121 / 275
第四部『二人の帰郷、故郷の苦境』
四章-2
しおりを挟む
2
城にある謁見の間――その玉座に座っていた安仁羅の前で、与二亜は跪いていた。
とはいえ、インムナーマ王国周辺で見られるような、片膝を付く姿勢ではない。左右の拳と両膝を床につけ、頭を僅かに下げている。
与二亜のもたらした報せに、安仁羅は眉を顰めた。
「〈神に次ぐ〉グレイバーンが……な」
「はい。彼奴は瑠胡に執着しておるように見えますが……目的は父上――いえ、竜神の後継となることでしょう」
安仁羅は目を細め、肘掛けに頬杖をついた。
「グレイバーン……か。確かに、強さはドラゴン族の中でも随一かもしれぬ。だが……竜神とは強さだけにあらず。神には、神としての秩序がある。それを護れぬような性分の持ち主ならば、竜神だけではなく、瑠胡のつがいにも相応しくなかろう」
「仰有る通りです。自ら〈神に次ぐ〉と名乗るほどの傲慢さです。同胞からも嫌悪されております故、数多の火種になりましょう。ですが……グレイバーンも瑠胡のことを諦めぬでしょう」
与二亜から言われた内容に、安仁羅は苦い顔をした。
グレイバーンは、ドラゴンの中でも希有な、《魔力の才》を二つも宿した存在だ。厄介なことに、その二つの力が、グレイバーンの異名を不動の物としている。
グレイバーンに暴れられでもしたら、この神界も無事では済まないだろう。
安仁羅は深い溜息を吐いた。
「まったく……戻ったばかりだというのに、瑠胡は災難が続くな。つがいの者は、天竜族への昇華を承知したのか?」
「それは……まだ、わかりません。ですが、きっと承知してくれるでしょう」
「ほお。おまえがそこまで言うとはな。あのつがい……ランド・コールといったか。彼になにを見た」
「いえ、特にはなにも」
与二亜は父の質問に答えたあと、微かに微笑みながら付け足した。
「彼は、確かに瑠胡のことを真剣に想っています。ですから瑠胡のことを考えて、昇華を受け入れると思ったまでです」
与二亜の返答を聞いて、安仁羅は頬杖を解いた。
これまで竜神の後継者として修行をしていただけあって、与二亜は目にした者の心情を読み解くことができる。
(とはいえランドのそれは、そんな技術がなくとも、わかりやすかったですけどね)
心中で微笑みながら、与二亜は僅かに頭を上げて父の顔を覗った。
普段は無表情な安仁羅の口元が、微笑んでいるようだった。瑠胡が持ち込む災難に頭を痛めつつも、娘の幸せを願う父としての顔を覗かせた――与二亜には、そういう表情に見えた。
今までの緊張した空気が緩んだ――その直後、竜神・安仁羅に使える家臣の一人が、謁見の間へと駆け込んできた。
「安仁羅様! それに与二亜様、一大事に御座います!」
「……慌ただしいな。なにがあったのだ?」
与二亜の問いに、家臣は平伏した姿勢で報告を続けた。
「銀竜――〈神に次ぐ〉グレイバーンが――我らの制止を振り切り、こちらへ向かっておりまする」
「なんだって!?」
家臣からの報告に、与二亜の顔にサッと怒りの色が浮かんだ。
昨日、竜王・安仁羅に会うのは明日――昨日の段階では明後日だが――にしろと、告げたばかりだ。
グレイバーンは、その約束を破った。しかも与二亜が安仁羅へ午前の面会の頃合いを狙って、護りを突破している。
与二亜は安仁羅に一礼をしてから、城から出ようとした。しかし、その前に頭上から、ドラゴンの咆吼が聞こえてきた。
天井の無い謁見の間から頭上を見上げた与二亜の目が、城の真上を跳ぶシルバードラゴンの姿を捉えた。
やがて謁見の間の壁の上に、シルバードラゴンであるグレイバーンが降り立った。
「グレイバーンッ!!」
大声を張り上げる与二亜を無視して、グレイバーンは安仁羅に首を向けた。
〝竜神・安仁羅よ――我が名はグレイバーンと申す。瑠胡姫のことについて、進言致す〟
玉座よりも高い位置、そして言葉遣い――そのすべてが、他者を見下すような言動だった。その態度に憤りを覚えたものの、安仁羅が小さく手を挙げて制され、与二亜は顔を顰めるのを堪えながらも畏まった。
