屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

四章-3

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   3

 昼前になったころ、俺は腰に長剣を下げた。
 昨日、《白翼騎士団》の三人娘から受けた依頼のためだが、鎧や盾まで身につけるかは悩んでいた。籠手だけは身につけたけど、これ以上は身につける気になれなかった。
 あまり仰々しくやると、逆に騎士団の立場が悪くなる気がするし。

 ……まあ、なんとかなるか。

 早めの昼食は終えている。
 俺は瑠胡に留守番を頼むと、家を出た。
 監査役は直接、騎士団の駐屯地に行く――という情報は、リリンやクロースから聞いている。
 俺は駐屯地が見えるところで立ち止まると、低い柵に腰掛けた。
 本当に、三人娘が心配していたとおりのことが起きるか否か――それがわからないから、ここで待機をするってわけだ。
 ここは後ろの家屋のお陰で、今は日陰だ。なにかあるなら、夕方前に起きて欲しいけどな。それなら、ここはまだ日陰だし。
 俺がぼんやりと眺めている前で、二台の四頭立て馬車がやってきた。

   *

 駐屯地の門の内側で、レティシアら《白翼騎士団》の面々が並んでいた。
 馬車は門の内側で右に曲がり、キャビンの左横を騎士団の前につけた。乱暴にキャビンの扉が開くと、ゴガルンが出てきた。監査役の制服の上から簡素な鎧を身につけ、背中には大剣を背負っている。
 もう一台の馬車も含めて、計三人の部下を連れたゴガルンは、レティシアを初めとした騎士団の面々をゆっくりと睨め回した。
 部下たちも女性ばかりの団員らに、不躾な目を向けていた。
 そんな監査役たちに、レティシアは極めて慇懃に会釈をした。


「このたびは、遠路遙々ご苦労様でございました。わたくしが《白翼騎士団》団長、レティシア・ハイントで御座います」


「知ってるさ、レティシア。久しぶりだってのに、随分と他人行儀じゃねぇか。んん?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべるゴガルンに、レティシアは努めて冷静さを保ちつつ、僅かに腰を折った。


「監査役は、王の目。わたくしは地方領主の騎士団の身。訓練生時代は同期とはいえ、身分は弁えております」


「そうそう、それでいい。おまえら騎士団の将来は、俺の報告一つで決まるんだからな」


 レティシアの横に近寄りながら、無遠慮に腰へと手を回したゴガルンは、顎で合図をした。それを待ってたとばかりに、部下たちはセラたち騎士団員へと近づいていく。


「へぇ……予想より、容姿はまともじゃねぇか」


「もうすぐ昼飯だし、酌の相手もしてくれよ」


 ゴガルンの部下たちは、うすら笑いをしながらセラたちに付きまとう。そんな彼らに、レティシアは怒りの形相を向けるが、ゴガルンに無理矢理、身体の向きを変えられた。


「そう怒るなよ、レティシア。俺とおまえの仲じゃないか」


「ゴガルン……監査役殿と仲良くした記憶はありませんが?」


「そう言うなよ。おまえは王都から、ランドの野郎を追い出してくれたんだ。俺と同じで、ヤツを毛嫌いしていたんだろ?」


「馬鹿な! そんなこと――」


「誤魔化すなよ! おまえはランドではなく、俺の主張を――俺を選んだんだ。今更、いいこちゃんぶるなって。俺はこれから、おまえが王都に戻れるようにしてやるんだからな」


 いやらしく口元を歪めるゴガルンに、レティシアは嫌悪感を露わにして身体を捻ったが、腰に廻された手は振り解けなかった。


「おまえは、なにを――」


「こんな騎士団、俺がぶっ壊してやるよ。なあに……おまえは王都に呼び寄せて、この《ダブル》様が娶ってやるから、心配すんな。たっぷり可愛がってやるし、幸せな生活になること間違いなしだ」


「ふ――」


 レティシアは怒りに任せて、強引にゴガルンの手を振りほどいた。


「巫山戯――ないでもらおう、監査役殿。騎士団は、潰させはしない」


 レティシアの宣言に最初、ゴガルンは戸惑った顔をした。
 だが、すぐに顔にイヤらしい笑みが浮かぶ。


「照れるなよ。おまえは、俺と同類なんだ。俺の横が、一番似合うんだぜ?」


 ゴガルンはそう言って、意味ありげな笑みを浮かべた。


「それでは騎士団の団長殿。これより騎士団の監査を執り行う。案内と部下への指示、抜かりなきように」


 口調こそ監査役めいたものになったが、表情には醜悪な想いが浮かんでいた。
 レティシアは寸前のところで、ゴガルンを睨みたい衝動を抑えていた。それは一本の細い糸だけで保っている、吊り橋のようなものだ。
 なにかの――ほんの些細な切っ掛けで、感情が爆発しかねない。


(堪えろ……わたしが、皆を護らねばならんのだから)


 セラを除いた団員たちは皆、訳ありの少女たちだ。
 行き場のない――生家からも忌避され、見捨てられかけた少女たち。彼女たちを救い、そして自分の道を自ら切り開くために、騎士団の設立を兄であるベリット男爵に願った。
 そして……ランドの助力があったにせよ、ようやく設立の許可が出たのだ。


(簡単に、手放すわけにはいかん)


 今日一日――いや、二日ばかり耐えるだけでいい。
 レティシアは姿勢を正すと、団員だちの前に出た。ゴガルンの部下に付きまとわれた影響で、すでに隊列も乱れている。
 特にユーキはキャットの背中に隠れるように、半泣きでしゃがみ込んでいた。


「監査役に気を取られるな! 普段通りにやればいい。全員、整列せよっ!!」


 レティシアが檄を飛ばすと、団員たちは――半泣きのユーキも――素早く整列した。


「よし、まずは乗馬の訓練からだ。そのあと施設の見学をして貰い、模擬戦を行う。準備をしておけ」


「はい」


 こうして、暗雲の立ち込める《白翼騎士団》の監査は始まった。
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