屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第四部『二人の帰郷、故郷の苦境』

一章-4

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   4

 瑠胡の故郷へ赴く段取りをし始めてから、四日が経った。
 移動手段の確保に資金の確認、それと村の人々や、レティシアたち《白翼騎士団》への挨拶やらは済ませた。
 もちろん、俺の家の裏に居る家畜の世話なんかも依頼済みだ。
 瑠胡の故郷に行くことについて、村の人々の反応は、概ね好意的だった。手伝い屋の仕事の件や、諸々の不安などを口にする人もいたが、反対意見は無かった。
 意外だったのは、一番の不満を口にしたのがリリンということだろう。
 とはいえ、俺の瑠胡の関係や、瑠胡の故郷へ行くことに反対したわけじゃない。リリンは俺たちを前にして、少し俯きながらこう言ったのだ。


『わたしも、一緒に連れて行って下さい』


 俺たちの護衛としてという話かと、最初は思った。だがレティシアに訊いても、すでに別の者に決めているという返答だった。
 リリンは純粋に、俺たちに着いて行きたいようだ。しかし、こればかりはレティシアの許可がいる。


「帰って来ぬわけではないし、必ずしも数年間も滞在するわけではない。少しでも早く帰ってくる努力はするから、妾とランドの旅の無事を祈ってておくれ」


 最後には瑠胡に宥められて、なんとかリリンの気持ちも収まってくれた――というよりは、周囲の立場や騎士団の役目を思って折れてくれた、というのが正しいかもしれない。
 クロースやユーキにも挨拶をしたが、キャットは俺たちには興味がなさそうだし、セラは周囲の巡回に出ていて会えていない。
 飲みながら愚痴を聞いた間柄でもあるので、報告だけはしておきたかったけど……まあ、こればかりは仕方がない。
 次に会うのはいつかわからないが、息災に過ごしてくれればいい。
 とはいえ。
 瑠胡の故郷に行く前に、俺たちは王都タイミョンへ行くことにしている。
 俺の両親への挨拶や報せは必要ないが、ジョシアにだけは直接会って、諸事情を話しておいたほうがいいと、俺と瑠胡の意見が一致したからだ。
 だから、いったんはメイオール村に戻ってくるわけだから、まだ大袈裟にすることもないのである。
 移動手段というのも、瑠胡の故郷ではなく王都タイミョンまでのことだ。
 これについては運がいいことに、ミィヤスが協力してくれた。行商人であるミィヤスは、隊商に顔が利く。
 ミィヤスが乗り込む隊商の馬車列に、俺と瑠胡が同行することになっている。
 しかも、格安の運賃で。
 これは正直、助かる話なのだが……条件の一つが、武具を持参することだったのだ。
 道中には野生動物や山賊などという危険も多いから、元々武具は身につけていくつもりだったけど……これが条件になっているというのが気になってはいた。
 そして当日――。
 出発前の早朝。荷馬車の御者台で、隣に座っている見るからに朴訥な男――ミィヤスを横目に見ながら、俺は溜息を吐いた。


「それで、これはどういうことなんだよ」


「護衛をすれば、運賃が安くなるっていわれて……ね」


 どこか気まずいことでもあるのか、俺の問いに答えるミィヤスは、浮かない顔をしていた。顔を俺に向けてはいたが、視線は明後日の方角だ。
 俺はそんなミィヤスの態度に、がっくりと肩を落とした。


「なんていうか……護衛ってさ。給料をもらいながら、やるもんじゃねーのか?」


「それは……同乗者の分ということみたい。ランドの分は運賃を取らないし、姫様たちの分だって値引きはしてるってさ」


「……ありがたいね。平均的な護衛の給料なら、六人分の運賃にはなるっていうのに」


「そこは……ほら、隊商の長も商人だから。少しでも経費を抑えようと、頭を動かすのが仕事みたいなものだし。でも、みんな喜んでたよ。あの《地獄の門》を壊滅させた剣士が、護衛に入ってくれたって」


 ……なるほど。俺たちが、あっさりと隊商に同乗できた理由がわかった。
 あの《地獄の門》が、どれだけ悪名が高かったかまでは知らないが。あの盗賊団が壊滅――といっても捕まっただけだが――した話は、かなり広まっているようだ。
 ただ、二つほど疑念が残る。
 どうして俺が、壊滅させた剣士ということになっているのか。そしてそのことを隊商の長がミィヤスの話を信じたのか……だ。
 そんなことを考えていたら、隊商の長がこっちに近寄って来た。
 薄緑色のチェニックに、フェルト帽を被った白髪の老人は、にこやかな表情で、御者台にいる俺たちに軽い会釈をした。


「この隊商の長、インスマンと申します。ミィヤスから話を聞きましたが、あの《地獄の門》を、たったお一人で潰した剣士様だそうで。そんな御方が同乗して下さるとは、心強いです」


「あの、自分で言うのもなんですが……その話、よく信じましたね」


 俺が同じ話を聞いても、絶対に信じないだろう。
 荒唐無稽というか――にわかに現実味のない話だし。そんな疑念に、インス――隊商の長さんは苦笑いを浮かべた。


「ええ――失礼ながら、話を聞いた当初は疑ってしまいましたよ。ですが、騎士様がお墨付きを下さいましたので。団長様と……今回、同乗される騎士様ですが」


「ああ……なるほど」


 俺が納得した顔を見せると、インス……ええっと、隊商の長さんは会釈をして去って行った。
 うーん。違うことを考えていたせいか、隊商の長さんの名前が朧気だ。
 しかし、そんな些末なことは、今はどーでもいい。
 俺は幌の中へ目をやると、警護のために同乗したキャットを睨んだ。
 赤茶けた髪をした美女だが、ここいらの女性にしてはかなり珍しく、髪を短く切り揃えている。
 俺と隊商の長との会話を聞いていたのか、キャットは不敵な笑みを浮かべながら、腕を頭の後ろで組んだ。