安仁羅は無表情な目でグレイバーンを見上げると、静かに問いかけた。
「グレイバーンとやら。貴殿の噂は聞き及んでおる。して、我になに用か?」
〝噂――か。恐らくは、碌でもない噂話が伝わっておるのでしょうな――まあ、そんな話は、どうでもいい。話というのは、瑠胡のことだ。あの姫は、こともあろうに人間なんぞを。つがいにしようとしていると聞いた。そのようなこと、我は許さぬ――〟
僅かに牙を剥いて凄むグレイバーンだったが、安仁羅の表情に変化はない。
しばらく反応がなかったが、やがて肘掛けを使って頬杖をつきながら、安仁羅はやや大袈裟な溜息を吐いた。
「なるほど、貴殿の話は理解した。だが、つがいについては瑠胡の判断によるものだ。娘とはいえ、我の関与するところではない。用向きがそれだけであれば、お引き取り願おう」
〝巫山戯るなっ!〟
グレイバーンは怒りを露わに玉座の真正面に降り立とうと、翼を羽ばたかせながら下降を始めた。
しかし突然に落下の勢いが増し、グレイバーンは床に叩き付けられた。
「それ以上、父上――竜王様への侮辱と反抗は許さぬ」
〝が――与二亜……め〟
見えぬ圧力に包まれながら、グレイバーンは苦悶に満ちた顔で与二亜を睨めた。グレイバーンは、圧力に抗うように安仁羅へと目を向けた。
〝竜神よ――人間なんぞに、その地位を明け渡す気か。それは我らの同胞たるドラゴン種によって、連綿と受け継がれてきたものではないのか!!〟
グレイバーンの怒声に、安仁羅の目が僅かに見開かれた。
「それでは聞こう。其方は、なにを望むのだ?」
安仁羅の問いに、グレイバーンは絶対の自信を込めた声で告げた。
〝一騎打ち――だ。そのつがいとの、一騎打ちを所望する〟
その返答を聞いて思わず息を呑んだ与二亜は、懐から摘まみ上げた鱗を飛ばした。
*
少し早めの昼食を食べ終えてから、俺たちは瑠胡の屋敷を出た。
竜神であり、瑠胡の父親である安仁羅――と面会するためだ。約束の時間より、十数分はほど早めに出発した。ここまですれば、紀伊に文句を言われないであろう――と、瑠胡が言い出したのだ。
まあ余裕をもって到着するのは、間違いじゃない。俺とセラは苦笑しながら、瑠胡に従ったというわけだ。
俺と並んで歩いていた瑠胡は、小さな小箱を手にしていた。その小箱は確か……ここに経つ前に、リリンから手渡されたものだ。
「瑠胡、それを持って来たんですか?」
「ええ。一度も開けてませんでしたし。道中の話の種になればいいと思いまして」
にこやかに答えながら、瑠胡は金属の金具で閉じられた小箱を開けた。
その中には、一羽の文鳥が収められていた。文鳥は飛び上がるかと思いきや、しばらくすると俺と瑠胡とを交互に見た。
〝ああ――やっと開けて頂けましたね〟
「その声――御主、リリンか!?」
〝はい。瑠胡姫様。使い魔での同伴をお許し下さい〟
瑠胡を見上げていた文鳥――リリンの使い魔に、俺は溜息交じりに問いかけた。
「いや……リリン? たまたま今日、箱を開けたからいいけど。しばらく開けなかったら、使い魔も餓死するんじゃないか?」
〝それなら、大丈夫です。箱の中に餌も入れておきましたから。それに最悪は、中から声をかけるつもりでしたし〟
リリンの言うとおり、小箱の中には粘土状の飼料らしいものが入っていた。そして、文鳥の尻尾側には、糞もあったりする。
俺はそのあたりを見ないようにしながら、リリンの使い魔に告げた。
「とりあえず、俺たちはこれから、瑠胡の両親に会うんだ。念のため、どこか水場で身体を洗ってきてくれないか?」
〝そうですね。そうします〟
文鳥は飛び立つと、俺たちの周囲を旋回した。そして屋敷の裏へ飛んでいってから、数分後。リリンの使い魔である文鳥が戻って来た。
〝お待たせしました〟
「ふむ。それでは、妾の肩にでも停まっておれ。それでは、行くとしようかの」
瑠胡が俺たちを促すが、リリンがいるからか普段の姫としての言動に戻っている。
俺とセラが、そんな瑠胡に苦笑していると、道の向こう側から、ドラゴンの翼を生やした紀伊が飛んできた。
「瑠胡姫様っ!!」
どこか焦っているような顔で、紀伊は瑠胡の前に降りてきた。
