屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』

二章-4

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   4

 アクラハイルとの勝負は、まるで悪夢を見ているようだった。
 手札が一桁になるまでは、勝負は順調だ。でも、そこからアクラハイルが主導権を奪ってしまう。
 抜け札(ババ)と思しき札は、ずっと目で追っている。しかし、別のを狙って取った筈なのに、なぜか抜け札を引いてしまう。札を重ねたりシャッフルしたところで、抜け札を見逃しはしない。
 対する鬼神は、俺が抜け札を引いたあとは、一度のミスもなく札を取っていく。
 こうして六戦六敗となった次の勝負で、俺は〈計算能力〉を使うことにした。どう考えても、アクラハイルの手に渡ったあとの抜け札は、どこか変だ。
 その違和感の正体を突き止めようとしたわけだが……俺の目の前で、いきなり鬼神の手札が二重になるのを目撃した。
 それは、かなり意識して見てないと判別できないほどに精巧な幻影で、その裏で鬼神は俺が手を伸ばした先に抜け札を移動させていた。
 つまり――。


「おい、イカサマしてんじゃねーよ!」


「おお、ばれたか」


 アクラハイルは、俺の指摘に笑みを浮かべただけで、幻影を消す様子はない。
 俺が睨めつけると、鬼神は実に堂々とした態度で、札を持っていない手の人差し指を振った。


「別に、イカサマなしのルールじゃねぇしな。娯楽とはいえ、持てる技のすべてを使って、本気で勝負をしなきゃ、相手に失礼ってもんだろ? ま、別に負けてもしっぺ一発だ。そんなに怒ることでもねぇだろ」


「その幻影が――あんたの《スキル》か?」


「《スキル》……ああ、魔力の才のことか。ああ、そうだよ。これが、俺の才だ。それで、どうするんだ? 勝負を降りるかい」


「……冗談だろ。ネタが割れた以上は、もう引っかからねえからな」


 俺は素早く手の位置を変えて、抜け札の隣を引いた。赤の三――俺の手札の青の三と一緒に場に捨てると、アクラハイルは上機嫌で俺の手札から黄色の七を抜いていった。
 そのあと――俺は十一戦目で、ようやく勝ちを拾うことができた。かれこれ、一時間以上も勝負をしていたわけだが……いい加減、疲れた。
 アクラハイルは満足げな顔で、山となったカードを消した。


「いや、良い勝負だった。おまえ、俺様の神官にならんか?」


「……やなこった。こちとら、ただの村人が気に入ってるんで。それで、約束の情報を訊かせてくれよ」


 一〇発のしっぺを受けて真っ赤になった右腕を擦る俺に、アクラハイルは「せっかちなのは、女に嫌われるぞ」と、余計なことを言ってきた。


「でもまあ、そうだな。話してやるか。ジョンは俺と釣りをやったあと、ここで遊んでいったのさ」


「まさかと思ったけど、ジョンさんと知り合い?」


 ジョンさんは、鬼神と交友関係があったのか。

 ……なにしてんだ、あの人。

 驚きと呆れが半々の俺に、アクラハイルは笑顔で頷いた。


「おうよ。こっちの時間じゃ一時間くらいだが、神域の外では、二、三日は経ってただろうな。食料を渡して帰したんだが……まだ村には戻ってないか」


「ちょ、ちょっと待った。一時間も遊んでないのに、二、三日も経ってたっていうのは、どういうことだ?」


 鬼神の言葉に、俺はハッと目を剥いた。なにか今、とんでもないことを聞いた気がする。
 アクラハイルはニヤッと笑みを浮かべながら、答えた。


「そりゃもちろん、おまえたちの世界と神域とでは、時間の流れが異なるからな。ここの一時間は、神域の外では二日くらいだ」


「うそ、だろ」


 俺がここに来てから、かれこれ二時間以上は経過している。となると、元の世界では四、五日は経っているだろう。
 流石にヤバイが、まだまだ訊くことは残っている。


「それで、あの巨大ワームは――」


「まあ、待て。ちょっくらジョンになにがあったか、視てみるか」


 アクラハイルが手を振ると、テーブルの上に忽然と水晶が現れた。
 その水晶が突然に光り始めると、空中に虚像を映し出した。そこは暗い洞穴の中で、行き止まりになっている壁には、月と男の模様が、小さく刻まれていた。
 その模様が光ると、小太りで頭髪の薄い、人の良さそうな顔つきの男――ジョンさんが姿を現した。
 松明を手にしたジョンさんは、手に包みを抱えながら、洞穴を進み出した。その直後、ジョンさんは足元にある滑りのある、なにかを踏んだ。
 その途端、半透明のなにかは洞穴を埋め尽くすほどに膨れあがった。


