屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
73 / 275
第三部『二重の受難、二重の災厄』

二章-1

しおりを挟む


 二章 直面する本性


   1

 ランドと瑠胡がキティラーシア姫とジョシアを連れ去った馬車を追跡したあと、レティシアはすぐに団員を集めた。
 ハイム老王も孫娘を連れ去られた動揺からすぐに立ち直り、自ら騎士団を指揮し始めていた。


「リリン、使い魔でランドたちを追え! それが一番、確実だ」


「……はい」


 どことなく、表情に後悔の念が滲み出たリリンは馬車に乗ると、使い魔召喚の詠唱を始めた。


「まったく……やはり村人など、なんの役にも立たなかったではないか。ヤツがいなければ、姫が攫われずに済んだものを……」


 リリンの様子を眺めていたセラだったが、近くを通りかかった騎士団長のぼやきを聞いて、目を剥いた。
 早歩きに騎士団長へと近寄ると、慇懃な態度で、わざと鎧の踵で大きな音を立てた。


「失礼ながら、先ほどの発言を撤回して頂きたい。姫様が攫われたのは、我ら騎士団の失態です。ランドはハイム老王を護り、敵の狙いがキティラーシア姫とわかると、即座に行動を切り替えておりました。これを見るに、ランドに非は御座いません」


「なにを――貴様、無礼であろう!!」


 怒りで顔を真っ赤にさせた騎士団長は、態度を翻すこともなく、セラの前で長剣を抜いた。このままではセラに斬りかかる――その勢いで長剣を振りかぶったとき、二人のあいだにハイム老王の怒声が割り込んだ。


「やめんか、馬鹿者がっ!! 他人にすべての非を被せておる暇があるなら、さっさと追跡の指揮を執らぬか!」


「し、失礼を――総員、姫を攫った馬車を追う!」


 自らも騎馬に跨がると、騎士団長は騎士団を率いて森の中へ入って行った。
 ハイム老王はセラに「正論ではあったが、時と場合を考えよ。あまり無茶をするでない」と諭すと、リリンと同じ《白翼騎士団》の馬車に乗り込んだ。
 その馬車に、レティシアは騎馬のまま近寄った。


「馬上から失礼いたします。ランドと瑠胡姫が先行しておりますので、少なくとも時間稼ぎはできるはずです。ハイム老王陛下におかれましては、御自分を責められること無きよう、伏してお願い申し上げます」


「……うむ。気遣いご苦労。しかし、レティシア。御主は、ランドと瑠胡姫のことを信頼しておるのだな」


「いいえ。信頼ではありません。過去の実績による、状況分析によるものです。我々はリリンの指示で馬車を勧めます。もしかすると、騎士団の方々とは別行動になるやもしれませぬが……よろしいのでしょうか?」


「構わぬ。こちらに乗ったほうが可能性が高いと判断したのは、わたしだ。進む道は任せせたぞ、レティシア」


 ハイム老王に一礼をすると、レティシアは騎士団に出発の号令をかけた。

   *

 俺と瑠胡は上空から、ジョシアとキティラーシア姫を攫った馬車を追跡していた。
 馬車はすでに街道を逸れて、森の中を走っていた。ほとんどまっすぐに南西を目指していた馬車は、すでに国境を越えてゼイフラム国へと入っていた。
 少し遠くに宿場町っぽい空間が見えていたが、馬車はそちらには行かず、森の中で停まった。


「馬車が停まったぞ」


「なら、行きましょう。人質がいる以上、虚を突いての強襲が、一番だと思いますし。人質に手を出す間もなく、全員を砕くしかない」


「承知した。妾も少々本気を出すとしよう」


 すでに首筋から翼と前足を出していた瑠胡が、新たに長い尾を生えさせた。本気というならドラゴン化なんだろうけど、それだと人質の身が保証できないだろうし。
 瑠胡には少々程度の本気くらいが、丁度良いのかもしれない。
 旋回しながら瑠胡が好機を伺っている中、馬車から五人の男女が出てきた。そのうちの二人はドレスを着ているから、きっとジョシアとキティラーシア姫だろう。
 ということは、他の三人が誘拐犯か。他国の刺客か、盗賊団か――どちらにせよ、相手が少人数なのは好都合だ。


「先ほどとは状況が変わったが……行くか?」


「もちろんです」


 俺が頷くと、瑠胡は急降下を始めた。
 三人の男は、馬車から少し離れた粗末な家の前にジョシアたちを立たせた。男たちは数歩分離れると、なにやら話をし始めたように見えた。
 今なら、多少の大暴れで人質を巻き込む恐れはない。
 男たちの後方へと旋回した瑠胡は、低空を滑空し始めた。このままいけば、奇襲は成功できそうだ。
 そう思った直後、男たちはジョシアとキティラーシア姫の前で片膝を付き、深々と頭を垂れた。
 ジョシアとキティラーシア姫の意識は戻っているのか、三人の男たちの行為に戸惑いの表情を浮かべていた。
 一番右にいた大男が、必要以上に大声で喋り出すのが聞こえてきた。