「紀伊や、どうした。妾は約束の時間に間に合うよう、ちゃんと屋敷を出ておるぞ?」
「それどころでは、ありません。お三方、城へと向かうのは中止して下さい。今、〈神に次ぐ〉グレイバーンが乗り込んできております。このまま瑠胡姫様やランド殿が安仁羅様に謁見すれば――ランド殿の御身に災いが及ぶ可能性がございます」
紀伊のもたらした内容に、俺と瑠胡、それセラのあいだに緊張が走った。沙羅さんからグレイバーンのことを聞いたのは、昨日のことだ。
それだけに、紀伊の説いた危険性は理解できた。
だけど――。
視線を向けてきた瑠胡に、俺は頷いた。ここまで来て、引き返す道理はない。竜神・安仁羅――瑠胡の父親に会って、色々と交渉をしなくてはならない。
瑠胡は俺に頷き返すと、紀伊に告げた。
「城の様子を伝えてくれて、かたじけない。しかし、妾たちは城へ行く。それに、だ。ここで退いても、状況は変わらぬかもしれぬ。ならば、行くしかあるまい」
瑠胡の返答を聞いて、しばらく悩んでいた紀伊は、やがて諦めたように頭を下げた。
「ならば、わたくしも同行しましょう。あなたがたの御身を御護り致します」
「すまぬな、紀伊。世話をかける」
礼を述べながら微笑む瑠胡に、紀伊は気の重そうな顔で応じた。
「……いつものこととはいえ、まったくです。姫様」
--------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
リリン合流回――使い魔ですけど。そして、グレイバーン来襲。
そして、紀伊がとっても便利だと、書いていると思います。こういうキャラって、とても突っ込み役――書きやすいです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
12/14 追記
アップしたつもりで、なんか操作ミスしたみたいで、第四部のところにアップできてなかったです……。申し訳ありませんでした。
久しぶりにやらかしました。
城にある謁見の間――その玉座に座っていた安仁羅の前で、与二亜は跪いていた。
とはいえ、インムナーマ王国周辺で見られるような、片膝を付く姿勢ではない。左右の拳と両膝を床につけ、頭を僅かに下げている。
与二亜のもたらした報せに、安仁羅は眉を顰めた。
「〈神に次ぐ〉グレイバーンが……な」
「はい。彼奴は瑠胡に執着しておるように見えますが……目的は父上――いえ、竜神の後継となることでしょう」
安仁羅は目を細め、肘掛けに頬杖をついた。
「グレイバーン……か。確かに、強さはドラゴン族の中でも随一かもしれぬ。だが……竜神とは強さだけにあらず。神には、神としての秩序がある。それを護れぬような性分の持ち主ならば、竜神だけではなく、瑠胡のつがいにも相応しくなかろう」
「仰有る通りです。自ら〈神に次ぐ〉と名乗るほどの傲慢さです。同胞からも嫌悪されております故、数多の火種になりましょう。ですが……グレイバーンも瑠胡のことを諦めぬでしょう」
与二亜から言われた内容に、安仁羅は苦い顔をした。
グレイバーンは、ドラゴンの中でも希有な、《魔力の才》を二つも宿した存在だ。厄介なことに、その二つの力が、グレイバーンの異名を不動の物としている。
グレイバーンに暴れられでもしたら、この神界も無事では済まないだろう。
安仁羅は深い溜息を吐いた。
「まったく……戻ったばかりだというのに、瑠胡は災難が続くな。つがいの者は、天竜族への昇華を承知したのか?」
「それは……まだ、わかりません。ですが、きっと承知してくれるでしょう」
「ほお。おまえがそこまで言うとはな。あのつがい……ランド・コールといったか。彼になにを見た」
「いえ、特にはなにも」
与二亜は父の質問に答えたあと、微かに微笑みながら付け足した。
「彼は、確かに瑠胡のことを真剣に想っています。ですから瑠胡のことを考えて、昇華を受け入れると思ったまでです」
与二亜の返答を聞いて、安仁羅は頬杖を解いた。
これまで竜神の後継者として修行をしていただけあって、与二亜は目にした者の心情を読み解くことができる。
