屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
70 / 276
第三部『二重の受難、二重の災厄』

一章-5

しおりを挟む

   5

 俺たちは、《白翼騎士団》の駐屯地の前へと移動した。どうやら一騎打ちは、ここでやるらしい。
 ハイム老王やキティラーシア姫、そして騎士団の面々が円を描くようにして、立ち並んだ。どうやら、これが闘技場の代わりらしい。
 俺は自宅で愛用の胴鎧と盾を身につけてから、駐屯地へと移動した。
 駐屯地に近づいたとき、悲鳴に似たジョシアの声が聞こえてきた。


「ど……どうしてお兄ちゃんが、騎士様と一騎打ちをするんです!?」


 この村にいないはずのジョシアに詰め寄られ、レティシアも困惑しているようだった。
 ちょっといい気味――とは思ったが、傍観するには酷な状況だ。仕方なく、俺は助け船を出すことにした。


「ジョシア、やめとけって」


 名を呼ばれて勢いよく振り返ったジョシアは、今度は俺に詰め寄った。


「お兄ちゃん、今度はなにをやらかしたの!? 肩がぶつかった騎士様を半殺しにしたとか……どーせ、そーゆーことをしたんでしょ!?」


「あのな……おまえの頭の中で、俺はどんな人間になってるんだよ。一騎打ちについては、俺より騎士団長からふっかけてきたんだよ。俺のせいじゃない」


 俺はジョシアに答えてから、憮然とした顔をレティシアに向けた。


「まったく……なあ、レティシア? 言っておくけど、今日の稼ぎも全部パーだからな。おまえがジョシアに余計なこと言ったお陰で、朝からバタバタだ。諸々含めて、依頼料はおまえから貰うからな」


「依頼料……まあ、いい。なんとか都合は付けよう。あと……ジョシアの件については、おまえの状況を訊かれたから、ありのままを答えただけなんだが。こうなるとは予測できなかった」


 そういうのが、余計なんだよ……まったく。

 俺が溜息を吐いていると、リリンの近くにいた瑠胡がこちらにやってきて、ジョシアの手を取った。


「心配なぞするな。ランドは妾に、勝つと誓った。ならば、必ずや勝つであろう」


 ジョシアからしたら、根拠の無いことを自陣満々な表情で述べる瑠胡は、かなり奇妙に映ったようだ。口を広げて言い返そうとする直前に、俺はジョシアの肩を小突いた。


「ま、姫様の言うとおりだよ。勝ってくるから安心して見てろ」


 そう言ってジョシアから離れたとき、俺はリリンからの視線を感じた。
 どこか物静かな雰囲気はそのままだが、どこか悲しげな目つきをしていた。俺の視線に気付くと、フッと俯いてしまったけど……俺、なにかしたかなぁ?
 俺が前に出ようとすると、セラが訓練用の木剣を差し出してきた。


「油断はするなよ」


「言われなくても……それより、リリンってなにかあったのか?」


「リリン? いや……知らないが。先ほども普段と変わりはなかったが」


「そっか……気のせいかな?」


 俺が木剣を受け取ると、セラは微苦笑を浮かべた。


「こんなときに、他人の心配か。まったく。一騎打ちに集中しないか」


 言葉とは裏腹に、柔らかな声のセラに送られ、俺は戦いの場の中央にいる騎士団長へと歩き出した。
 俺が近づくと、甲冑に身を包んだ騎士団長は面頬を降ろした。そして木剣を軽く振ってから、切っ先を俺に向けてきた。


「ようやく来たか。怖じ気づいたかと思ったぞ?」


「それは、どうも失礼を。それで、始めますか?」


「そうだな。もう一度、確認をさせてもらう。相手を殺しかねない、剣呑な《スキル》は使用不可だ。相手に胴や頭部など、真剣なら致命傷になりうる箇所へ、先に一撃を加えたほうが勝者となる――いいな?」


「ええ。もちろん」


 俺が頷くと、騎士団長は木剣を構えた。
 少し遅れて、俺も木剣と盾を構えた。基本に忠実な俺の構えとは異なり、騎士団長の構えは大きく上段に構えている。
 一撃で俺を倒そうという意図が、見え隠れしている構えだ。
 最初に動いたのは、騎士団長だった。大股で駆けて間合いを詰めてくると、大振り気味に木剣を振り下ろしてきた。
 木剣の軌道を読んでいた俺は、左斜め後ろへと跳んで、騎士団長の一撃を躱した。
 こちらから反撃をしようとしたとき、地面スレスレまで振り降ろされた木剣が、俺を追尾するように跳ね上がってきた。
 迫る騎士団長の一撃を、俺は木剣で弾――けなかった。一撃を受けた木剣の先端が、軽い衝撃とともに切断された。
 そのまま俺の首元へ伸びる騎士団長の木剣を、俺は身を仰け反って、まさに紙一重で躱した。
 俺が持っていた木剣は、斜めに切断されていた。切り口も鋭利で、少々柔らかいものなら突き刺さりそうだ。
 盾を構えて間合いを広げた俺に、騎士団長が軽い感嘆の声を発した。