「インムナーマ王国の姫君におかれましては、手荒い対応をしたこと、まずは詫び申す!」


 少し無茶苦茶な言い回しだった気がしたが、男の態度に害意は感じられなかった。俺は瑠胡に少し待つよう促すと、なるべく静かに着地した。
 俺たちが様子を伺っていると、大男が続きを話し始めた。


「我ら三兄弟、姫君たちに害意はございません。ただ目的を達成するまで、我らの指示に従い、大人しくしていて頂きたい」


「本当に、ごめんなさい! すいません! あの……借金を返す為なんです!」


 一番左にいた中肉中背の男は、かなりの低姿勢で平謝りし始めた。
 そして真ん中の男は覆面を取ると、優雅な所作で頭を垂れた。


「お二人にはご不便をかけますが、出来る限りのお世話と、もてなしをさせて頂きます」


 三人の言葉から、大体の察しはついた。要するに、身代金目当ての誘拐だ。それも借金返済のため、仕方なく――というわけか。
 俺は長剣を抜くと、男たちに近づいた。


「どんな理由があっても、誘拐なんざ許されるわけねぇだろ。大人しく、二人を返せ。そうすれば、ここで見逃してやる」


「てめぇ……俺たちをつけてきたのか!」


 大男が横に置いていたメイスもどきを手に、俺へと迫って来た。
 見た目の重量のわりに、大振りになっていない。真横に振られたメイスを俺は後ろに跳んで躱しつつ、〈筋力増強〉を使いながら長剣でメイスを弾いた。


「こいつ――っ!?」


 驚きに目を見広げつつも、大男はすぐに冷静さを取り戻した。
 俺は追撃しようとしたが、メイスを巧みに操りながら、俺の接近を阻んだ。こいつ、見た目は野盗か山賊だが、腕は確かだ。
 一度目の攻防を終えた直後、キティラーシア姫の高らかな声が辺りに響いた。


「お止めなさい! 今ここで、争うことは許しません」


 姫としての威厳を露わに、キティラーシア姫は二人の男のあいだを通って、俺と大男の前まで歩いてきた。


「ランド様。そして誘拐犯の御方も。剣を収めなさい。まずは彼らの話を聞いてから、判断をすることに致しましょう」


「あの……キティラーシア姫。誘拐されたというのは、御理解されておりますでしょうか?」


「もちろんですわ。ですが王族や貴族は、誘拐や暗殺とは常に隣り合わせですの。お金で解決していただける犯罪程度で、慌てはしません。ランド様と――あら、瑠胡姫様もわたくしどもの為に、ここまで来て下さったのですね! それではお二方、とても小さなお家ですが中で誘拐犯の方々と、お話することと致しましょう」


 ……誘拐されたという緊張感が、まったく感じられない。

 おっとりとのたまうキティラーシア姫は、背後にいた二人に家屋のドアを開けるよう、御丁寧にお願いした。
 キティラーシア姫は小さなと言っていたが、大きさ的には標準的な一軒家だ。二階はなく、台所を除いて、二部屋分の仕切りがある。
 台所兼居間にあるテーブルにキティラーシア姫と瑠胡を座らせた俺たちは、三人組から詳しい経緯を聞くこととなった。


「まあ……お父様が借金を?」


「まあ、そういうことです、姫君。支払えなければ、我々は奴隷商に売られることでしょう。逃げたとしても、相手は盗賊団。いずれ捕まり、拷問を受けた後に、奴隷商行きになるでしょう」


 三人組は兄弟らしく、次男のブービィが俺たちに説明をしていた。


「そういうわけで、お金がいるんです。僕らも必死で働きましたけど、期限までに、間に合いそうになくて」


 と、これはミィヤス。長兄のアインは、さっきから無言で、俺を睨んでいた。どうやら、部外者である俺を警戒しているようだ。
 キティラーシア姫は彼らの話を聞いてから、柔和に微笑みながら言った。


「それで、どのようにしてお金を手に入れるのですか?」


「それは……身代金だな。傭兵時代、戦場で騎士を捕らえたことがある。そのとき、雇い主の領主が、あいての国に身代金を要求していた。それを同じことをするってわけです」


「んん? いえ、わたくしがお尋ねしたいのはそのことではなくて……どのような方法で安全に、かつ確実に身代金を手に入れるか。その方法を教えて頂きたかったんですの」


 キティラーシア姫の言葉に、三兄弟は互いに顔を見合わせながら、首を捻っていた。

 ……まさかとは思うけど、『身代金で稼ごう』以外のことを、考えてないな、こいつら。

 俺と同じことを思ったのか、キティラーシア姫は両手を胸の前で組みながら。小首を傾げた。


「もしかしたら、そこまで考えてらっしゃらない?」


 この言葉を切っ掛けに、三兄弟の家の中は、しばらくのあいだ沈黙が支配することとなった。
 その沈黙を破ったのは、瑠胡だった。


「ランドや……こやつら、もしかして阿呆か?」


 概ね同意なんだけど、それは言わないほうがいいんじゃないかな……その言葉を発端にして、三兄弟は頭を付き合わせながら、今更になって作戦を練り始めたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

処理中です...