屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
31 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

四章-5

しおりを挟む

   5

 駐屯地に入った俺を見て、ゴガルンはレティシアの腕を解放した。そして背中の大剣の留め具を外すと、右腕一本で振り回してから肩に担いだ。
 その大道芸を小馬鹿にした顔で、俺は立ち止まった。あんな示威行為で、びびる俺じゃない。
 ゴガルンもそれを理解しているらしく、先ずは近くに居た二人に目配せをした。
 ヤツの視線を受けた二人の監査役が、ジリジリと左右に広がっていく。その様子を、俺は目の端に捉えていた。
 そんなとき、ゴガルンが威圧するような声を出した。


「てめぇなんぞが、なんでここにいる!?」


「なんでって言われてもな。俺の住んでる村に来たのは、てめぇだろ?」


「なん……だと? それじゃあ、レティシアたちを助っ人したのは――」


「助っ人? ああ、なぜかドラゴンがいたやつか。あの嘘情報を仕入れたのは、どこの誰なんだろうな。どうした、ゴガルン……なんか、心当たりがありそうな面をしてるぜ?」


 状況なんざわからないから、当てずっぽうで言っただけだが……ゴガルンは歯ぎしりするような表情で、顔を真っ赤にさせた。
 どうやら、ドンピシャで当たりクジを引いたらしい。
 怒りの形相で、俺と対峙するような姿勢で大剣を構えた。

「てめぇだけは、許しちゃおけねぇ。悪魔の《スキル》を所持する、ランド・コール。貴様は監査役として、この俺が成敗してやる」


「はっ――悪事が露見しそうになったから、証拠隠滅か? 相変わらず、底が浅いな」


「てめぇっ!!」


 恐らくは〈筋力増強〉によるものか――たった一蹴りしただけで、ゴガルンは俺のすぐ目の前まで跳躍してきた。
 大剣の刀身に刻まれた血抜きの溝が、赤く光っていた。

 魔法武具マジックアイテムか!

 俺は〈筋力増強〉を使って後ろに跳びながら、剣撃を長剣で受け流した。だが、その威力は想定以上のもので、俺の身体は二マーロン(約二メートル五〇センチ)ほど吹っ飛ばされた。
 なんとか着地はしたが、腕が僅かに痺れていた。
 受け流したおかげで俺の長剣は、刃こぼれせずに済んだ。まともに受けていたら、折れ曲がるか弾き飛ばされていたに違いない。
 塀の手前で長剣を構えた俺に、ゴガルンは口元に余裕のある笑みを浮かべた。


「よく受け止めたもんだ。俺から奪った《スキル》を使いやがったな」


「そっちこそ、《スキル》が元に戻ってるようじゃねぇか」


「元に戻った? 冗談じゃねぇ。血の滲むような訓練を繰り返して、ようやく取り戻したんだ! てめぇみたいな紛い物とは、質が違うんだよ!!」


 振り下ろされた大剣を、俺は後ろに跳んで避けた。それで駐屯地から出てしまったが、あの一撃を何度も剣で受けたくない。
 大剣の切っ先が折れた丸太を掠めただけで、破片が飛び散った。
 左手で顔を庇いながら、俺はさらに飛び退いた。そのとき、目の端で駐屯地からクロースが出ていくのが見えた。
 塀の破損部分から悠々と出てきたゴガルンは、視線を俺の背後へと向けた。


「ランドよぉ……なかなか良さそうな村じゃねぇか。村人たちとは、上手くやってそうだなぁ……そうなんだろ?」


 こいつが猫撫で声を出すときは碌なことがない――そんな予感がする。


 俺が黙ったままでいると、ゴガルンが大剣を振りかぶりながら、身体を左方向へと捩った。

 ――まさか、こいつっ!!

