屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第四部『二人の帰郷、故郷の苦境』

四章-3

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   3

 竜神の城に到着したとき、数歩前に出た紀伊がくるりと俺たちを振り返った。
 その表情に緊張の色が覗える紀伊は、俺と瑠胡を交互に見た。


「皆様、本当によろしいのですか? この先に進めば、なにが起きるか保証できません」


「構わぬ。あのグレイバーンなら、ここで妾が退いたとて意味は無い。今後……しつこくくらいに、ちょっかいをかけてくるであろう。それならば今、この場で決着をつけるのが最良手であろう」


「そうですか。ランド殿は――」


「同意見です。といっても、グレイバーンについては、あまり知りませんから……ただ、瑠胡やセラ、リリンと協力すれば、なんとかできるかもしれませんし」


 俺がそう返答をすると、紀伊は諦めたように吐息を漏らした。


「わかりました。では、謁見の間へと御案内致します」


 踵を返した紀伊は、俺たちを先導しながら城へと入って行った。
 壁の無い階段や天井の無い通路を通った先に、俺たちは広間に出た。大理石が敷き詰められた広間は、日光で白く照らし出されていた。四方を囲う壁には、薔薇に似た植物で彩られていた。
 周囲を見回したけど、ドラゴンの姿はない。周囲を見回していると、紀伊が「この先に、安仁羅様がおられます」と、俺たちを促した。
 広間の先に進んだ、十数段ある階段の上に鎮座する玉座に、白髪を後頭部で結った、初老の男が座っていた。                               先頭にいた紀伊が両膝を床につける姿勢で跪くと、瑠胡も同じ姿勢をとった。俺とセラは少し戸惑いながら、インムナーマ王国風に片膝をつく姿勢で跪いた。
 俺たちが跪くのを衣擦れの音で察したらしく、紀伊が頭を垂れたままで初老の男へ、凜とした声で話しかけた。


「竜神・安仁羅様。瑠胡姫様と、つがいであるランド・コール殿、そしてセラ殿をお連れしました」


「ご苦労」


 深い声で短く答えた初老の男――竜神・安仁羅の目は、何処か無表情だった。
 瑠胡と同じく前合わせの衣の袖は幅広だが、やや短い。下半身にはゆったりとしたズボン――袴というらしい――を穿いていた。
 安仁羅は俺たちに目を向けると、小さく手を挙げた。


「瑠胡……久しいな。その者が、つがいとして選んだ人間だな?」


「はい、父上。ですが、妾が選んだというのは、いささか語弊が御座います。妾とランドは、互いに互いを認め合った間柄で御座います」


「ふむ……瑠胡がそう考える経緯は、如何様なものであったのか。話してくれぬか?」


「はい。最初にランドと出会ったのは、妾がドラゴン化して洞窟の中で、つがいとなるべき者が訪れるのを待っていたときで御座います」


 俺との出会い、そして共同生活――そんな瑠胡の話を、安仁羅は髭を手で撫でながら聞いていた。
 瑠胡の話が終わると、安仁羅は視線を上に向けてから、肩を上下に揺らした。


「なるほど。ランド・コール殿。娘が世話になったようだな。そして、娘の目が濁ってはいないことを確信した」


「……勿体ない御言葉でございます」


「だが――」


 俺が礼を述べた直後、安仁羅は前の言葉を否定するように言葉を吐いた。


「それだけでは、納得がいかぬ――という意見もあるのだ。瑠胡よ、本当におまえのつがいとして相応しいか、吟味する必要がある」


「御言葉ですが、父上。その必要など、御座いませぬ。妾は――他の者とつがいになる気などございませぬ」


「しかし我が把握しておる範囲では、ランドは天竜族への昇華に難色を示しておるようだが。それも踏まえて、吟味が必要だと申しておるのだ」


 安仁羅の反論に、瑠胡は表情が強ばった。
 そんな瑠胡に頷いてから、俺は顔を上げて安仁羅を真っ直ぐに見た。


「その件につきましては、人の身のまま――瑠胡の伴侶になれないか、ご相談できないか考えておりました。瑠胡姫様に竜神として即位して頂き、わたくしはそれを手助けする立場であれば、人のままでいいのではないかと考えた次第です。もし無理なら――瑠胡、それに後ろに控えるセラのため、謹んで昇華を受け入れる覚悟はできております。
 ただ、その場合でも数年は昇華を待って頂ければと願っております」


「――数年? 何故か」


 怪訝そうな声で問う安仁羅に、俺は表情を動かさなかった。これは別に、俺の我が儘というのが理由じゃない。臆する理由がなければ、神に対しても堂々とした態度でいればいい……と、思ったまでだ。
 俺は真正面から視線を返すと、堂々と答えた。


「わたくしには、妹がおります。妹が最愛の人と巡り会い、幸せな生活を送るのを見届けたいのです。瑠胡姫様と同じ天竜ならまだしも、二人で竜神へと成れば、人の世に降りることは難しくなるでしょうから。親については、ほぼ絶縁されている状態ですから……なにも言うつもりは御座いません」


 安仁羅は俺の顔をジッと見つめてから、僅かに目を細めた。


「ふむ……そなたの言葉に、偽りはないようだな。確かに瑠胡とつがいになれば、我と同じ竜神への昇華となろう。そうなれば、下界へ降りることは困難となる。妹を想う気持ちは、理解できる」


