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第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』
プロローグ
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第二部『帰らずの森と鬼神の迷い子』
プロローグ
俺――ランド・コールは自宅で夕食を作っている最中だった。
邪魔にならない程度にほったらかしにした、ヘーゼルブラウンの髪。目はブルー系だが、やや赤みが混じっているのか、光の加減では紫に見える……らしい。
今は平服に、よく手伝いに行っている店で貰った、エプロンなんかをつけている。
安いけど、そこそこ新鮮な羊の肉が手に入ったから、気合いを入れて焼いている。そして、考えていることは、一つだけ。
同居している瑠胡――天竜族とかいうドラゴンのお姫様。彼女の好みに、近づけるかどうかだ。
金銭的な理由もあって自炊しているわけだが、そんな俺の手料理を、瑠胡は文句も言わずに食べてくれる。
なら、少しでも美味しく食べて欲しい――というだけで、他意はない。ただ、瑠胡の反応を見て、味付けが好みに合っていたときの表情を見るのは、俺の密かな楽しみになっている。
「えっと……今日の味付けはどうです? 香草焼きですけど、ちょっと配分を変えてみたんですけど」
テーブルの真向かいにいる瑠胡は、異国の衣装に身を包んでいた。着物という、前合わせの服を赤、紫、青色のものを重ね着し、幅の広い銅褐色の帯で止めている。
黒髪の長髪は、黒蜜のように艶やかで、太股くらいまである。ピンクゴールドの瞳はつぶらで、白い肌は大理石以上に白く繊細だった。
美少女と美女の中間くらい――というのは、俺の贔屓目のせいだろうか。
その瑠胡が、俺に微笑んだ。
「濃すぎない味付けは、妾の嗜好に合っておるからのう。美味しく食しておるが」
「ホント……に? なら、よかった」
微笑む瑠胡を見て少し暖かい気持ちになりながら、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「なんか要望があれば、言って下さい。出来る範囲で、味付けに挑戦してみますから」
「そこまで気を使わなくともよいぞ? お主の……その、味付けはどれも悪くない。それとも――」
瑠胡は食べ終えた食器を脇に寄せてから、テーブルの上で手を軽く組んだ。
「それとも、妾に気に入られたいか?」
そう言って微笑む瑠胡に対し、俺は照れるのを誤魔化そうと咳払いをした。
「いや……その、どうせなら美味しく食べて欲しいって思っただけ……ですよ」
「ほお……? それ以外の意図がありそうな、そんな顔をしておる気もするが」
俺を検分するかのように目を細める瑠胡だったが、口元には笑みが浮かんでいた。
どこか面白がっているというか……でも、悪意は感じないんだよな。俺は「気のせいですよ」と答えてから、木製のジョッキに注いであった水を飲んだ。
ちなみに瑠胡の問いの答えだけど。正直に言えば、喜んでる顔が見たいって理由があったりする。
家のドアがノックされたのは、そんなときだ。
「ランドさん……ちょっといいかね?」
「えっと、はいはい」
俺がドアを開けると、農家を営むジョンさんの奥方がいた。ややふっくらとした体型で、頭を布で覆った、中年よりも少し上の女性だ。
農家とはいえ作物は賃金と引き替えだから、雇われの身分になるんだけど。
たしか奥方の名前は……アニスさん。
俺は、ほかに誰もいないのを確認してから、やや憔悴気味のアニスさんに視線を戻した。
「どうしたんです? こんな時間に」
「あの……うちの人が釣りに行ってから帰ってこなくて。あ、そっちは騎士団の方が創作してくれてるんだけど……明日の仕事が」
「ああ……仕事の依頼ですか。明日は今のところ仕事は入ってませんから。引き受けますよ」
俺の返答に、アニスさんは少し安堵したように、胸を上下させた。
「それじゃあ……お願いしてもいいかい?」
「もちろん。あ……旦那さん、無事だといいですね」
「ああ……ありがとうよ。それじゃあ、明日の朝一に」
「わかりました」
アニスさんが去って行くのを見送ってから、俺は仕事の前に騎士団に寄ってみようと考えていた。
ドアを閉める前に、俺は夜空を見上げた。雲が出ているのか、満天の星とは言い難いが、三分の一くらいは星が瞬いている。
――こんな田舎で行方不明、か。
どこかイヤな予感を覚えながら、俺はドアを閉めた。
--------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
しれっと第二部に突入です。
実は4月上旬には、第二章も書き始めてまして……一章-2までは、ほぼ書き終わっていたんです。五月が終わるまでには二章も書き終わるかな……と、思っていたのですが。
そこで、現場移動がありまして。
現場の忙しさに書く余裕が取れず、そこからまったく進んでおりません。
6月3日の土曜日から、ゆっくりと書いていこうと思ってます。プロットは出来てますし。
お付き合い頂ければ、幸いです。ランドと瑠胡も、もうちょっとは進展させたい……なあと思ってます。
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
次回もよろしく願いします!
