屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
53 / 276
第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』

三章-3

しおりを挟む

   3

 砂埃を上げながら、ドラゴンとなった瑠胡が森の縁に着地した。
 ダグリヌスの塔から、俺は再び瑠胡の背に乗っての移動となった。アクラハイルの神域とは違って時間的余裕はあるにせよ、なるべく急いで目的のキノコを見つけたかった。
 時間の余裕がある――というのは、少し語弊があるかもしれない。エスカルゴから聞いた話では、ダグリヌスの神域での五日が、元の世界の一日に相当するらしい。
 ここで丸一日過ごしても、元の世界では四時間程度しか経過してない……らしい。ただ、俺と瑠胡の共通認識として、この神域に長居したくなかった。


「姫様、ありがとうございます」


〝気にするでない。少しでも早く終わらせたいしの〟


 鷹揚に応じてから、瑠胡は人の姿へとなった。
 鬱蒼と茂る森には、瘴気としか思えない気配が漂っていて、かなり薄気味が悪い。この森の中に入るのは、かなり危険という予感がしている。


「なんでしたら、姫様はここで待っていて下さい。俺が独りで探してきます」


「落ち着け。ランドだけで行くのも危険であろう? 妾も共に行く。二人であれば、多少の困難は克服できよう」


 瑠胡は俺の背に手を回すと、服を掴んできた。
 なにがなんでも、俺と森の中へ入るつもりらしい。正直に言って俺の中では、頼もしさと不安とが複雑に絡み合っていた。
 瑠胡の使える魔術は毎晩の座学と実習で、数種類だけど攻撃用を使えるまでになっていた。それ以外にも防御魔術や神糸の着物、それにドラゴンの前足など、戦う力は《スキル》を除けば、俺よりも上だろう。
 俺は溜息を押し殺しながら、瑠胡に頷いた。


「では、行こうか」


 俺を促しながら、瑠胡は歩き出した。
 しばらくのあいだ、二人で森の中を歩いていると切り株を見つけた。俺は瑠胡に立ち止まるよう手で制すると、辺りを見回した。
 そんな俺に、瑠胡は怪訝そうに見上げてきた。


「……どうした?」


「いえ。切り株があるってことは、木を切り倒すヤツがいるってことなんですよ。元の世界ならともかく、神域ですから……」


「なるほど。ダグリヌスの神域であるからのう。用心をするべき……ということか」


「そういうわけです。周囲への用心を忘れずに進みましょう」


 そう言うが早いか、周囲で草の鳴る音がし始めた。
 俺が剣の柄に手を伸ばしながら、俺は視線を巡らした。木や雑草の影の向こうに、人影っぽいのが幾つも見えていた。


「トウ、アジャクト、ドーラング、ジョウグ、ジョウグ」


「ジョウグ、ジョウグ」


 腰に毛皮を巻き、つま先に草を編んだと思しき履き物をした六人の男たちが現れた。髪は伸ばし放題で、目もほとんど隠れている。
 石斧や石を削った穂先の付いた槍を手にして、俺たちを取り囲んでいた。


「この神域で生まれた者たちかのう」


「そうでしょうけど……どう見ても有効的じゃなさそうですよ」


「……確かにな。だが、鬼神の神域では、無闇な殺生はできぬぞ? なにが、お気に入りか解らぬしな」


「面倒ですが……やるしかないですね」


 俺が長剣の柄に手を伸ばした直後、男たちが一斉に躍りかかってきた。
 俺は接近される前に、〈遠当て〉で二人の男を吹っ飛ばした。瑠胡に向かって行った三人のうち、二人は虎ドラゴンの前足で薙ぎ払われ、残る一人も神糸の着物の袖で少し離れた木の幹まで吹っ飛ばされている。
 俺が最後の一人の持つ槍の柄を切断し、〈筋力増強〉をした蹴りを食らわせたのは、その直後だ。
 地面に横たわって伸びている六人を見回していると、瑠胡が俺のすぐ横まで移動してきた。