「なによ。事実を話しただけじゃない」


「別に、俺一人の手柄じゃねぇだろ……あんな話、広めたくはねぇんだけどな」


「諦めなさいな。それより、隊商の警護はヨロシクねぇ。護衛なんて面倒臭いって思ってたけど、楽できそうで良かったわ」


 ……このやろう。それが目的だな。

 俺は溜息を吐くと、キャットの真正面に座っている瑠胡に目を移した。
 布を敷いた小さな木箱に、瑠胡は腰を降ろしていた。ミィヤスの商材らしい荷物がゴチャゴチャと積み込まれた中で、瑠胡の煌びやかさが目に眩しい。


「瑠胡、道中は不便をかけるかもしれないけど、辛抱して下さいね」


「それは構わぬ。あの誘拐事件のときと比べれば、まだ快適なほうだと思うておるからの。それに……ランドと同じ馬車で、寝泊まりしてよいらしいからの。不便さよりも、そちらの嬉しさが勝っておる」


「それは、えっと……」


 俺は、顔を赤くしながら頷いた。
 なにがどう伝わったのか――俺は瑠胡と同じ馬車で寝泊まりできると言われていた。
 野宿をするときは護衛は勿論、商人だって地面の上で寝るのが普通だ。馬車で眠るのは女性か子どもと相場が決まっている。
 俺も隊商のことは詳しく知らないが、どうも俺と瑠胡は新婚の夫婦という扱いになっているらしい。


「言い方を少し間違えたみたいで」


 などと、ミィヤスは言っていたけど。
 いやまあ、瑠胡と一緒にいられるのは嬉しいけど。ただ、同じ場所で寝るというのは――その、なんだ。
 俺たちが世話になる隊商は七台の荷馬車に、護衛の傭兵が乗る騎馬が三頭。荷車の行商人も数名ほどいるし、馬車に同乗した護衛も五、六人いる。
 そんな中、しかも野外で、諸々なことをするつもりはないけれど! でもある意味、生殺しの状態になりそうで……理性を保つだけで疲弊しそうだ。
 俺は瑠胡に手を振ってから、正面に向き直った。
 そろそろ、出発の時間だ。
 俺は道中の不安を払拭するように、冗談めかした顔でミィヤスへと話しかけた。


「まあ、これだけ護衛がいれば、俺の出番はなさそうだよな。山賊だって襲ってこないだろ?」


「そうでもないよ? 途中の山道なんかは、山賊や盗賊も出たりするし。冗談浮きで、かなり頼りにしてるからね?」


 ミィヤスは至極真面目な顔で、俺を見た。

 ……マジかぁ。

 言いしれぬ不安を覚え始めたとき、長の号令で隊商の馬車列が動き始めた。
 それから四時間ほど進んだ森の中で、俺たちは野盗の襲撃にあった――んだけど。


「ど、どうか、命ばかりはお助けを!!」


 野盗の首魁を始めとした十名ばかりが、地に伏した姿勢で命乞いを始めていた。
 ここまでの経緯を簡単にいえば、襲撃してきた野盗の一団に対し、俺と瑠胡とで竜語魔術で先制。
 頭上での〈爆炎〉二連発で怯んだところに、隊商の長が「降参しろ! ここには《地獄の門》を滅ぼした剣士様と、騎士団の騎士様がいるんだぞ!」と大声で告げたのだ。
 あとは、ご覧の有様である。


「確かに、《地獄の門》が壊滅したときは大きな爆発があったって……頼む、ドラゴンの餌にしないでくれ!」


「生きたまま解剖されるのはイヤだ!」


「なんか、雄豚扱いされるって……」


 口々に、様々な被害妄想を述べる野盗たちに目眩を覚えながら、俺はキャットを振り返った。


「こいつら、どうする?」


「そうねぇ……面倒臭いけど、全員ふん縛って次の町で衛兵に引き渡すのが無難じゃない? ねえ、あんたたち。死ぬよりは捕まる方がマシよね?」


 キャットに問われた野盗たちは、声を揃えて「お願いします!」と返答してきた。
 いやなんか……俺たちの噂が、周囲にどう伝わっているのかが不安になってきた。野盗たちの拘束は護衛の傭兵たちに任せて、俺は人目に付かないよう、静かに溜息を吐いたのだった。

   *

 森の中から、野盗たちが拘束される様子を伺っている男がいた。
 目深に濃緑色のフードを被り、鋭い目をした男だ。やや鷲鼻で、小柄な体格だったが、贅肉は少なく、四肢は引き締まっている。
 男は隊商を見回すと、キャットで目を止めた。


「ほお……女騎士、ねぇ」


 男は口元に冷笑を浮かべると、音もなく森の中へと姿を消した。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

とりあえず、本文四千文字以下でございます。いや、マジで危なかったですが。
ギリギリ、3900文字未満。あと10文字くらいで3900台でした。

話変わって、本文中に「雄豚」発言がありましたが、あれは中の人の趣味ではございません。
そっちの趣味は、さすがに無いですね。
雄犬派なので。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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