(とはいえランドのそれは、そんな技術がなくとも、わかりやすかったですけどね)
心中で微笑みながら、与二亜は僅かに頭を上げて父の顔を覗った。
普段は無表情な安仁羅の口元が、微笑んでいるようだった。瑠胡が持ち込む災難に頭を痛めつつも、娘の幸せを願う父としての顔を覗かせた――与二亜には、そういう表情に見えた。
今までの緊張した空気が緩んだ――その直後、竜神・安仁羅に使える家臣の一人が、謁見の間へと駆け込んできた。
「安仁羅様! それに与二亜様、一大事に御座います!」
「……慌ただしいな。なにがあったのだ?」
与二亜の問いに、家臣は平伏した姿勢で報告を続けた。
「銀竜――〈神に次ぐ〉グレイバーンが――我らの制止を振り切り、こちらへ向かっておりまする」
「なんだって!?」
家臣からの報告に、与二亜の顔にサッと怒りの色が浮かんだ。
昨日、竜王・安仁羅に会うのは明日――昨日の段階では明後日だが――にしろと、告げたばかりだ。
グレイバーンは、その約束を破った。しかも与二亜が安仁羅へ午前の面会の頃合いを狙って、護りを突破している。
与二亜は安仁羅に一礼をしてから、城から出ようとした。しかし、その前に頭上から、ドラゴンの咆吼が聞こえてきた。
天井の無い謁見の間から頭上を見上げた与二亜の目が、城の真上を跳ぶシルバードラゴンの姿を捉えた。
やがて謁見の間の壁の上に、シルバードラゴンであるグレイバーンが降り立った。
「グレイバーンッ!!」
大声を張り上げる与二亜を無視して、グレイバーンは安仁羅に首を向けた。
〝竜神・安仁羅よ――我が名はグレイバーンと申す。瑠胡姫のことについて、進言致す〟
玉座よりも高い位置、そして言葉遣い――そのすべてが、他者を見下すような言動だった。その態度に憤りを覚えたものの、安仁羅が小さく手を挙げて制され、与二亜は顔を顰めるのを堪えながらも畏まった。
安仁羅は無表情な目でグレイバーンを見上げると、静かに問いかけた。
「グレイバーンとやら。貴殿の噂は聞き及んでおる。して、我になに用か?」
〝噂――か。恐らくは、碌でもない噂話が伝わっておるのでしょうな――まあ、そんな話は、どうでもいい。話というのは、瑠胡のことだ。あの姫は、こともあろうに人間なんぞを。つがいにしようとしていると聞いた。そのようなこと、我は許さぬ――〟
僅かに牙を剥いて凄むグレイバーンだったが、安仁羅の表情に変化はない。
しばらく反応がなかったが、やがて肘掛けを使って頬杖をつきながら、安仁羅はやや大袈裟な溜息を吐いた。
「なるほど、貴殿の話は理解した。だが、つがいについては瑠胡の判断によるものだ。娘とはいえ、我の関与するところではない。用向きがそれだけであれば、お引き取り願おう」
〝巫山戯るなっ!〟
グレイバーンは怒りを露わに玉座の真正面に降り立とうと、翼を羽ばたかせながら下降を始めた。
しかし突然に落下の勢いが増し、グレイバーンは床に叩き付けられた。
「それ以上、父上――竜王様への侮辱と反抗は許さぬ」
〝が――与二亜……め〟
見えぬ圧力に包まれながら、グレイバーンは苦悶に満ちた顔で与二亜を睨めた。グレイバーンは、圧力に抗うように安仁羅へと目を向けた。
〝竜神よ――人間なんぞに、その地位を明け渡す気か。それは我らの同胞たるドラゴン種によって、連綿と受け継がれてきたものではないのか!!〟
グレイバーンの怒声に、安仁羅の目が僅かに見開かれた。
「それでは聞こう。其方は、なにを望むのだ?」
安仁羅の問いに、グレイバーンは絶対の自信を込めた声で告げた。
〝一騎打ち――だ。そのつがいとの、一騎打ちを所望する〟
その返答を聞いて思わず息を呑んだ与二亜は、懐から摘まみ上げた鱗を飛ばした。
*
少し早めの昼食を食べ終えてから、俺たちは瑠胡の屋敷を出た。
竜神であり、瑠胡の父親である安仁羅――と面会するためだ。約束の時間より、十数分はほど早めに出発した。ここまですれば、紀伊に文句を言われないであろう――と、瑠胡が言い出したのだ。
まあ余裕をもって到着するのは、間違いじゃない。俺とセラは苦笑しながら、瑠胡に従ったというわけだ。
