屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』

三章-4

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    4

 ロウとミナに頼まれて、俺と瑠胡は彼らの集落に赴いた。
 俺が左腕に負った怪我は瑠胡の〝おまじない〟で、なんとか出血は止まっている。そのお陰で、もう一戦くらいなら暴れられる。
 森の中に毛皮を重ねて作られたテントが、大小十五ほど張られていた。
 ロウとミナが一番大きなテントの前にいる老人の前で、片膝を付いた。毛皮をマントのように羽織った老人は、禿げた頭を撫でながら、細い目をロウに向けた。


『ロウよ。目的は果たした、ということで良いのだな?』


『いいえ、長老。我々は、目的を果たせず、かの者らに惨敗を喫しました』


『なんだと――? 我らトーウ族、最強の戦士のおまえが負けたというのか……?』


 驚いたように、目を見広げる老人――長老は、そのまま俺と瑠胡を見た。
 長老は口を一文字にしながら、ジッと俺を睨み付けた。


『貴様が……ロウに勝っただと?』


『そうだ』


『偶然――だろう。その娘はドラゴンのはずだ。我らが所有するのが相応しい。今すぐ寄越せば、命だけは助けてやる』


 長老の物言いに、俺はぶち切れそうになった。
 砕いてやろうか、この爺――そう思ったが、ギリギリのところで我慢した。


『何度やっても、俺が勝つ。無駄だ』


『そうかな? 先ほどは一対一だったのだろう。なら、ここにいる戦士、十二人と戦って勝てるのか? その女を我らの子を産むためだけ――』


 ここに来て、俺の箍が外れた。


「グ――グルダルグ、グゥガグル、グル」


 俺は瑠胡から奪った竜語魔術の中でも、最大級の攻撃用呪文を唱えた。
 光球が頭上に浮かんだ直後、俺は熱線を縦横無尽に撃ちまくった。長老のテントは半分を消失し、大木にも大穴が空き、至る所にある低木の葉っぱが赤く燃えていた。
 ロウやミナはもちろん、長老やほかの戦士たちは唖然とした顔で、光球の下にいる俺を見ていた。
 俺は腰を抜かしたような長老に近づいた俺は、睨みながら告げた。


『やるか? 容赦せず、砕くぞ。一番に、貴様、狙う』


 俺の言葉の意味が理解できたのか――長老の顔から表情が消えた。


  そして。


 数枚も重ねられた毛皮の上に、俺と瑠胡は座っていた。
 俺たちの前では、集落にいた全員が平伏したように跪いている。若い女たちは焼いた肉や果物たちを、順序良く並べている。
 会話の内容を理解していなかった瑠胡は、滅多に見せない戸惑いの顔を俺に向けた。


「なにがどうしたのだ、ランド?」


「いやその、長老が姫様をその……監禁するとか、そんなことを言ったので。そのために、一斉に襲わせるようでしたから、魔術で威嚇を」


 少し内容をぼかしたが、瑠胡は納得してくれたようだ。


「なるほどのう。妾の身を護るために威嚇をしたら、それに恐れを成したと」


「そういうことだと思います」


「ならば、こやつらに教えておいておくれ。妾には心に想う相手がおると。そちらの願望に応じる気なぞ、毛頭無い――とな」


「……はい」


 俺は頷いてから、トーウ族に瑠胡の言葉を伝えた。

 でも……そっか。心に想う相手ってことは、好きな相手ってことだよな。そりゃ、ドラゴンのお姫様なんだから、許嫁とかいても不思議じゃないよな……。
 あ、これ結構、心を抉る感じに来るな。

 失恋の痛手を、やけ酒で気を紛らわせる――そんな人の気持ちが、わかった気がする。
 俺は下戸だから、やけ酒とか出来ないけどさ。
 とまあ、俺がそんな感じに落ち込んでいると、長老が深々と頭を垂れた。


