屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第三部『二重の受難、二重の災厄』

二章-1

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 二章 直面する本性


   1

 ランドと瑠胡がキティラーシア姫とジョシアを連れ去った馬車を追跡したあと、レティシアはすぐに団員を集めた。
 ハイム老王も孫娘を連れ去られた動揺からすぐに立ち直り、自ら騎士団を指揮し始めていた。


「リリン、使い魔でランドたちを追え! それが一番、確実だ」


「……はい」


 どことなく、表情に後悔の念が滲み出たリリンは馬車に乗ると、使い魔召喚の詠唱を始めた。


「まったく……やはり村人など、なんの役にも立たなかったではないか。ヤツがいなければ、姫が攫われずに済んだものを……」


 リリンの様子を眺めていたセラだったが、近くを通りかかった騎士団長のぼやきを聞いて、目を剥いた。
 早歩きに騎士団長へと近寄ると、慇懃な態度で、わざと鎧の踵で大きな音を立てた。


「失礼ながら、先ほどの発言を撤回して頂きたい。姫様が攫われたのは、我ら騎士団の失態です。ランドはハイム老王を護り、敵の狙いがキティラーシア姫とわかると、即座に行動を切り替えておりました。これを見るに、ランドに非は御座いません」


「なにを――貴様、無礼であろう!!」


 怒りで顔を真っ赤にさせた騎士団長は、態度を翻すこともなく、セラの前で長剣を抜いた。このままではセラに斬りかかる――その勢いで長剣を振りかぶったとき、二人のあいだにハイム老王の怒声が割り込んだ。


「やめんか、馬鹿者がっ!! 他人にすべての非を被せておる暇があるなら、さっさと追跡の指揮を執らぬか!」


「し、失礼を――総員、姫を攫った馬車を追う!」


 自らも騎馬に跨がると、騎士団長は騎士団を率いて森の中へ入って行った。
 ハイム老王はセラに「正論ではあったが、時と場合を考えよ。あまり無茶をするでない」と諭すと、リリンと同じ《白翼騎士団》の馬車に乗り込んだ。
 その馬車に、レティシアは騎馬のまま近寄った。


「馬上から失礼いたします。ランドと瑠胡姫が先行しておりますので、少なくとも時間稼ぎはできるはずです。ハイム老王陛下におかれましては、御自分を責められること無きよう、伏してお願い申し上げます」


「……うむ。気遣いご苦労。しかし、レティシア。御主は、ランドと瑠胡姫のことを信頼しておるのだな」


「いいえ。信頼ではありません。過去の実績による、状況分析によるものです。我々はリリンの指示で馬車を勧めます。もしかすると、騎士団の方々とは別行動になるやもしれませぬが……よろしいのでしょうか?」


「構わぬ。こちらに乗ったほうが可能性が高いと判断したのは、わたしだ。進む道は任せせたぞ、レティシア」


 ハイム老王に一礼をすると、レティシアは騎士団に出発の号令をかけた。

   *

 俺と瑠胡は上空から、ジョシアとキティラーシア姫を攫った馬車を追跡していた。
 馬車はすでに街道を逸れて、森の中を走っていた。ほとんどまっすぐに南西を目指していた馬車は、すでに国境を越えてゼイフラム国へと入っていた。
 少し遠くに宿場町っぽい空間が見えていたが、馬車はそちらには行かず、森の中で停まった。


「馬車が停まったぞ」


「なら、行きましょう。人質がいる以上、虚を突いての強襲が、一番だと思いますし。人質に手を出す間もなく、全員を砕くしかない」


「承知した。妾も少々本気を出すとしよう」


 すでに首筋から翼と前足を出していた瑠胡が、新たに長い尾を生えさせた。本気というならドラゴン化なんだろうけど、それだと人質の身が保証できないだろうし。
 瑠胡には少々程度の本気くらいが、丁度良いのかもしれない。
 旋回しながら瑠胡が好機を伺っている中、馬車から五人の男女が出てきた。そのうちの二人はドレスを着ているから、きっとジョシアとキティラーシア姫だろう。
 ということは、他の三人が誘拐犯か。他国の刺客か、盗賊団か――どちらにせよ、相手が少人数なのは好都合だ。


「先ほどとは状況が変わったが……行くか?」


「もちろんです」


 俺が頷くと、瑠胡は急降下を始めた。
 三人の男は、馬車から少し離れた粗末な家の前にジョシアたちを立たせた。男たちは数歩分離れると、なにやら話をし始めたように見えた。
 今なら、多少の大暴れで人質を巻き込む恐れはない。
 男たちの後方へと旋回した瑠胡は、低空を滑空し始めた。このままいけば、奇襲は成功できそうだ。
 そう思った直後、男たちはジョシアとキティラーシア姫の前で片膝を付き、深々と頭を垂れた。
 ジョシアとキティラーシア姫の意識は戻っているのか、三人の男たちの行為に戸惑いの表情を浮かべていた。
 一番右にいた大男が、必要以上に大声で喋り出すのが聞こえてきた。