 安仁羅はそう言うと、視線を僅かに上方へと逸らした。


「……ランド・コールを選んだ瑠胡の目は、確かなものだ。我らが異を唱える必要はなかろう」


〝それでは、話が違う!!〟


 上方から、激しい怒声が振ってきた。
 俺たちが見上げると、壁の上に銀の鱗を持つドラゴンが鎮座していた。怒りの形相で俺たちを睨めていたシルバードラゴンは、首をやや下げて顔を安仁羅へと向けた。


〝我とつがいの一騎打ち――それで確かめるという話ではなかったか?〟


「……神というのは、強さのみで資格が決まるわけではない。それに相応しい気質こそが、なによりも重要だ」


〝我の気質が、そこの人間風情よりも劣るというのか!?〟


「そうは言っておらぬだろう。ただ、瑠胡がランドを選んだのは誤りではないというだけだ。竜神への資格のみではなく、瑠胡自身の幸せを考慮すれば、ランドのほうが相応しかろう」


〝同じことではないか!! そのような言い分、承服できぬ!!〟


「グレイバーンよ。落ちつくが良い」


 安仁羅はそう言って窘めたが、シルバードラゴン――こいつがグレイバーンか――は、翼を広げると俺たちの真横へと降りてきた。
 風圧で顔を顰めていると、グレイバーンは瑠胡に怒りの満ちた目を向けた。


〝瑠胡姫に問う。こうして見比べれば、そんな貧弱な人間より、我のほうが竜神として相応しいと感じるであろう〟


 先ほどまでの怒りは鳴りを潜めたが、言葉遣いには威圧感が残っている。そんな問いに対し、立ち上がった瑠胡は懐から取り出した扇子で、パンッと手を打った。


「御主がグレイバーン……直接まみえるのは、これが初となるか。ふむ……確かに、噂に違わぬ偉丈夫だのう」


 褒め言葉にグレイバーンが勝ち誇った目を俺に向けた――しかし、そのあとに続く言葉を述べる瑠胡の表情は、かなり険しかった。


「しかし妾にとっては、すべてがランドに劣る。すまぬが、御主を選ぶことはない。これは、永劫変わることはない」


〝な――〟


 グレイバーンは絶句した。
 しばらくはなにも言い返さなかったが、徐々に牙を剥き始めると、唸り声をあげながら瑠胡、そして俺を睨め回した。


〝納得できるかっ!! 我より人間風情が相応しいだなど、それは我だけではなく、ドラゴン族全体への侮辱でしかないぞ!?〟


 怒声が響く中、背後からセラの溜息が聞こえてきた。


「これ以上は、醜態を晒すだけだろうに……その言動こそが、ドラゴン族への侮辱だと気付かぬのか」


〝なんだとっ!?〟


 セラの呟きが聞こえたのか、グレイバーンの視線が動いた。


〝貴様、人間の分際で我を侮辱するか! そこのつがいはともかく、貴様はここで殺してやってもいいんだぞっ!!〟


「グレイバーンっ!!」


「黙れよ」


 どこかに控えているのか与二亜の叫び声と、俺の声が重なった。


 グレイバーンは安仁羅の脇にいる与二亜を一瞥してから、立ち上がった俺へと目を向けた。
 グレイバーンを睨み返しながら、俺は背後を庇うように小さく左手を広げた。


「やめな。セラの言ったことは、間違いじゃないだろう。そうやって他者を脅し、上から目線でしか物事を語れないんだからな」


〝なんだと!? 貴様如きに、そのようなことを言われぬ筋合いはない。瑠胡やその女の命を諦め、下界に戻るなら許してやる。でなければ――〟


「そんなチンピラじみた思考しかできないのかよ。悪いが、どっちも諦めるつもりはない」


「ランド殿、それ以上はいけません。グレイバーンも控えなさい! 竜神・安仁羅様の御前です!!」


 紀伊は俺たちのあいだに割って入ったが、それで収まるわけはない。
 グレイバーンの殺気は、物理的な威圧感を伴っているのではないかと錯覚するほどに、膨れあがっていた。
 瑠胡とセラが俺の左右から不安げな顔を向けていることには、気付いていた。だけどもう、退くことはできない。
 男の意地――ではなく、二人を護るため、俺は真っ向からグレイバーンの殺気を受け止めた。


「ここでやらなきゃ、あいつは絶対に諦めないだろうさ」


 小声で二人に言ってから、俺はグレイバーンへ人差し指と中指をクイクイと動かして見せた。


「どうせ、俺とねじ伏せたいだけなんだろ? あの広場でいいよな。来なよ――その糞みたいな自尊心ごと、あんたを砕いてやる」


 俺の挑発を受けたグレイバーンの顔に、初めて笑みが浮かんだ。それはとても残忍で――悪魔を思わせる表情だった。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

今回はちゃんとアップできてる……はず。確認はちゃんとします。

ちなみに前回ですが、最初のアップ後にすぐゲーム……ではなくてですね。

アップ中に洗濯機の「すすぎ終わったで。さっさと干せや」アラームが鳴りまして。その直後冷凍御飯を解凍していた、電子レンジのブザーも。

色々と熟して、ゲームが出来たのは一時間半後です。

その後、ちょっとプロットを考え、一時間ほどのプレイでAC6の二週目エンド(エアさんとラブラブエンド)を迎え、三週目の壁越えまでやったんですけどね。

……念のために追記しておきますが、反省はしてます。スイマセンスイマセンスイマセン

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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