まで俺がいた場所が、炎息によって焼き払われた。


〝はっは――利かぬな〟


 敷き詰められた石材がグズグズに砕けているのに、グレイバーンは無傷だった。
 砕けた石材が元に戻り始めたのは、グレイバーンが嘲笑している最中だった。砕けた石材にめり込んでいた右脚が、修復していく床に埋もれていく。


〝ああ、忘れていたな。広場の修復能力か〟


 右脚を引き抜いたグレイバーンは、俺へと首を向けた。


〝さあ――続きといこうか。言っておくが、我に魔術は効かぬ。あのような炎では、我の体温を心地良く上げるだけだ〟


「……みたいだな」


 まだ駆けながら、俺は次の手を考えていた。
 魔術は効かない――確か、鱗もなにかあったな。俺は連続で《スキル》を使いながら、グレイバーンへと向かった。
 翼を広げた姿勢で俺を待ち構えるグレイバーンは、大きく息を吸い込んだ。それに伴って、胸部が大きく膨れあがった。

 ――来る。

 俺の予想通り、グレイバーンの口が大きく開かれ、炎息を吐き出した。


「ちぃ――っそ!!」


 右にある石柱へと進路を切り替えて避けたのだが、グレイバーンは俺を追従するように、炎息で薙ぎ払ってきた。
 こんな芸当もできるのか! 俺は驚きつつも、大きく跳んだ。
 一息に石柱の頂上へ――〈筋力増強〉で強化された身体が勢いよく飛び上がったが、なおも炎息は追従してきた。
 空中で避けるなんて、普通はできない。炎息は斜めに、身体を包み込んだ――。


「あっぶねぇ……」


 石柱のてっぺんに片手でぶら下がりながら、俺は炎に包まれた幻影に冷や汗をかいていた。
 先ほど、〈筋力増強〉と同時に、〈隠行〉と〈幻影〉を同時に使っておいたのが、功を奏した形だ。
 本来の目的とは違う使い方になっちまったが――死ぬよりはマシか。
 グレイバーンは石柱にぶら下がる俺に、侮蔑の目を向けてきた。


〝なかなか姑息な手段を使うではないか。流石、卑怯で矮小な人間族なだけはある〟


「そうかい? なにせ、まともにやったら不利過ぎるんでね」


 手を放して石柱から降りると、俺は再び〈幻影〉で自分の分身を作りだした。今回は一つだけではなく、五――六体。俺の思考能力では、これが限界だ。
 作りだした〈幻影〉たちと、俺はグレイバーンへと駆け出した。すべての俺は、ジグザグに駆けている。


〝小賢しいな、人間っ!!〟


 グレイバーンは身体を反転させ、尻尾で周囲を薙いだ。
 その一撃、二撃――で、幻影の大半はかき消えてしまった。だけど俺は、ヤツが背を向けた瞬間に、〈隠行〉で姿を消した。
 大きく跳んで尻尾を避けた俺は、そのままの勢いでグレイバーンの背中を目指した。尻尾で地面を薙いでいる今、グレイバーンは俺に背を向けている格好だ。
 空中のままでは踏ん張れないが、その分は〈筋力増強〉で補えば良い。
 俺は透明になったままで長剣を両手で持つと、身体を捻るように振りかぶった。距離が一マーロン(約一メートル二五センチ)まで接近した瞬間、俺はヤツの背中に長剣を叩き付けた。
 だが――両手に伝わってきたのは、強烈な衝撃だった。岩に叩き付けたという表現すら、生ぬるい。強いて挙げれば崖から落ちてきた大岩を、剣で受けたような感触だ。
 長剣に伝わる衝撃が、俺の握力を超えた。
 甲高い金属音をたてた直後、俺の手を離れた長剣が地面に落ちた。咄嗟に――ほとんど生存本能に近い感覚で、俺はグレイバーンの背中を蹴って、大きく離れた。
 手の痺れ――いや指や手首、そして肘までの痛みを堪えつつ、俺は着地した。鱗一枚の傷すらなく振り返ったグレイバーンは、余裕のある声で言ってきた。


〝なるほど――相当な威力だったようだな。だが、我の鱗は〈衝撃反射〉によって護られておる。どんな剣撃とて、その衝撃をそのまま相手に返すのだよ。
 我の《魔力の才》、〈魔力障壁〉と〈衝撃反射〉によって、我は無敵なのだ。貴様の覚悟や勇気など、まったくの無意味だと理解できたか?〟


 ドラゴンの頭部にも関わらず、グレイバーンの口に笑みが浮かんだのがわかった。
 魔術も効かず、剣撃ははね返される。なるほど、これだけの《スキル》があれば、あの自信に満ちた態度も理解できる。
 俺に攻める手段はなく、このまま戦い続ければ、待つのは敗北――つまりは死が待っている。
 だけど、不思議と恐れはなかった。


「ご高説、痛み入るね。その言動、俺の知ってるヤツに似てるぜ?」


 皮肉を込めて言いながら、俺はゴガルンのことを思い出していた。
 生まれつき宿していた二つの〈スキル〉で、幅を利かせていた男だ。監査役という権力を手に入れたあとは、かなり好き勝手にやっていた――という噂も聞く。

 なるほど、《スキル》を誇るヤツは、みんな似たような言動になるんだな。

 グレイバーンの姿がゴガルンと重なった瞬間、萎みつつあった俺の闘志が再燃した。いや、むしろさっきまでよりも燃え上がった。


「さて、続きを始めようか」


 俺は無手のまま、グレイバーンを睨み付けた。

------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございました!

わたなべ ゆたか です。

書いている最中、ゴガルンの名前がすぐに出なかったのは、ちょっとだけ内緒にしたい――そんな気分です。

グレイバーンのスキル名も出ましたし、次は戦いの本番も書きやすくなるかな……と。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

次回もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...