屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』

三章-5

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   5

 神像の足元にある土台にいる二人は、それぞれに鹿と思しき毛皮に身を包み、頭部には蔦を編んだものを頭に巻いていた。
 二人とも腰まである髪の毛は栗色で、向かって左側が男で右側が女だ。持っている弓は短弓のようで、すでに次の矢を番えていた。
 遠目には、ここの守護者のように見えなくもない。
 二人のうち、男のほうが俺たちに声をかけてきた。


『見知らぬ者よ! この鬼神ダグリヌスを奉る土地は、我らトロウト族のものだ。痛い目を見たくなければ、早々に立ち去れ!!』


 男の発した言葉に、俺は舌打ちをした。
 ロウが瑠胡を攫おうとしたのは、強い子を産ませてトロウト族に勝つため――そう言っていたのを、思い出したからだ。
 謀られたかと振り返ろうとした直前、背後からロウの怒声が聞こえてきた。


『ガゴスよ、待て! 此度の来訪は、ここを取り戻すためではない。お二人は、我らが創造主たる、ダグリヌスよりキノコの採取を託された者たちだ。彼らの邪魔をせぬよう、申し伝える次第である!』


 なるほど。俺の話を、そう解釈したのか。
 こうした事実誤認は、あとで諍いの起きる元だけど……うん。面倒臭いから、ここは訂正をしないでおこう。
 これで争わずにキノコが探せると思ったが、トロウト族のガゴスは眉を潜めただけだった。


『ロウよ――貴様の言うことなど、信じられるか! ダグリヌスの使いならば、我らトロウト族の元に現れるはずだ。そのような偽物に、我らが領地で好き勝手はさせぬ!』


 ……あ、やっぱり拗れた。
 ガゴスの発言を切っ掛けに、激しい言い争いを始めるロウを見て、瑠胡が怪訝そうな顔をした。


「ランド、なにがあった?」


「……実は、ですね。あれはロウたちと、この土地を巡って争っている一族らしくて。俺たちが入るのを拒んでるみたいなんです。ロウは、俺たちは無関係だからと言って、説得をしてくれているようなんですけど……」


「ふむ。おおよその状況は理解した。このまま待つのは時間の無駄故、妾たちで仲裁をするしかあるまい」


「とはいえですね……」


 とはいえ、俺の片言で説得できるとは思えない。
 どうしようかと悩んでいると、瑠胡の首元からドラゴンの翼、そして左右の前足が出てきた。続けて角が姿を現し始め――たと思ったが、それらはすぐに引っ込んでしまった。
 どうしたんだと思っていたら、瑠胡は俺の様子を伺うような目を向けてきた。


「どうしたんです?」


「さしたる理由などない。このようなことで、本気を出す気にはなれぬと思うただけだ」


 答えてから、瑠胡は両手で三角形を作りながら、独特の旋律を紡いだ。


「グゴル、ガル、ギャゴウガル、グルガルゴ――」


 これは最近になって瑠胡が覚え直した竜語魔術の一つである、〈爆炎〉。
 その威力はメイオール村の外れにあった大岩を粉々にし、周囲の木々を燃やし尽くすほどだ。俺と瑠胡とで冷気の魔術で消火を試みたけど、鎮火までに三時間以上もかかってしまい、村の人たちに平謝りをした――。

 ……え?

 記憶から急いで復帰した俺が振り返ったが、時すでに遅し。
 ガゴスがいるダグリヌスの神像から、十数マーロンほどの高さのところで、紅蓮の炎を伴う爆発が起きた。
 轟音が辺りの空気を振るわせ、拳大ほどもある火の粉が周囲に降り注ぐ。
 周囲の木々の枝葉が燃え始める中、神糸の着物の袖で自身と俺の身を護りながら、瑠胡はどこか満足げな顔をしていた。


「ふむ。よう燃えておるな」


「あの、姫様。さすがに、やりすぎですよ」


 色々な感情が混ざり合って、俺が咎めるような口調になったのが予想外だったのか、瑠胡は驚いたように瞳を丸くした。
 一瞬、悲しげな顔を見せた瑠胡は、俺から顔を背けるように神像へと目を向けた。


「少々やりすぎ――のように思えるかもしれぬが、中途半端では相手の反発を買うだけ故にな。ランドも集落で、脅しをしたであろう?」


「それは……そうですけど」


 周囲に与えた被害は、段違いに広い。俺が頭を掻きながら溜息を吐くと、瑠胡が俺の袖を軽く掴んできた。
 振り返ると、どこか不安げな瑠胡と目が合った。


「どうした……妾がなにか、気に障ったことをしてしもうたか?」


 その憂いを帯びた表情に、俺の心臓が高鳴った。しかし、同時に「想い人がいる」という言葉を思い出して、俺は思考が混乱しかけてしまった。
 冷静になって考えれば、ここでの俺の言動は最低の部類だと思う。だけど、渦巻いている心の痛みが、そんな考えを覆い隠そうとしているんだ。
 俺は頭を掻きながら、ギリギリのところで気持ちを妥協させた。


「あの……炎をどうしようかと思って。この前も鎮火させるのが大変でしたから」


「ああ……それを心配しておったのか。炎なら心配せずともよい。ここに神像があるのなら、ダグリヌスも状況に気付いておるだろう。ほれ」


 幾分、安堵した様子の瑠胡に促されて振り返ると、女神像の目が赤黒く光り始めていた。
 直線的に伸びてきた光が俺たちの前で交差すると、そこからダグリヌスが現れた。周囲の惨状を目にしたダグリヌスは、最初こそオロオロと頭を抱えていたが、瑠胡の「はよう鎮火せよ」というひと言で、その力を振るった。
 文字通り、あっというまに周囲の火事を鎮火すると、ダグリヌスは俺たちに首を傾げてみせた。


「あの、なにがどうなって、こうなったんでしょう?」


 瑠胡はダグリヌスに、まだ呆然としているロウやガゴスらを指で示した。


「あやつらの争いを中断させるのと、御主を呼び寄せるために魔術を使わせて貰ったぞ。まったく……妾たちの手を煩わせるような種族を造るでない」


 瑠胡が文句を述べているあいだに、ロウたちも我に返ったらしい。
 この状況で争う気はないらしく、ダグリヌスに敬意の目を向けながら、おずおずと集まってきた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

12時くらいにアップする予定でしたが、遅くなりました。

理由は――話を二つに分割していたのです。

いやですね。気がついたら4000文字オーバーをしていまして。800文字以上削ったにも関わらず、まだ4000文字台。

諦めて、二つに分割いたしました。

色々とお察し下さいませ。全部鬼神が悪いんです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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