屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
65 / 276
第三部『二重の受難、二重の災厄』

プロローグ

しおりを挟む
第三部『二重の受難、二重の災厄』


 プロローグ


 ジョシア・コールは憤慨していた。
 親譲りのヘーゼルブラウンの髪は、兄と同じ色だ。伸ばせば腰まである髪を結い上げており、瞳は薄いブルー。少し勝ち気な顔は、今は怒りに柳眉が釣り上がっている。
 今はまだ、休憩時間だ。交代制だから、正午から少しばかりずれている。
 ジョシアはこの春から、インムナーマ王国の首都である、王都タイミョンで司書の仕事に就いていた。
 司書としての制服は裾が長く、生地が厚い。雨期が終わって夏に差し掛かった今の時期は、少々汗ばんでしまう。
 たった今、図書館の裏口で女騎士であるレティシア・ハイントと別れたばかりだ。そこで聞かされた、今は遠方に住んでいる兄――ランド・コールの現状は、ジョシアにとって信じられないものだった。


「お兄ちゃん……絶対に騙されてる」


 固く拳を握り閉めたジョシアは、青く澄んだ空を見上げた。制服のせいで汗ばんでいることも、すでに頭から消えていた。

 お兄ちゃんが女性と――仲睦まじく暮らしているなんて、! 根本的に、女性から好意を抱かれるような人ではないんだし。

 確固たる信念を以て、ジョシアはランドへの評価を下していた。 
 万が一にも好意を抱く相手がいた可能性があるなら、それは詐欺師かヤバイ性癖の女性か――それか実は男とかだ。
 どちらにせよ、碌な結果にはならないと、ジョシアは決めつけた。


(お兄ちゃんは――あたしが護る)


 今時――女たらしでも滅多に言わない台詞を、男顔負けの気概を以て、ジョシアは心の中で宣言した。

   *

 タイミョンにある王城では、ハイム・ハイント老王が孫娘とお茶を飲んでいた。
 シャプロンという白く大きな帽子を被ったハイム老王は、王城では食べられない、少し変わった食べ物の話をしていた。


「まあ……ジャガイモが、そんなに美味しく?」


 キティラーシア・ハイントは祖父の話に、おっとりと微笑んだ。
 蜂蜜のように艶やかな金髪を、後頭部で纏めたシニヨンという髪型にした少女だ。エメラルドグリーンの瞳に、頭部は銀のティアラを飾っている。ドレスは薄い黄緑色を基調として、袖はベルスリーブという、この地方では少し珍しい形をしていた。
 少し儚げな印象の孫娘に、ハイム老王は鷹揚に頷いた。


「そうとも。あんなにコクのあるイモ料理は、生まれて初めてだった。庶民の食べ物も侮れんものよ。キティラーシアにも、一度食べさせたいものだな」


「ええ。わたくし、楽しみになってまいりましたわ。それでどちらへ伺えば、お話の料理を食べられるのでしょう?」


「ああ、確か……メイオール村だったかな。遠方の領地であるから、すぐにとはいかぬがな……」


 ハイム老王にとっては茶飲み話の話題、ただそれだけだった。
 しかし穏やかに微笑む可憐なキティラーシア姫の目に、好奇の光が浮かんだことに――ハイム老王は気付くことができなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...