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第四部『二人の帰郷、故郷の苦境』
四章-2
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2
城にある謁見の間――その玉座に座っていた安仁羅の前で、与二亜は跪いていた。
とはいえ、インムナーマ王国周辺で見られるような、片膝を付く姿勢ではない。左右の拳と両膝を床につけ、頭を僅かに下げている。
与二亜のもたらした報せに、安仁羅は眉を顰めた。
「〈神に次ぐ〉グレイバーンが……な」
「はい。彼奴は瑠胡に執着しておるように見えますが……目的は父上――いえ、竜神の後継となることでしょう」
安仁羅は目を細め、肘掛けに頬杖をついた。
「グレイバーン……か。確かに、強さはドラゴン族の中でも随一かもしれぬ。だが……竜神とは強さだけにあらず。神には、神としての秩序がある。それを護れぬような性分の持ち主ならば、竜神だけではなく、瑠胡のつがいにも相応しくなかろう」
「仰有る通りです。自ら〈神に次ぐ〉と名乗るほどの傲慢さです。同胞からも嫌悪されております故、数多の火種になりましょう。ですが……グレイバーンも瑠胡のことを諦めぬでしょう」
与二亜から言われた内容に、安仁羅は苦い顔をした。
グレイバーンは、ドラゴンの中でも希有な、《魔力の才》を二つも宿した存在だ。厄介なことに、その二つの力が、グレイバーンの異名を不動の物としている。
グレイバーンに暴れられでもしたら、この神界も無事では済まないだろう。
安仁羅は深い溜息を吐いた。
「まったく……戻ったばかりだというのに、瑠胡は災難が続くな。つがいの者は、天竜族への昇華を承知したのか?」
「それは……まだ、わかりません。ですが、きっと承知してくれるでしょう」
「ほお。おまえがそこまで言うとはな。あのつがい……ランド・コールといったか。彼になにを見た」
「いえ、特にはなにも」
与二亜は父の質問に答えたあと、微かに微笑みながら付け足した。
「彼は、確かに瑠胡のことを真剣に想っています。ですから瑠胡のことを考えて、昇華を受け入れると思ったまでです」
与二亜の返答を聞いて、安仁羅は頬杖を解いた。
これまで竜神の後継者として修行をしていただけあって、与二亜は目にした者の心情を読み解くことができる。
(とはいえランドのそれは、そんな技術がなくとも、わかりやすかったですけどね)
心中で微笑みながら、与二亜は僅かに頭を上げて父の顔を覗った。
普段は無表情な安仁羅の口元が、微笑んでいるようだった。瑠胡が持ち込む災難に頭を痛めつつも、娘の幸せを願う父としての顔を覗かせた――与二亜には、そういう表情に見えた。
今までの緊張した空気が緩んだ――その直後、竜神・安仁羅に使える家臣の一人が、謁見の間へと駆け込んできた。
「安仁羅様! それに与二亜様、一大事に御座います!」
「……慌ただしいな。なにがあったのだ?」
与二亜の問いに、家臣は平伏した姿勢で報告を続けた。
「銀竜――〈神に次ぐ〉グレイバーンが――我らの制止を振り切り、こちらへ向かっておりまする」
「なんだって!?」
家臣からの報告に、与二亜の顔にサッと怒りの色が浮かんだ。
昨日、竜王・安仁羅に会うのは明日――昨日の段階では明後日だが――にしろと、告げたばかりだ。
グレイバーンは、その約束を破った。しかも与二亜が安仁羅へ午前の面会の頃合いを狙って、護りを突破している。
与二亜は安仁羅に一礼をしてから、城から出ようとした。しかし、その前に頭上から、ドラゴンの咆吼が聞こえてきた。
天井の無い謁見の間から頭上を見上げた与二亜の目が、城の真上を跳ぶシルバードラゴンの姿を捉えた。
やがて謁見の間の壁の上に、シルバードラゴンであるグレイバーンが降り立った。
「グレイバーンッ!!」
大声を張り上げる与二亜を無視して、グレイバーンは安仁羅に首を向けた。
〝竜神・安仁羅よ――我が名はグレイバーンと申す。瑠胡姫のことについて、進言致す〟