俺と並んで歩いていた瑠胡は、小さな小箱を手にしていた。その小箱は確か……ここに経つ前に、リリンから手渡されたものだ。
「瑠胡、それを持って来たんですか?」
「ええ。一度も開けてませんでしたし。道中の話の種になればいいと思いまして」
にこやかに答えながら、瑠胡は金属の金具で閉じられた小箱を開けた。
その中には、一羽の文鳥が収められていた。文鳥は飛び上がるかと思いきや、しばらくすると俺と瑠胡とを交互に見た。
〝ああ――やっと開けて頂けましたね〟
「その声――御主、リリンか!?」
〝はい。瑠胡姫様。使い魔での同伴をお許し下さい〟
瑠胡を見上げていた文鳥――リリンの使い魔に、俺は溜息交じりに問いかけた。
「いや……リリン? たまたま今日、箱を開けたからいいけど。しばらく開けなかったら、使い魔も餓死するんじゃないか?」
〝それなら、大丈夫です。箱の中に餌も入れておきましたから。それに最悪は、中から声をかけるつもりでしたし〟
リリンの言うとおり、小箱の中には粘土状の飼料らしいものが入っていた。そして、文鳥の尻尾側には、糞もあったりする。
俺はそのあたりを見ないようにしながら、リリンの使い魔に告げた。
「とりあえず、俺たちはこれから、瑠胡の両親に会うんだ。念のため、どこか水場で身体を洗ってきてくれないか?」
〝そうですね。そうします〟
文鳥は飛び立つと、俺たちの周囲を旋回した。そして屋敷の裏へ飛んでいってから、数分後。リリンの使い魔である文鳥が戻って来た。
〝お待たせしました〟
「ふむ。それでは、妾の肩にでも停まっておれ。それでは、行くとしようかの」
瑠胡が俺たちを促すが、リリンがいるからか普段の姫としての言動に戻っている。
俺とセラが、そんな瑠胡に苦笑していると、道の向こう側から、ドラゴンの翼を生やした紀伊が飛んできた。
「瑠胡姫様っ!!」
どこか焦っているような顔で、紀伊は瑠胡の前に降りてきた。
「紀伊や、どうした。妾は約束の時間に間に合うよう、ちゃんと屋敷を出ておるぞ?」
「それどころでは、ありません。お三方、城へと向かうのは中止して下さい。今、〈神に次ぐ〉グレイバーンが乗り込んできております。このまま瑠胡姫様やランド殿が安仁羅様に謁見すれば――ランド殿の御身に災いが及ぶ可能性がございます」
紀伊のもたらした内容に、俺と瑠胡、それセラのあいだに緊張が走った。沙羅さんからグレイバーンのことを聞いたのは、昨日のことだ。
それだけに、紀伊の説いた危険性は理解できた。
だけど――。
視線を向けてきた瑠胡に、俺は頷いた。ここまで来て、引き返す道理はない。竜神・安仁羅――瑠胡の父親に会って、色々と交渉をしなくてはならない。
瑠胡は俺に頷き返すと、紀伊に告げた。
「城の様子を伝えてくれて、かたじけない。しかし、妾たちは城へ行く。それに、だ。ここで退いても、状況は変わらぬかもしれぬ。ならば、行くしかあるまい」
瑠胡の返答を聞いて、しばらく悩んでいた紀伊は、やがて諦めたように頭を下げた。
「ならば、わたくしも同行しましょう。あなたがたの御身を御護り致します」
「すまぬな、紀伊。世話をかける」
礼を述べながら微笑む瑠胡に、紀伊は気の重そうな顔で応じた。
「……いつものこととはいえ、まったくです。姫様」
--------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
リリン合流回――使い魔ですけど。そして、グレイバーン来襲。
そして、紀伊がとっても便利だと、書いていると思います。こういうキャラって、とても突っ込み役――書きやすいです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
12/14 追記
アップしたつもりで、なんか操作ミスしたみたいで、第四部のところにアップできてなかったです……。申し訳ありませんでした。
久しぶりにやらかしました。
10
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる