屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
54 / 276
第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』

三章-4

しおりを挟む

    4

 ロウとミナに頼まれて、俺と瑠胡は彼らの集落に赴いた。
 俺が左腕に負った怪我は瑠胡の〝おまじない〟で、なんとか出血は止まっている。そのお陰で、もう一戦くらいなら暴れられる。
 森の中に毛皮を重ねて作られたテントが、大小十五ほど張られていた。
 ロウとミナが一番大きなテントの前にいる老人の前で、片膝を付いた。毛皮をマントのように羽織った老人は、禿げた頭を撫でながら、細い目をロウに向けた。


『ロウよ。目的は果たした、ということで良いのだな?』


『いいえ、長老。我々は、目的を果たせず、かの者らに惨敗を喫しました』


『なんだと――? 我らトーウ族、最強の戦士のおまえが負けたというのか……?』


 驚いたように、目を見広げる老人――長老は、そのまま俺と瑠胡を見た。
 長老は口を一文字にしながら、ジッと俺を睨み付けた。


『貴様が……ロウに勝っただと?』


『そうだ』


『偶然――だろう。その娘はドラゴンのはずだ。我らが所有するのが相応しい。今すぐ寄越せば、命だけは助けてやる』


 長老の物言いに、俺はぶち切れそうになった。
 砕いてやろうか、この爺――そう思ったが、ギリギリのところで我慢した。


『何度やっても、俺が勝つ。無駄だ』


『そうかな? 先ほどは一対一だったのだろう。なら、ここにいる戦士、十二人と戦って勝てるのか? その女を我らの子を産むためだけ――』


 ここに来て、俺の箍が外れた。


「グ――グルダルグ、グゥガグル、グル」


 俺は瑠胡から奪った竜語魔術の中でも、最大級の攻撃用呪文を唱えた。
 光球が頭上に浮かんだ直後、俺は熱線を縦横無尽に撃ちまくった。長老のテントは半分を消失し、大木にも大穴が空き、至る所にある低木の葉っぱが赤く燃えていた。
 ロウやミナはもちろん、長老やほかの戦士たちは唖然とした顔で、光球の下にいる俺を見ていた。
 俺は腰を抜かしたような長老に近づいた俺は、睨みながら告げた。


『やるか? 容赦せず、砕くぞ。一番に、貴様、狙う』


 俺の言葉の意味が理解できたのか――長老の顔から表情が消えた。


  そして。


 数枚も重ねられた毛皮の上に、俺と瑠胡は座っていた。
 俺たちの前では、集落にいた全員が平伏したように跪いている。若い女たちは焼いた肉や果物たちを、順序良く並べている。
 会話の内容を理解していなかった瑠胡は、滅多に見せない戸惑いの顔を俺に向けた。


「なにがどうしたのだ、ランド?」


「いやその、長老が姫様をその……監禁するとか、そんなことを言ったので。そのために、一斉に襲わせるようでしたから、魔術で威嚇を」


 少し内容をぼかしたが、瑠胡は納得してくれたようだ。


「なるほどのう。妾の身を護るために威嚇をしたら、それに恐れを成したと」


「そういうことだと思います」


「ならば、こやつらに教えておいておくれ。妾には心に想う相手がおると。そちらの願望に応じる気なぞ、毛頭無い――とな」


「……はい」


 俺は頷いてから、トーウ族に瑠胡の言葉を伝えた。

 でも……そっか。心に想う相手ってことは、好きな相手ってことだよな。そりゃ、ドラゴンのお姫様なんだから、許嫁とかいても不思議じゃないよな……。
 あ、これ結構、心を抉る感じに来るな。

 失恋の痛手を、やけ酒で気を紛らわせる――そんな人の気持ちが、わかった気がする。
 俺は下戸だから、やけ酒とか出来ないけどさ。
 とまあ、俺がそんな感じに落ち込んでいると、長老が深々と頭を垂れた。