〝うわああああっ!?〟


 ジョンさんは逃げようとするが、半透明の何かに身体の半分ほどを取り込まれてしまった。


〝た、助けてくれぇぇぇ!〟


 叫び声が洞穴に響く中、ジョンさんは半透明のものに引きずられるように、洞穴の外へと運ばれていった。
 洞穴の外に出た半透明のなにかは、巨大なミミズのような姿をしていた。うっすらと見えている筋肉や内臓、脳みそ――口から出た触手が、雑草を食べると徐々に身体が大きくなっていく。
 それ――ワームの身体から滲んでいる粘液は、日差しに当たると蒸発して、跡形もなく消えていった。
 森の中へと入っていったワームが低木の枝葉を食べると、さらに身体が膨れあがった。
 半透明の身体を持つ巨大ワームは、ゆっくりと北上していった。
 胴体の最後尾に、ジョンさんをめり込ませたまま――。


「なるほどなぁ。不幸な事故っちゃ事故だが……」


 アクラハイルは虚像を消すと、微妙な顔で腕を組んだ。
 まさかジョンさんの捜索と巨大ワームが、こんなところで繋がるとは、思いもよらなかった。


「あの巨大ワームは、どうやって斃せばいいんだ?」


「まあ、落ち着け。あれは、ある鬼神の神域に生息してたやつだ。その神域でも唯一の固体でな。鬼神の愛玩物だから、下手に傷つけると厄介なことになる」


「鬼神――どんなヤツだ?」


「混乱を司る鬼神、タグリヌス。普段は大人しいが、切れると手が付けられん。交渉をするなら、気をつけろ」


「交渉……その鬼神なら、あの巨大ワームをなんとか出来るのか?」


「わからん。あの巨大化は、魔力の才に違いない。それを制御できる手立てがあれば、なんとかなるだろうさ。アレレカン湖の畔に、ヤツの神域がある」


「……そこへ行くしか、ないってことか」


 俺は立ち上がると、アクラハイルや二人の男たちへ一礼をした。


「ありがとうございました。ちょっと乱暴な言葉遣いでしたけど……今回のことは感謝してます」


「おう。しっかりな、ランド・コール。また、遊びに来いよ」


 手を振るアクラアイルに、俺はふと気付いたことを訊いてみた。色々ありすぎて、今まで気付かなかったけど――。


「あの、なんで俺の名前を? 名乗ってないと思ったんですけど」


「そりゃおまえ……そのくらい、容易いことよ。俺様は鬼神だからな。初めて会った人間の名前くらい、すぐに解るさ」


 アクラハイルの返答に、俺は思わず息を呑んだ。
 地味ではあるが鬼神の力の一端を垣間見たことで、俺は今更ながら畏怖の念を抱いた。
 そんな俺の表情を面白そうに眺めながら、アクラアイルは手を振った。すると、俺の横に、俺の身長ほどもある光球が現れた。


「サービスだ。それに入れば、元の洞穴に戻れる」


「ど、どうも……えっと、そっちの二人は戻らないんですか?」


「うん? ああ、俺らは、もう少し。息子夫婦にあとは任せてあるし、隠居爺は暇があるのさ」


「そうそう。お仕事は、若い奴らに任せるさ」


「ええっと……二人は神官ではないんですか?」


 俺の問いに、白いシャプロンの男が、肩を竦めた。


「いいや。俺が旦那を信仰してたら、ちょっと格好がつかないしなぁ」


「こっちも神官じゃあねえな」


 二人が口を揃えて否定をすると、アクラハイルががっくりと肩を落とした。


「二人ともつれねぇなあ。神官とは言わねぇが、信仰くらいはしてくれよぉ。二番目……いや、三番目でもいいからよぉ」


「旦那、泣かないで下さいって。俺らと旦那の仲じゃないですか。表だって信仰するのは難しいですが、ちゃんと二番目くらいにはなってますから」


「そうそう。旦那あっての、あたしらですからね。ぱーっと、盛り上がっちゃいましょう」


「そう……だな! よぉっし、それじゃ――ぱぁぁっと、派手にやりますかぁ!!」


 アクラハイルは虚空から新たなジョッキを出しては、男たちに配っていく。また宴会を押っ始めるようだ。
 鬼神たちに小さく手を振った俺は踵を返すと、光球の中に飛び込んだ。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます。

わたなべ ゆたか です。

今回の鬼神たち、中の人が今年までアップしていた、「魔剣士と光の魔女」で散々活用していた、ヌクテメロンの鬼神を元ネタにしています。

悪魔辞典にも載ってるし、鬼神という扱いですが……娯楽の鬼神ってなんぞや。
いや、いいんですけどね。娯楽だしお気楽キャラでいいやって訳で、こんな扱いになってます。相も変わらず信仰心皆無な中の人がお届け中です。

ちなみに前回と今回……3000オーバーですが。

大体、2000文字台後半から3000文字台ちょっとを目指してました。
前回も4000文字には至ってませんので、ギリギリセーフ、と自分の中では、そう思ってます。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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