玉座よりも高い位置、そして言葉遣い――そのすべてが、他者を見下すような言動だった。その態度に憤りを覚えたものの、安仁羅が小さく手を挙げて制され、与二亜は顔を顰めるのを堪えながらも畏まった。
安仁羅は無表情な目でグレイバーンを見上げると、静かに問いかけた。
「グレイバーンとやら。貴殿の噂は聞き及んでおる。して、我になに用か?」
〝噂――か。恐らくは、碌でもない噂話が伝わっておるのでしょうな――まあ、そんな話は、どうでもいい。話というのは、瑠胡のことだ。あの姫は、こともあろうに人間なんぞを。つがいにしようとしていると聞いた。そのようなこと、我は許さぬ――〟
僅かに牙を剥いて凄むグレイバーンだったが、安仁羅の表情に変化はない。
しばらく反応がなかったが、やがて肘掛けを使って頬杖をつきながら、安仁羅はやや大袈裟な溜息を吐いた。
「なるほど、貴殿の話は理解した。だが、つがいについては瑠胡の判断によるものだ。娘とはいえ、我の関与するところではない。用向きがそれだけであれば、お引き取り願おう」
〝巫山戯るなっ!〟
グレイバーンは怒りを露わに玉座の真正面に降り立とうと、翼を羽ばたかせながら下降を始めた。
しかし突然に落下の勢いが増し、グレイバーンは床に叩き付けられた。
「それ以上、父上――竜王様への侮辱と反抗は許さぬ」
〝が――与二亜……め〟
見えぬ圧力に包まれながら、グレイバーンは苦悶に満ちた顔で与二亜を睨めた。グレイバーンは、圧力に抗うように安仁羅へと目を向けた。
〝竜神よ――人間なんぞに、その地位を明け渡す気か。それは我らの同胞たるドラゴン種によって、連綿と受け継がれてきたものではないのか!!〟
グレイバーンの怒声に、安仁羅の目が僅かに見開かれた。
「それでは聞こう。其方は、なにを望むのだ?」
安仁羅の問いに、グレイバーンは絶対の自信を込めた声で告げた。
〝一騎打ち――だ。そのつがいとの、一騎打ちを所望する〟
その返答を聞いて思わず息を呑んだ与二亜は、懐から摘まみ上げた鱗を飛ばした。
*
少し早めの昼食を食べ終えてから、俺たちは瑠胡の屋敷を出た。
竜神であり、瑠胡の父親である安仁羅――と面会するためだ。約束の時間より、十数分はほど早めに出発した。ここまですれば、紀伊に文句を言われないであろう――と、瑠胡が言い出したのだ。
まあ余裕をもって到着するのは、間違いじゃない。俺とセラは苦笑しながら、瑠胡に従ったというわけだ。
俺と並んで歩いていた瑠胡は、小さな小箱を手にしていた。その小箱は確か……ここに経つ前に、リリンから手渡されたものだ。
「瑠胡、それを持って来たんですか?」
「ええ。一度も開けてませんでしたし。道中の話の種になればいいと思いまして」
にこやかに答えながら、瑠胡は金属の金具で閉じられた小箱を開けた。
その中には、一羽の文鳥が収められていた。文鳥は飛び上がるかと思いきや、しばらくすると俺と瑠胡とを交互に見た。
〝ああ――やっと開けて頂けましたね〟
「その声――御主、リリンか!?」
〝はい。瑠胡姫様。使い魔での同伴をお許し下さい〟
瑠胡を見上げていた文鳥――リリンの使い魔に、俺は溜息交じりに問いかけた。
「いや……リリン? たまたま今日、箱を開けたからいいけど。しばらく開けなかったら、使い魔も餓死するんじゃないか?」
〝それなら、大丈夫です。箱の中に餌も入れておきましたから。それに最悪は、中から声をかけるつもりでしたし〟
リリンの言うとおり、小箱の中には粘土状の飼料らしいものが入っていた。そして、文鳥の尻尾側には、糞もあったりする。
俺はそのあたりを見ないようにしながら、リリンの使い魔に告げた。
「とりあえず、俺たちはこれから、瑠胡の両親に会うんだ。念のため、どこか水場で身体を洗ってきてくれないか?」
〝そうですね。そうします〟
文鳥は飛び立つと、俺たちの周囲を旋回した。そして屋敷の裏へ飛んでいってから、数分後。リリンの使い魔である文鳥が戻って来た。
〝お待たせしました〟
「ふむ。それでは、妾の肩にでも停まっておれ。それでは、行くとしようかの」
瑠胡が俺たちを促すが、リリンがいるからか普段の姫としての言動に戻っている。