『瑠胡様とランド様におかれましては、失礼を心よりお詫び申し上げます。我らトーウ族、お二人の臣下として、お仕え申し上げます』


 先ほどまでの態度とは、雲泥の差がありすぎる。
 俺は呆れながら、長老に目的のことを話すことにした。これ以上、ここで無駄足を食うつもりはない。


『臣下、いらない。俺と瑠胡は、鬼神に言われた。黄色いキノコ探す、森で……と』


『黄色いキノコ……で、御座いますか?』


『そうだ。黄色いキノコ、どこ? 教えろ』


 俺の問いに、長老は周囲の者たちを見回した。


『お二人の御希望だ! 黄色いキノコを知っている者はいるか!?』


 長老が跪いている一族を振り返るが、誰からも反応はなかった。
 やはり、自分たちで探すしかないか――と想い始めたころ、ロウが立ち上がった。


『小さくて黄色い、皿のような形のキノコなら、生えている場所を知っている』


『まことか、ロウよ。ランド様に瑠胡様、かの者に取りに行かせます』


 頭を垂れる長老の言葉を、俺は瑠胡に伝えた。
 瑠胡は少し考えると、跪くトーウ族を一瞥してから、首を左右に振った。


「我らで探しに行くべきであろうな。あまり、長居したい雰囲気ではない」


「……同感ですね。伝えます」


 俺は向き直ると、俺たちの動向を注視する長老へと目を向けた。


『心遣い、感謝。だが、キノコ、こちらで取りに行く。場所、教えろ』


『それでしたら、わたくしが案内しましょう』


 戸惑う長老に代わり、ロウが立ったまま頭を下げた。
 俺と瑠胡は、ロウの申し出を受けることにした。長老の雰囲気的に、俺たちだけで行くと言えば、必死になって止めてくるだろうと思ったからだ。面倒を省くためにも、ロウには同行して貰ったほうがいい。
 俺はロウを説得して、すぐに集落を出た。
 俺と瑠胡、それにロウ――と、ロウの妹だというミナの四人で、獣道を広げただけの道を進んでいた。
 方角なんて、わからない。森の中を「こっちだ」と言われるままに歩いている。その途中、ロウが微笑みながら俺に喋り駆けてきた。


『おまえが、あれほどの力を持っているとは思わなかった』


『それは……ありがとう』


 俺がぎこちなく礼を言うと、ロウは真顔になった。


『おまえが、一族に加わってくれたら、心強い。そうしてくれたら、ミナを嫁にやってもいい』


 ロウの申し出に、俺は面食らった。
 自分の妹を差し出すとか、なにを考えているのか解らないと思っていたけど、 ふとミナを見れば、はにかむような顔で俺をチラチラと見ていた。
 兄弟揃って、なにを考えてるんだ――というのが、正直な感想だ。それに……まだ俺は、瑠胡が好きなんだし。そう簡単に、切り替えなんかできない。
 俺は、小さく頭を振った。


『いや、無理だ。俺、元の世界、帰る』


『そうか……残念だ』


 そんなロウの横で、ミナは沈んだ顔をしていた。

 ……ちょっと罪悪感。

 瑠胡が俺の袖を引っ張ったのは、そんなときだ。


「なんの話をしておる。妾に説明をせよ、ランド」


 しきりにミナを気にする瑠胡に、俺は愛想笑いを浮かべた。


「いえ、ロウが俺を強いと褒めてくれて。集落に住んでくれたら妹を嫁がせるって言って来たので、断ったところです」


「まことか? それは……嘘ではないだろうな?」


「嘘じゃないですよ」


 俺が断言すると、瑠胡はどこかホッとしたような顔をした。
 そんな表情を眺めていると、瑠胡は慌てたように扇子を取り出して、口元を隠してしまった。


「ならば、良い」


 それっきり、俺と瑠胡は無言になってしまった。
 木々が開けたのは、それからすぐのことだった。直径にして、およそ十五マーロン(約十八メートル七五センチ)が開けていた。
 中央には高さ一〇マーロン(一二メートル五〇センチ)ほどもある、鬼神であるダグリヌスの神像が聳え立ってた。
 ロウが立ち止まると、指先を神像へと向けた。


『黄色いキノコは、あの周辺にあるはずだ。ただ、気をつけろ。敵がいるかもしれん』


『わかった。用心、する。そして、行く』


 俺と瑠胡は頷き合ってから、神像へと歩き始めた。
 しかし三歩目だけ進んだところで、俺と瑠胡の目の前の地面に、二本の矢が突き刺さった。
 前方をよく見れば、神像の影に二人の男女が隠れていた。

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本作を読んでいただき、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

連日のアップとなりましたが……これは昨日、アップする前にもう千文字くらい書いていまして。ここで別作品を書くのも中途半端だな……と思ったので、書き切っちゃいました。
 次回は金曜くらいに天狗をアップしたいところです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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