『瑠胡様とランド様におかれましては、失礼を心よりお詫び申し上げます。我らトーウ族、お二人の臣下として、お仕え申し上げます』


 先ほどまでの態度とは、雲泥の差がありすぎる。
 俺は呆れながら、長老に目的のことを話すことにした。これ以上、ここで無駄足を食うつもりはない。


『臣下、いらない。俺と瑠胡は、鬼神に言われた。黄色いキノコ探す、森で……と』


『黄色いキノコ……で、御座いますか?』


『そうだ。黄色いキノコ、どこ? 教えろ』


 俺の問いに、長老は周囲の者たちを見回した。


『お二人の御希望だ! 黄色いキノコを知っている者はいるか!?』


 長老が跪いている一族を振り返るが、誰からも反応はなかった。
 やはり、自分たちで探すしかないか――と想い始めたころ、ロウが立ち上がった。


『小さくて黄色い、皿のような形のキノコなら、生えている場所を知っている』


『まことか、ロウよ。ランド様に瑠胡様、かの者に取りに行かせます』


 頭を垂れる長老の言葉を、俺は瑠胡に伝えた。
 瑠胡は少し考えると、跪くトーウ族を一瞥してから、首を左右に振った。


「我らで探しに行くべきであろうな。あまり、長居したい雰囲気ではない」


「……同感ですね。伝えます」


 俺は向き直ると、俺たちの動向を注視する長老へと目を向けた。


『心遣い、感謝。だが、キノコ、こちらで取りに行く。場所、教えろ』


『それでしたら、わたくしが案内しましょう』


 戸惑う長老に代わり、ロウが立ったまま頭を下げた。
 俺と瑠胡は、ロウの申し出を受けることにした。長老の雰囲気的に、俺たちだけで行くと言えば、必死になって止めてくるだろうと思ったからだ。面倒を省くためにも、ロウには同行して貰ったほうがいい。
 俺はロウを説得して、すぐに集落を出た。
 俺と瑠胡、それにロウ――と、ロウの妹だというミナの四人で、獣道を広げただけの道を進んでいた。
 方角なんて、わからない。森の中を「こっちだ」と言われるままに歩いている。その途中、ロウが微笑みながら俺に喋り駆けてきた。


『おまえが、あれほどの力を持っているとは思わなかった』


『それは……ありがとう』


 俺がぎこちなく礼を言うと、ロウは真顔になった。


『おまえが、一族に加わってくれたら、心強い。そうしてくれたら、ミナを嫁にやってもいい』


 ロウの申し出に、俺は面食らった。
 自分の妹を差し出すとか、なにを考えているのか解らないと思っていたけど、 ふとミナを見れば、はにかむような顔で俺をチラチラと見ていた。
 兄弟揃って、なにを考えてるんだ――というのが、正直な感想だ。それに……まだ俺は、瑠胡が好きなんだし。そう簡単に、切り替えなんかできない。
 俺は、小さく頭を振った。


『いや、無理だ。俺、元の世界、帰る』


『そうか……残念だ』


 そんなロウの横で、ミナは沈んだ顔をしていた。

 ……ちょっと罪悪感。

 瑠胡が俺の袖を引っ張ったのは、そんなときだ。


「なんの話をしておる。妾に説明をせよ、ランド」


 しきりにミナを気にする瑠胡に、俺は愛想笑いを浮かべた。


「いえ、ロウが俺を強いと褒めてくれて。集落に住んでくれたら妹を嫁がせるって言って来たので、断ったところです」


「まことか? それは……嘘ではないだろうな?」


「嘘じゃないですよ」


 俺が断言すると、瑠胡はどこかホッとしたような顔をした。
 そんな表情を眺めていると、瑠胡は慌てたように扇子を取り出して、口元を隠してしまった。


「ならば、良い」


 それっきり、俺と瑠胡は無言になってしまった。
 木々が開けたのは、それからすぐのことだった。直径にして、およそ十五マーロン(約十八メートル七五センチ)が開けていた。
 中央には高さ一〇マーロン(一二メートル五〇センチ)ほどもある、鬼神であるダグリヌスの神像が聳え立ってた。
 ロウが立ち止まると、指先を神像へと向けた。


『黄色いキノコは、あの周辺にあるはずだ。ただ、気をつけろ。敵がいるかもしれん』


『わかった。用心、する。そして、行く』


 俺と瑠胡は頷き合ってから、神像へと歩き始めた。
 しかし三歩目だけ進んだところで、俺と瑠胡の目の前の地面に、二本の矢が突き刺さった。
 前方をよく見れば、神像の影に二人の男女が隠れていた。

------------------------------------------------------------------------------
本作を読んでいただき、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

連日のアップとなりましたが……これは昨日、アップする前にもう千文字くらい書いていまして。ここで別作品を書くのも中途半端だな……と思ったので、書き切っちゃいました。
 次回は金曜くらいに天狗をアップしたいところです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...