 イヤな予感が、当たった。
 俺は即座に〈筋力増強〉を全身に発動させながら、〈遠当て〉を放った。
 俺の放った〈遠当て〉の衝撃波が、ゴガルンの放った衝撃波を空中でぶつかった。その衝撃で空気が振動する音が響き渡り、余波が砂塵を撒き散らした。
 村が無事なことに安堵しかけた俺の耳に、ゴガルンの嘲笑が聞こえてきた。


「紛い物の《スキル》で、よく防いだじゃねぇか」


「てめ――なにしやがるっ!! 村を破壊する気か!?」


「なあに、心配はいらねぇさ。村を破壊したランド・コールを、俺がぶちのめした――そういう筋書きだ。俺は監査役だからな。都合の良いように報告するだけだ」


「この屑が」


 長剣から〈遠当て〉を放とうとした俺に、ゴガルンは余裕の表情で片手を挙げた。


「いいのか? 監査役を攻撃したら、てめえだけじゃなく、レティシアたちも罪に問われることになるぞ。なんども言うが、俺の報告ですべてが決まるんだからなぁ」


「この野郎」


「さあ、どれだけ凌げるかな!」


 そう叫ぶゴガルンの大剣が、俺の右側へと振られた。

   *

「騒がしいと思うたが……始まっておったか」


 ランドの家の外に出た瑠胡は、駐屯地の外で何度も土煙や砂塵が舞うのを目撃した。
 リリンやクロースたちとの約束を果すために外に出たとき、思いの外苦戦しているらしいランドの姿を、竜族としての目が捉えた。
 防戦一方であるランドの行動から、おおよその状況を察した瑠胡は、柳眉を上げながら歩き始めた。
 しかし背後の気配に足を止め、背後にある木々の奥へと声をかけた。


「隠れておらんと、出て参れ」


「――はっ」


 木々の影から姿を現した沙羅が、瑠胡の前まで進み出ると、片膝を地に付けて畏まった。
 瑠胡は僅かに唇を尖らせながら、沙羅に向き直った。


「隠れて監視とは、良い趣味とは言えぬな」


「申し訳ございません。ですが失礼ながら、御注進申し上げます。ランドという男は現在、戦いの最中でございます。近寄るのは危険で――」


「そのようなこと、言われなくとも知っておる。約束もある故、妾は現地に赴かねばならぬ。それに、ランドの役にも立ちたいしの」


「姫様。危険な場所に、御身を行かせるわけにはいきませぬ」


 立ち上がった沙羅が一歩を踏み出した瞬間、瑠胡は呟いた。


「神糸よ、妾を護れ」


 途端、瑠胡の着ている着物の袖が大きく広がり、沙羅が近寄るのを遮った。
 神糸の衣による護り――それを手で払いのけることは不可能だと察して、沙羅は立ち止まった。


「瑠胡姫様。なぜ、人間なんかとの約束を守ろうとなさるのです?」


「お主の言い方を借りるのであれば、だ。人間なんぞに、妾が嘘つきと思われても良いと申すのか? 天竜神の娘である妾が、そのように思われても、お主は平気だと申すか」


「いえ、それは……軽率な発言でした。申し訳ございません」


 一応は反省したのか、沙羅は深々と頭を下げた。
 その様子を見て、瑠胡は袖を元に戻した。


「心配だというのであれば、お主も来ればよかろう」


 微笑む瑠胡の言葉に、沙羅はあっさりと笑顔で顔を上げた。意見の食い違いがあっても、瑠胡に頼られるのが嬉しいのだと、その表情が物語っていた。


「喜んで、お供致します」


 相変わらず、このお目付役は緩いのう――そう思いながら歩き始めた瑠胡は、村の端で騎馬に跨がった男の姿に気がついた。


(ふむ……あやつは確か)


 瑠胡は進路を変えると、二人の従者を伴った騎馬の男へと歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華
ファンタジー
 愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。  白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。  すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。  転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。  うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。 ・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。  ※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。 ・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。 沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。 ・ホトラン最高2位 ・ファンタジー24h最高2位 ・ファンタジー週間最高5位  (2020/1/6時点) 評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m 皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。 ※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

処理中です...