俺とセラが、そんな瑠胡に苦笑していると、道の向こう側から、ドラゴンの翼を生やした紀伊が飛んできた。
「瑠胡姫様っ!!」
どこか焦っているような顔で、紀伊は瑠胡の前に降りてきた。
「紀伊や、どうした。妾は約束の時間に間に合うよう、ちゃんと屋敷を出ておるぞ?」
「それどころでは、ありません。お三方、城へと向かうのは中止して下さい。今、〈神に次ぐ〉グレイバーンが乗り込んできております。このまま瑠胡姫様やランド殿が安仁羅様に謁見すれば――ランド殿の御身に災いが及ぶ可能性がございます」
紀伊のもたらした内容に、俺と瑠胡、それセラのあいだに緊張が走った。沙羅さんからグレイバーンのことを聞いたのは、昨日のことだ。
それだけに、紀伊の説いた危険性は理解できた。
だけど――。
視線を向けてきた瑠胡に、俺は頷いた。ここまで来て、引き返す道理はない。竜神・安仁羅――瑠胡の父親に会って、色々と交渉をしなくてはならない。
瑠胡は俺に頷き返すと、紀伊に告げた。
「城の様子を伝えてくれて、かたじけない。しかし、妾たちは城へ行く。それに、だ。ここで退いても、状況は変わらぬかもしれぬ。ならば、行くしかあるまい」
瑠胡の返答を聞いて、しばらく悩んでいた紀伊は、やがて諦めたように頭を下げた。
「ならば、わたくしも同行しましょう。あなたがたの御身を御護り致します」
「すまぬな、紀伊。世話をかける」
礼を述べながら微笑む瑠胡に、紀伊は気の重そうな顔で応じた。
「……いつものこととはいえ、まったくです。姫様」
--------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
リリン合流回――使い魔ですけど。そして、グレイバーン来襲。
そして、紀伊がとっても便利だと、書いていると思います。こういうキャラって、とても突っ込み役――書きやすいです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
12/14 追記
アップしたつもりで、なんか操作ミスしたみたいで、第四部のところにアップできてなかったです……。申し訳ありませんでした。
久しぶりにやらかしました。
城にある謁見の間――その玉座に座っていた安仁羅の前で、与二亜は跪いていた。
とはいえ、インムナーマ王国周辺で見られるような、片膝を付く姿勢ではない。左右の拳と両膝を床につけ、頭を僅かに下げている。
与二亜のもたらした報せに、安仁羅は眉を顰めた。
「〈神に次ぐ〉グレイバーンが……な」
「はい。彼奴は瑠胡に執着しておるように見えますが……目的は父上――いえ、竜神の後継となることでしょう」
安仁羅は目を細め、肘掛けに頬杖をついた。
「グレイバーン……か。確かに、強さはドラゴン族の中でも随一かもしれぬ。だが……竜神とは強さだけにあらず。神には、神としての秩序がある。それを護れぬような性分の持ち主ならば、竜神だけではなく、瑠胡のつがいにも相応しくなかろう」
「仰有る通りです。自ら〈神に次ぐ〉と名乗るほどの傲慢さです。同胞からも嫌悪されております故、数多の火種になりましょう。ですが……グレイバーンも瑠胡のことを諦めぬでしょう」
与二亜から言われた内容に、安仁羅は苦い顔をした。
グレイバーンは、ドラゴンの中でも希有な、《魔力の才》を二つも宿した存在だ。厄介なことに、その二つの力が、グレイバーンの異名を不動の物としている。
グレイバーンに暴れられでもしたら、この神界も無事では済まないだろう。
安仁羅は深い溜息を吐いた。
「まったく……戻ったばかりだというのに、瑠胡は災難が続くな。つがいの者は、天竜族への昇華を承知したのか?」
「それは……まだ、わかりません。ですが、きっと承知してくれるでしょう」
「ほお。おまえがそこまで言うとはな。あのつがい……ランド・コールといったか。彼になにを見た」
「いえ、特にはなにも」
与二亜は父の質問に答えたあと、微かに微笑みながら付け足した。
「彼は、確かに瑠胡のことを真剣に想っています。ですから瑠胡のことを考えて、昇華を受け入れると思ったまでです」
