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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
四章-5
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駐屯地に入った俺を見て、ゴガルンはレティシアの腕を解放した。そして背中の大剣の留め具を外すと、右腕一本で振り回してから肩に担いだ。
その大道芸を小馬鹿にした顔で、俺は立ち止まった。あんな示威行為で、びびる俺じゃない。
ゴガルンもそれを理解しているらしく、先ずは近くに居た二人に目配せをした。
ヤツの視線を受けた二人の監査役が、ジリジリと左右に広がっていく。その様子を、俺は目の端に捉えていた。
そんなとき、ゴガルンが威圧するような声を出した。
「てめぇなんぞが、なんでここにいる!?」
「なんでって言われてもな。俺の住んでる村に来たのは、てめぇだろ?」
「なん……だと? それじゃあ、レティシアたちを助っ人したのは――」
「助っ人? ああ、なぜかドラゴンがいたやつか。あの嘘情報を仕入れたのは、どこの誰なんだろうな。どうした、ゴガルン……なんか、心当たりがありそうな面をしてるぜ?」
状況なんざわからないから、当てずっぽうで言っただけだが……ゴガルンは歯ぎしりするような表情で、顔を真っ赤にさせた。
どうやら、ドンピシャで当たりクジを引いたらしい。
怒りの形相で、俺と対峙するような姿勢で大剣を構えた。
「てめぇだけは、許しちゃおけねぇ。悪魔の《スキル》を所持する、ランド・コール。貴様は監査役として、この俺が成敗してやる」
「はっ――悪事が露見しそうになったから、証拠隠滅か? 相変わらず、底が浅いな」
「てめぇっ!!」
恐らくは〈筋力増強〉によるものか――たった一蹴りしただけで、ゴガルンは俺のすぐ目の前まで跳躍してきた。
大剣の刀身に刻まれた血抜きの溝が、赤く光っていた。
魔法武具か!
俺は〈筋力増強〉を使って後ろに跳びながら、剣撃を長剣で受け流した。だが、その威力は想定以上のもので、俺の身体は二マーロン(約二メートル五〇センチ)ほど吹っ飛ばされた。
なんとか着地はしたが、腕が僅かに痺れていた。
受け流したおかげで俺の長剣は、刃こぼれせずに済んだ。まともに受けていたら、折れ曲がるか弾き飛ばされていたに違いない。
塀の手前で長剣を構えた俺に、ゴガルンは口元に余裕のある笑みを浮かべた。
「よく受け止めたもんだ。俺から奪った《スキル》を使いやがったな」
「そっちこそ、《スキル》が元に戻ってるようじゃねぇか」
「元に戻った? 冗談じゃねぇ。血の滲むような訓練を繰り返して、ようやく取り戻したんだ! てめぇみたいな紛い物とは、質が違うんだよ!!」
振り下ろされた大剣を、俺は後ろに跳んで避けた。それで駐屯地から出てしまったが、あの一撃を何度も剣で受けたくない。
大剣の切っ先が折れた丸太を掠めただけで、破片が飛び散った。
左手で顔を庇いながら、俺はさらに飛び退いた。そのとき、目の端で駐屯地からクロースが出ていくのが見えた。
塀の破損部分から悠々と出てきたゴガルンは、視線を俺の背後へと向けた。
「ランドよぉ……なかなか良さそうな村じゃねぇか。村人たちとは、上手くやってそうだなぁ……そうなんだろ?」
こいつが猫撫で声を出すときは碌なことがない――そんな予感がする。
俺が黙ったままでいると、ゴガルンが大剣を振りかぶりながら、身体を左方向へと捩った。
――まさか、こいつっ!!
イヤな予感が、当たった。
俺は即座に〈筋力増強〉を全身に発動させながら、〈遠当て〉を放った。
俺の放った〈遠当て〉の衝撃波が、ゴガルンの放った衝撃波を空中でぶつかった。その衝撃で空気が振動する音が響き渡り、余波が砂塵を撒き散らした。
村が無事なことに安堵しかけた俺の耳に、ゴガルンの嘲笑が聞こえてきた。
「紛い物の《スキル》で、よく防いだじゃねぇか」
「てめ――なにしやがるっ!! 村を破壊する気か!?」
「なあに、心配はいらねぇさ。村を破壊したランド・コールを、俺がぶちのめした――そういう筋書きだ。俺は監査役だからな。都合の良いように報告するだけだ」
「この屑が」
長剣から〈遠当て〉を放とうとした俺に、ゴガルンは余裕の表情で片手を挙げた。
「いいのか? 監査役を攻撃したら、てめえだけじゃなく、レティシアたちも罪に問われることになるぞ。なんども言うが、俺の報告ですべてが決まるんだからなぁ」
「この野郎」
「さあ、どれだけ凌げるかな!」
そう叫ぶゴガルンの大剣が、俺の右側へと振られた。
*
「騒がしいと思うたが……始まっておったか」
ランドの家の外に出た瑠胡は、駐屯地の外で何度も土煙や砂塵が舞うのを目撃した。
リリンやクロースたちとの約束を果すために外に出たとき、思いの外苦戦しているらしいランドの姿を、竜族としての目が捉えた。
防戦一方であるランドの行動から、おおよその状況を察した瑠胡は、柳眉を上げながら歩き始めた。
しかし背後の気配に足を止め、背後にある木々の奥へと声をかけた。
「隠れておらんと、出て参れ」
「――はっ」
木々の影から姿を現した沙羅が、瑠胡の前まで進み出ると、片膝を地に付けて畏まった。
瑠胡は僅かに唇を尖らせながら、沙羅に向き直った。
「隠れて監視とは、良い趣味とは言えぬな」
「申し訳ございません。ですが失礼ながら、御注進申し上げます。ランドという男は現在、戦いの最中でございます。近寄るのは危険で――」
「そのようなこと、言われなくとも知っておる。約束もある故、妾は現地に赴かねばならぬ。それに、ランドの役にも立ちたいしの」
「姫様。危険な場所に、御身を行かせるわけにはいきませぬ」
立ち上がった沙羅が一歩を踏み出した瞬間、瑠胡は呟いた。
「神糸よ、妾を護れ」
途端、瑠胡の着ている着物の袖が大きく広がり、沙羅が近寄るのを遮った。
神糸の衣による護り――それを手で払いのけることは不可能だと察して、沙羅は立ち止まった。
「瑠胡姫様。なぜ、人間なんかとの約束を守ろうとなさるのです?」
「お主の言い方を借りるのであれば、だ。人間なんぞに、妾が嘘つきと思われても良いと申すのか? 天竜神の娘である妾が、そのように思われても、お主は平気だと申すか」
「いえ、それは……軽率な発言でした。申し訳ございません」
一応は反省したのか、沙羅は深々と頭を下げた。
その様子を見て、瑠胡は袖を元に戻した。
「心配だというのであれば、お主も来ればよかろう」
微笑む瑠胡の言葉に、沙羅はあっさりと笑顔で顔を上げた。意見の食い違いがあっても、瑠胡に頼られるのが嬉しいのだと、その表情が物語っていた。
「喜んで、お供致します」
相変わらず、このお目付役は緩いのう――そう思いながら歩き始めた瑠胡は、村の端で騎馬に跨がった男の姿に気がついた。
(ふむ……あやつは確か)
瑠胡は進路を変えると、二人の従者を伴った騎馬の男へと歩き始めた。
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