「妾の知らぬ言葉――この神域で独自進化をした種かもしれぬな」


「それじゃあ、話を聞くのは無理そうですね……」


 となれば、さっさと場所を移動したほうがいい。俺が瑠胡に先に行くことを告げようとしたとき、森の奥から雄叫びが聞こえてきた。
 少し離れた場所から、草葉を鳴らす音が聞こえてきた。感じからして、二組。
 やがて木々のあいだから、先ほどの男たちより一回り以上も大きな――少なく見積もって二マーロン(約二メートル五〇センチ)以上だ――男が飛び出してきた。衣服は先ほどの男たちと同じだが、無手だ。髪は赤毛で、後ろは腰まで伸びている。
 その背後にいるのは、薄い茶色の髪の女だ。肩から太股までを獣の毛皮で覆い、草を編んだ履き物。
 手には、弓を手にしていた。


「ギワン、ドーラング、ジョウグ。ギワン、ダス、ザグラオ」


 相変わらず、男が喋る言葉は理解出来ない。だが男が地面から生み出した、砂の剣を手にするのを見れば、なにを言いたいのかは、なんとなく理解できた。
 詳細はわからないが、俺と戦うつもりらしい。
 俺が長剣を構えると、男はニイッと口元に笑みを浮かべた。


「ダス!」


 男は手にした砂の剣で、斬りかかってきた。俺は長剣で一撃を受け流し、男の右側面へと移動した。
 砂の剣を叩き落とそうと、俺は〈筋力増強〉をした剣の一撃を叩き込んだ。
 男の手から、砂の剣が離れた。地面に落ちる寸前に、剣はタダの砂と成り果てたが――男は左手で、新たな砂の剣を掴んでいた。
 左腕一本で下から斬りかかってくる砂の剣を、俺は後ろに跳んで躱した。
 光の剣と同じく何度も作り直せるのなら、武器を叩き落とす手段は使えない。俺はそう考えると、長剣を構えた。


「行くぜ、大男」


 砂の剣を振りかぶる大男へ、俺は〈筋力増強〉と〈遠当て〉の合わせ技を放った。砂の剣が届かない間合いからの一撃に、男は膝から崩れた。
 しかし、まだ気絶はしていない。俺は男の右腕に〈遠当て〉を放ってから、左手からトゲを出した。
 俺が接近すると、男はまた左手で砂の剣を生み出し、突いてきた。それを長剣で弾きながら、俺は男の右肩にトゲを突き刺した。
 その途端、俺の頭の中に男の持つ《スキル》、〈砂の武器化〉や、そのほかの技能が一覧となって流れ込んで来た。
 俺はその中から、言語・ダム語を少しだけ吸い取った。
 これが、俺の《スキル》――〈スキルドレイン〉の力だ。相手の《スキル》だけでなく、普通の技術や技能までも奪うことができる。
 今回は、この男たちの喋っている言語を、俺のものとしたわけだ。


『やめろ。おまえの負け』


 ただ、ほんの少し奪っただけなので、多少片言なのは仕方が無い。


『おまえは、誰だ。なにが、目的だ。答えろ』


『貴様……俺たちの言葉を喋れたのか』


『質問、しているの、こっち。答えろ』


 俺が答えを促すと、男は唸るようにしながら口を開いた。


『俺はトーウの一族で最強の戦士、ロウ。あのドラゴンの女を奪うのが目的だ』


『なぜ、奪う?』


『強い女に、強い子どもを生ませる。そうすれば、トロウトの一族に勝てるようになる。我が一族が栄えるため、トロウトの一族は滅ぼさねばならん』


 ……こいつら。そんなことのために、瑠胡を奪うつもりだったのか。
 森まで飛んで来たところを、こいつらの仲間に見られてたのはともかく、それに気がつかなかったのは俺の失態かもしれない。
 俺は長剣の切っ先をロウに向けると、怒りを抑えながら告げた。


『彼女、おまえたちに、渡さない』


『なぜだ?』


『俺の、大事な、女性。世界で……一番』


 瑠胡がダム語を知らなくて、本当に良かったと――我に返って冷静さを取り戻した俺は、心からそう思った。
 俺が勝負に勝ったのを、瑠胡は満足そうに見ている。そんな彼女を一瞥した直後、俺の左腕に矢が突き刺さった。
 ロウの仲間のことを、失念していた。
 俺は女へと目を向けながら、ロウに言った。


『負けたから、仲間の攻撃、俺を射たのか。最強と言うおまえ、卑怯だな』


 俺の侮蔑を理解したのか、ロウは次の矢を番える女を睨み付けた。


『やめろ、ミナ!』


 ロウの声にミナと呼ばれた女が矢を下げたとき、駆け寄ってきていた瑠胡が俺の左腕に手を添えてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...