「インムナーマ王国の姫君におかれましては、手荒い対応をしたこと、まずは詫び申す!」


 少し無茶苦茶な言い回しだった気がしたが、男の態度に害意は感じられなかった。俺は瑠胡に少し待つよう促すと、なるべく静かに着地した。
 俺たちが様子を伺っていると、大男が続きを話し始めた。


「我ら三兄弟、姫君たちに害意はございません。ただ目的を達成するまで、我らの指示に従い、大人しくしていて頂きたい」


「本当に、ごめんなさい! すいません! あの……借金を返す為なんです!」


 一番左にいた中肉中背の男は、かなりの低姿勢で平謝りし始めた。
 そして真ん中の男は覆面を取ると、優雅な所作で頭を垂れた。


「お二人にはご不便をかけますが、出来る限りのお世話と、もてなしをさせて頂きます」


 三人の言葉から、大体の察しはついた。要するに、身代金目当ての誘拐だ。それも借金返済のため、仕方なく――というわけか。
 俺は長剣を抜くと、男たちに近づいた。


「どんな理由があっても、誘拐なんざ許されるわけねぇだろ。大人しく、二人を返せ。そうすれば、ここで見逃してやる」


「てめぇ……俺たちをつけてきたのか!」


 大男が横に置いていたメイスもどきを手に、俺へと迫って来た。
 見た目の重量のわりに、大振りになっていない。真横に振られたメイスを俺は後ろに跳んで躱しつつ、〈筋力増強〉を使いながら長剣でメイスを弾いた。


「こいつ――っ!?」


 驚きに目を見広げつつも、大男はすぐに冷静さを取り戻した。
 俺は追撃しようとしたが、メイスを巧みに操りながら、俺の接近を阻んだ。こいつ、見た目は野盗か山賊だが、腕は確かだ。
 一度目の攻防を終えた直後、キティラーシア姫の高らかな声が辺りに響いた。


「お止めなさい! 今ここで、争うことは許しません」


 姫としての威厳を露わに、キティラーシア姫は二人の男のあいだを通って、俺と大男の前まで歩いてきた。


「ランド様。そして誘拐犯の御方も。剣を収めなさい。まずは彼らの話を聞いてから、判断をすることに致しましょう」


「あの……キティラーシア姫。誘拐されたというのは、御理解されておりますでしょうか?」


「もちろんですわ。ですが王族や貴族は、誘拐や暗殺とは常に隣り合わせですの。お金で解決していただける犯罪程度で、慌てはしません。ランド様と――あら、瑠胡姫様もわたくしどもの為に、ここまで来て下さったのですね! それではお二方、とても小さなお家ですが中で誘拐犯の方々と、お話することと致しましょう」


 ……誘拐されたという緊張感が、まったく感じられない。

 おっとりとのたまうキティラーシア姫は、背後にいた二人に家屋のドアを開けるよう、御丁寧にお願いした。
 キティラーシア姫は小さなと言っていたが、大きさ的には標準的な一軒家だ。二階はなく、台所を除いて、二部屋分の仕切りがある。
 台所兼居間にあるテーブルにキティラーシア姫と瑠胡を座らせた俺たちは、三人組から詳しい経緯を聞くこととなった。


「まあ……お父様が借金を?」


「まあ、そういうことです、姫君。支払えなければ、我々は奴隷商に売られることでしょう。逃げたとしても、相手は盗賊団。いずれ捕まり、拷問を受けた後に、奴隷商行きになるでしょう」


 三人組は兄弟らしく、次男のブービィが俺たちに説明をしていた。


「そういうわけで、お金がいるんです。僕らも必死で働きましたけど、期限までに、間に合いそうになくて」


 と、これはミィヤス。長兄のアインは、さっきから無言で、俺を睨んでいた。どうやら、部外者である俺を警戒しているようだ。
 キティラーシア姫は彼らの話を聞いてから、柔和に微笑みながら言った。


「それで、どのようにしてお金を手に入れるのですか?」


「それは……身代金だな。傭兵時代、戦場で騎士を捕らえたことがある。そのとき、雇い主の領主が、あいての国に身代金を要求していた。それを同じことをするってわけです」


「んん? いえ、わたくしがお尋ねしたいのはそのことではなくて……どのような方法で安全に、かつ確実に身代金を手に入れるか。その方法を教えて頂きたかったんですの」


 キティラーシア姫の言葉に、三兄弟は互いに顔を見合わせながら、首を捻っていた。

 ……まさかとは思うけど、『身代金で稼ごう』以外のことを、考えてないな、こいつら。

 俺と同じことを思ったのか、キティラーシア姫は両手を胸の前で組みながら。小首を傾げた。


「もしかしたら、そこまで考えてらっしゃらない?」


 この言葉を切っ掛けに、三兄弟の家の中は、しばらくのあいだ沈黙が支配することとなった。
 その沈黙を破ったのは、瑠胡だった。


「ランドや……こやつら、もしかして阿呆か?」


 概ね同意なんだけど、それは言わないほうがいいんじゃないかな……その言葉を発端にして、三兄弟は頭を付き合わせながら、今更になって作戦を練り始めたのだった。
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