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第三部『二重の受難、二重の災厄』
プロローグ
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第三部『二重の受難、二重の災厄』
プロローグ
ジョシア・コールは憤慨していた。
親譲りのヘーゼルブラウンの髪は、兄と同じ色だ。伸ばせば腰まである髪を結い上げており、瞳は薄いブルー。少し勝ち気な顔は、今は怒りに柳眉が釣り上がっている。
今はまだ、休憩時間だ。交代制だから、正午から少しばかりずれている。
ジョシアはこの春から、インムナーマ王国の首都である、王都タイミョンで司書の仕事に就いていた。
司書としての制服は裾が長く、生地が厚い。雨期が終わって夏に差し掛かった今の時期は、少々汗ばんでしまう。
たった今、図書館の裏口で女騎士であるレティシア・ハイントと別れたばかりだ。そこで聞かされた、今は遠方に住んでいる兄――ランド・コールの現状は、ジョシアにとって信じられないものだった。
「お兄ちゃん……絶対に騙されてる」
固く拳を握り閉めたジョシアは、青く澄んだ空を見上げた。制服のせいで汗ばんでいることも、すでに頭から消えていた。
お兄ちゃんが女性と――仲睦まじく暮らしているなんて、絶対に有り得ない! 根本的に、女性から好意を抱かれるような人ではないんだし。
確固たる信念を以て、ジョシアはランドへの評価を下していた。
万が一にも好意を抱く相手がいた可能性があるなら、それは詐欺師かヤバイ性癖の女性か――それか実は男とかだ。
どちらにせよ、碌な結果にはならないと、ジョシアは決めつけた。
(お兄ちゃんは――あたしが護る)
今時――女たらしでも滅多に言わない台詞を、男顔負けの気概を以て、ジョシアは心の中で宣言した。
*
タイミョンにある王城では、ハイム・ハイント老王が孫娘とお茶を飲んでいた。
シャプロンという白く大きな帽子を被ったハイム老王は、王城では食べられない、少し変わった食べ物の話をしていた。
「まあ……ジャガイモが、そんなに美味しく?」
キティラーシア・ハイントは祖父の話に、おっとりと微笑んだ。
蜂蜜のように艶やかな金髪を、後頭部で纏めたシニヨンという髪型にした少女だ。エメラルドグリーンの瞳に、頭部は銀のティアラを飾っている。ドレスは薄い黄緑色を基調として、袖はベルスリーブという、この地方では少し珍しい形をしていた。
少し儚げな印象の孫娘に、ハイム老王は鷹揚に頷いた。
「そうとも。あんなにコクのあるイモ料理は、生まれて初めてだった。庶民の食べ物も侮れんものよ。キティラーシアにも、一度食べさせたいものだな」
「ええ。わたくし、楽しみになってまいりましたわ。それでどちらへ伺えば、お話の料理を食べられるのでしょう?」
「ああ、確か……メイオール村だったかな。遠方の領地であるから、すぐにとはいかぬがな……」
ハイム老王にとっては茶飲み話の話題、ただそれだけだった。
しかし穏やかに微笑む可憐なキティラーシア姫の目に、好奇の光が浮かんだことに――ハイム老王は気付くことができなかった。
プロローグ
ジョシア・コールは憤慨していた。
親譲りのヘーゼルブラウンの髪は、兄と同じ色だ。伸ばせば腰まである髪を結い上げており、瞳は薄いブルー。少し勝ち気な顔は、今は怒りに柳眉が釣り上がっている。
今はまだ、休憩時間だ。交代制だから、正午から少しばかりずれている。
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司書としての制服は裾が長く、生地が厚い。雨期が終わって夏に差し掛かった今の時期は、少々汗ばんでしまう。
たった今、図書館の裏口で女騎士であるレティシア・ハイントと別れたばかりだ。そこで聞かされた、今は遠方に住んでいる兄――ランド・コールの現状は、ジョシアにとって信じられないものだった。
「お兄ちゃん……絶対に騙されてる」
固く拳を握り閉めたジョシアは、青く澄んだ空を見上げた。制服のせいで汗ばんでいることも、すでに頭から消えていた。
お兄ちゃんが女性と――仲睦まじく暮らしているなんて、絶対に有り得ない! 根本的に、女性から好意を抱かれるような人ではないんだし。
確固たる信念を以て、ジョシアはランドへの評価を下していた。
万が一にも好意を抱く相手がいた可能性があるなら、それは詐欺師かヤバイ性癖の女性か――それか実は男とかだ。
どちらにせよ、碌な結果にはならないと、ジョシアは決めつけた。
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今時――女たらしでも滅多に言わない台詞を、男顔負けの気概を以て、ジョシアは心の中で宣言した。
*
タイミョンにある王城では、ハイム・ハイント老王が孫娘とお茶を飲んでいた。
シャプロンという白く大きな帽子を被ったハイム老王は、王城では食べられない、少し変わった食べ物の話をしていた。
「まあ……ジャガイモが、そんなに美味しく?」
キティラーシア・ハイントは祖父の話に、おっとりと微笑んだ。
蜂蜜のように艶やかな金髪を、後頭部で纏めたシニヨンという髪型にした少女だ。エメラルドグリーンの瞳に、頭部は銀のティアラを飾っている。ドレスは薄い黄緑色を基調として、袖はベルスリーブという、この地方では少し珍しい形をしていた。
少し儚げな印象の孫娘に、ハイム老王は鷹揚に頷いた。
「そうとも。あんなにコクのあるイモ料理は、生まれて初めてだった。庶民の食べ物も侮れんものよ。キティラーシアにも、一度食べさせたいものだな」
「ええ。わたくし、楽しみになってまいりましたわ。それでどちらへ伺えば、お話の料理を食べられるのでしょう?」
「ああ、確か……メイオール村だったかな。遠方の領地であるから、すぐにとはいかぬがな……」
ハイム老王にとっては茶飲み話の話題、ただそれだけだった。
しかし穏やかに微笑む可憐なキティラーシア姫の目に、好奇の光が浮かんだことに――ハイム老王は気付くことができなかった。
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