与二亜の返答を聞いて、安仁羅は頬杖を解いた。
これまで竜神の後継者として修行をしていただけあって、与二亜は目にした者の心情を読み解くことができる。
(とはいえランドのそれは、そんな技術がなくとも、わかりやすかったですけどね)
心中で微笑みながら、与二亜は僅かに頭を上げて父の顔を覗った。
普段は無表情な安仁羅の口元が、微笑んでいるようだった。瑠胡が持ち込む災難に頭を痛めつつも、娘の幸せを願う父としての顔を覗かせた――与二亜には、そういう表情に見えた。
今までの緊張した空気が緩んだ――その直後、竜神・安仁羅に使える家臣の一人が、謁見の間へと駆け込んできた。
「安仁羅様! それに与二亜様、一大事に御座います!」
「……慌ただしいな。なにがあったのだ?」
与二亜の問いに、家臣は平伏した姿勢で報告を続けた。
「銀竜――〈神に次ぐ〉グレイバーンが――我らの制止を振り切り、こちらへ向かっておりまする」
「なんだって!?」
家臣からの報告に、与二亜の顔にサッと怒りの色が浮かんだ。
昨日、竜王・安仁羅に会うのは明日――昨日の段階では明後日だが――にしろと、告げたばかりだ。
グレイバーンは、その約束を破った。しかも与二亜が安仁羅へ午前の面会の頃合いを狙って、護りを突破している。
与二亜は安仁羅に一礼をしてから、城から出ようとした。しかし、その前に頭上から、ドラゴンの咆吼が聞こえてきた。
天井の無い謁見の間から頭上を見上げた与二亜の目が、城の真上を跳ぶシルバードラゴンの姿を捉えた。
やがて謁見の間の壁の上に、シルバードラゴンであるグレイバーンが降り立った。
「グレイバーンッ!!」
大声を張り上げる与二亜を無視して、グレイバーンは安仁羅に首を向けた。
〝竜神・安仁羅よ――我が名はグレイバーンと申す。瑠胡姫のことについて、進言致す〟
玉座よりも高い位置、そして言葉遣い――そのすべてが、他者を見下すような言動だった。その態度に憤りを覚えたものの、安仁羅が小さく手を挙げて制され、与二亜は顔を顰めるのを堪えながらも畏まった。
安仁羅は無表情な目でグレイバーンを見上げると、静かに問いかけた。
「グレイバーンとやら。貴殿の噂は聞き及んでおる。して、我になに用か?」
〝噂――か。恐らくは、碌でもない噂話が伝わっておるのでしょうな――まあ、そんな話は、どうでもいい。話というのは、瑠胡のことだ。あの姫は、こともあろうに人間なんぞを。つがいにしようとしていると聞いた。そのようなこと、我は許さぬ――〟
僅かに牙を剥いて凄むグレイバーンだったが、安仁羅の表情に変化はない。
しばらく反応がなかったが、やがて肘掛けを使って頬杖をつきながら、安仁羅はやや大袈裟な溜息を吐いた。
「なるほど、貴殿の話は理解した。だが、つがいについては瑠胡の判断によるものだ。娘とはいえ、我の関与するところではない。用向きがそれだけであれば、お引き取り願おう」
〝巫山戯るなっ!〟
グレイバーンは怒りを露わに玉座の真正面に降り立とうと、翼を羽ばたかせながら下降を始めた。
しかし突然に落下の勢いが増し、グレイバーンは床に叩き付けられた。
「それ以上、父上――竜王様への侮辱と反抗は許さぬ」
〝が――与二亜……め〟
見えぬ圧力に包まれながら、グレイバーンは苦悶に満ちた顔で与二亜を睨めた。グレイバーンは、圧力に抗うように安仁羅へと目を向けた。
〝竜神よ――人間なんぞに、その地位を明け渡す気か。それは我らの同胞たるドラゴン種によって、連綿と受け継がれてきたものではないのか!!〟
グレイバーンの怒声に、安仁羅の目が僅かに見開かれた。
「それでは聞こう。其方は、なにを望むのだ?」
安仁羅の問いに、グレイバーンは絶対の自信を込めた声で告げた。
〝一騎打ち――だ。そのつがいとの、一騎打ちを所望する〟
その返答を聞いて思わず息を呑んだ与二亜は、懐から摘まみ上げた鱗を飛ばした。
*
少し早めの昼食を食べ終えてから、俺たちは瑠胡の屋敷を出た。