プロローグ
俺――ランド・コールは自宅で夕食を作っている最中だった。
邪魔にならない程度にほったらかしにした、ヘーゼルブラウンの髪。目はブルー系だが、やや赤みが混じっているのか、光の加減では紫に見える……らしい。
今は平服に、よく手伝いに行っている店で貰った、エプロンなんかをつけている。
安いけど、そこそこ新鮮な羊の肉が手に入ったから、気合いを入れて焼いている。そして、考えていることは、一つだけ。
同居している瑠胡――天竜族とかいうドラゴンのお姫様。彼女の好みに、近づけるかどうかだ。
金銭的な理由もあって自炊しているわけだが、そんな俺の手料理を、瑠胡は文句も言わずに食べてくれる。
なら、少しでも美味しく食べて欲しい――というだけで、他意はない。ただ、瑠胡の反応を見て、味付けが好みに合っていたときの表情を見るのは、俺の密かな楽しみになっている。
「えっと……今日の味付けはどうです? 香草焼きですけど、ちょっと配分を変えてみたんですけど」
テーブルの真向かいにいる瑠胡は、異国の衣装に身を包んでいた。着物という、前合わせの服を赤、紫、青色のものを重ね着し、幅の広い銅褐色の帯で止めている。
黒髪の長髪は、黒蜜のように艶やかで、太股くらいまである。ピンクゴールドの瞳はつぶらで、白い肌は大理石以上に白く繊細だった。
美少女と美女の中間くらい――というのは、俺の贔屓目のせいだろうか。
その瑠胡が、俺に微笑んだ。
「濃すぎない味付けは、妾の嗜好に合っておるからのう。美味しく食しておるが」
「ホント……に? なら、よかった」
微笑む瑠胡を見て少し暖かい気持ちになりながら、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「なんか要望があれば、言って下さい。出来る範囲で、味付けに挑戦してみますから」
「そこまで気を使わなくともよいぞ? お主の……その、味付けはどれも悪くない。それとも――」
瑠胡は食べ終えた食器を脇に寄せてから、テーブルの上で手を軽く組んだ。
「それとも、妾に気に入られたいか?」
そう言って微笑む瑠胡に対し、俺は照れるのを誤魔化そうと咳払いをした。
「いや……その、どうせなら美味しく食べて欲しいって思っただけ……ですよ」
「ほお……? それ以外の意図がありそうな、そんな顔をしておる気もするが」
俺を検分するかのように目を細める瑠胡だったが、口元には笑みが浮かんでいた。
どこか面白がっているというか……でも、悪意は感じないんだよな。俺は「気のせいですよ」と答えてから、木製のジョッキに注いであった水を飲んだ。
ちなみに瑠胡の問いの答えだけど。正直に言えば、喜んでる顔が見たいって理由があったりする。
家のドアがノックされたのは、そんなときだ。
「ランドさん……ちょっといいかね?」
「えっと、はいはい」
俺がドアを開けると、農家を営むジョンさんの奥方がいた。ややふっくらとした体型で、頭を布で覆った、中年よりも少し上の女性だ。
農家とはいえ作物は賃金と引き替えだから、雇われの身分になるんだけど。
たしか奥方の名前は……アニスさん。
俺は、ほかに誰もいないのを確認してから、やや憔悴気味のアニスさんに視線を戻した。
「どうしたんです? こんな時間に」
「あの……うちの人が釣りに行ってから帰ってこなくて。あ、そっちは騎士団の方が創作してくれてるんだけど……明日の仕事が」
「ああ……仕事の依頼ですか。明日は今のところ仕事は入ってませんから。引き受けますよ」
俺の返答に、アニスさんは少し安堵したように、胸を上下させた。
「それじゃあ……お願いしてもいいかい?」
「もちろん。あ……旦那さん、無事だといいですね」
「ああ……ありがとうよ。それじゃあ、明日の朝一に」
「わかりました」
アニスさんが去って行くのを見送ってから、俺は仕事の前に騎士団に寄ってみようと考えていた。
ドアを閉める前に、俺は夜空を見上げた。雲が出ているのか、満天の星とは言い難いが、三分の一くらいは星が瞬いている。
――こんな田舎で行方不明、か。
どこかイヤな予感を覚えながら、俺はドアを閉めた。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
しれっと第二部に突入です。
実は4月上旬には、第二章も書き始めてまして……一章-2までは、ほぼ書き終わっていたんです。五月が終わるまでには二章も書き終わるかな……と、思っていたのですが。
そこで、現場移動がありまして。
現場の忙しさに書く余裕が取れず、そこからまったく進んでおりません。
6月3日の土曜日から、ゆっくりと書いていこうと思ってます。プロットは出来てますし。
お付き合い頂ければ、幸いです。ランドと瑠胡も、もうちょっとは進展させたい……なあと思ってます。
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
次回もよろしく願いします!
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