「ほお……よく躱した」


 よく見ると、騎士団長の木剣が淡い光に包まれていた。どうやら、剣の威力を増す《スキル》のようだ。
 俺は睨み付けたり怒鳴るのを堪えながら、極めて平静な声で問いかけた。


「……危険な《スキル》は禁止では?」


「貴様は腕の立つ剣士なのだろう? ならばこの程度、危険でもなんでもないはずだ。ああ、わたしへの攻撃は全力で来て貰って構わぬぞ? この鎧は木剣程度なら、何万発打ち込まれたところで、痛くも痒くも無い」


 ……ああ、そう。

 怒りを抑えながら、俺は頭の中でイメージを組み立てた。
 今度はこちらから攻める――俺は盾を正面にして、騎士団長へと駆け出した。頭の中で、騎士団長を袈裟斬りにするイメージを組み立てていた。
 木剣を振りかぶった俺の手が、騎士団長の左肩を狙う。
 しかし、その一撃は見切られていたのか、騎士団長は素早く木剣で防ぐ姿勢を取った。


「なんと容易い一撃だっ!!」


 俺を格下だと喧伝するように、騎士団長の言葉はどこか芝居がかっていた。俺の木剣を叩き斬ろうとしたのか、騎士団長は力一杯に腕を振った。
 しかし、淡い光に包まれた騎士団長の木剣は、空を斬っただけだった。


「な――っ!?」


 俺が振り上げたのは、〈幻影〉が造りだした腕と木剣だ。まだ〈幻影〉の出来映えは荒いが、素早く動いていれば囮程度には使える程度にはなっている。
 騎士団長腕が振り上がった隙に、俺は兜の面貌を跳ね上げ、その中にある顔に木剣の先端を軽く押し当てた。
 左手は、騎士団長の手首を掴んで離さない。


「きさま――まやかしなど卑怯な!」


「そっくりそのまま、お返ししましょう。っていうか、動くなよ。動けばこのまま、一撃を加えるからな。そのまえに俺の《スキル》、〈ドレインスキル〉でさっきの《スキル》を奪いましょうか?」


 騎士団長に答えながら、俺は〈筋力増強〉で全身の力を増した。俺の腕回りが一回りほど膨らむのを見て、兜の奥にある騎士団長の目が見開かれた。


「おまえが……噂は本当だったのか」



「どんな噂かは知りませんけどね。それより、勝負の続き――をしようか」


 俺は息を吐いてから、静かな声で告げた。


「五秒だけ待つ。そのあいだに、降参しろ。変な動きをしたり五秒過ぎたら、問答無用で木剣を顔面に叩き込む。先端は、さっきので鋭利な断面が出来てる、切れ味も良さそうだけど……あんたは木剣なら、何万発でも平気なんだし。俺が一撃を入れたとしても、問題にはならんよな?」


「貴様……一介の村人風情が、騎士に非礼を働くなど、許されると思うな」


「許すもなにも……一騎打ちで力試しをふっかけたのは、そっちだろ? 大人しく負けを認めるか、一撃を受けるか――って、もう五秒経ったか、そう言えば」


 俺が一歩を踏み出した直後、キティラーシア姫が高らかに告げた。


「そこまで! 双方、剣を収めなさい」


 その言葉に俺は溜めていた力を抜き、兜から木剣を引っこ抜いた。
 騎士団長は手を振るわせながら、木剣を左手に持ち直すと、キティラーシア姫に畏まった。兜で表情はよく見えないが、甲冑がカタカタと鳴っていることから、悔しさで身体を震わせているようだ。
 キティラーシア姫は俺に小さく頷いてから、騎士団長へ顔を向けた。


「この勝負、あなたの負けですわね。騎士団長殿?」


「キティラーシア姫……それは」


「言い訳は、自らの尊厳を卑しいものに変えますわよ? ここは大人しく、負けを認めなさいな。ランド・コール様も、あまりうちの騎士たちを虐めないで下さいまし」


 喧嘩両成敗のつもりなのか、キティラーシア姫は俺と騎士団長の双方を窘めた。なんか、『様』付けに格上げされてるけど……なんでだろう?
 怪訝な顔をしている俺に、キティラーシア姫は微笑みかけてきた。


「それでは、明日の朝から――お願い致しますわね? それと、あそこにいるのは、あなたの身内かしら?」


 ジョシアと瑠胡へと指先を向けるキティラーシア姫に、俺は畏まった顔で腰を折った。


「一人は、わたくしの妹のジョシアと申します。もう一人……は、故あって我が家に同居をしております、遠方にある異国の姫君に御座います」


「あら、まあ」


 キティラーシア姫は少し驚いた顔をしたが、すぐにポン、と手を打った。


「それでは明日は、あのお二人も同席するよう、お願いすると致しましょう。人数は多いほうが、きっと楽しいわ」


 キティラーシア姫はそう言いながら、瑠胡やジョシアのいるほうへと歩き始めていた。
 俺の頭の中には、厄介ごとの予感しか沸いてこなかった。溜息を吐きながら二人の姫が話をしている光景を眺める俺の目に、村から隣国へと向けて旅立つ隊商の姿が映っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...