竜神であり、瑠胡の父親である安仁羅――と面会するためだ。約束の時間より、十数分はほど早めに出発した。ここまですれば、紀伊に文句を言われないであろう――と、瑠胡が言い出したのだ。
まあ余裕をもって到着するのは、間違いじゃない。俺とセラは苦笑しながら、瑠胡に従ったというわけだ。
俺と並んで歩いていた瑠胡は、小さな小箱を手にしていた。その小箱は確か……ここに経つ前に、リリンから手渡されたものだ。
「瑠胡、それを持って来たんですか?」
「ええ。一度も開けてませんでしたし。道中の話の種になればいいと思いまして」
にこやかに答えながら、瑠胡は金属の金具で閉じられた小箱を開けた。
その中には、一羽の文鳥が収められていた。文鳥は飛び上がるかと思いきや、しばらくすると俺と瑠胡とを交互に見た。
〝ああ――やっと開けて頂けましたね〟
「その声――御主、リリンか!?」
〝はい。瑠胡姫様。使い魔での同伴をお許し下さい〟
瑠胡を見上げていた文鳥――リリンの使い魔に、俺は溜息交じりに問いかけた。
「いや……リリン? たまたま今日、箱を開けたからいいけど。しばらく開けなかったら、使い魔も餓死するんじゃないか?」
〝それなら、大丈夫です。箱の中に餌も入れておきましたから。それに最悪は、中から声をかけるつもりでしたし〟
リリンの言うとおり、小箱の中には粘土状の飼料らしいものが入っていた。そして、文鳥の尻尾側には、糞もあったりする。
俺はそのあたりを見ないようにしながら、リリンの使い魔に告げた。
「とりあえず、俺たちはこれから、瑠胡の両親に会うんだ。念のため、どこか水場で身体を洗ってきてくれないか?」
〝そうですね。そうします〟
文鳥は飛び立つと、俺たちの周囲を旋回した。そして屋敷の裏へ飛んでいってから、数分後。リリンの使い魔である文鳥が戻って来た。
〝お待たせしました〟
「ふむ。それでは、妾の肩にでも停まっておれ。それでは、行くとしようかの」
瑠胡が俺たちを促すが、リリンがいるからか普段の姫としての言動に戻っている。
俺とセラが、そんな瑠胡に苦笑していると、道の向こう側から、ドラゴンの翼を生やした紀伊が飛んできた。
「瑠胡姫様っ!!」
どこか焦っているような顔で、紀伊は瑠胡の前に降りてきた。
「紀伊や、どうした。妾は約束の時間に間に合うよう、ちゃんと屋敷を出ておるぞ?」
「それどころでは、ありません。お三方、城へと向かうのは中止して下さい。今、〈神に次ぐ〉グレイバーンが乗り込んできております。このまま瑠胡姫様やランド殿が安仁羅様に謁見すれば――ランド殿の御身に災いが及ぶ可能性がございます」
紀伊のもたらした内容に、俺と瑠胡、それセラのあいだに緊張が走った。沙羅さんからグレイバーンのことを聞いたのは、昨日のことだ。
それだけに、紀伊の説いた危険性は理解できた。
だけど――。
視線を向けてきた瑠胡に、俺は頷いた。ここまで来て、引き返す道理はない。竜神・安仁羅――瑠胡の父親に会って、色々と交渉をしなくてはならない。
瑠胡は俺に頷き返すと、紀伊に告げた。
「城の様子を伝えてくれて、かたじけない。しかし、妾たちは城へ行く。それに、だ。ここで退いても、状況は変わらぬかもしれぬ。ならば、行くしかあるまい」
瑠胡の返答を聞いて、しばらく悩んでいた紀伊は、やがて諦めたように頭を下げた。
「ならば、わたくしも同行しましょう。あなたがたの御身を御護り致します」
「すまぬな、紀伊。世話をかける」
礼を述べながら微笑む瑠胡に、紀伊は気の重そうな顔で応じた。
「……いつものこととはいえ、まったくです。姫様」
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
リリン合流回――使い魔ですけど。そして、グレイバーン来襲。
そして、紀伊がとっても便利だと、書いていると思います。こういうキャラって、とても突っ込み役――書きやすいです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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